参院選で消費税に焦点があたる中、各党は国家公務員の人件費削減などによるムダ削減を競うようにアピールしている。しかし、あるべき公務員制度の改革像についての論戦は影をひそめ、「政と官」のあり方が問われた昨年の衆院選とは様変わりした。「古くて新しい課題」とされる公務員制度改革だが、その道のりは険しそうだ。【三沢耕平】
「渡辺喜美さんは天下りについていろいろ言われるが、何でもかんでも民主党のやることは0点で、自分は100点というのは、ちょっと言いすぎではないか」。菅直人首相は4日、千葉県市川市での演説で、公務員制度改革で民主党批判を続けるみんなの党の渡辺代表に反論した。
渡辺氏は安倍政権で公務員制度改革担当相を務めた後、麻生政権での制度改革に不満を抱いて自民党を離党。みんなの党を結党して急進的な改革を訴えることで一定の支持を集めている。しかし、霞が関には拒否反応が強く、「(参院選で)みんなの党がどこまで票を伸ばすか不安だ」(経済官庁幹部)との声が漏れる。
渡辺氏が行革相だった08年、民主党との協議で成立にこぎつけたのが国家公務員制度改革基本法。幹部の人事を一元管理する「内閣人事局」の設置やキャリア制の廃止など、改革のメニューと工程を盛り込んだプログラム法で、現在の民主党政権もこの基本法を踏襲している。
政府は先の通常国会で、内閣人事局の設置や新しい幹部人事制度などを盛り込んだ法案を提出。みんなの党と自民党も共同で対案を提出したが、人事局の規模や降格人事のあり方を巡って歩み寄りは見られず、政府案は廃案となった。
民主党政権の「改革マインド」には、政権交代直後から疑問符がついた。昨秋には元次官を起用した日本郵政社長人事などで、野党から「天下り禁止の原則に反する」と批判を受けた。
当時、公務員制度改革担当相だった仙谷由人官房長官の下で制度改革に携わった官僚の一人も「野党時代の仙谷氏からは想像できないほど改革にかける熱意は感じられなかった」と振り返る。
公務員制度改革には給与法改定など人件費や人員を削減しやすくする環境整備が求められているため、「組合を支持母体にする民主党に改革はできない」(自民党中堅)との見方が出ている。
公務員制度改革の歴史は古く、昨年12月まで政府の公務員制度改革推進本部事務局次長を務めた岡本義朗・三菱UFJリサーチ&コンサルティング主席研究員は「長年の議論で改革すべき項目は出尽くしているのに、ほとんど実行されずに頓挫の歴史を繰り返してきた」と指摘する。
改革の検討が本格的に始まったのは1960年代。当時、政府内に設置された第1次臨時行政調査会(第1次臨調)の答申をみると、官僚機構の縦割りの弊害や人事制度の閉鎖性を問題視し、幹部職員の一括採用を提案するなど、現在の公務員制度改革に通じる提案が並ぶ。
その後、橋本政権や森政権などでも同様の趣旨の答申が繰り返されており、岡本氏は「政党には、官僚の抵抗や政治的な利害が絡む中で、どう改革メニューを実行に移していくかが問われている」と話す。
民主党は昨年の衆院選マニフェストで、政治家と官僚の関係や公務員制度に深くかかわる「5原則・5策」を記載したが、今回の参院選では公務員制度改革の全体像についてほとんど触れていない。マニフェストの巻末に記した公約の進ちょく状況の中で「天下りのあっせんを実質的に禁止した」と明記。その一方で「あっせんによらない『隠れた天下り』は続いており、政権交代前の天下りを一掃できていない」と改革が道半ばであることを指摘している。
自民党マニフェストは「天下りの根絶」を明記し、「公務員版のハローワーク」とやゆされる官民人材交流センターの廃止を盛り込むなど、与党時代にはなかった厳しい改革姿勢をみせている。公明、社民党、たちあがれ日本も「天下りの根絶」を明記し、「天下りのあっせん禁止」を主張する民主党との違いを鮮明にしている。みんなの党は「国家公務員の10万人削減」や「給与2割、ボーナス3割カット」など急進的な改革メニューを並べた。
毎日新聞 2010年7月7日 東京朝刊