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コワモテ俳優たちが奮闘するVシネ業界の明日はどっちだ!?

サイゾー7月 6日(火) 17時35分配信 / 国内 - 社会
──80年代後半の映画不況のさなかに生まれ、誕生から20年がたっている“Vシネマ”。三池崇史監督や清水崇監督、役者なら哀川翔や遠藤憲一などの人材を輩出してきたこの業界だが、近年はかつてのような勢いは見られない。レンタル事業も落ち目の今、Vシネに未来はあるのか?

 レンタルビデオショップを覗くと、今なら、製作費200億円を投じたハリウッド超大作『アバター』のDVDがずらりと並ぶ一方、奥へと進み、アダルトコーナーに入る手前に、異様な空気を放つコーナーがあることに気づく。任侠もの、闇金融もの、刑務所ものなど裏社会を扱う、いわゆる“Vシネマ”と呼ばれるオリジナルビデオ作品の世界だ。劇場公開される“表”の映画に対し、「知る人ぞ知る」“裏”の世界だが、哀川翔アニキをはじめ、“Vシネマの帝王”竹内力、さらに遠藤憲一、白竜、小沢仁志・和義兄弟らコワモテな男優たちのいかついパッケージが、群雄割拠する戦国武将のようにひしめいている。

 Vシネマとは、もともとはヤクザ映画、アクション映画を得意とした東映から89年に生まれたオリジナルビデオ作品のレーベル名。90年代初期、哀川翔主演作『ネオチンピラ 鉄砲玉ぴゅ〜』など、東映Vシネマの作品は寡占状態だったこともあり、毎回3万5000本以上の好セールスを記録。以後、多くのメーカーが続々と参入し、“Vシネマ”という言葉は広くビデオ作品全般を指すようになった。そして『静かなるドン』(91〜)『ミナミの帝王』(92〜)などの人気シリーズが生まれるが、90年代後半には出荷数は頭打ちとなり、販売本数1万本でヒットと呼ばれるように。ここ数年は5000本でヒット扱いになるなど、年々出荷ラインが下がってきている。

 Vシネマに限らず、昨年7月から大手ビデオレンタルチェーン店のゲオが100円レンタルを始めたことをきっかけに、ビデオ業界は今、極端なデフレが進行している。ビデオソフトに関する統計調査報告を日本映像ソフト協会(JVA)がHP上で公表しているが、これによると09年のビデオソフトの総売上は2739億6300万円。ブルーレイ作品による売上増が期待されたものの前年比の95・8%で、04年の3753億円をピークに5年連続の前年割れと、やはり業界全体に厳しい不況風が吹き荒れていることがわかる。

「JVAは協会に加盟している大手メーカーだけの数字で、アダルトソフトは含んでいません。ビデオショップは今までアダルトでなんとか成り立っていたんですが、パソコンで無料動画が鑑賞できる時代に、若者はショップでアダルトを借りませんよ。地方のショップは次々と潰れ、マーケットは縮小していく一方。Vシネマを手がけていたビデオメーカーも倒産、リストラ、予算縮小などの話題しか耳に入ってきませんね」(業界ジャーナリスト)

 この状況下、2000年以降は実在の人物や実際に起こった抗争を描き、“実録”と銘打ったヤクザものが主流を占めるようになったVシネマだが、イケイケなジャケットで覆われたその世界の内情はどうなのだろうか。厳しいご時世の中、毎月10本もの新作をリリースしているビデオメーカー・GPミュージアムを訪ねた。

「どこのパッケージメーカーも、出荷は厳しいんじゃないでしょうか。当社は98年から参入した後発メーカーなので、毎月1〜2本のリリースではショップにコーナーを作ってもらえません。それで、外部の製作会社からの完パケ状態での持ち込み作品も含めて、毎月10本出しているんです。三池崇史監督の映画『クローズZERO』(07)のヒット以降は、ヤンキーものが人気ですね。もちろん、東映ヤクザ映画の路線を継承したシリーズも定番的人気があります。昨年、松方弘樹さん主演で、元SPの凄腕ボディガードが若く美しい女性画家を守るという『ザ・ボディガード』をリリースして、和製『ボディガード』(ケビン・コスナー主演作)だと話題になりました(苦笑)。でも、ビデオ作品はわかりやすいほうがいい。大手メーカーでない我々の場合、ショップ側との商談時間は毎月3〜5分程度。その時間内で10本の作品を説明しなくてはいけないので」(GPミュージアム・プロデューサー)

 地方を中心に、男性ファンから根強い人気がある実録ヤクザものシリーズでは、その筋の関係者からクレームが来ないよう、実在の人物を描く場合は、名前や肩書など一字一句間違いがないか、非常に気を使うという。そういったときは、脚本段階からルポライターや劇画原作者など、その世界に通じた人に相談をしながら製作するのだとか。無用なトラブルが起きないように、メーカー側は心を砕いているようだ。


■撮影日数は1本で4日間! 過酷な“漢たち”の現場


 実録ヤクザものの中には、実在の人物の写真や襲名儀式の様子などの映像が流れる作品もあるが、これらの素材を製作スタッフはどのようにして入手したのだろう。この疑問に答えてくれたのは、元警察官であり、『ヤクザの裏経済学』(日本文芸社)などの著書を持つ作家・北芝健氏。Vシネマ化された『新まるごし刑事』や『公安警察捜査官』の原作者でもある。

「端的にいえば、“身内”が作っているからです。西日本には、そちら系の組織が100%出資した製作会社もありますよ。92年に暴対法(暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律)が施行され、暴力団の多くは正業に衣替えしました。テキ屋がきちんと仕入れたものを露天で売っているのと同じで、正業としてマジメに作られている分にはなんら問題はないでしょう。彼らにとっては『かつての自分らは、こんなに男気があったんやで』という広報的意味合いもあるわけです。襲名儀式や破門状など非常にリアルに再現されており、文化人類学的に見ても価値がある。警察側が参考資料として公費で購入しているほどです(笑)」

 さらにVシネマの実情に詳しい人物として、『Vシネ血風録』(河出書房新社)、『キング・オブ・Vシネマ』(太田出版)などを上梓し、世界で唯一の“Vシネマ評論家”と呼ばれている作家の谷岡雅樹氏に話を伺ってみた。Vシネマの創成期から熱く論評してきた谷岡氏だけに、新しいスターや新ジャンルを生み出せない最近のVシネマ界に対してはシビアな見解を持つ。

「90年代前半のVシネマは羽振りがよく、製作費8000万円という大作が作られたこともありますが、当時で一般にVシネマの製作費は3000〜 4000万円程度でした。しかし、今ではその半分。撮影日数も1本4日間という劣悪な環境です。これは、あまりにヒドい。90年代のVシネマはかつての映画界におけるプログラムピクチャー【註:2本立て興行で、メイン作と併映される作品】の役割を果たし、多くの作品が作られる中で俳優もスタッフもスキルが磨かれ、哀川翔というスターや三池崇史監督という逸材を生み出した。哀川翔主演100本を記念した、三池監督の『ゼブラーマン』が04年に劇場公開された時点で、ある意味、Vシネマは使命を果たしたのかもしれない。残念ながら哀川翔に続くスター、三池監督に匹敵する才能を輩出できなかった。新しいファンを取り込むこともできなかった。今のVシネマは、90年代に培われたノウハウや人のつながりだけで、作品を絞り出すようにして作っている危機的状況ですよ」

 Vシネマ界には、演技力、存在感のある俳優が主演級に限らずゴロゴロしており、若手の城定秀夫監督は幅広いジャンルで娯楽性の高い作品を生み出し、浅生マサヒロ監督はサム・ペキンパーを思わせるキレのあるアクション演出を見せていると谷岡氏は語る。だが、そうした才能の持ち主たちがいくら奮闘しても、メジャーな映画シーンやテレビ界で活躍するチャンスがないと谷岡氏は指摘する。

「映画会社やテレビ局に顔の利くプロデューサーがいれば、彼らを引っ張り上げて生かすことができたんでしょうが、Vシネマ界にはそういう視野を持ったプロデューサーは存在しない。三池監督が『クローズZERO』で、『喧嘩の花道』シリーズのやべきょうすけを起用して成功したくらいですよ。映画界に比べて、Vシネマは非常に小さな閉じた世界。100年の歴史がある映画に対し、Vシネマは誕生からわずか20年でビデオの早送りさながらに猛スピードで時間が進み、いつの間にか映画界の歴史を追い越してしまった。映画界の人々はVシネマを下のランクと見ていますが、その惨状を他人事と笑っていられないはず。今はテレビ局と組んでテレビドラマの映画化で儲けているけど、新しい映画ファンが育っているとは思えない。目先のヒットしか考えない映画界もヤバいと思いますよ」

 製作規模や市場の小さなVシネマ界は、映画界をぎゅっと濃縮した“箱庭”的世界。日本の映画界、芸能界の縮図といえそうだ。一部の人気俳優や原作コミックに頼り、オリジナル企画を開発しようとしない点では、映画界もVシネマ界も変わらない。厳しい苦境に立たされているVシネマ界は、活路を切り開くことができるのだろうか?

(取材・文/長野辰次、編集部)

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  • 最終更新:7月 6日(火) 17時35分
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