宮崎県で口蹄疫が確認されて約1カ月。和牛と豚の生産量で日本一を誇る鹿児島県でも影響は大きく、移動制限や競りの中止で畜産農家は苦境に陥り、食肉業者も風評被害に悩んでいる。イベントの中止や外出自粛で飲食店などの売り上げも激減。関係者は一日も早い終息を願っている。
■貯金を切り崩し
鹿屋市輝北町百引、大山稔さん(62)は競りの中止で売却予定の妊娠した牛4頭を取引できなかった。収入は途絶え、飼料代はかさむばかり。貯金を切り崩す生活に追い込まれた。競りが再開しても、販売適齢期を過ぎたため価格が落ちるのは目に見えている。行政に対し「災害と同じ認識で感染対策と生活支援に力を尽くしてほしい」と訴える。
口蹄疫が発生した宮崎県えびの市に接する伊佐市。乳牛約90頭を飼う同市小川内、宮園強さん(70)は感染拡大に戦々恐々だ。畜産関係者の来訪を断り、買い物も週1-2回に控えた。畜舎の周りにまく消毒用石灰は1週間で約200キロに上る。16日には隈元新市長に防疫対策の強化を直談判した。「飛び火すれば伊佐の畜産は壊滅する」
■食肉専門家まで
「危険な牛肉がないか確認してくれ」
鹿児島市の食肉加工販売「鹿児島ミートグループ」の松元久己社長(59)は、首都圏の大手百貨店のバイヤーからの要求に耳を疑った。相手も食肉の専門家。感染牛を食べても問題ないのは知っているはずなのに…。「同様の問い合わせが数件あった。これが風評被害」と憤る。
競りの中止で成牛の仕入れは半減。農家からの直取引でしのいでいるが、人の出入りを警戒する生産者から訪問を拒まれることも多い。「辛抱のしどころ」が続く。
■予約キャンセル
影響は畜産関係以外にも広がっている。
伊佐市商工会によると、特に飲食店の売り上げが減った。市内には畜産業者が多いが、従業員に外食を控えさせているからだという。「影響が長引けば、飲食店への支援も検討したい」
えびの市に近い湧水町川西の温泉宿泊施設「森のやかたゆったり館」でも客足が半分に落ちたと頭を抱える。福岡県や熊本県からの予約客のキャンセルも相次いでいるという。従業員の前田健一さん(68)は「手の打ちようがない」と話した。
=2010/05/25付 西日本新聞朝刊=