「自分の使った皿は自分で洗う」。子供のころ母親に言われた言葉だ。当時は「家事をサボりやがって」と邪推したものだ。だが、長年1人暮らしをしていると、教えてもらった炊事洗濯が心身の健康に役立っていると実感し、感謝もしている。
選挙公報を見て、なぜかそんな母親のお小言を思い出した。候補者たちの主張には、子育て関連予算の充実や地方経済活性化のためのインフラ整備、社会保障費の引き下げなど、誰もが欣喜雀躍(きんきじゃくやく)しそうな政策が並ぶ。
だが、こうした政策のすべてが実現されると考えている県民は少数派だろう。その裏には国債発行額が税収を大幅に上回る国家財政への不安や、歴史ある名門企業の破綻(はたん)など県内経済停滞による閉塞(へいそく)感があるのだから。
候補者が今語るべきは、当選者が責任を負う6年後の山梨や国の具体像だ。増税が実施されれば県民生活や経済はどうなるのか、医療・年金制度改革の結果、私たちの未来はどうなるのか、具体的なビジョンを聞かせてほしい。6年後に「あの夏の選択は間違っていなかった」と胸を張るためにも。【甲府支局・中西啓介】
毎日新聞 2010年7月6日 地方版