第131回患者塾が6月19日、福岡県水巻町の遠賀中間医師会館で開かれた。テーマは「うつを予防する」。うつと躁(そう)うつの違い、心療内科や精神科の上手な受診の仕方などについて精神科医を交えながら議論した。
◆「躁うつ」との違い
小野村さん 北九州市の28歳女性から「うつと躁うつって違う病気なんですか」という質問が寄せられました。その違いを説明してください。
夏目さん うつと躁うつの区別は簡単ではありません。最初はうつ病で診療に来ていて、ある時期になってやっと躁うつの状態が見えてくる患者さんもいます。薬も違います。うつ病は抗うつ薬が基本です。躁うつ病は気分安定薬が中心で、統合失調症で使う薬も何種類か併用します。抗うつ薬はあまり使いません。
躁状態の典型的な例としては、金遣いがひどくなったり、電話代がものすごくかかるような症状が出ます。軽い躁の状態の人は、3~5日の軽い躁の症状があった後にドーンとうつの状態になります。受診される方は重くなったうつの状態しか話さない人も多いので、その前に軽い躁状態がなかったかを必ず聞いています。
小野村さん うつ病と躁うつ病は治療の薬も違い、診断も簡単ではないということですね。「精神科や心療内科を受診したくないからとりあえず、うつの薬ください」という患者さんもいますが、私はできるだけ専門医を紹介して診断してもらい、受診が大変だったら可能な範囲でうちで薬を出すという形を取っています。ずっとうつのつもりで受診していたら実は躁うつ病で、診断が長引いた例もあります。適正な診断がまずあってからの薬ということを理解してください。
◆薬の副作用
<福岡県飯塚市の55歳男性> 心療内科か精神科を受診しようと思ったら、家族に「薬漬けになって悪くなった話しか聞かない」と言われました。
夏目さん うつや躁うつの薬は少量から始めて、段々上げていくことが大事です。副作用が少ないと言われている薬でも人によっては頭がボーッとするなどの反応が出ます。薬を渡して「何かあったらすぐに電話してください」という話を必ずしています。不安な時には「こんな症状が出ていますけど」と医師に話し、細かく指示を受けてください。抗うつ剤は飲み出して最初に副作用が出てくるのが特徴です。うつが改善したり意欲が戻るのは10日間~2週間後ぐらいです。
小野村さん 「心療内科を受診したけれども、書いた予診表を見ただけで『うつですね』といきなり薬が出た」との不満も多く寄せられています。
夏目さん 多くの患者を診ている病院にはそういうこともあります。私のクリニックでは初診で話を聴くのに1時間はかかります。無駄だと思うような話の中にその人らしい話があります。また、症状を確認するだけでも結構時間がかかります。
今回は聞いていて「憂うつ」だった。
人は心をつぶされるような体験をした時、悲嘆にくれたり、落ち込んだりすることから逃れることは、多分できない。それに、つらい体験をするかは予測できないし、受けるショックの度合いも個人差がある。心は思いの外もろい半面、予想以上にしたたかだ。
だから(病気とまでは診断されない状態でも)「予防」できるの?と素朴に思った。それより、そんな状態から「抜け出す」のか、「やり過ごす」のか、他に手だてがあるのかを考えたい。この「一言」のラストが思い浮かばずに落ち込んでいる場合じゃないことだけは確かだ。【御手洗恭二】
==============
夏目高明さん=夏目心療クリニック院長(福岡市、心療内科)
伊藤重彦さん=北九州市立八幡病院副院長(外科)
津田文史朗さん=つだ小児科アレルギー科医院院長(福岡県水巻町)
小野村健太郎さん=おのむら医院院長(福岡県芦屋町、内科・小児科)
==============
〒807-0111
福岡県芦屋町白浜町2の10「おのむら医院」内
電話093・222・1234
FAX093・222・1235
==============
次回の患者塾は27日に掲載します。
〔福岡都市圏版〕
毎日新聞 2010年7月6日 地方版