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2010年7月6日(火)付

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選挙と外交―内向き論戦に出口はない

どんな国であれ、内政と外交は切り離せない。とくにグローバル化時代はそうだ。消費税、年金改革、少子化などの課題が山積しているからといって、政治が「内向き」で外交戦略を怠ると、国内での成果もやせ[記事全文]

角界再生へ―外からの風を改革の力に

野球賭博問題で日本相撲協会は4日、処分を発表した。しかし、これは名古屋場所をなんとか開くための「対症療法」に過ぎない。賭博問題に加え、維持員席の券が暴力団に渡っていた疑[記事全文]

選挙と外交―内向き論戦に出口はない

 どんな国であれ、内政と外交は切り離せない。とくにグローバル化時代はそうだ。消費税、年金改革、少子化などの課題が山積しているからといって、政治が「内向き」で外交戦略を怠ると、国内での成果もやせ細る。にもかかわらず、参議院選挙戦では、対外政策や国際社会との付き合い方をめぐる論戦が低調なままである。

 安全保障を考えてみよう。米国の新国家安全保障戦略では、グローバル化時代の脅威として、旧来の軍事的脅威に加えて、財政赤字の拡大、核テロ、気候変動、感染症をあげている。

 どれも、グローバルな対応が必要な課題だ。国際協調で立ち向かってこそ、民主党や自民党などが公約する安定した未来も築ける。

 日本の安全には日米同盟の安定が不可欠で、そのためには沖縄の基地問題と正面から向き合わなければならないというのは、その通りだ。だが、多様化する脅威をひとつひとつ解決するには、もっと視野を広げ、グローバル化の利点を生かした外交戦略を日本から発信し、同時に日米同盟の深化に役立てるような発想も一層求められる。

 また、外交力を強めないと、成長戦略に必要な自由貿易協定(FTA)、知的所有権、地球温暖化対策などでも後手に回りかねない。

 内政と外交の相乗効果はFTAひとつ見ても明らかだ。日本で農業改革を進めれば、幅広くFTAを結ぶ環境が整う。さらにそこで外交力をうまく発揮できて初めて、たとえば、貿易関連の規制をアジア規模で見直し、必要なら共通にしていくという、みんなの党の成長戦略構想も現実味を増す。

 国際社会では、他国や人々の共感を得るソフトパワーの比重が高まりつつある。この流れは、強制(軍事)と競争(経済)に偏らず、日本らしく影響力の強化をはかる好機だ。

 今後、日本の経済規模は相対的に小さくなる。であればなおさら、日本は、中国などと異なり、民主的な政治体制と成熟した社会がもつ自らのソフトパワーをどう発揮するか考えるべきではないか。

 たとえば、自民党は公約で、日本が活用すべきソフトパワーの例として進んだ法制度や保健医療制度などをあげる。そんな日本の主張への共感を集める戦略を各党からもっと聞きたい。

 外交力を鍛えるには多様な知恵の結集が大切だ。民主党はかつて、霞が関のみならず、大学、研究機関、自治体、NGOなど、「オールジャパン」による外交力強化を提唱した。

 政府や企業から独立した超党派のシンクタンクをつくり、そこを知恵の拠点にする。海外からの論客も招き、世界を動かす政策を提言する。外交でも「新しい公共」を切り開いてみてはどうだろうか。

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角界再生へ―外からの風を改革の力に

 野球賭博問題で日本相撲協会は4日、処分を発表した。しかし、これは名古屋場所をなんとか開くための「対症療法」に過ぎない。

 賭博問題に加え、維持員席の券が暴力団に渡っていた疑惑も警察が捜査中である。角界を覆う病根は手つかずのままだ。大相撲関係者にその自覚があるだろうか。

 協会は、野球賭博にかかわった大嶽親方と大関琴光喜関を解雇し、相撲界から追放した。現役大関の解雇は、史上初である。武蔵川理事長自らも弟子の関与で謹慎処分を受けた。きわめて異常な事態だ。

 賭博に手を染めた力士や監督責任を問われた親方らに加え、軽微で処分対象にならなかった横綱白鵬関らも謝罪した。だが、これでみそぎが済んだと考えるとすれば大変な勘違いだ。

 理事長代行には、元東京高検検事長の村山弘義理事が就いた。ところが、現執行部の内部理事たちは、あきれたことに、一時、力士出身者以外が理事長代行に就くことを嫌がり、放駒理事を推す動きを見せていたという。

 「角界は独特な世界。内部の者でないと分からない」。これが相撲協会内に根強くある考えだ。

 批判の嵐の中でさえ内向きの論理に終始する執行部は自らの立場を理解していない。こんな排他的な角界の「常識」こそが、力士暴行死事件など不祥事の連鎖につながっている。

 角界の再生へ向けて最も重要なのは、協会が新たに立ち上げる「ガバナンス(組織統治)の整備に関する独立委員会」だ。暴力団対策や危機管理対策に加え、閉鎖的な部屋制度のあり方なども視野に入れている。

 委員会の性格からすれば、法曹関係者や企業経営の経験者などが適任だろう。村山氏の理事長代行は千秋楽の今月25日までとされているが、早急に立ち上げ、角界再生への具体的な道筋を示してほしい。

 委員会では、執行部の構成も徹底的に見直すべきだろう。外部理事2人を除き、10人いる理事はみな力士出身だ。代行選びをめぐる動きでもわかるように、彼らに自浄能力は期待できない。半数は外部理事にするくらいの大胆さがなければ改革はおぼつかない。

 これまで改革を成し遂げてこられなかった現執行部の役割は、委員会を全面的に下支えすることだ。再び武蔵川理事長中心の体制に戻すことも避けるべきだ。

 角界は社会から隔絶した「独特な世界」ではない。感動する人々がいて初めて意味を持つ社会的な存在だ。反社会的勢力との関係を徹底的に解明し、一掃することは再生の大前提だ。

 内部の論理にこだわる関係者らにあらためて考えてもらいたい。

 相撲はだれのために取るのか、と。

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