有料老人ホーム経営の大手「ベストライフ」(東京)が東京国税局の税務調査を受け、2008年8月期までの数年間に10億円超の所得隠しを指摘されたことが分かった。ベスト社は、創業者の長井博実氏(64)個人の投資による損失を肩代わりし、申告所得を圧縮して所得隠しをしていた。追徴税額は4億円前後とされ、同社は修正申告したとみられる。
長井氏の投資資金の一部には、ベスト社がホームの利用者から家賃の前払いの目的で受け取る「入居一時金」が充てられていたことも判明。国は指導指針で入居一時金の他事業への流用を制限しており、業界団体の全国有料老人ホーム協会は「リスクの高い投資に使うのは不適切だ」と批判している。
ベスト社関係者らによると、ベスト社は税務申告の際、IT企業「アドテックス」(東京、倒産)などの株式購入による投資の失敗で10億円超の損失が生じたとしていた。だが、この株式は、長井氏が04年ごろからベスト社から借金して本人名義で購入したもので、ベスト社が自社の取引のように装ってその損失を肩代わりしていたことが明らかになった。ベスト社は損失の計上で申告所得を圧縮しており、東京国税局では仮装・隠蔽(いんぺい)行為を伴う所得隠しにあたると判断した模様だ。
また、長井氏の投資資金の一部に充てられていた入居一時金について、1991年の国の指導指針は、老人ホームの運営資金や設備投資に利用できるが、他の事業に流用しないことを定めている。06年4月には老人福祉法が改正され、入居一時金の保全が経営側に義務づけられた。国民生活センターによると、「退去したのに残っている入居一時金が戻ってこない」「一時金の返還額が契約と異なる」などの相談が多く寄せられているという。
長井氏は朝日新聞の取材に対し、「国税当局との話し合いは終わり、直すべきものは直した。大きな問題はなかった」と説明。投資に入居一時金が使われたことについては、「06年4月以前は会社のための入居一時金の活用は認められていた。それ以降は保険をかけている。流用制限は都道府県の要綱であり、法的拘束力はない」としている。(舟橋宏太、木原貴之)