なぜ、復活牛丼は「380円」だったのか:吉野家式会計学(1)
バイト出身社長、安部修仁に聞く【プライシング】
380円というプライシングについて吉野家ディー・アンド・シーの安部社長を直撃した。
ノンフィクション・ライター 山田清機=文 鷹野 晃=撮影 ライヴ・アート=図版作成
数年前のクリスマスイブの晩、わけあって、ひとりで過ごすはめに陥った。家で食事をするのは侘しい。かといって、高級レストランにひとりで入るのも変。どうしたものかと悩みつつ夜の街を徘徊していると、なぜか、吉野家のオレンジ色の看板が妙に魅力的に目に映った。
驚いたことに、店内はほぼ満席。当然のごとく客は男ばかり。でも、そこには不思議な連帯感のようなものが溢れていて、その晩の吉野家の情景はいまだに忘れることができないのである。
一見殺伐としているけれど、吉野家にはどこか温もりを感じさせるものがある。いったい、何がそう感じさせるのか?
今回、安部修仁社長にインタビューをしてみて、この疑問が氷解した。たとえば、カウンターと椅子。
吉野家はU字型のカウンターを使っているが、実は、このカウンターの幅、微妙に変化を遂げているのだ。かつての横幅は1345ミリだったが、現在は1800ミリに拡大されている。正面の客との間隔を広げるためだ。さらに、客同士が真正面に向き合うことがないよう、椅子の位置は微妙にずらしてあるという。
一見、無機質に見える吉野家。しかし、客に気まずい思いをさせないための配慮が随所に凝らしてあるわけだ。だから吉野家は、ちょっぴり温かい。
苛烈に効率性を追求する半面で、大胆に効率を無視する謎に満ちた企業、吉野家。いくつかの数字を手がかりに、吉野家の謎を解き明かしてみたい。
山田 清機
ノンフィクションライター
やまだ・せいき●1963年、富山県生まれ。87年早稲田大学政治経済学部卒。大手鉄鋼メーカー、出版社勤務を経て独立。主な著書として『青春支援企業』『卵でピカソを買った男』。
作品大募集!!テーマは全部で18。あなたはどれを選ぶ?
小室淑恵さんによる連載を掲載中! あなたの職場は大丈夫?
絶好調企業は必ず効果的な「朝礼」をしている!レポートはこちらから
アサヒビール、丸紅、キヤノン……。経営者の知られざる素顔を描く。