『碑文』
それはかつて『世界』において『女神』を封じたもの
それはかつて『英雄』により暗き海の底に封じられたもの。
――― そしてそれは、新たなる『世界』の『希望』を守りぬいたもの。
Vol.3 : 破音
Side:アトリ
私は今緊張している。
どうして?答えは簡単。私は『日下 アトリ』としての人生を歩み始める。そしてこれはそのための一歩。
この先には、私の知らない人が大勢いる。そして私は、歩むことができない筈の時をもう一度歩むことができる。
過去の『私』が歩んできた過ちを、二度と侵さぬよう。そして過去の『私』が得てきたものを無駄にしないよう。
そして私は扉をあける。期待と不安と、そして新たなる自分を胸に抱いて。
――― そこにいたのは、好奇と期待の目でわたしを見つめる、聖祥大学付属小3年の新たな学友達だった。
―――――――― 少し時は遡る
まず初めにしたことは着替え。なのはさんの家族は格闘技を修めており不審者を察知すると言うことで結界を張ってその間に服を借りることにした。幸い服のサイズは若干小さめだけど着れないことはない。当面はこれでなんとかできるだろう。
その後は明日学校があると言うなのはさんを無理やり寝かせ、ユーノさんと二人で件のアパートへ。アパートはよく学生が使う1Kで簡易ベッドとちゃぶ台があるだけだった。
そして今後の予定や必要なものの契約などはいったん別れて昼に打ち合わせることに決めた。
そこまで話したのち、生活のリズムが崩れるのは肌にもよろしくないので無理やり眠ることに。なのはさんから少し服を分けてもらって正解だった。
翌日は平日だったため、なのはさんは学校に行くことに。私はユーノさんとこちらの世界に住むための準備をするため彼女とは別行動をとることになった。
昼前、ジュエルシード捜索から帰還したユーノさんと合流しアパートに隠してあったこちらの世界の通帳を取り、資金の引き下ろしと明日の食糧、筆記用具などの購入のため総合デパートへ。
いつの時代もデパ地下は偉大だ。惣菜はもちろん食材に関してもそこそこの品が一気に買える。特に牛丼関係の品は見逃せない。もちろん買った食材も牛丼関連…しらたきは通好み!
そして一応軽めのジュース類や食料(主に米)を購入し、アパートに帰宅後簡易ベッドとちゃぶ台があるだけの簡素な部屋で今後の相談。私が簡易ベッドに座りユーノさんがちゃぶ台の上に座っているという構図だ。
まず戸籍の作成について。私は本来この世界に存在しない筈の存在。よって警察などの公的機関との接触があった場合問題になる。彼曰く「この世界に来るための準備はしていたから、そこの情報を少し操作すれば問題ない」との事だったので書類整備だけで済んだ。あとはユーノさんがしてくれるそうだ。こんな頼ってばかりでいいのかと思ったけど、今の自分は何も出来ないのだから仕方がないとも言える。
一応氏名は『日下 アトリ』ということで、年齢も外見に合わせなのはさんと同い年にすることにした。
次にライフラインに関してだが、これは朝方すぐにユーノさんが連絡してくれたおかげで契約はすぐに出来た。さすがにトイレも何も使えないのは苦しい。幸い春先で気温もそこまで冷え込まず、震えて朝を迎えるようなことにならなくてよかったと本当にそう思う。
「それにしても…ユーノさんどうしてこんな部屋を?フェレットだったらここまでしなくてもいいと思いますけど。」
家具や家電類について相談しているとき気になったので、試しにそう尋ねるとユーノさんはふと思い出したように
「そう言えばこの姿しか見せてなかったね…っと」
そう言い終わるや否やユーノさんはちゃぶ台から降りて魔法陣を展開する。そしてその小さな体が緑の光に包まれる。その様子を見ていた私は、光が消えた瞬間驚いて後ろに倒れてしまった。
「ア、アトリ!大丈夫!?」
そこにいたのは、なのはと同じくらいの年頃の少年。ショートカットの柔らかな金髪、澄んだ碧の目をしていて平均以上の美少年と言えるだろう。
「あ、え、ああ、だ、大丈夫ですよ。ちょっとびっくりしちゃって…あ、魔法があるなら別におかしくもないか…」
まだ正直混乱している。いわゆる魔法少女におきまりの使い魔って思っていたものが人間になったのだ。この世界の常識に疎い私が驚くのも無理はない。
とりあえず買ってきたジュースを飲み落ち着いてから話を切り出すことにする。
「えーと、それがユーノさんの本来の姿ですか?」
「そうだね。ちょっとここに来るときに怪我をしてしまって…それで消費を抑えるためにあの姿をしていたんだ。まあ色々と便利がいい体だし。」
たしかに人間と比べてあのような小動物の姿をしていれば食事なども少なめですむだろう。それに単独行動をしていても怪しまれにくい。合理的である。
だが、なのはさんと一緒に暮らしているということを思い出した。
「あの…ユーノさん?つかぬ事をお伺いしますが、なのはさんはこのことを知っているうえで一緒に住んでいるんですよね…?まさか覗きとかしていませんよね…?」
自分でも感情が冷めていくのがはっきりとわかる。表情は笑顔のまま。目だけは笑わない。殺気を込めて極力丁寧に、かつ『優しく』尋ねる。真綿で首を絞めるかのようにプレッシャーをかけてジリジリと追い込めばゲロる筈。
―― あらいけない、ゲロるだなんて言っちゃだめですよね。
それにしてもこの様子だとこの年で同衾なんてしているんじゃないかという疑念もわいてくる。また一緒の部屋で住んでいるということは着替えとかも見ている可能性が十分にあり得る。もしなのはさんに自分のことを黙っているというのならこの人は全女性の敵。断じて生かして帰す訳にはいかない。
「ア、アトリさん!!僕は決してそのような事はしていません!!なのはも僕のことは知っています!」
足は竦み顔から血の気が引いているのがはっきりと分かる。言葉遣いも少々おかしくなっているし体も震えているようだ。まあ話をしていた限り誠実そうな人だし、まさかそんなことはないと願いたい。この年頃なら間違いなんて起きないと思うし着替えの際もこっちを見ないように部屋の外で結界に集中していたようだった。変な気は起こさないと思う。
でももしなのはさんがそれを分かった上で同居しているとすると2人はすでにそういう関係じゃないかと考えられる。たしかにユーノさんも誠実かつ美形でなのはさんも優しく将来性のあるいい子だ。相性的には問題ないだろう。でもそうなるとそれって…思考が変な風に回っている。他人の事だ。わたしにはハセヲさんがいるから気にする必要はそんなにない。それにあれだけ脅しをかければ大丈夫だろう。
――――余談であるが、この時の発言が後にユーノにとって最悪のミスとなる。
「えーっと、とりあえずライフラインに関してはこれでいいかな。僕の方で手続きしてくるよ。変身魔法を使えばある程度誤魔化せるから何とかなると思う。それとアトリさんの家庭環境の話だね…」
まだ少々私に対して恐怖心を抱いているようだけど会話に支障がないなら問題ない。
さて、問題の家庭環境だ。いきなりこの世界に飛ばされてしまったため今の私は天涯孤独。普通なら孤児院などに預けられるのが普通だがジュエルシードの捜索をするためそういった柵の大きい施設はあまり行きたくはない。そこで周囲を納得させるべく仮想の家庭環境を構築しなければならなかった。
「うーん…それじゃこういうのはどうでしょう。
私は市外出身の小学3年生。両親は総合商社と宇宙開発関連の研究所に勤めていて、家を殆ど空けている。それで私はそこの一人娘で行きたい学校に通うためアパート暮らし。また、これも実家から自立するための修行の一環であり私の意志でそうしている。あ、もちろん私にはちゃんと親類の方が付いていて形上の一人暮らし
って事でどうでしょうか。学校に関してはこの年で街を歩いていても不審なだけなので、できればなのはさんと同じ学校がいいんですけど…そこまでお願いしてもいいですか?」
すらすらと思いついた設定を述べていく。ユーノさんは設定を聞いてちょっと驚いている。学校の件は少々彼に負担になるかもしれないので遠慮気味に言ったのだが。
ロール(演技)に関しては自信がある。というのもネトゲ(ネットゲームの略称)にはいろんな人がいる。そこでは自分を偽ってロールしている人も少なくない。俗に言う直結厨(ゲーム中ではなくリアルでの接触に固執する人)なんていう犯罪者寸前の人もいる。そういう人をあしらっていると演技力と言うのは自然と身につくものなのだ。
それに『the world』は2015年から始まる不祥事で管理体制の問題が世に大きく出てしまい、ゲームのサーバーも『開放、維持はする。治安、不具合など知らん』という放任的なサポート体制だった。もちろん中には月の樹のような治安を守ろうとするギルドもあり、さすがは世界最大規模のネットゲームだと思えるが…裏は裏で酷いものなのだ。そういった人よりはむしろネットスラム…タルタルガの住人の方がましなのかもしれない。話す内容が極めて哲学的であることを除けば。
さらに私はギルド『月の樹』の勧誘をしていたこともある。その手の人物をはぐらかしてあしらうなどお手の物だ。
そして演技をするときに大事なのは筋書きだ。その場しのぎの演技には矛盾が多く含まれる。演技をするうえで矛盾は極力避けねばならない。そのため演技のための設定と言うのはよくよく考えないといけない。ネットゲーム上での演技ならともかく『自分』を演じるならなおさらだ。これがタイピングによるチャットのみの従来型MMO(Massively Multiplayer Online Role-Playing Game…多人数同時参加型オンラインRPG)ならば文字だけの交流なのだが『the world』は体感型、つまり表情が顔や声に出るのでそこも気をつけないといけない。その点、私はある種役者とも言えるのだろう。
「す、すごい設定だね…」
「演じきる自信はありますよ?それに親が云々って話はほとんど事実ですし…父は初の民間宇宙飛行で訓練、母は母で忙しかったし…もっとも誤解がないよう練り込むならもう少し詰めていきますけど、学校の設定は変えたほうがいいですか?」
「いや、それで十分だと思う。いつまでも嘘をつき続けるわけにもいかないし、それにその年で学校に通わないというのも問題だから学校に通う資金なら僕の方で用意する。巻き込んだ僕の責任でもあるからね。学校はなのはと同じ私立聖祥大学付属小学校っていう所になるけど、それでいいかな?」
私立と聞いて金銭的に大丈夫かどうか確認したが問題ないとのことだった。ユーノさんには悪いけどここは頼ることにしよう。それにまた小学校生活から始められると言うのは普通ありえない体験だ。某体は子供、頭脳は大人なコ○ンではないが。まあ私じゃ推理なんて無理だろうけど。
数時間後、日も暮れだした頃には大体の書類や今後必要なものの用意も終わり、最低限生活するだけの用意は出来た。ライフラインも整い電気ガス水道も用意できている。
それと必要なものはリサイクルショップを利用し極力無駄を省いた。さすがにユーノさんに負担を掛け過ぎるわけにはいかない。彼の出せる金額にも限度があるからだ。
「これで生活する分には問題ないね。そろそろなのはも帰ってくるし今後について一緒に話し合おうか。」
その提案を受け、なのはさんの家族が経営する翠屋というお店で待ち合わせることになった。
Side:なのは
ユーノ君からアトリちゃんの住むところの用意が出来たって連絡が来た。
ユーノ君結構お金持ちだったんだね…一人で旅しているのならそれなりにお金とかも用意しているってことなのかな。ちょっと予想以上の出費になりそうとか呟いていたけど。
それと今度から学校に通うって話に。
確かにちゃんと学校に行かないといけないよね。まだ義務教育なんだし通うべきだと思う。その学校が私と同じ聖祥大学付属小学校と聞いてすごくうれしかった。アリサちゃんやすずかちゃんにアトリちゃんを紹介するのが楽しみだなぁ。
ただ私には気になることがある。
一人暮らしってすごく心配だけどアトリちゃんは心配ないよってはっきりと言っていた。私と同い年くらいなのにすごくしっかりしていると思う。
でも、大切な人と離れ離れになった上にこんな右も左もわからないような土地に放り出されたんだからきっと心の中は不安だらけなはず。それでも一切表に出さないのはすごいと思う。
それは私達に心配させないようにしているのかな。すごいと思うけど友達としてはちょっと寂しいと感じてしまう。その不安も一緒に背負いたいのに。
そして今、翠屋でケーキを食べながら今後の予定について相談中。
―― しっかりしていてもおいしいものを食べているときのアトリちゃんってやっぱり同い年なんだなぁ。
「なのは、その子は新しいお友達?」
後ろから声がかかる。そこにいたのは私と同じ栗毛色の長髪をした美人のお母さん、高町桃子さん。
「うん!今度引っ越してきた日下アトリちゃん。一人暮らししているんだよ。」
「初めまして。こちらに引越してきた日下アトリです。なのはさんには来たばかりの私を色々とよくして頂き本当にありがとうございます。」
そう言ってアトリちゃんは深くお辞儀する。
「いいのよ。そんなに気を使わないで。一人暮らしって聞いたけどご両親はどうしたの?」
「両親は共働きで殆ど家を空けているんです。だから実質一人暮らし、といった感じです。あ、家事とか調理とかも一通り出来ますから気にしないでください。」
…すごい演技だなぁ。仮想の家庭環境とはいえあんなすらすら言えるかな。もしかして向こうのアトリちゃんも同じような境遇だったのかな…
「あら、苦労してるのね…いつでも気兼ねなく家にいらっしゃい」
「ありがとうございます。その時はまたお世話になりますね」
あいさつが終わるとお母さんは仕事に戻っていった。アトリちゃんは小声で「若いなぁ…」とか呟いていた。お兄ちゃんの事とか聞いたらどういう反応するんだろう。ちょっと楽しみだ。
「それじゃ、今後はなのはとアトリ、僕の3人で捜索することになるね」
「そうですね。それとハセヲさんを探して帰る方法を見つけないと…」
お茶を飲みながら今後の目的について話す。今の目的は3つ。
1つはジュエルシードの封印。これは私が今までやってきたことだね。私たち以外にジュエルシードを探している子のことについても触れておく。
そして2つ目がアトリちゃんの大事な人っていうハセヲさんの捜索。
曰く『もの凄くガラが悪そうに見えるヘタレ』『かっこいい時はかっこいいんだけどちょっとヘタレな面があるところがあるかわいい人』『銀髪で目鼻立ちのしっかりした優男なヘタレ』『要するにチョイ悪イケメンのヘタレ』
…最後の方はちょっと惚気担ってないかな?ある程度アトリちゃん任せになるかなぁ。
3つ目が問題で、アトリちゃん達の帰還方法。これは私じゃよくわからないからユーノ君が調べることになっている。でもユーノ君もジュエルシードによる召喚、しかもデータから抽出された人の実体化っていうのは初めてでまだまだ時間がかかるみたい。
「あ、それと私にも魔法を教えてください。自分の力についてもっと分かっておきたいんです」
「それについては僕が教えるよ。アトリも魔法の資質があるし今後を考えると覚えておいた方がいいだろうから」
「えへへー。んじゃ私が先輩だね。よろしく、アトリちゃん!」
明るく声をかける。アトリちゃんも笑顔で「ハイ!こちらこそ宜しくお願いしますね、なのはさん!」って言ってくれた。聞いたところ念話についてはもう大丈夫らしい。この後アトリちゃんの魔法の適正などを調べることになった。アトリちゃんはどんな魔法が得意なんだろう。楽しみだなぁ…
――― その日の夜、空き地で結界を張りアトリの適性についてチェックをすることになった
「ふえええ…すごいなぁアトリちゃん、ここまで精密に制御できるものなの?」
「驚いたなぁ…確かに出力じゃなのはに遠く及ばないけど制御技術は一線級の魔導士並みだよ。」
「そ、そういうものなんですか?私よくわからないんですけど…」
アトリちゃんは最初練習として離れた位置に置いた的にむけてアクセルシューターを撃った。
アトリちゃんの魔力光は翠。魔力量自体はそんなにないみたいで魔力弾の持つ魔力はそれほどなかったけど放たれた魔力弾は全て命中、何回か繰り返したけど本人はこれで練習になるんですかと言わんばかりの余裕を見せていた。
そこで空中に空き缶を投げてそれを落とさないよう打ち上げ続ける練習に。
「えーと…これいつまでやればいいんですか?」
アトリちゃんは苦笑いしながら空き缶を撃ち続けている。しかも最初から一度も落とすことなく…暇だったのかそのスピードは段々上がってきている。更には光弾を増やし打ち上げ、打ち下ろし、横殴りといったように自由自在に打ちすえている。
「…制御は完全に負けちゃったかな……」
「な、なのはの場合出力が出力だからね…でもホントすごい制御能力だね。これもやっぱりデータを基に召喚されたからかな」
たぶんユーノ君の推測の通りもともとがデータ、プログラムだったためこの世界の魔法――― 自然摂理や物理作用をプログラム化し、それを任意に書き換え、書き加えたり消去したりすることで、作用に変える技法 ―――にすごくマッチしたのだと思う。それにしてもさっきから息切れ一つしていない。ただ魔力弾に込められた魔力は必要最低限であるようにアトリちゃん自身の魔力は少ない。だけど最小限の魔力で行っているため消費がかなり少なくてすんでいる。
これだけ制御が出来るのに更に魔力量も多かったらたぶん私じゃ勝つのは厳しいかな…
――― その後色々な魔法を試してみた結果……
「うん、アトリは攻撃には向いてないけど僕のように補助に特化している傾向があるね。特に幻術が使えるって言うのはびっくりしたよ」
アトリちゃんは前衛向きではなく後衛向きの能力だった。特にインクリースタイプの補助魔法、捜査魔法と幻術に適性があるみたい。戦闘では特性を活かした細かい精密射撃と高命中率の誘導弾が主力になるんじゃないかな。クロスレンジでは打撃メインで、私より若干体力あるけどそんなに強いってわけじゃない、戦うならロングレンジになると思う。飛行もできるけど瞬間的な高速機動は速度が伸び切らずあまり上手くないみたいだからあんまり矢面に立つタイプじゃないね。となると幻術の使い方次第って事になるのかなぁ…でも、あの黒い子のことも考えると戦力は多いに越したことはないよね。
「そういえばアトリちゃんのデバイスの名前ってなんなの?」
「名前…ですか?そういえば決めてなかったですね」
「ダメだよーちゃんと名前つけてあげないと。ね、レイジングハート?」
≪Yes sir.≫
「うーん…それじゃあ
デバちゃんで!!」
「……ごめん。なんて言ったか聞こえなかった。もう一度言ってくれないか?」
「……奇遇だねユーノ君、私も何も聞こえなかったよ。」
…予想外だった。私はアトリちゃんに対する認識を改めないといけないかな。うん、ネーミングセンスとかそういう次元の話じゃないや。
「うぅ…どうせ私はセンスないですよぅ…うぅぅ」
いけない、チャンスをあげたつもりが思いっきり急所を抉っちゃった?蹲って地面にノの字を書いている…なんかバッドトリップしそうだから早くカバーしないといけないんだけど。
ユーノ君も私も予想以上のひどさに目が泳いでいる。これ以上は何も言えないというかフォローが出来ない。
アトリちゃん、かわいそうだけどそれはデバイスもかわいそうだよ…
「い、いや、聞こえなかったからもう一度言って、アトリちゃん?」
「そ、そうだよ。もしかしたら既にデバイスに名前があるかもしれないしさ!」
「そ、そうですね!もう名前を持っているかもしれませんね!えと…それじゃ、あなたの名前を教えてください、私のデバイスさん…」
気を取り直してトリちゃんは目を瞑った。そして足元に翠色の魔法陣が浮かび上がる。
あれ?なんだろう。アトリちゃんの雰囲気が変わった。
………いや違う、アトリちゃんが2人いる…?
「………ヘイズ、ダンシングヘイズ……それがあなたの名前…」
そう言い終わると翠の魔法陣は静かに消えた。そしてアトリちゃんも静かに目を開く。
「ふう、よろしくね。ヘイズ」
≪Yes, My muster≫
デバイスから発せられる透き通るシステムボイス。こうして、アトリちゃんのデバイスにはダンシングヘイズ…愛称はヘイズという名前がつけられた。
―― 最初の名前に反応しなかったのはやっぱり嫌だったんだろうなぁ。
「それじゃこれくらいで切り上げようか。ジュエルシードも探さないといけないし…」
「そうですね。それじゃ帰りながらそれぞれ探すことにしましょうか」
「うん、そうだね。それじゃユーノ君は別ルートで。あ、アトリちゃんは明日から学校に行けるの?」
「明日から行けますよ。まだちょっとした契約とか残ってますけど必要な手続きは済ませましたから明日からまた一緒です」
そう笑顔で答えるアトリちゃん。私もアトリちゃんがさびしい思いしないように頑張ろう。
とりあえず一通りの魔法の練習を終えて、ジュエルシードを探しながら帰宅。アトリちゃんは驚くべきことにこの短時間で基礎的な攻撃魔法、補助魔法は一通り覚えたらしくあとは幻術など応用的なものになっていくみたい。私もうかうかしていられないや。もっと強くならないと。あの黒い子にも負けないように。
そうして、私達の夜は更けていく
後書き
第3章となります。
今回はアトリの処遇についての話ですね。極力オリ設定は避けるつもりでしたがアトリを匿う上でやはり金銭的、また戸籍等の問題が出てくるのでユーノ君にプチ金持ちになってもらいました。というよりセーフハウスといった方がいいでしょうか。
まあ個人で乗り込んできて捜索していたのですからそういう準備は当然しているだろうというのと常に旅をしているのなら余分に嗜好品を買うこともないだろうということで。資金に関しては底無しではないでしょうから結局は管理局の庇護下になると思います。
…召喚の段階で管理局に報告すべきじゃないかとかいう突っ込みはナシで。
デバイス名ですがアトリのものはダンシングヘイズにしました。バレバレですね。ハセヲのも似たような名前になります。…アトリのネーミングセンスについては本編参照ということで。
今回書いたとおりアトリの適性は補助と幻術です。攻撃に関しては誘導弾をメインにしようと思います。砲撃は1種ないし2種かなぁ。というか本編でアイテムを使って覚えさせなかった場合持ちうる攻撃スキルは2種しかありませんからね。もちろん予定ですので…
戦闘スタイルに関してはロングレンジメインで幻術と補助魔法を使い足止め&距離稼ぎをしながらの攻撃となる予定です。単独での戦闘能力は低い部類になります。また本編で活躍した捜査能力も一応持っています。打撃力不足が否めないのでそこは確実な攻撃と補助によるブースト頼みといった所でしょうか。どちらにせよやはり矢面に立つスキルじゃないですね(憑神発動させた場合は別ですがというかあれは最早広域殲滅魔法じゃ…)。うーん…シャマルとキャロを足して割ったような感じに…あれ?StS陣涙目?
米返しです。
>>reeder様
お久しぶりです。若干前作とは表現を変えており、展開も原作重視から乖離に近くなると思います。もはや当初のものとは別物になっていくと思いますのでよろしくお願いします。
>>雪林檎様
さすがにあの戦乱を経て成長しないのはまずいなとw伏線は他にも新規に作りましたのでどうぞお楽しみに。
次回ではハセヲの戦闘スタイルなどを描く予定です。