戦争が生み出すものは、破壊、憎悪、負の感情である。
新たなる兵器の登場といった科学技術の進化である
そして、人々を導く英雄と呼ばれる存在である。
Muv-Luv Alternative IF~イノセントフィナーレ~
プロローグ
人類同士による二度目の世界規模の戦争が終わってまもなく、人類は宇宙に進出を始めた。
1950年に始動した本格的な宇宙探査を目的としたダイダロス計画により、1958年人類は火星において、生命体と思われる姿を確認人類は地球外生命体との接触を図る。
1966年、世界的巨大プロジェクトオルタネイティブ計画発動。
翌1967年、火星に派遣された国際恒久月面基地「プラトー1」所属の隊員が火星にて発見された生命体と接触。以後消息を絶ち、この事件はサクロボスコ事件と命名。
同年、第1次月面戦争勃発。人類史上初の地球外生命体との戦争、BETA戦争の勃発。
1973年4月19日、中国新疆ウイグル自治区カシュガルにBETAの着陸ユニットが落下。
同年、第1次月面戦争終結、プラトー1の放棄による人類の惨敗であった。
1978年、NATO・ワルシャワ条約機構連合軍による東欧州大反攻作戦・パレオゴメス作戦発動。2ヶ月の激戦の末、ソビエト陸軍第43戦術機甲師団・ヴォールク連隊がミンスクハイヴ地下茎構造への突入に成功するも数時間後に全滅。
1995年、国連、オルタネイティブ4に日本案の採用を決定、オルタネイティブ3を接収へ。
1999年、前年に建設開始された横浜ハイブ攻略作戦・明星作戦発動。国連軍と大東亜連合によるアジア方面では最大、BETA大戦においてはパレオロゴス作戦に次ぐ大規模反攻作戦。横浜ハイヴの殲滅と本州島奪還が優先戦略目的。
同年8月5日、米軍が2発のG弾を使用し、人類史上初のハイブの奪還に成功。
2001年12月24日、国連軍第11方面軍司令部および、日本帝国軍参謀本部より、甲21号作戦発動。
同年同月25日、G弾にいる佐渡島消滅を以って、佐渡島ハイブの破壊に成功。
同年同月31日、人類のすべてをかけた桜花作戦発動。
翌2002年1月1日、甲1号にてあ号標的の破壊に成功。
このとき、人類はついにBETA大戦で反撃に打って出た。
そして、1人の英雄が祭り上げられた。
名を、白銀武。
国連軍の衛士にして、画期的な新概念OS・XM3の提案者、そして桜花作戦の唯一の生き残りでもあった彼を人類は英雄と呼んだ。
彼がいる戦場は必ず人類の勝利で終わる。
彼は我々人類を導く存在なのだ。
そして彼は、後の歴史にも名を刻み続ける。
2003年、錬鉄作戦にて甲20号目標の破壊に成功。
2004年、欧州奪還作戦にて一個連隊を率いて3つのハイブ攻略に成功。
2010年、東南アジア大反抗作戦では、前線指揮官として5つのハイブ攻略に成功。
2013年、地球上に残っているすべてのハイブ攻略を目的としたユーラシア奪還作戦にて、当時フェイズ5のハイブをわずか一個大隊で破壊するという神業を披露。
翌2014年、これまでの功績により、かねてから計画されていたオルタネイティブ6通称ルビコン計画の最高責任者に就任。
2020年、月面奪還成功により、火星攻略艦隊の総司令官として火星に派遣。
2027年、7年間の激戦の末、フェイズ9のハイブ「マーズゼロ」他3つのハイブの攻略に成功。
彼の生涯は勝利の連続であり、そして死に埋め尽くされていた。
***2027年、火星攻略艦隊旗艦「アレクサンダーⅢ」医務室***
部屋にいるのは二人だけ、一人はただ椅子に座りベットに横たわる男性を見つめている。
もう一人の男性は、今にも死にそうな感じでベットに横たわっている。
すると座っていた男性がベットに横たわっている男性に向けて話し始めた。
「司令、あと6時間ほどで月面基地に到着いたします、みな司令のご到着をお待ちしておりますよ。」
すると、起きていたのか横たわっていた男性が口を開いた。
「そっか、んじゃあ補給と整備のほうは月の連中に任せて、桂木さんたちはみんなと酒でも飲んできなよ。」
「そういうわけにはいきません。今回の火星攻略が成功したのは司令のおかげですので、司令が来ないのであればみな楽しむことができません。」
「そうかい?みんなのことだから、俺がいなくても大丈夫だと思うけど。」
ベッドに横たわる男性はそう言っているが、顔ではそう思ってないことがすぐ読み取れる。
「それはないですよ。司令がいなくては、みな弄れる人がいなくてさびしがります。」
「あっそ、俺はやっぱそういう役なんだ。」
「ええ、そういう役です。」
椅子に座る男性はそう言って立ち上がり、「彼女がそろそろ来そうですので。」と言い残し、部屋を後にした。
しばらくすると、一人の女性が入ってきた。
その女性は、黒い軍服の上に白衣を着て銀色の髪をひとつにまとめ上げていて、町で歩いていればすぐにでも声をかけられそうな美しい女性であった。
「武さん、お体のほうはまだ大丈夫ですか?」
優しそうな雰囲気で女性は語りだした。
「まだ生きてるよ。ていうか霞、まだってどういう意味だよ。」
武と呼ばれた男性もさっきまでとは少し違う雰囲気で話し始めた。
「いえいえ、人類最強とまで呼ばれている武さんがここまで弱りきってしまうので、そろそろ終わりかと思いまして」
「おい、その言葉は遠まわしに早く死んでくれって行っているのか?霞君?」
「ほほほ、何のことやら?」
「覚えてろよ。」と言って疲れたのか彼は、先ほどのベッドに横たわった状態で悔しがっていた。
「武さん。」
「ん?なんだい霞?」
霞と呼ばれた女性は先ほどのような笑顔が今ではほとんど消えていた。
「ここまで来たのに残念ですね。」
彼女がそう言うと。
「そうでもないかな。」
不思議と彼はそうも残念そうでもない顔をしていた。
「なぜ?」と彼女は聞いた。
「だって、この世界にとってはハッピーエンドかもしれないけど、俺にとってはギリギリでハッピーエンドだからだよ。」
「人類の未来は完全にとまではいかずとも、滅亡は回避できたこの世界がですか?」
「ああ、だってこの世界にはみんないなくなっちゃたからね。」
「それでも、ハッピーエンドですよね。だったらいいじゃないですか。」
「霞はそれでいいかもしれないけどさ。俺、三回目がほしいんだよな。」
すると、霞と呼ばれた女性は。
「では、武さんに質問です。」
「はい、なんでしょうか?霞さん?」
「もしも三回目があるとしたら、武さんはどのようなことをしますか?」
そう聞かれて彼は、「う~ん。」と迷い始めて。
「確かに三回目があるのはいいけど、ただの三回目じゃ面白みにかけるかな~。」
そう言って武は、霞に「もうちょっと、設定を捻ってくれない?」
すると霞は、少しおでこに青くじらを立てながら武に言った。
「では、欲張りな武さんはどのような設定がよろしいですか?」
「え?そ、そ~だな~。」
突然話を振られて武は困惑しながらも。
「う~ん。やっぱ、わざわざ10月じゃなくて、敢えてそこは4月あたりってのもいいかもな。」
「そうですか。武さんは欲張りですね。」
ふふふ、と霞はそう言って。
「そろそろ、仕事に戻りますので武さん、おとなしくしててくださいね。」
「はいはい、おとなしく寝てますよ。」
そして、霞は「では。」と言って部屋を出て行った。
再び、部屋に静寂が走る。
「もう一度か、ホント欲張りだよ俺は。」
そう言って彼は、目を閉じた。
2027年、オルタネイティブ6最高責任者白銀武、火星攻略帰還中に死亡。