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2010年7月5日(月)付

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外国人選挙権―多様な社会への道を語れ

「国のかたち」をめぐる各党の主張の違いに注目したい、と産経新聞が6月28日付「主張」(社説)に書いている。その点には同感である。特に、永住外国人に地方選挙での投票権を認[記事全文]

犯罪者その後―支えてこその安心社会

裁判員制度が始まって1年が過ぎ、判決に興味深い変化が見られる。刑の執行を猶予する際、保護観察がつく例が増えているのだ。裁判官だけの裁判のころは4割弱だったが、市民が参加してからは約6割を占め[記事全文]

外国人選挙権―多様な社会への道を語れ

 「国のかたち」をめぐる各党の主張の違いに注目したい、と産経新聞が6月28日付「主張」(社説)に書いている。その点には同感である。

 特に、永住外国人に地方選挙での投票権を認めるか、否か。経済や外交で2大政党の違いが見えにくい中、日本を大きく分ける論点の一つだ。

 参院選に向けたマニフェストや公約に、公明党、共産党、社民党が「実現を」と書き込んだ。反対を打ち出したのは自民党、国民新党、たちあがれ日本、みんなの党などだ。

 情けないのは民主党である。マニフェストでは一言も触れていない。

 結党時の基本政策で「早期実現」と掲げた同党は、政権交代後、鳩山由紀夫前首相や小沢一郎前幹事長が意欲を示した。ところが、連立を組む国民新党や地方議会から反対が起きた。党内にも否定的な声はある。菅直人首相は国会で「党の姿勢に変更はないが、様々な意見があり、各党の議論が必要」と答弁。小鳩両氏の退場もあり、急にエンジンが止まったかのようだ。

 外国人登録者は220万人を超え、永住資格を持つ人は91万人。日本はすでに多様なルーツを持つ人で構成されている。地域社会に根付いた人に、問題解決や街づくりの責任を分かち合ってもらう。母国とのつながりは尊重しつつ、住民として地方選挙への参加を認めるのは、妥当な考え方だ。

 政府の新成長戦略では、海外人材の受け入れ制度を検討するという。開かれた国に向け、外国人の住みやすい環境づくりは避けて通れない課題だ。

 朝日新聞の4〜5月の調査では賛成49%、反対43%。世論は割れている。であればこそ、議論を提起した民主党は、旗を出したり引っ込めたりせず、粘り強く説得を続けるべきだろう。

 自民党などは、夫婦別姓と並び「国のかたちを壊す」政策だと、批判を強める。「保守対リベラル」の対立軸に位置づける狙いもありそうだ。

 「離島が乗っ取られる」「安全保障に悪影響を及ぼす」といった反対論がある。だが、こうした見方は外国人の敵視や排斥を助長しかねない。内向きの防御論にしか聞こえない。

 「憲法違反」との主張もある。しかし、1995年2月の最高裁判決は、憲法は外国人地方選挙権を保障も禁止もしておらず「許容」している、と判断したと読むのが自然だ。付与するかどうかは立法政策に委ねられている。

 カネやモノ同様、ヒトも国境を軽々と越えゆく時代。日本はどんな社会をめざすのか。国や地域をかたちづくる構成員の資格や権利をどう定め、どれだけ移民に門戸を開き、多様性をコントロールしつつどう活力に変えるか。

 政治家は、そうしたビジョンまで視野に入れて賛否を論じ合うべきだ。選挙権の問題は、入り口に過ぎない。

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犯罪者その後―支えてこその安心社会

 裁判員制度が始まって1年が過ぎ、判決に興味深い変化が見られる。刑の執行を猶予する際、保護観察がつく例が増えているのだ。裁判官だけの裁判のころは4割弱だったが、市民が参加してからは約6割を占める。

 法務省の保護観察官が罪を犯した人それぞれの事情を検討して守るべき事項を定め、その助言の下、ボランティアの保護司が定期的に面接などして立ち直りを手助けする。それが保護観察だ。観察つき猶予刑の場合、原則として猶予期間中この関係が続く。

 多くの事件にかかわり、過去の量刑との均衡を気にしがちな法律専門家と違い、裁判員には目の前の被告がすべてだ。執行猶予であれば直ちに地域に帰ってくる。それで不安はないか。普通の生活にただ戻すことが、その被告にとって本当にいい結論なのか。「6割」という数字は、裁判員と裁判官による熟議の結果と受け止めたい。

 こうした変化も踏まえ、更生保護策の一層の充実を図る必要がある。

 保護観察の対象は刑の執行猶予者だけではない。刑務所を仮釈放された者を合わせると約2万人。これに非行をした少年らへの指導も加わる。

 近年、再犯防止が大きな社会問題になり、法整備や観察官の増員、性犯罪者に対する観察の強化などが進められてきた。だが、まだ道半ばだ。さらに裁判員制度によって、犯罪者の「その後」に新たな角度から光が当たりつつある。政府や国会はこの状況をしっかり受け止め、予算や人員で国民の期待にこたえる措置を講じて欲しい。

 市民の側の意識と姿勢も問われる。

 「罪を憎んで人を憎まず」と頭では分かる。だが、出所者を受け入れて社会との橋渡しをする施設の建設話が持ち上がったり、前歴のある人を雇って欲しいと頼まれたりしたらどうだろう。二の足を踏むのが現実だ。保護司のなり手も少なく高齢化が進む。

 「悪い人」に近くにいてほしくないのは自然の思いだし、雇用して裏切られた経験をもつ経営者もいるだろう。だが社会が背を向けてしまえば、その人々は居場所を見つけられないまま、また罪を犯しかねない。職があるかないかで再犯率は5倍も違うという統計もある。拒絶や無関心は、結局、暮らしの安全を脅かすことになる。

 今月は更生保護の理解を深める「社会を明るくする運動」の強調月間だ。地域のきずなが緩み寛容さが失われつつある時代だからこそ、何をなすべきか、できるのか、個人も企業も改めて考えてみたい。就労を応援し雇用主をバックアップするNPOに寄付をするといった手の差し伸べ方もある。

 監視カメラや刑罰に頼るだけでなく、真の意味で「犯罪に強い社会」を築く。それは、裁判員制度の成果を引き継ぎ、発展させる営みでもある。

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