2010年04月11日
ラクジョブ就職教本1.はじめに
アニメ・ゲーム・マンガ業界への就職を希望する学生のみなさん、こんにちは。私は清水有高といいます。
今回。私がアニメ・ゲームの業界で体験してきた事柄をもとに、学生さんの就職活動を支援するための本を出させていただきました。
ネットという特殊な形ではありますが、この本がみなさんの就職活動に役立つことを切に願っております。
日本のアニメ・ゲームは、近年ますます世界の注目を集める有力コンテンツへと成長してきました。しかし、そこで働くまでの道のりは非常に特殊で情報 も少ないのが現状です。そのため才能はあっても就職活動で苦労される学生さんも多いものですから、僭越ながら私と、私の周囲にいるさまざまな情報、才能を 持つ方々の力を借りて、学生のみなさんを支援しようとこの本は企画されました。
この本がきっかけで、高い意識を持って業界チャレンジしようという学生さんが増え、その結果、業界がますます活性化し、素晴らしい作品が出来上がるなら、これに勝る喜びはありません。
もちろんその中には、その学生さん自身もクリエイターとして名を上げ、大きな成功を修めてくれることも含まれます。素晴らしい作品は世の中を良くして行くものだと信じています。
そのために、まずいいだしっぺの私が何者なのか、なぜこうした本を出す必要があるかと考えたかを話したいと思います。少々私自身の経歴についても触れますが、どうでもいいという方は読み飛ばしてもらってかまいません。
(次章以降の更新をお待ちください!by平田)
私のアニメ・ゲームの体験は、学生時代まで遡ります。
私は中学生の時、いろいろな原因で学校に行くことをやめた時期がありました。自分の生活から「学校」というものがすっかりなくなってしまったんです。
高校もそんな調子で、週に1回登校すればいい通信制へと進みました。
ただ、いわゆる暗い引きこもり生活という訳でもなく、私は生活の中からわずらわしい部分が取り除かれただけ、勉強なら家でも十分という、いたって明るいものでした。
そうして手に入れてしまった十分な時間を使って、私はひたすらアニメやゲーム、読書やイラスト描きといった趣味(と、そのためのアルバイト)にのめ りこんだのです。中学生のころに出来るバイトと言えば新聞配達くらいでしたのでそれで稼いだお金をせっせと作品につぎ込んでいました。私が住んでいた滋賀 県は良く雪が降るので、冬の新聞配達はとても大変でした。雪が積もると新聞を積んだ自転車が動かなくなるので、結局100部以上の新聞をあるいて暗くて寒 い中配るのです。でも、それで手に入れたマンガやアニメ、ゲームは当時の宝物でした。
その後、大学に進んだ私は、当然アニメ・ゲームに関わる仕事を希望するようになります。自分がアニメやゲームで感動したように、将来は自分が生み出す側に立って、多くの人を感動させたい!と考えました。
しかし大学生になり少し視野が広がると、同時に世の中の広さも知るわけです。
「私はプロとして通用するほど絵が上手くない」ということです。そこで私は、アニメ、ゲームに関する夢をひとまず置いておいて、もうひとつ興味を持ってい た出版に興味を持ち始めます。安易な考えですが、描けないなら描く人をサポートする編集者になりたいと思ったのです。しかし編集者は超人気職種でのでその 就職活動に打ち勝つために私は大学2年生のころから大学で新聞部を立ち上げました。自費出版も10冊ほど行い、出版の勉強をしました。出版は出版で面白 かったのですが、やはり描く側になりたかった身としてはいまいちピンとこない。本気で魂を投入していい仕事なのか?と悩むようになりました。
そんななかで。縁あって私は在学中から小さな人材派遣会社を手伝うようになりました。その会社は私が関わった当初はまだ小さな会社でした。そこで私 は自分の趣味を活かして、アニメ・ゲーム業界への就職・転職にも力を入れていくことにしました。リクルートをはじめとしていろいろな人材ビジネスを行って いる会社がありましたが、基本的に私よりアニメゲームに詳しい営業マンはいなかったので、多くのコンテンツ制作会社をお客様にすることができました。その 他の努力もあり、次第に会社は成長し、現在はまずまず、経営していける企業へと成長することができました。
この企業をお手伝いする過程で、私は自分の生きる道を見つけました。私はプロとして通用するような絵を描く才能もなければ、人気声優さんになれるよ うな演技力も美声もありません。だから自分で直接作品を作ることはできないけれども、優秀な人材を集めて、彼らの才能に見合う賃金が支払われる仕組みを作 り上げることならできるかもしれない。そしてアニメ・ゲームの歴史に残るような作品を生み出す「きっかけ」を作ることができるんじゃないか?
私は、より明確にその目標を実現するために会社を辞め独立し、現在の会社ビ・ハイアを立ち上げました。合わせてアニメ・ゲーム業界に特化した就職支援サイト「ラクジョブ」も開設しました。
このラクジョブ、当初の目標は達成し、現在ではアニメ、ゲームでの就職を希望する大勢の学生さんに利用してもらえるサイトになることができました。 毎日のように学生さんと、優秀な人材がほしい制作会社との橋渡しができるようになったのです。しかし、新たな問題も発生するようになりました。
簡単にいうと、学生さんが、アニメ、ゲームの仕事環境について、一方的なイメージを持ってしまっているということです。実際に入社したあとどういう 仕事に就くのか、それに関する情報があまりに少ない現状と、その反面。目に見える「作品」には簡単に触れられるため、学生さんとしては、自分にとってのい いイメージを膨らませすぎてしまうんですね。この点。学生さんには一切責任はありません。アニメ、ゲーム業界がそれまで情報を余りに出さない閉鎖的な業界 であったことに原因があります。
しかし、それによって、就職活動が実際に上手くいかなかったりもしますから、問題点をあれこれ指摘していても何も始まりません。この本では、これま であまり世に出なかった、アニメ、ゲーム業界の真実の姿が出てきます。それはひょっとしたら、良い方のイメージを膨らませすぎてしまっている学生さんから すると、がっかりするものもあると思います。しかしそれを全く知らずに業界に入るのと、知った上で、それでもやりたい!と思って就職するのでは、社会人と してスタートを切る上で、まったく違ったものになってくると思うのです。
一例を挙げましょう。
日本のとくに技術職には、現在でもなお、「親方・丁稚(おやかた・でっち)制度」があります。明確に目に見えるものではありませんが、働いている先輩方の心の奥底には、大なり小なりこの考えが横たわっていると考えてもいいんじゃないでしょうか。
では、「親方・丁稚制度」とはなんでしょうか?たとえば、みなさんが就職試験にパスし、ピカピカの新人として入社したとしましょう。素晴らしい作品 を作って大勢の人を驚かしてやるぞ!そんな野望に胸を膨らませているかもしれません。ところが、すでに現場で何年か働いている先輩からすれば、新人のみな さんは、タダでもいいから仕事を教わろうとやってきた「丁稚」です。最初の何年かはいわば修行。給料が安かろうとも文句もいわず、わずかに眠る時間以外は ずっといわれた仕事だけしていろ!たとえばそういうことをいわれることもあります。そこには週休二日制だの、労働基準法だのといったものは、あんまり意味 はありません。
ひどい話だと思うかもしれませんが、もう一方で、専門的な職魚というのは、それほど仕事に就いてから覚えることが多い職業でもあるんです。学生さん の中には、たとえば専門学校や同人活動で、それなりに道具(パソコンやツール)を使いこなせる人も少なからずいます。普通の大学を出た学生さんを5点とし たら、7点や8点くらいの能力があるかもしれない。でも、プロ現場で要求される点数は、80点とか、そういう水準なんです。予算もない、時間もない、でも なんとか85点にはならないかな?あとどうしたら90点になるんだろう?そういう戦いを日夜繰り広げているのが厳しいプロ世界です。
学生さんの中には、評価されたい一心から、就職活動中や入社直後でも、「自分は他の学生よりもデキます」というアピールをする人もいます。しかし、 残念ながらこれは、バリバリのプロからすれば「ドングリの背比べ」に見えてしまいます。実際は、「仕事は分かりませんが、やる気はあります、教えてくださ い!」と目を輝かせている方が、これから仕事を教える先輩からすれば、はるかに可愛らしく映ってしまうものなのです。些細なことですが、この程度でチャン スを逃す学生もいれば、謙虚さがモノをいって無事に就職できる学生もいるのが現状です。
つまり、これぐらい学生さんの認識と、企業から求められるものとは開きがあるということなんです。問題なのは、こうした慣習だとか、業界の中で日夜 起きていることのほとんどが、まったく外部には出ない、それほど閉鎖的な業界だという点です。これにははっきりいって、描く企業の努力不足の面もありま す。
またアニメもゲームも仕事の分業化がキッチリ進んでいて、「ここまでは自分の仕事、ここからは続く誰々の仕事」というのがハッキリしています。つま り、ザックリと「アニメ、ゲームの仕事」といっても、パーとパートでは仕事の内容はまったく違うため「これこれこういう仕事だよ」と簡単にいうのが難しい というのもあるでしょう。仕事の全容を把握している人は管理する一部の人だけなのかもしれません。
また、彼らが作っているのは「作品」だということも要因でしょう。可愛らしい美少女が活躍するアニメ作品を、大柄な男が汗をかきかき作っているとしたら、それはファンにとってはあまり知りたくはない情報でしょう。だから仕掛ける側もあえて知らせるようなことはしません。
こうしたもろもろの事情が重なって、とかく世の中は情報不足になっているものなのです。
そのため、実際の就職状況はといえば、ほとんど事前情報もない、でもアニメ・ゲーム業界で働きたい!そういう情熱を持った学生さんが、次々に丸腰で 特攻するように試験を受けに来て、本人もなぜかはわからないまま、ほとんどが落とされ、何人かは突破している。そういう現状です。
では、アピールが上手くできず、就職試験に落ちてしまった学生さんは、イコール能力がないのでしょうか。そうとは限りません。
相手が何を求めているのかわからないから、採用担当者からすれば面白くないダメな自己アピールをしてしまった、本当は能力もあり、大勢を感動させる作品を作れる可能性だってあったのに……。
逆にダメもとで並べ立てた言葉が、たまたま採用担当者の心の琴線に触れ、なんとなく就職できてしまった。
でも実際はそれほど向いていたわけでもなく、入ってすぐに辞めていってしまった、あるいは会社のお荷物になってしまう……。
企業にとっても有能な人材を逃し、あるいはせっかく時間やお金をかけて採用した人に去られてしまう。それは大変な損失ですし、なによりそんな採用活 動に振り回されて貴重な時間を浪費してしまう学生のみなさんが気の毒です。そんな不幸なミスマッチが実はアニメ・ゲーム業界のそこかしこに存在し、毎年繰 り返されています。
私はこうしたミスマッチはひとつでも無くしたいと思っています。
極端な話ですが、この本を読んでいただいた学生さんの中でも「じゃあ自分は向いてないから、アニメ/ゲーム業界への就職はやめよう」と、思い至る人が出てもいいと思っています。
貴重な時間を浪費し、後戻りできない状況に公開するくらいなら、この本は決して無駄なものではないはずです。
ただ、せっかく数ある業界の中から、アニメ・ゲーム業界を見初めてくれたんですから、その実態を知ってもらったうえで、数あるパートの中から自分に向いているパートはコレだ!そのために学生の間にできることはあるのか?といった積極的な就職活動に役立ててもらいたいです。
この本には、そのための情報を網羅してあるはずです。
清水有高 (ビ・ハイア株式会社 代表取締役)