【SPA!今週の1本】野球賭博でこの夏、相撲は消滅するのかもしれない…

★Kohtari’s News Column これは事件だ

2010.07.05


6月16日、佐渡ヶ獄部屋(小写真)のすぐ近くにある大関琴光喜の自宅は多くの報道陣に囲まれていた。この日は、大獄親方(元関脇貴闘力)も野球賭博の疑いが高まり、警視庁の事情聴取を受けていたことが後日明らかに【拡大】

 ■夜討ち朝寝のリポーター 神足裕司のニュースコラム「角界揺るがす野球賭博」

 5月19日、『週刊新潮』が、野球賭博に手を染めた琴光喜が暴力団関係者から口止め料を要求されていると報道し、警視庁が調査を開始。6月11日には日本相撲協会が全親方と全力士を対象にした講習会で、「賭博への関与を名乗り出れば厳重注意で済ませる」という訓示を出した結果、65人もの力士が違法賭博に手を染めていたことが明らかに。

【野球賭博で、この夏、相撲は消滅するのかもしれない…】

 相撲界で野球賭博と報道されたところで、またかと思うだけだ。

 新弟子リンチ死事件に八百長疑惑、大麻事件に朝青龍引退。そして「砂かぶり」と呼ばれる「維持員席」へ座った暴力団。次から次の不祥事に取り合うのもバカバカしい。しかし、今、連日TV・新聞が大騒ぎしているのは、今回の事件が大相撲消滅に繋がりかねない“本命”だからだ。

 大関琴光喜(34)と野球賭博の関係を暴いたのは5月27日号の『週刊新潮』だった。「大関琴光喜が口止め料1億円と脅された」。

 記事のあらましは、こうだ。

 長く暴力団と繋がりのある元力士を通じ違法な野球賭博にのめり込んだ琴光喜は、数千万円も負けてきた。しかし、勝ち金数百万円の支払いが滞ったため仲介役に催促して話がこじれ、九州の暴力団員から「野球賭博をバラす、1億円払え」と脅されることに。

 記事は「現役の力士、それも大関が違法賭博に手を染め続けてきたことだけでも一大不祥事。が、本当の問題はここからだ」と、恐喝事件のほうに重きを置いている。

 確かに、賭博罪より恐喝罪のほうが罰則は重い。しかし、その後事件の展開が示したように、あるいは相撲協会が例によって最低の対応をしてしまったために、事は単なる不祥事を超え、大相撲存亡の危機に発展してしまった。

 まず、『週刊新潮』発売から2日後、警視庁が琴光喜を事情聴取した。当初は場所開催中に、何もそこまで、と同情する声もあった。

 しかし、1992年に施行された暴対法以来、警察の暴力団排除への思いは強い。みかじめ料、高利貸、またその取り立てなど多くのシノギを潰された暴力団が、07年、長崎市長射殺事件という行政対象暴力を起こしてからはなおさらだ。

 相撲界の甘い体質というが、甘さが引き立つ背景には、暴力に厳しくなった日本の社会変化がある。

 琴光喜はウソつきと糾弾された。6月14日、それまで否定してきた野球賭博への関与を認めたからだ。口止め料300万円を払い、1億円を要求されたのも事実と明かす上申書を提出した。

 しかしまた、協会もウソつきとなじられた。琴光喜が白状したのは、協会が「賭博経験を自ら申し出た者には、処分を厳重注意にとどめる」と甘言を弄したからだ。

 力士ら全協会員を対象にしたこの調査に65人が「やった」と答えた。内訳は野球賭博に関与したのが29人。花札、麻雀、賭けゴルフなどが36人だが、65人は多い。

 翌15日、両国国技館における緊急理事会で武蔵川理事長は「膿は全部出し切って、暴力団との付き合いは一切しない、させない」と言い、幹部とともに頭を下げた。どうやら本気で角界浄化に取り組もうとしたようだ。

 それで済むと本気で思ったのだろうか?

 軽い罰で釣って、賭博を白状させたやり方そのものも問われた。

 調査は警察の提案と言われているが、そのやり方は川端達夫文科相がやんわり言う「統治能力」の域を超えた。警視庁へ調査結果を渡した以上、それは犯罪捜査の証拠になるからだ。

【善意のタニマチだけを頼りにできるのか?】

 私は、相撲界に今でも同情的だ。彼らはあまりにも無知だ。千葉県松戸市へ琴光喜が所属する佐渡ヶ獄部屋と琴光喜本人の自宅を訪ねて、さらに同情は深まった。

 琴光喜は日大相撲部出身。1999年3月の初土俵から負け知らずで翌年入幕した。外国勢ばかりが活躍するなか、日本人力士として大いに期待されたが、不運な怪我があり大関昇進は07年。

 大関となれば、月額給与は235万円になる。それなのに、報道陣が取り囲むのは小さなアパート。不動産会社のHPによれば、同じ棟の空き部屋は2LDKで家賃7.5万円。つらい修行に耐え、上位ひと握りの地位まで上り詰め結婚しても、これでは大学生の下宿ではないか。

 野球賭博という亡霊にも耳を疑った。それが話題になったのは69年から71年にかけ、多くの野球選手が永久追放他厳重処分を受けた「黒い霧事件」以来だったからだ。

 まだやっていたのか、と呆れる一方、何が面白いのかと疑問にも思う。だが、暴力団担当記者は「携帯電話ほか情報手段が発達したせいで、実は野球賭博は大きくなっているのです」と言う。

 そして「マズイのは、賭けそのものより、負けを逆手にとって、暴力団が角界に食い込むこと」(暴力団担当記者)となる。

 黒い霧事件の後も、元ジャイアンツ桑田投手に暴力団との交際が発覚した。「暴力団は中学生から有望選手に目を付ける」と記者は言う。貧しい選手にご飯を食べさせ、時がくれば高価な腕時計を与える。

 長い付き合いなら、断れない。琴光喜も、関わりは床山(力士の髷を結い上げる者)だというから、角界の体質ではないか。

 大相撲は文科省に認定される公益法人ではある。だが、税制優遇を受けたからといって、それが若い力士の養成には回っていない。弟子養成はタニマチ、後援会に頼る。先に問題になった維持員席も、曖昧な寄付金制度の一端だ。

 スポーツはカネになる。スペインFCバルセロナが成長ホルモン異常だったサッカー選手、アルゼンチンのメッシに治療費を払ったのも先々の利益を見込んでのこと。

 ところが、日本のスポーツ界を支えているのは、興行で繋がりを持った暴力団ではないのか。

 武蔵川理事長は「暴力団との付き合いを一切しない」と宣言した。それなら、これからは見返りを期待しない善意のタニマチだけを頼りにやっていくのだろうか。

 野球賭博は今や年間300億円市場との報道もある。それなら、暴力団はますますスポーツ界に食い込もうと必死になるだろう。

 琴光喜はとりあえず夏場所出場停止と謹慎が決まった。だが、警察は角界の都合など考えず、徹底捜査する。関与が発覚すれば、夏場所の幕内取組が半分、ゼロになるかと心配されている。この夏、相撲が消えるかもしれないのだ。

 自宅前でメディアの追及に応える琴光喜の顔は笑っていた。自分の悪さの意味さえわからない中学生のように。子供には保護者が必要だ。同じく保護が必要な親方衆に、その役割は果たせない。

撮影/石川徹

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