きょうの社説 2010年7月5日

◎理科離れ対策 「ものづくり石川」の支え役に
 石川県教委は実験授業の充実を図る「中学生サイエンス教室」のモデル校10校を選定 した。子どもの理科離れ対策の一環で、県内ではこのほかに津幡町と石川高専、金沢工大と県金沢港大野からくり記念館がそれぞれ連携して科学の面白さを伝える事業に乗り出す。

 コマツは小松工場の跡地に理科実験やものづくりの学習スペースを設けるなど、新たな 理科教育の取り組みが広がっているのは、「ものづくり石川」の人材を育成するうえで心強い。産学官が手を携えて、子どもたちが自ら学ぶきっかけを多く作ってもらいたい。

 2008年に公表された国際調査で、「理科が楽しい」と回答した日本の中学生の割合 は国際平均を下回った。このような理科離れに歯止めをかける試みが各地の学校現場で行われており、今回の県教委の「中学生サイエンス教室」は大学教員や企業の技術者、高校教員を各校に派遣し、「極低温」や「超電導」などを体感できる実験を行う。

 実験による驚きや感動は、科学的な事柄に関心を持ち、理科が好きになる契機となる。 生徒を引き付ける工夫に加えて、講師役の大学や企業の専門家は手掛けてきた研究や仕事の話を分かりやすく伝えてほしい。実験がより興味深いものになり、多感な子どもたちの能力を引き出すことになろう。

 理科離れ対策として高等教育機関と地域との連携もみられる。津幡町と石川高専は「科 学のまちづくり」へ各種の事業化を検討し、金沢工大と大野からくり記念館は、訪れた子供たちが科学の楽しさを体験できる事業を展開する。地域の教育資源を理科教育に生かす可能性を各地で探ってもらいたい。

 これまでも県内企業で工場見学などの体験学習が行われてきたが、理科教育の停滞は、 科学技術を担う人材育成を含めて産業界に大きな影響を及ぼすことになる。コマツが体験学習施設を設けるように、「企業市民」として企業による理科教育への支援強化を期待したい。現場の教師は科学の面白さを伝える技術を各分野の専門家からも吸収して、授業のレベルアップにつなげてほしい。

◎年金改革基本原則 数字抜きでは物足りない
 政府の「新年金制度に関する検討会」がまとめた年金改革の七つの基本原則は、民主党 がマニフェストでうたった数字も財源も明記されず、踏み込み不足といわざるを得ない。与野党が歩み寄るために間口を広くするためとはいえ、年金制度改革の背骨となる財源や最低保障年金の具体的な数字抜きでは、まともな論議はできないだろう。

 超党派の年金協議を呼びかけることで、野党からの批判をかわす手法は、消費税引き上 げの「抱き付き戦術」と同じである。新たな年金制度をつくるには、与野党が歩み寄り、腹を割って話す必要があるのは当然だが、自分たちの主張をあいまいにしたまま、有利な方向へ持ち込みたいという狙いが露骨過ぎて、思惑通りにはいかないのではないか。検討会が現行制度について「存続させることは困難」というのであれば、これなら「存続は可能」と言える案を示さなければ、国民的な議論に発展させていくのは難しい。

 民主党は先の衆院選のマニフェストで、月額7万円の最低保障年金を明記した。しかし 、菅直人首相が議長を務める検討会は、最低保障年金の明示を避け、財源についても「将来にわたり安定的な財源を確保する」とのあいまいな表現にとどめている。

 菅首相は、「強い社会保障」を打ち出す一方、消費税引き上げにも前向きである。そう であるならこれまでの主張通り、「消費税を財源」とし、月額7万円の最低保障年金を明記するのが筋である。肝心の部分をぼかしてしまうと、消費税をめぐる菅首相の発言のように、年金改革でもぶれ始めているのか、と言われるだろう。

 国家戦略室長の平岡秀夫内閣府副大臣は、具体論に踏み込まなかった理由について、「 野党に協議の場についてもらうことを最優先に考え、基本原則のハードルは低くした」と説明した。だが、論点をあいまいにしておけば、野党が乗ってくるというものでもあるまい。政府・与党としての責任を果たすために、まずマニフェストに沿った政府案を提示し、実現までの道筋を示すべきだ。