きょうのコラム「時鐘」 2010年7月5日

 全国各地で野生動物による文化財への被害が報告されている。京都の二条城の国宝の柱に爪痕(つめあと)を残し、奈良の寺では仏像を傷つけた。獣害防止は文化財保護の新しいテーマである

金沢と高岡市が歩調を合わせる国史跡の前田家墓所の整備でも、野田山の藩主墳墓にアナグマの巣穴があることが先日、報告された。建造物以上に、自然の中の墳墓は動物たちの標的になりやすいのだろう

「啄木鳥(きつつき)も庵(いおり)は破らず夏木立」。芭蕉の句である。キツツキは別名テラタタキとも言い、昔から寺院の柱や壁に穴を開ける鳥として知られた。実際、羽咋の妙成寺五重塔の最上階の壁板にも、キツツキが開けた穴の被害がある

芭蕉の句のような風流なキツツキは現実にはいないのである。動物はかわいい顔をしていても時には破壊者となる。保護の対象であっても、駆除する必要があるのは、クマやカモシカの出現騒ぎで見た通りである

もっとも、人間ほど自然破壊をしている動物はいないとの声もあるから、アナグマやキツツキを責めるのもかわいそうな気がしないでもない。動物愛護と文化財保護の共生は難しい。