威風堂々


昨日よりベスト4を賭けた戦いの幕が切って落とされ、いずれも接戦の末にオランダとウルグアイが準決勝に駒を進めました。

ブラジルの敗退は予想外でしたし、前半を見る限りオランダにとって状況は相当に厳しかったはずなのですが、フットボールはわかりません。後半8分にブラジルの主将フェリペ・メロと守護神ジュリオ・セザールの連携ミスから献上した自殺点を境に流れがオランダに傾き、23分にはスナイデルの驚異的な反射神経がもたらしたオランダの勝ち越しゴールが決まります。

伝統的に高い個人技に裏打ちされた攻撃力を誇るブラジルに、ドゥンガ監督が規律と秩序を植え付け、手堅く隙のないカナリア軍団へと変貌を遂げたはずなのですが、不測の事態に対応するマニュアルに不備があったとしか言いようのない状況が重なります。自殺点を献上してしまったことへの自責の念も手伝ってか、逆転されて間もなく今度はそのフェリペ・メロがロッベンを故意に踏みつけて一発退場。イライラを爆発させた格好で自らを窮地に追い込んでしまいました。前半には先制点をお膳立てする素晴らしい縦パスを披露していただけに、正に天国から地獄の心境だったことでしょう。

それでもブラジルは終盤に数的不利をものともせず果敢に攻め込むましたが、結局はオランダにいなされて万事休す。前回大会に引き続き、ブラジルはベスト8で姿を消すことになりました。

ところで日本のグルーリーグ敗退とともに、ブラジルの優勝を予想していた私にとっては外れ続きでショックといいたいところですが、そんな個人的なことよりもこの試合でレフェリーを務めた西村さんのジャッジングに大いに感心した次第です。

この2チームによる対決は、組み合わせが決まった直後から両国記者による舌戦が繰り広げられ、正に欧州対南米因縁対決の火の粉がメディアにも飛び散った格好となり、無論試合中も終始ピリピリとした緊張感がいました。そしてピッチのそこかしこでは小さな衝突が繰り広げられ、一触即発の状態であったといっても過言ではありません。また、準々決勝ともなると全ての面に於いてプレーの質とスピードが増す為にオフサイドの判定や瞬時の判断を誤りやすくなり、審判団の緊張たるや想像を絶するものがあります。

しかし、西村さんはそんな状況下で正確を期すことは勿論、早め早めにトラブルの種を摘むジャッジングを心掛け、見事に試合をコントロールされたました。フットボール超大国と先進国である両チームの対戦で、途上国の主審が笛を吹くという構図ではありましたが、そのようなハンディを微塵も感じさせない素晴らしいレフェリーングだと感じたのは私だけではなかったはずです。

ジャッジングに異を唱える選手達に対してはしっかりと相手の目を見つめて諌められ、余裕を持った対応をされており、その姿は上背のある凛々しい顔立ちというアドヴァンテージも手伝って、威風堂々という言葉がピッタリでした。特にフェリペ・メロ選手がロッベン選手をドサクサに紛れて踏みつけたシーンでは、3秒と経たないうちに迷わずレッドカードをかざしながら当事者同士の間に割って入り、混乱を収束させたのはお見事の一言でした。

こうした近年のW杯に於ける日本人審判の活躍は、前回大会の3位決定戦で笛を吹かれた上川さんにも共通することですが、誤審の少なさは当然のこと、試合の流れを極力止めない、試合を荒れさせないジャッジがきちっと出来ていました。副審も含めた日本人審判の質が大会ごとに確実に向上していることは間違いないと言えるでしょう。

思えばJリーグ開幕当初は、審判団の誤審に呆れて物も言えない試合が多発していましたが、恐らくは弛まぬ努力と研鑽を日々重ねられたのでしょう。重箱の隅を突く神経質な笛から、正確かつ事前に悪い芽を摘む笛へと、彼等のレベルは着実に世界基準に近づきつつあるのだと思います。

肝心の日本代表チームはというと、4年ごとに戦い方が違って進歩の度合いが測りにくい状況にあり、ここは是非とも日本の審判団を見習っていただきたいものです。

昨日無事に大役を果たされた西村雄一主審以下、相樂亨さん、チョン・へサン(韓国)さんというアジアの審判団に、今大会決勝でジャッジを任される可能性も出てきたと私は考えますが、これでクライマックスに向けての楽しみがまた一つ増えたのは喜ばしい限りです。予断ながら、本日行われるドイツ対アルゼンチン戦は昨日のオランダ対ブラジル戦以上に難しいレフェリーングを強いられることは必定で、西村さんのそれと見比べながら観戦するのも乙なものかと存じます。

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登録日:2010年 07月 03日 09:58:48

コメント

小谷泰介さん、はじめまして。
どうぞ、「踏み絵」を踏んでから、お話ください。↓

若者にデマを広めないために
http://midoriitos.blog133.fc2.com/blog-entry-62.html

ウソに「ウソだ」「ウソを無くそう」と言えない人など、反社会的な人は、
公開での発言をご遠慮ください。

若者にデマを広めないために、
ご協力お願いします。
http://www.actiblog.com/kotani/155081

Eriko @ 2010年 07月 04日 03:10:31

小谷様
サッカー批評は難しいですね。協会関係者からは元選手でないと素人が何を言うかと思われるでしょうし。ライターとしてのサッカー界のためでなく存在価値を高めるための批評ともとられかねませんし。ライター諸子は理想を語り、現場は現実的なのかなと思います。有名なサッカー実況の方のブログを拝見すると仕方ないとう内容でしたが。、岡田サンの場合は、2年半、年棒一億でどうなのかな、一夜漬けのようなサッカースタイルで多くの無名のアマ指導者や私のような単なるサッカー歴ありのファンが指揮するならともかく、同じ期間、年棒を元広島のバクスター氏等に任せててたら、一貫したスタイルで結果どうかわかりませんが、フル代表の監督で突然のスタイル変更を稀有なことだ思います。現在、小谷さんのように岡田サン厳しい批評をされて方には、世論は逆風のようです。しかし、アマの人でも、協会に登録料等を納めている方多いはずです。なおさらフル代表のサッカーは、結果と自国のスタイルの方向性を示すものだと思います。ファンを納得させるサッカーを指揮出来る人を選ぶべきだと感じますし、小谷さんもそういう視点で岡田さんや川渕さんを批評されていたように思います。私は協会に金がないならあきらめすが、年間200億の予算があるのですから。適任者を選らんでほしいものです。サッカー後進国の米国でさえ同じ監督でスタイルを探求しています。

サッカーのある生活 @ 2010年 07月 04日 22:48:39

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プロフィール
小谷泰介
1955年、タイ王国バンコク市生まれのフットボールジャーナリスト。

四半世紀に及ぶ取材経験を生かしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説は、ラジオやテレビで人気を博した。
また、本場欧州にプロクラブの監督や選手の友人が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
チーム強化に重点を置いたクラブ運営に関する講演も好評。

著書に「拝啓 川淵三郎殿」(モダン出版)や「Jリーグ入門」[講談社)などがある。
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