日本のフットボールの未来の為に、今私が書くべきこと⑥
《皆さんのコメントにお応えして ①アニヤンさん編》
(※この文章をお読みになる前に、前々回のブログ(日本のフットボールの未来の為に、今私が書くべき事⑤)とそれに対して寄せられたコメントをお読みいただければ幸いです。)
アニヤンさん
「何故何時までたってもメキシコはW杯で16強止まりなのでしょうか?」という質問ですが、それはメキシコという国のフットボールの総合力(football powerと私は呼んでいます)がそこまでしかないからとしか言いようがありません。杉山茂樹氏の「サッカー偏差値」という著書がありますが、彼の言葉を借りれば、偏差値がそのレベルだからということになるでしょうか。
つまり、メキシコの経済力、人口、民族性等々、全てに於いて彼らのfootball powerの限界が今のところはベスト8、或いはベスト4止まりなのです。メキシコの人口は1億人を超えていて世界の第11位につけていますし、GDPも一人当たり14,560ドル(2008年)で第13位と、フィジカル面ではW杯優勝を目指すには充分な規模にあるかと存じます。
しかし、国民の特性、特に総合的な知力、学力、勤勉性、持続性、忍耐力(それらは、民族の歴史や高地であるといった地理的要素、そして気候と密接な関係があります)といったメンタル面、そして列強の集まる欧州から離れているというハンディ等が加味されて、なかなか優勝に手が届かないというのが現状かと存じます。
だからといって、私はメキシコが永遠に優勝出来ないとは決して思いません。偏差値がその人や学校の努力と工夫によって上がっていくように、football powerも上げることが出来、メキシコなら決して不可能ではないと考えます。昨日も優勝経験があり、欧州王者に2度輝いている強豪フランスに快勝したように、条件が揃えば結果が出せるのです(もっともドメニク監督率いる今のフランスに勝っても高い評価は得られないのが現実かも知れませんが・・・)。
もうひとつの例として、何故フットボールの母国イングランドが、1966年の母国開催以来、半世紀近くも優勝できないのかということですが、それはイングランドには厳然と階級社会があって、フットボール選手達が労働者階級の出身者あること、またその労働者階級出身の選手達とアルコール摂取癖というマイナスのメンタル要因が足を引っ張っていると私は分析しています。
本当に彼等の飲酒量は半端ではなく、特にビールに関しては水代わりといっても良いくらい飲みますから、これは生活習慣上の問題と言えるでしょう。そして日頃のアルコール摂取量が多いと、いざという時の集中力に影響を及ぼし、勝ちきれないのです。イングランド代表がPK戦に弱いのは正にそのためだと私は確信していますし、逆の例としては、アーセナルが強くなった要因のひとつにベンゲル監督がその問題にメスを入れたことが挙げられるかと存じます。
ジョージ・ベスト(北アイルランド出身ではありますが)、ポール・ガスコイン、トニー・アダムスといった稀有の才能を持った選手達や、ブライアン・クラフのように優秀な監督がアルコールに溺れるなど、他の国では見られない異常な現象が厳然と起こっていることを、もし私がFAの会長であれば憂い、改革するでしょう。
その他の例ですが、ラテン諸国であれば、メンタル面でその民族の特性がプラスにもマイナスにも働くと私は考えます。ラテン民族の特性を情熱と捕らえればプラスに働くでしょうし、カッとなりやすい短気な部分は明らかにマイナスといった具合です。
又、お隣の中国の場合は、12億の人口に今後は日本を追い抜き、アメリカに迫ろうかという経済力をもった超大国でありながら、一党独裁がもたらす様々な弊害と汚職の蔓延という現状が、中国のfootball powerの成長を遅らせてきました。この中国こそ正しいスイッチを押しさえすれば、20年後のW杯優勝が可能なポテンシャルを秘めた国であり、その暁には、アジアで断トツのfootball powerを誇る国となることでしょう。
翻って、日本のfootball powerの話しを致しましょう。フィジカルな国力は、文句の付けようがありません。世界に冠たる経済力も1億2千万の人口も、ワールドカップ優勝の素地としては十分といえるでしょう。但し、不幸にもフットボールの歴史と伝統面でのマイナスが大きく、民族的に戦後は特に文化、精神面よりビジネス(お金)を尊ぶ国民性が大きな妨げとなっています。また、日米安保条約という異常な平和維持システムの下で蔓延してしまった平和ボケという現象も大きなマイナス要因です。更に寄らば大樹の陰といったサリーマン体質は協会の組織運営に明らかにマイナスです。この体質は、マスコミにも大きな悪影響を及ぼし、マスコミの低レベルが日本のfootball powerの成長の妨げになっていることは間違いありません。
しかし、54年も生きて、長年にわたって激動の日本のフットボール会の中に身を置いていると、そういった日本の持つマイナス面は必ず克服できると思う次第です。考えてみても下さい。私が学生の頃は、日本代表戦ですら国立競技場に閑古鳥が鳴くこと数多、また韓国戦は完敗のオンパレード、そしてアジアのタイトルさえ無縁な時代ですから、当時は自分が生きているうちに日本がまさかW杯に出場するなどとは思ってもいませんでした。それが、どうでしょう!1998年に初出場果たして以降、4回連続W杯出場を達成し、2002年には共催とはいえ、日本でW杯が開催されたのです。これは十代であった頃の自分からすれば、夢のまた夢の出来事でした。要はJリーグ設立を前後に日本がfootball power を急速に高めた末の劇的変化だったわけですが、その様を具に観察したり、ある時は当事者として関わったりして、スイッチをタイミング良く押しさえすれば物事は劇的に変化することを私は身をもって学んだのです。
飛躍的に成長し、今はW杯の常連国になったとはいえ、優勝は100年早いと仰るアニヤンさんの気持ちは分からないでもないですが、例えば韓国のスピードスケート陣の活躍や日本のフィギュア・スケート陣の躍進を30年前に予想できた人はいたでしょうか。当時日本の第一人者であった渡辺絵美選手や佐野稔選手を見て、日本人がこの舞台で優勝する日が来ることなど想像すら致しませんでした(草々期の功労者であるご両人、ごめんなさい!)。また、あの伊藤みどり選手が出現した時でさえ、欧米人と比較して手足の短いという日本人のハンディを痛感させられ、今日の隆盛は想像出来ませんでした(伊藤みどりさん、これまたごめんなさい!でも私はあなたの大ファンでした)。
要は、繰り返しになりますが、正しいスイッチを正しいタイミングで押すことが大事なのです。ブータンやリヒテンシュタインといった規模の国では無理ですが、日本というしっかりとしたフィジカル面での国力があれば、W杯優勝は最短で20年以内に可能だと私は思います。100年かかると思ったら、その時は永遠にやってこないでしょう。後10年、20年で達成するんだという揺るがぬ決意が、その時を引き寄せるのです。
それにはこことここのスイッチをこのタイミングで押せば良いという経験と知識、そして確信が必要なのですが、それらの作業とは監督選びのことであり、それを取り巻くサポート体制とその人選のことを指します。又、その作業に継続性を持たせることも欠かせません。そして勤勉性、忍耐力、従属性や協調性や和を尊ぶ心、また手先、足先が器用といった日本人の特性を生かしきることも不可欠です。
現在の日本代表チームは、4年前にドサクサにまぎれて押したスイッチがたまたま正しかったのに、その部分の電気系統に深刻な故障が生じるや、再び間違ったスイッチを押してしまった結果の迷走だと分析しています。この電気系統はしょっちゅう故障してしまう不良品で、応急処置を繰り返しているうちに現在の配線となりましたが、それこそ棚から牡丹餅的に何とか機能しているのが現状です。間もなくオランダ戦が始まり、私の述べていることの正邪がかなり明確になってくると思いますが、次回は我々が押すべきスイッチ、つまり監督選びについてじっくり触れて参りたいと存じます。そして何故私がオシム以下、旧ユーゴ系の優秀な監督を推薦するのかをアニヤンにも是非納得していただければ幸いに存じます。
コメント[4], トラックバック[0]
登録日:2010年 06月 19日 17:53:07
コメント
小谷さん、ご回答ありがとうございます。
メキシコは国民の特性、特に総合的な知力、学力、勤勉性、持続性、忍耐力といったメンタル面に問題ありとするご意見は理解出来ます。
それに対して日本はその面で問題ないから世界の強豪になり得るということでしょうか?
ボクは日本は100年後ならいざ知らず、10年後の近未来に関してはどんなに良い監督が来ても精々ベスト8がいい所だと思います。
なぜなら勤勉であるという国民性が妨げになると考えるからです。
我々はリーダーの命令には忠実に実行します。しかし、リーダーの命令に背いてでも事を行うということをしません。つまり独創性や独自性がないのです。ブラジルやアルゼンチンといった国民にはそれがあります。つまり彼らは日本人より不真面目です。それがサッカーではうまく行っているような気がしてなりません。
誰が言ったか忘れましたが、確かブラジル人だったと思いますが、「日本人が信号が赤で渡らないうちはサッカーは強くならない。」と言ったことが強く印象に残ってます。
だからメキシコはなぜいつもベスト16止まりなのか不思議に思ってたのです。
翻って日本代表の向うべき方向性は、小谷さんとは真っ向から意見が対立するでしょうが、先日のオランダ戦が提示していると思います。
つまり、強豪と対する時はしっかりと守ってカウンターで勝負することです。
陸上競技で言えば日本は短距離ではいつまで経ってもアメリカ辺りの黒人には適わないでしょう。でもマラソンのような長距離だったら日の丸を挙げることは可能です。このように日本代表が進むべき道は瞬発力ではなく忍耐力をもっとつけるということです。
彼らはオランダ戦はほぼパーフェクトに守ってましたが、スナイデルのシュートをほぼ体の真正面で受けながら後ろにそらすようなことをしてはいけません。(イングランドのGKよりはましですが)
それと岡崎のあのシュート、トーレスやドログバといった超一流だったら決めてたと言ったら彼に対して酷でしょうか?
日本には一流のキーパーとストライカーが望まれるところです。
仮に日本に超一流のストライカーが出現したらW杯ではベスト4まで行けるでしょう。でもストイコビッチがいたブルガリアのように一時的な現象に過ぎません。
だから日本代表が常にベスト8に行けるようになるには守備に磨きをかけるべきだと思います。日本は国民性からしてメキシコのようにはなれないと思います。
24日のデンマーク戦、日本がどういった戦い方をするのかボクは注目しております。デンマークが反対の立場だったら彼らは勝ちに行くことなどせずにハナから引き分け狙いで行くと思います。相手が各下であろうと。
そして彼らは思惑通り引き分けるはずです。日本にそれが出来るようになれば大したものだと思います。
アニヤン @ 2010年 06月 21日 12:08:30
アニヤンさん、
本論とは主旨が異なりますが、
少し外野から意見させてください。
まず、「赤信号」云々の話は私の記憶ではトルシエが言った言葉だと思います。
要は「どんなに安全とわかっていても絶対にルールを破らない」という特性。
アニヤンさんもそうだったのでしょうが、私もこの指摘には
ガツンとハンマーで殴られたようなインパクトを受けました。
本当にこの言葉は的確に日本人のサッカーにおける負の特性を表現していると思います。ちなみに日常生活の中でこの意見を周囲に主張するとやはり白い目で見られてしまいます・・・
また、上位進出に必要不可欠な存在であろう世界的ストライカーの存在。
これはベスト16常連で堅守速攻が伝統的代名詞のパラグアイチーム監督が
「今回のチームがこれまでと違うのは非常に優秀なストライカーが2人もいることだ、だからわれわれは上位進出を目指している」という主旨のコメントを出してることがわかりやすいと思います。
基本的に(例外はいますが)世界的なストライカーというのはえてして人格、行動に問題がある事が多いですよね。
こういった性格、存在については
日本社会では残念ながらつぶされる傾向にあるのかと。
それらに目をつぶって、圧倒的に点を取るという特異な才能を
尊重するという事をチームが、あるいは日本社会全体が許す事が出来るのか?
仮に、いわゆるビッグマウスだが今のところはチヤホヤされている本田選手が
今後戦犯級の失態、あるいは問題発言を繰り返した場合に、以前のホリエモン事件のような社会規模の「イジメ」にあい、意図的につぶされるのではないか?
と思うのは私だけではないはずです。
世界的ストライカーが存在しないチームが優勝争いを演じる事は不可能、
また、日本には突然変異的には生まれる可能性があっても常時輩出はむずかしいと思えることからも、私も好チームにはなりえても
20年レベルでの実力ベスト8入りは難しいのではと思ってしまいます。
もちろん、小谷さんのおっしゃるように国力、経済力がかなり大きなアドバンテージであることも十分理解はできるんですけどね。
そしてそうなって欲しいとも強く願いたいところではあるのですが・・・。
それから、岡崎選手の外したシーンに関しては全く同感ですが、
失点シーンの川島選手に関しては、私も学生時代GKを経験した人間として、弁明させてください。
「確実にボールがぶれています」
よく、FK等でシュートが壁に当たってコースが変わる事がありますよね。その場合と同じように完全に逆をつかれたキーパーの動きでした。
動いたのは実際には10cm程度なのかもしれませんが、
あのような速いシュートが手元で10cmもぶれたら
ああなってしまうのは、全く川島選手を責められるものではないと思います。
最後に、引き分けを狙って出来るかどうかってのは
確かに楽しみです。
岡田監督はオランダ戦の前には
「引き分け狙いは出来ない」ってはっきり断言していましたが、
どうなることやら。
クライフターン @ 2010年 06月 21日 14:56:56
すいません。私もちょい横槍を。オランダ戦の失点シーン。あれはどうみても中盤の選手のミスが最初に語られるべきだと思います。
失点の数秒前、相手が外でボールを持ったとき、中盤の選手はDFラインのゾーンをケアに集中が行っていました。こぼれ球の処理をケアしたり、相手FWに入ったら挟んで取ることを意識したポジショニングです。同時に外から入ってくるクロスにボールウォッチャーとなり、シュナイデルへボールがこぼれたら誰が行くのか?ということが曖昧になったことです。実際シュナイデルにボールが落ちて寄せに行ったのは中澤です。中澤は自分のマーク(ファンペルシ)を捨ててまで寄せに行ったのです。
シュナイデルに一番近い位置にいたのは阿部です。私なら阿部を責めます。阿部がボールウォッチャーになりDFラインに吸収されそうになっているのなら、阿部より左にいてシュナイデルの位置を気にするべき遠藤が声をかけて、阿部にシュナイデルを意識させることが必要だったでしょう。
たまたまシュートがGKの近くにきただけ。良いコースに飛んでたらノーチャンスって話ですよ。日本のやろうとしていたディフェンスはああいうときに相手に前を向かせて、良いからだの向きでシュートを打たせないことです。あれをさせた時点でもう終わりなのです。正直レキップが川島のミスって書いてるみたいだけど、話にならんなって感じです。あんだけ失点シーンで日本の中盤の選手がだぶついてるんだから、どうみたってマークしてないことに問題ありでしょ。
k @ 2010年 06月 21日 16:47:08
まず、訂正から。ブルガリアのストイコビッチではなくストイチコフでした。失礼しました。
それとkさんのDFを責めるべきとのコメント。慧眼に脱帽です。
しかし、いくらしっかり守ってもシュートは打たれるものです。
GKが正面近くでボールを受けて、後ろに逸らすのを見たら悔やまれるものです。素人のボクには。
で、本題の日本の進むべき方向ですが、やはり日本は「守備ありき」から入るべきだと思います。
なぜかと言うと、守備というのは「相手がこう来ればこうする」とか「こう攻めて来たらこう対処する」とかいった決まりごとがあります。
そういう決まりごとを忠実に実行できるのが日本人です。
それに対して攻撃はそんな決まりごとがありません。あったとしても最後は選手の判断力とセンスと持って生まれた才能がものを言います。
クライフターンさんがおっしゃるように日本にはそういう才能を生かす土壌がありません。「出る杭は打たれる」のです。突然変異的に優秀なストライカーが輩出されることはあってもブルガリアみたいに一時的なもので終わってしまいます。
スペクタクルなサッカーが面白いと言われるのは分かります。極端な話をすれば「勝てばいい」というのがボクの意見です。
その勝つために日本代表の選ぶ道を述べた次第です。
アニヤン @ 2010年 06月 22日 07:16:42
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- プロフィール
- 小谷泰介
- 1955年、タイ王国バンコク市生まれのフットボールジャーナリスト。
四半世紀に及ぶ取材経験を生かしたジャーナリスティック、かつ辛口の解説は、ラジオやテレビで人気を博した。
また、本場欧州にプロクラブの監督や選手の友人が多く、クラブ経営にも造詣が深い。
チーム強化に重点を置いたクラブ運営に関する講演も好評。
著書に「拝啓 川淵三郎殿」(モダン出版)や「Jリーグ入門」[講談社)などがある。
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