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[19840] 【ネタ】フルメタル・シスターズ!【とある魔術・科学の〜】
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:f6242140
Date: 2010/06/28 21:37
※ 全編に渡って下品な言葉や表現が含まれます。ご注意ください。














「妹達の訓練、でありますか?」

「ああ、そうだ。現在00001号から9796号までが破壊。樹系図の設計者が算出した方法を疑うわけではないが、もう半数に達するというのに能力者には何の変化も見られない。付け焼き刃にしかならないだろうが、19998号から20000号までに訓練を課し、難度を上げることにした。少しでも能力者の力を引き出すために」

「確かに“私”たちは軍用クローンであり、成長の余地はありますがあまりにも時間的猶予が――」


少女が口を開くが、男は不愉快そうにそれを遮る。


「発言は許可していない。やれ、と言ったんだ。わかるな? 20000号」

「はい。直ちに訓練を開始します、とミサカは――」

「その口調は不愉快だと言ったはずだ」

「はい。申し訳ありません」


少女――妹達 20000号は気にした風もなく頷いた。





◆◆





「そういう事情により、私があなたたちの教官となったミサカ20000号であります」

「待ってください。ミサカたちに優劣はないのであなたである必要性がない、とミサカは不満を隠すことなく――」


と、19998号が口を開いた瞬間。
20000号の眼が怪しく光り、大きな声で信じられないことを口にした。


「口からクソを垂れる前と後にsirと言え! 分かったかウジ虫ども!」


少女の口から出たとは思えない言葉に、2人は困惑を隠せない・・・・・・明らかに間違った方向に突き進んでいる20000号であった。


「・・・・・・あなたは何を言っているのですか、とミサカは――」

「聞こえなかったのか雌豚! sirはどうした! 穴にぶち込まれるしか脳のない雌豚め!」

「・・・・・・sir,Yes,sir」


散々な言われように、不快そうな表情で19998号が小さく命令に従った。


「ふざけるな! 大声出せ!」

「・・・・・・sir,Yes,sir」

「妊娠でもしたか阿婆擦れ! 誰の子だ?」

「・・・・・・」

「答え無し? 魔法使いのババアか! 上出来だ、頭が死ぬほどファックするまでシゴいてやる! 間抜けなアヘ顔晒すまでシゴき倒す!」


鼻先がくっつきそうになる距離で言い捨て、20000号は19998号の隣、19999号の前に移動した。


「貴様の仕事はなんだ、雌豚、簡潔に答えろ」

「・・・・・・殺されることです、サー」

「自殺志願か」

「sir,Yes,sir」


隣でああも言われていれば、無駄口を叩く気もおきず、素直にsirを付け、答えた。


「自殺の顔をしろ」

「sir?」

「死ぬ時の顔だ! アーッ! こうだ、やってみろ!」

「・・・・・・あー」

「ふざけるな! それで死ねるか! 気合いを入れろ!」


ズイと顔が近付いてくる。唾でも掛かりそうな距離だ。

「あーっ」

「迫力なし。アヘ顔と一緒に練習していろ」

「・・・・・・sir,Yes,sir」




――これから2ヶ月近い訓練が19998号と19999号、そして20000号に課せられた。
だが訓練の終了後に彼女たちを待っていたのは実験の中止と治療のであった。
訓練のためにミサカネットワークからも切り離されていた彼女たちは永遠に訪れることのない実験のため、知らぬまま死に物狂いの訓練を続けていた。










「先生。お願いがあります」

「うん? ・・・・・・ああ、そうか、君は20000号だったね。どうかしたのかい?」

「妹達――その中でも19998号と19999号のことで、お願いが」

「とりあえず、聞こうか」




◆◆





「なるほどね。確かに君たち3人は少々特殊だ。だから外の研究施設で上手くやっていけるか不安だと」

「はい。私たちは初対面の相手への挨拶がファックだと思っていますし、口調もお姉様ほどではありませんが粗暴です」

(彼女以上だと思うけど)


初対面でファッキン・ゲコ太と挨拶されたのをカエル顔の医者は思い出した。

それ以外にも、彼女たちには他の妹達以上に常識等に欠落がある。


「ですから此処に彼女たち2人を置いていただきたく」

「ふむ・・・・・・」


などと考える素振りを見せるが、カエル顔の医者は元からそのつもりだった。
こんな彼女たちを外に出すのは、彼女たちにも周りの人間にも危険だ。


「構わないよ」

「! ありがとうございます。では早速彼女たちにも伝えてきます」

「ああ、気をつけてね」


気をつけてね。
妙な送り出しだとカエル顔の医者は笑った。





◆◆





「――!」


3人に与えられた病室の一部屋。
影に隠れながらドアを一気に開け、銃を室内に向けた。


「大人しくしろ! 妙な真似をすれば撃つ!」


――と、そこまで言って視界内に2人の姿がないことに気づく。


「まさか、罠――!」


慌てて周囲を確認するが、不信な点はない。


「――軍曹でしたか、とシスター02は肩の力を抜きます」


肩の力を抜くとは言うが、ベッドの下から現れたミサカには微塵の隙もない。


「相変わらず見事です、とシスター03は軍曹を尊敬の眼差しで見つめます」


同じように隣のベッドの下から現れたミサカが軍曹、20000号を賞賛した。



「喜べウジ虫ども、我々の戦場がこの学園都市に決まった。ロシアや韓国で任務に就いている妹達よりも辛い任務になるが、貴様らにはお似合いだ。どうだ、嬉しいか?」

「sir,Yes,sir!」
「sir,Yes,sir!」


腹から出される大きな声。
2ヶ月前などよりも明らかに軍人然としている。


「よろしい。1130よりブリーフィングを行う、遅れた者はカエルの子を孕め!」

「sir,Yes,sir!」
「sir,Yes,sir!」

「嬉しいか?」

「sir,No,sir!」
「sir,No,sir!」






軍用クローン、妹達。
たった3人の妹達が学園都市の影で暗躍する――!








「軍隊ごっこは他の患者の迷惑になるからやめろーって御坂妹!?」


不幸にもその妹達の部屋に踏み込んだ男。


ガチャッ×3


「待て待て待て! 銃を仕舞え銃を! ってどこを触ってるんですかミサカさん!」


シスター02が不幸な男のボディーチェックを行い、その結果を軍曹へと報告。


「軍曹、短小なマラ以外何もありません!」


女の子への幻想がぶち殺される一言だった。


「・・・・・・ふ、不幸だーっ!」



「この状況で叫ぶその胆力、気に入った。ウチの姉をファックしていいぞ」








######
なにやってるんだろう、おれ。



[19840] とある科学の軍用妹達
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:f6242140
Date: 2010/07/02 21:29
ある一人の無能力者により実験が停止する1ヶ月ほど前、七月も半場をすぎた頃。







警備ロボ・・・単価120万
ミサカ・・・単価18万


「分かるか、貴様らは無機物にも劣る。価値のないウジ虫だ!」

「sir,Yes,sir!」
「sir,Yes,sir!」


訓練が開始してから1ヶ月と少し。
ほぼ完璧と言えるほどにミサカたちの洗脳は完了していた。
例えば服装。
迷彩服に身を包み、ブーツの紐はキツく締められている。
例えば思考。
常に襲撃される危険性を配慮し、隙はない。
例えば口調。
妹達特有の口調が少し変化し、シスターというコールサインに変わり、さらにその後に続く補足は油断を誘うためのブラフへと変化していた。


「――今日から特殊な訓練を開始する。嬉しいか?」

「sir,Yes,sir!」
「sir,Yes,sir!」


うむ、と20000号は満足そうに(とは悟られぬように)頷く。


「実戦を想定した訓練であり、貴様らが私の想像を超えるクズだった場合は死ぬだろう。訓練内容は――」








七月二十日


「吐け! “幻想御手”とは何だ! とシスター03は尋問します」

「テメェこそ何だ!? 風紀委員だとしてもこれは横暴過ぎるだろうがっ!」


ターゲットの溜まり場である路地裏を走り回り、漸く見つけたターゲット。
所謂、不良。


ミサカ19998号――シスター03の行動は迅速だった。
発見と同時に無力化、地面へと組み伏せる。


「へっ、どうしても聞きたいってんならその貧相な体でも使ってみたらどうだ?」


小馬鹿にしたような態度。
他の妹達であるならば体を使う、という意味を理解できなかっただろうが、たった3人のシスターズだけは理解していた。


「必要ならはそうします、とフェラ豚であるシスター03は肯定します」

「は・・・・・・?」


自身を組み伏せる少女の口から出た言葉に呆けた声を出す不良は間違いなく童貞。


「ですが、この状況ではそうするよりもこうした方が速いです、とシスター03は徐にあなたの右手の親指に手を添えます」


――そして。


ベキッ、と嫌な音と一瞬遅れて耳障りな悲鳴が路地裏に響いた。


「ぎゃあああああ!? い、言う! 言うからやめてくれ!」





◆◆





「幻想御手とは音楽ソフトであり、それにより共感覚性を利用し、テスタメントと同様の効果を齎していると推測されます」

「ほう」


20000号は19998号が得た情報と幻想御手を研究員(訓練を命令した者と同一人物)へ提出。


「しかし使用者と思われる学生が相次いで昏睡状態に陥っており、間違いなく欠陥品であります」

「君たちと同じでね」

「・・・・・・はっ」


何の感情の変化も見せず、20000号は肯定。
愉快そうに研究員は顔を歪め、白衣のポケットからリモコンを取り出した。


「・・・・・・?」

「絶対能力に到達するには20000通りの方法で君たちを殺害しなければならない」

「はっ、存じております」

「ならば一人、寝込みを襲われて死亡というのもいいだろう? どうせ教官役の代わりは山ほどいるんだ」


そう言われれば20000号には理解できた。
研究員が何をしようとしているのか。


「共感覚性を利用していると言ったな。なら聴覚への刺激を強くすれば共感覚も大きくなる。もしかすればレベル5へ到達できるかもしれん」


豚のような笑みを浮かべ、耳栓をした研究員がスイッチを押した。




・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・






「――ッ」


気絶から覚めた20000号はすぐに状況を確認。
あまりの大音量に気絶していたらしい。
鼓膜は破れており、何も聴こえない。


「・・・・・・大した問題はありません」


周囲を見回すも研究員の姿はない。
後は勝手にしろということか。


「・・・・・・レベルは本当に上がっているようですね」


耳が聴こえない状態での発声に慣れるため、独り言として状態を報告する。


自己判断としてはレベル2から――――レベル5、超電磁砲に匹敵するまでに成長している。
そのおかげで、体から出ている電磁波も強力になり、聴こえない耳の代わりにはなりそうだ(半径10メートル内の異変を感知できる程度だが)。


「・・・・・・とりあえず訓練に戻りましょう。昏睡状態に陥るまでは個人差があるようですし」





◆◆





「シスター02よりシスター03、軍曹と連絡は?」

『こちらシスター03、未だ取れず。02は監視を継続しろ』

「シスター02、了解」


ザザッというノイズと共にインカムからの声は途切れ、19999号、シスター02はスコープ越しに見えるターゲットに意識を集中する。


「窓際の席を選ぶとは愚かな、とシスター02はオリジナルとその仲間たちを侮蔑します」


彼女が見つめるのは喫茶店の一角。
其処に座る妹達のオリジナル 御坂美琴と風紀委員、そしてもう一人、研究者らしき女性。

シスター02が彼女たちを発見したのは偶然だ。
訓練には何の関係もないオリジナルを見つけたところで何も思わなかったが、彼女たちの会話(無論、声が聞こえたわけではなく唇の動き)の中に『幻想御手』というものがあれば話は別だ。


「――あれは」


シスター02のスコープがターゲットの席の窓に外からへばり付く2人を捉えた。
そう。それはまるでターゲットを庇うように――


「ッ、流石はオリジナル。あんな大胆に護衛を配置するとは」


言うまでもないが、その人影は風紀委員 初春飾利とその友人 佐天涙子である。断じて御坂美琴の護衛などではない。


結局、02はオリジナルの大胆不敵な策略(勘違い)に戦々兢々としながらもスコープを覗き続けた。










#####
人物&用語紹介

20000号(コールサイン シスター01)
下の2人の教官役であり、軍曹(サージェント)。
彼女の間違った知識からハートマン式訓練が始まった。
一応主人公であり、今回幻想御手によりレベル5に覚醒、最強主人公(笑)。
色々と間違った知識が多い。
口調は基本的に堅いが、気に入った相手には姉をファックさせようとするなどはっちゃける(本人に自覚はない)。

19999号(シスター02)
狙撃手。
立派な軍人になりました。
銃を媒介とした電磁砲(レールガン)による銃撃戦が得意分野。

口調はミサカがコールサインに変わっただけ。

19998号(シスター03)
フェラ豚。
立派な軍人になりました。
白兵戦が得意分野。
能力のレベルは三人の中で一番低い、が元から能力に大した差はない。

口調はミサカがコールサインに変わっただけ。


#####
感想貰えるとは思わなかったから調子に乗って投稿。訓練中のおはなし。



[19840] とある科学の軍用妹達2
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:f6242140
Date: 2010/06/28 21:43
七月二十二日 早朝


「マスかき止め! パンツ上げ!」


陽が登りきる前に彼女たちの1日は始まる。
いつものように目覚まし代わりの軍曹の怒号に反応し、シスター03はすぐさま立ち上がり、シスター02はパンツを上げる。

虫けらを見るような目で軍曹に見られ、02はさらに濡れた。


「私が居ない間に何か問題は?」

「はっ。特にありません!」


02が敬礼と共に報告。
軍曹が離れていた一昨日から“オリジナル”(御坂美琴)と“オセロ”(白井黒子)を監視していた(“痴女”(木山春生)は研究室に籠もっていたため、監視を断念、“花瓶”(初春飾利)と一般人は人数の都合上監視を外さざるを得なかったが)。


「軍曹殿は今までどちらに?」

「それは貴様が知る必要はないことだ、03」

「はっ、失礼しました!」


20000号はあの後研究員に呼び出され、延々とデータやら何やらを録られ続け、開放されたのはつい先程。正直倒れたいところだが、その内黙っていても倒れるので我慢しておく。
それよりも起きている間にやるべきことをやらなくてはならない。


「現時刻をもって特殊訓練を終了。痕跡を残すな」

「sir,Yes,sir!」
「sir,Yes,sir!」


それは上からの命令。
今行われているのはあくまで絶対能力進化であり、超能力者量産ではない。
欠陥品である幻想御手にこれ以上の価値は見いだせない、そういうことだろう。

幻想御手について音声ファイルであり、共感覚性を利用したものであるとしか知らない02と03は納得はいかないものの興味もない、素直に敬礼で答えた。


「私は所用がある。貴様らは通常訓練に戻れ」

「sir,Yes,sir!」
「sir,Yes,sir!」


所用――それが何なのか、02と03には想像もつかない。彼女たちには来たるべき実験の日まで訓練以外にすることなどないのだから。





◆◆





数時間ほど前、九八一一次実験が行われ、9811号が殺害された。
現在の時刻は午後11時。20000号が所用で出かけてから半日以上が経過している。


「・・・・・・」


夜道をコンビニの袋片手に歩く彼、一方通行は不機嫌だった。
数分ほど前に自分を女だと勘違いした馬鹿が話しかけてきてくれちゃったからだ。


(百合子ってのは誰のことだァ?)


問答無用で吹き飛ばしたものの、不愉快極まりない。
もう一度言おう、彼は不機嫌だった。



「――あァ?」


そんな彼が夜道に人影を捉えた。それも愉快な格好をした見知った顔を。


「今日の実験は終わりじゃなかったのかァ?」

「――肯定です。あなたの今日の実験は数時間前に終了しています」


夜道であるとはいえ、彼女の姿は特異であり、この学園都市に置いて明らかに場違いな服装。
俗に言う迷彩服であり、さらに銃器で武装を施した少女は数時間ほど前に殺害した、いやこれまで九千以上の数を殺害した少女たちと同じもの――――その少女の名はミサカ、ナンバーは20000。


「なら、そンな愉快な格好で何の用だ?」


実験の順番が回ってくるのは最後、数ヶ月後のはずの彼女。
無論、彼女の番号など一方通行は知る由もないが。


「あなたは幻想御手というものをご存知ですか?」

「知らねェな。それとテメェが此処に居ることと何か関係があンのかよ」


彼女の口調に――否、彼女との会話に違和感を感じながらも一方通行は不機嫌そうに尋ねる。
違和感の正体が“ミサカと実験について以外の会話をしていること”だと気づくのに数瞬掛かったのは彼が他人と会話をするという行為が久しぶりだったからだろう。


「肯定です。私はその幻想御手を使用し、数十時間後には昏睡状態に陥ります」

「あァ?」


その幻想御手が何なのか一方通行には分からないが、それよりもだからといって何故、自分に会いに来たのかという疑問が氷解しない。
実験の予定が繰り上がったのならばさっさと始めればいい。
だが目の前のミサカは装備こそ物々しいが、戦闘体勢をとってはいない。


「あなたに会いに来たのは私の独断であり、実験には何の関係もありません。ただ私は・・・・・・」


そこでミサカは言葉を途切れさせた。何と表現すればいいのかと迷うように。


「――ただ私は、あなたに挑まずして負けることを良しとしたくない」


それは20000号に訪れた小さな変化。


「私はあなたの能力を引き出す為に予定よりも早く培養槽から出ました。ならばせめて最初に与えられたその任務だけは果たさなければならない――軍人として」


間違った知識から得た、間違った常識。
だが同時にそれはミサカネットワークから離れた20000号を他の誰でもなく20000号たらしめていた。
酷く特異で歪んだ、彼女だけのパーソナリティー。


「楽しそうですね」


彼女の耳は未だ音を拾うことはできないが、読唇をするまでもなく一方通行の愉悦は感じ取れた。


「くはははは! あァ、他の妹達よりも万倍面白ェよ、お前。本当に第三位のクローンか?」

「肯定です。パパの精液がシーツの染みになり、ママの割れ目に残ったカスであるオリジナルから生まれたのが私です」


その言葉にさらに一方通行は唇を吊り上げる。


「どんな洗脳したらあの無表情の妹達がテメェみてェになるンだ? 最高に愉快だよ、お前」

「ありがとうございます。では“戦争”を始める前にあなたの名前を教えてください。能力名しか私は存じていませんので」

「ンなもン覚えてねェよ」

「そうですか。では第一印象から精液まみれのディック、略してディックと呼ばせてもらいます。ファッキン・ディック」


こうまであからさまに喧嘩を売られたのはおそらく初めてだろう。
だが彼に怒りはなく、愉悦と――心の底に悲哀だけがあった。









#####
急展開なのは勘弁してください。
さっさと幻想御手事件を終わらせたい。



[19840] とある科学の軍用妹達3
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:f6242140
Date: 2010/07/02 21:31
深夜の第七学区にパシュンという銃声が小さく響いた。サイレンサーを装着したコイルガンの銃声は人通りのない夜の道でさえ、気を抜けば聞き逃してしまいそうなほどに小さい。
だがその威力は人を粉砕するのには十分過ぎるほどのもの。

無論、それが一般人やレベル3以下の能力者だったならば、だが。

例えば20000号たちのオリジナル、御坂美琴ならば弾丸を弾くことも、消し飛ばすことも容易だろう。
そしてそれ以上に学園都市230万人の頂点、一方通行にとっては弾丸など意に介すまでもない、塵芥に過ぎなかった。

――反射。
一方通行が纏う唯一にして最強の盾。


(今までの実験で9811番までの妹達が誰一人として破ることのできなかった反射の壁・・・・・・理論上は肉弾戦で“返す”ことによってダメージを与えることは可能。しかし)


理論上、反射の膜に触れるか触れないかの位置で攻撃を逆に引き寄せれば、戻っていく攻撃を一方通行に反射させ、攻撃をすることは可能だ。
だが反射の範囲も分からず、分かったとしてもそんな格闘技術を20000号は持ち合わせていない。


(それでも、彼の――ディックの力を引き出すのが私の役割。それにオリジナルと同じレベル5という領域に立った以上、簡単に殺されるというのも納得できません)





◆◆





「妹達・・・・・・?」

「虚数学区や幻想御手と同じようにこの学園都市で噂になっているものです。上位能力者のクローン・・・・・・だそうです」

「クローン・・・・・・罪深いものだね。そんなことをしても元となった人間の数パーセントの力しか再現することは適わないだろうに」

「神の力の一端を持つ聖人が神を模したものであるように、ですね」

「だが模したのが人と神とでは宿る力が違いすぎる――それとも彼らにはそんなことは関係ないのか・・・・・・いや、これは僕たちにこそ関係のない話だったね」


この時はまだ、目に見える形で科学と魔術が交叉することはなかった。





◆◆





「なンだ? 今度はかくれンぼかァ? いいぜ、付き合ってやるよォ」





「ハァッハァッ・・・・・・」


一方通行は何の警戒もなく20000号が隠れた物陰へと少しずつ近づいてくる。


(まるで新兵の行進のように隙だらけ・・・・・・ですが、あの反射を破れないというのが事実。これが230万人の頂点、最強の能力者・・・・・・私たち程度を殺害したところで本当に絶対能力へと進化できるのでしょうか?)


相対して理解した。
妹達ではどうしようもなく役者不足だと。
たとえ2万人を殺害したところで、彼の経験値の何の足しにもならない。

甘かったと認めざるを得ない。
最強。挑んでから気づくその圧倒的な力。
同じレベル5であるオリジナルでさえも彼の前では霞むだろう。


(・・・・・・せめて、彼の虚を突くぐらいのことはしなければ)




「――見ィつけた。ガタガタ震えやがンのかァ? ンな縮こまってよォ」

「残念ながら、私は恐怖という感情を理解できません。ですが感情のない私だからこそ、あなたの虚を突くことができる」


数十センチの距離にまで接近していた一方通行が能力を発動させるよりも速く、20000号はコイルガンの引き金を引いた。

当然、それは反射に阻まれ、金属製の弾丸は寸分違わず20000号の眉間を撃ち抜く――――はずだった。


「あァ?」

「フルメタルジャケット。先ほどの非磁性体の弾丸とは違い、磁性体である金属です――“全く同じ力で反射する”あなたの能力と電気関係では私の方に分があります」


20000号に到達する直前に弾丸は再び一方通行へと向かっていく。
強力なN極を持つ弾丸が、それ以上に強力なN極と反発している。


(オリジナルと比べればまだまだ荒削りな能力の使い方ですが・・・・・・)

弾丸は一方通行へと到達し、反射されることなく、今度は一方通行の眼前で制止した。
反射された力よりもさらに強力な磁力が弾丸と反発し、反射を許さない。


「私は初めに言いました。戦争を始める、と――これが戦争です。ディック」


20000号が取り出したのは弾丸。それをコイルガンに装填するでもなく、人差し指で押さえながら親指の爪に乗せた。


バチッと電気が迸る。
それに呼応するように一方通行の眼前の弾丸も勢いを増した(一方通行がそれに気付くことはないが)。


(オリジナルのコインとは違い、超伝導体を用いた専用の弾丸・・・・・・これならば――!)


暗い世界に煌めく電撃。
それは見間違うはずもない、圧倒的な暴力の光。
最強の電撃使い、学園都市第3位と同じ――――超電磁砲。


「――――はッ」


――――!!



その電光の中、一方通行は愉しそうに笑った。










「・・・・・・」


特別製の弾丸は一方通行の横をすり抜け、そのまま数百メートルを刹那に抜け、“窓のないビル”に阻まれて地に落ちた。


20000号が弾丸を外したのは一方通行の身を案じたからなどではない。
万が一、いや二つに一つ以下の可能性で反射された時のことを考えたからだ。
人を殺害するだけならば直撃などしなくとも、その余波だけで十分。
だからこそ20000号は外し、自身の安全を確保した。



「・・・・・・」


超電磁砲の衝撃波によってもたらされた暴風。舞い上がった土埃のせいで一方通行の姿は確認できない。


(ゴーグルも今ので壊れてしまいました)


妹達の装備であり、電気に耐性のあるゴーグルとはいえレベル5の電撃に耐えられるはずもなかった。


(ですが、これで少しは――――)


役に立てたでしょうか、と心の中で呟く直前、20000号の肩を銃弾が貫いた。


「――はっ、最強の俺の虚を突くゥ? 三下のクローン如きがかァ? おもしれェジョークだなァ、オイ」

「・・・・・・これ以上強くなって、どうしようというのですか、あなたは。あなたはもう十分強いというのに」

「テメェみたいに思い上がった奴がいなくなるぐれェに強くなンだよ。テメェらみたいな雑魚を相手にすンのは面倒だからなァ」


さて、と20000号は思考する。切り札も通じず、どうしたものか。


(虚を突くこともできない、取るに足らない雑魚。それが私。もう、これ以上の手はありません)


そんな諦観にも似た思考に行き着くのと同時に20000号の体が不可視の力に吹き飛ばされ、宙を舞った。


(今のは超電磁砲の衝撃波を“操作”したんでしょうか・・・・・・?)


単純な反射ならば自分は生きていないだろうと冷静に分析。体の痛みは無視して。


「もう終わりかァ? 相変わらず脆いな、お前ら」

「・・・・・・・・・・・・私はまだ動けます。私の機能が停止するまで、終わりはありません」


唇が見えず、一方通行が何と言ったのかは分からなかったが、20000号は立ち上がった。
左手はあらぬ方向に曲がり、迷彩服はボロボロに切り裂かれている。


(・・・・・・悪足掻き、というのをしてみましょう)


いくら整頓された脳でもこの状態では複雑な演算が出来るはずもなく、単純に電気を発生させ、辺りのゴミを手元に引き寄せる。
握力もロクになかったので、無事な右腕に籠手のように纏わりつかせるとシルエットは歪な槌のような形になった。
――――ミシリと身体が歪んだ気がした。


「――ディック。どちらかが負けを認めるか、全てを殺すまでが戦争です」


私は負けを認めません。言外に20000号は言い捨て、悪足掻きとして能力をがむしゃらに発動した。


――――空で雷鳴が轟いた。


「あァ。お望み通りに殺してやるよォ!」

「――その胸糞悪い笑みを消せ! 顔面に伝えろッ! 3秒やる、3秒だ、マヌケ!」


一方通行の凶悪な笑みはさらに深くなる。


「アホ面を続けるならッ、目玉抉って頭蓋骨でファックしてやる! 1!」

「――2ィ!」


20000号が地を蹴り、跳ぶ。最後の悪足掻き。20000号の身体は能力の応用か、それとも別の何かか、ビルを越え、一方通行の遥か上空に一瞬で到達した。
――――内から身体が裂ける。
槌を振りかぶる。
――――雷が煌めく。


「3ッ!」
「3!」










雷。槌。籠手。親。子。
――偶像の理論。

『何か』を模したものは『何か』の力がほんの少しだけ宿るという。
聖人が神の力を宿したように。
妹達が御坂美琴の力を宿したように。


――この瞬間、確かに20000号は『雷神』の力を宿し、確かにこの瞬間、科学と魔術は交叉した。











#####
今までで一番長くなってしまった。
とりあえずこんな感じ。
説明やら何やらは次回に。
後、前回冒頭の02に誰も触れないのは優しさなのか・・・?



[19840] とある科学の軍用妹達4
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:f6242140
Date: 2010/07/03 19:10
「――」


一方通行は倒れていた。
瓦礫の中に“無傷”で。


(なンだ? 何をやりやがった?)


一方通行は理解できない。
何故、自分が倒れているのか。

傷がない、ということは反射の鎧が破られたわけではない。
では何故倒れている?


「・・・・・・あァ?」


立ち上がった一方通行が見たものは血溜まり。
赤く染まったヒトガタ。


(・・・・・・違ェ。これは“アレ”の傷じゃねェ)


辛うじて人の形を留めている20000号を見下ろし、一方通行は思考する。


最後の一撃が反射して、それに直撃したならば人の形を留めてはいない。
アレはこの程度で済む威力ではなかった。


「ぁ・・・・・・っ・・・・・・」

「オイ、最後のアレはなンだ?」


虚ろな目で喉を震わした20000号に一方通行は尋ねる。


(・・・・・・ああ、綺麗ですね)

20000号の目には既に一方通行は映っていない。
ただ星空が見えるだけだ。


「・・・・・・ッ!?」


安らかな表情を浮かべる20000号の折れた左腕を躊躇なく一方通行は踏みつける。


「オォイ、聞こえてますかァ?」

「ッ・・・・・・っは、聞こえ、て、います、よ。ディック」


何とか目を動かし、一方通行の言わんとしていることを読み取る。
まったく、耳が聴こえないことがここまで不便だとは思わなかった。
これではロクに星空も眺められない、と心中で毒吐くが実際の空は黒雲に覆われ、月も星も見えはしない。


「私にも、何が起こったのか分かりません。あなたのその表情を見るに、悪足掻きが実を結んだということでしょうか・・・・・・?」

「はッ、これのどこが実を結んだって言うンだ?」

「そうですね。そうかもしれません・・・・・・あは」

「笑ってンのかァ? それは」


一方通行には血まみれの少女が口を半開きにしているようにしか見えない。


「とりあえず後のことはお任せします。所謂煮るなり焼くなりというやつです」

「そォかよ」


あの力について知らないならば、一方通行とて20000号に用はない。

これまでの妹達や馬鹿達と同様、挑んできたなら殺すだけ。





「――その必要はありません、とシスター02は被験者を止めます」
「――その必要はありません、とシスター03は被験者を止めます」


そんな一方通行を、2人のステレオの声が止めた。


「オイオイ、こいつは実験とは関係なくケンカを売ってきたンだ。テメェらの出番はねェよ」

「ならもう止めてください。これが実験でない以上、あなたが彼女を殺害する理由はないはずです、とシスター02は再度お願いします」

「――だからよォ、これはテメェらの出る幕じゃねェっつってンだろォが」


鬱陶しげに2人を見て、面倒くさそうに一方通行は右腕を振るった。


「――!?」
「――!?」


その動作だけで2人の身体は宙を舞う。


「・・・・・・その2人こそ関係ありません。ディック、お願いします、彼女たちは――――ッ!」

「うるせェよ」


今度は左足。
身体と繋がっているのかどうかすらも分からない激痛が20000号を襲う。


「まァテメェらみたいな雑魚を実験以外で相手にすンのも面倒だから、見逃してやるよ。とっとと消えな」

(あ・・・・・・よかっ、た・・・・・・)


激痛に苛まれながらもそれを知り、再び穏やかな気持ちが20000号に芽生えた。


「しか、し・・・・・・実験以外で妹達を失うのはあなたにとってもデメリットしかありません、とシスター03は・・・・・・?」


不自然に19998号が言葉を途切れさせる。


(ネットワークに強制接続・・・・・・? これは・・・・・・!?)


「あン?」

「最後の力を振り絞り、彼女をネットワークに接続しました。ネットワークを介した能力の応用です」


えへんと胸を張ろうとするが、その力も残ってはいない。


「・・・・・・・・・・・・20000号を九八一二次実験の個体と認定したそうです、とシスター03は報告します」

「ほォ。なら掃除はテメェらがやってくれンだな」

「・・・・・・はい、とシスター03は肯定します」


そォかよ、と一方通行は笑い、足で20000号の頭を――――


「・・・・・・さようなら」



――――踏み潰した。






九九一二次実験終了。





◆◆





「私が新たに教官として着任したミサカ19997号であります! とミサカは胸を張って宣言します」


あれから。
実験の後片付けを行って戻った2人を待っていたのは新たな教官。
彼女たちの役割は何も変わらない。
ただ強くなり、殺されていくことだけ。


「返事はどうした! とミサカは怒鳴り散らします」





「・・・・・・02、訓練の後に話がありますとシスター03は教官を無視しつつ提案します」

「02、了解。と教官を無視しつつシスター02は快諾します」


変わらない、はずだった。





◆◆





「幸い軍曹と私がネットワークに接続したお陰で記憶の共有が出来ました。後は容れ物さえ確保できれば問題ありません」

「それは明確な反逆行為であり、軍規違反でもありますが?」

「罰はいくらでも受けましょう」

「なら問題はありませんね」


以前よりも大分ヌルい訓練を早々に切り上げ、19999号と19998号は研究所の一室で密会していた。
勿論、監視カメラの類にはダミーを流してある。


「“痴女”の方は私が適任でしょう。03は“容れ物”の確保を」

「元よりそのつもりです。そちらの作戦が成功次第、すぐに実行に移ります――――本当に良いのですね?」

「愚問ですよ、シスター03。罰は後でいくらでも受けます。受けられるものならば」


そうですね、と03は頷き、銃器の点検を始めた。


(一方通行の能力、上位個体、絶対能力進化、妹達。分からないことばかりですが、大した興味は今はもうありません。今はただ、軍曹を取り戻すだけです)










#####
やはり死亡フラグは折れなかった20000号。
しかし発生する生存フラグ。
次回、幻想御手編クライマックスです。



[19840] とある科学の軍用妹達5
Name: ハーロック◆7c73ba69 ID:45d4e425
Date: 2010/07/04 21:11
七月二十四日



「こちらシスター02、目標を視認。“花瓶”を人質に逃走しているようです」

『シスター03、了解。“痴女”が確保されるまでは動かないように。上位命令を使われるわけにはいきません』

「了解」


――幻想御手をバラまいた犯人が木山春生であるということは簡単に調べがついた。
否、元より予想はできていた。

偶然、02が街でオリジナルを見かけ、オリジナルと共に居た人間の素性を調べあげている内に木山春生の過去を知れば、簡単に予想はついた。

そして彼女が幻想御手の開発者であるからこそ、2人は彼女に用がある。

だが先日の20000号の行動により、反乱防止のために2人はミサカネットワークへの接続を強制された。
いざという時、上位個体による上位命令、という安全装置を作動させるためだ。


彼女たちは隠密且つ速やかに作戦を果たさなければならない。


この作戦の成功条件は木山春生と容れ物の確保。

逆に失敗条件は上位命令の発動。

上位命令を発動させないためには、彼女たちの行動が研究者たちにバレてはならない。
教官役であり監視役ともいえる19997号には少し眠ってもらったが、ハデなことをすればネットワークを介して妹達に伝わり、場合によってはすぐさま上位命令が発動されるだろう。

故に行動は一瞬。
発動するよりも速く音速の弾丸で目標を貫く。
発動するよりも速く容れ物を確保する。

そうすれば、後はこちらのもの。

彼女たちは集中を途切れさせない。
来たるべき刹那のために。




「こちら02、目標が警備員と接触・・・・・・いよいよですね」


今が来たるべき刹那だと、02はそう考えた。
だがそれは裏切られる。







「バカな! 学生じゃないのに能力者だと!?」





◆◆





圧倒的だった。
何が、と問われれば力が。

先日の一方通行に似た、圧倒的な暴力。


多才能力者へと至った木山春生と、オリジナル 御坂美琴。
2人の戦いは圧倒的な暴力のぶつかり合いだった。



(・・・・・・軍曹はあの域に達していた。流石軍曹。ああ、早く会いたいです。早く声を聞きたいです。早く罵られたいです)


オリジナルに付く白井黒子のような、それ以上に歪んだ想いを抱えながら02はスコープを覗き込む。



(オリジナル。上手くやってください)


02も03も理解していた。
超能力者には有象無象の能力者たちが束になったとしても適わないことを。

それこそ第1位などには、妹達2万人がまとめてかかっても勝負にすらならず、遊ばれて終わりだ。


02が待つのはオリジナルが勝つ瞬間ではない、その先にある刹那。


「こちら02、目標の沈黙を――――?」


そして当然のようにオリジナルは勝利したかに見えた。


『02、正確に状況を報告しろ』

「・・・・・・出来の悪い映画を見ているようです、と02は呟きます」


02のスコープが捉えたのは胎児のようなナニカ。


「目標より生命体――いえ、謎の物体が発生。幻想御手のネットワークの暴走によるものかと」

『・・・・・・作戦に変更はない。目標は木山春生です』

「心得ています。これよりあの化け物を“幻想猛獣”とし、作戦を続行します」


オリジナルの混乱を余所に、2人は冷静だった。
不測な事態が起こるのは戦場の常。
兵に必要なのはそれにどう対処するかの能力。


「尤も、我々が対処するまでもなくオリジナルがやってのけるでしょうが」


あんな木偶にオリジナルがやられるわけもない。
軍曹に対する信頼とは別の確信。


「ですから私は目標から目を離さずに――――と」


再度、照準を木山に合わせると静観できない状況に陥っていた。


(失敗に絶望し自殺でしょうか? ならやはり釣れるはず)


隠し持っていた拳銃を頭に当て、引き金に手をかけた木山春生。
その拳銃だけに狙いを定める02。
後は引き金を引くだけで寸分違わずに拳銃だけを撃ち抜くはずだった。


「――!」


ぐらりと地面が揺れる。
化け物――幻想猛獣による流れ弾が運悪く02のポイントに着弾したのだ。


照準は外れ、指は引き金から外れる。


「しまっ――」


すぐに体勢を立て直し、照準を付け直す。





「――ダッ、メェーッ!」


木山春生が引き金を引く直前、初春飾利が木山に飛び付く。



ニヤリと02の口元が緩む。



「グッジョブです、花瓶」


こんなミスを犯すなど、軍曹に知られたらどうなることか、と自身を叱咤しながらも02は今度こそ引き金を引き、銃弾は木山の持つ拳銃を撃ち抜いた。





◆◆





(ネットワークで繋がっているとはいえ、読心することは不可能。つまり私が研究所に居る真意も妹達には伝わらず、上位命令はまだ発動しない)


発動するのは妙な動きを見せてからだ。


(――穴はある。安全装置とて完全ではなく、元々は反逆など考えつかないようテスタメントを使っているのですし)


事実、02も03も反逆などつい数日前までは考えもしなかった。
その考えが変わったのはきっと、彼女の最期を見たから。


(軍曹。もうすぐお迎えにあがります)



「――――それにしてもまさか妹達が命令に逆らうなんてねぇ」

「わざわざ寿命を調整してまで長い間、外に出してれば色々な影響も出るわよ。まあ結果、実験がほんの少し早まっただけで済んでよかったわ」


03とは反対側の通路から2人の研究員が歩いてきた。
覚えのある顔。確か生まれてから初めて見た顔だ。



「おっ、君は命令違反なんてしちゃ駄目だよー?」


1人が話し掛けてくる。問題ない、予想の範囲内だ。

「――勿論です、とミサカは何を当たり前のことを訊くのかと呆れます」

「あはは、だよねー」

「あの個体が異常なだけで、他の妹達にはそんな考え浮かびもしないわよ」



一言言葉を交わしただけで2人は何事もなかったかのように通り過ぎていく。
それはそうだ、妹達と世間話に興じるような酔狂な人間は此処にはいない。


(・・・・・・それにしても、この常盤台の制服というのはどうもなれません。潜入任務とはこういうものなのでしょうが・・・・・・ううむ、一考する必要がありそうです)


そしてまた、同じ格好をした妹達を見分けることができるような人間も。




『こちら02、オリジナルが幻想猛獣の核を破壊。警備員もこちらに向かってきています――――頃合いかと』

「――03、了解。これよりこちらも作戦行動を移行します」




こうして、たった2人の妹達の反逆が始まった。





◆◆





「えー、3時32分、確保と」

「警察24時の見過ぎだろ」

「一度言ってみたかったんだよ」


前部座席でそんな会話が交わされているのも知らず、木山春生は静かに瞳を閉じる。


(幻想御手を利用した人間の脳を使った演算装置を作り出すのは失敗に終わってしまったが・・・・・・なに、刑務所だろうと私の脳は此処にあるんだ。いつか必ず、あの子たちを救ってみせる)


彼女の心は安らかだった。
つい数十分前には絶望し、自ら命を断とうともした彼女だったが、希望はまだ消えてはいない。

だから今は、少しだけ休もう。
一時間もすればしたるべき場所に護送される。
今だけは――と、微睡みに身を任せようとしたその時だった。


ガクンと車が揺れる。


「――おわっ!?」

「なんだっ! どうした!?」


車はコントロールを失ったが、警備員が咄嗟にハンドルを切ったおかげで衝突も転倒もすることなく、道路から外れて止まった。


慌てて2人は扉を開き、車の様子を。
残った2人は後ろに乗る木山春生の様子を確認する。




「あちゃー・・・・・・完全にパンクしてやがる」

「おいおい、釘でも踏んだのか?」

「馬鹿言え、こいつはそんなもん踏んだぐらいじゃパンクなんざしねぇ・・・・・・はずなんだが」

「いや、見事に鉄釘が刺さってるんだが」


彼らは気づかない。
その鉄釘が磁力狙撃砲によって発射されたものだと。






「おい、大丈夫か?」

「・・・・・・随分と乱暴な運転だな。手錠のせいで咄嗟の受け身が取れなかった」

「いや、どうやらパンクしちまったようなんだ」

「パンク・・・・・・?」


微睡みに身を任せようとしたところに起きた急な揺れのせいで派手に鼻を壁に打ち付け、鼻を赤くして涙目な木山が尋ねる。


「ああ、釘を踏んじまったらしい」

「学園都市の科学力ってのはそんなもんなのかねぇ」

(・・・・・・偶然、なのか?)


たまたまタイヤが傷んでいて、たまたま釘が落ちていて、たまたま鼻を打ち付ける程度の衝撃で済んだだけなのだろうか?


(・・・・・・偶然に決まっているか。あの男――木山幻生のせいでどうも偶然というものは信じられないな)


「後から来る警備員と合流するしかないか。まあ大人しく待っててくれや」

「ああ。心配しなくとも逃げたりしないさ。今の私には逃げ切ることなどできはしない」


自嘲するように言う木山春生だが、鼻が赤いせいで台無しな気がしなくもない。


「そりゃ懸命な判断、だ・・・・・・?」

「む? どうかしたのか?」



小窓からこちらを覗く警備員が窓から姿を消した。


「――――心配しなくて構いません。少し眠ってもらっただけです」


背後の扉がゆっくりと開き、開けた人物の顔が見える。


「・・・・・・御坂美琴、ではないな」

「あなたならご存知でしょう? 木山春生。私と一緒に来てもらいます。拒否権はあなたにありません」


木山に向けられた銃口は、彼女の持っていたモノとは比べものにならないほどに大きく感じた。





◆◆





02が木山春生を護送中の車を襲撃する直前。
03もまた、目的のため行動していた。


頭の中にある地図を頼りにある区画へと一直線に進んでいく。




――妹達培養施設。

人間が入るサイズの培養機が並んでいるこの部屋で、もうすぐ生まれる妹達の培養機を見つけ、開放。

培養機を満たしていた液体が排出され、ゆっくりと開く。


「――お迎えにあがりました、軍曹」


ペタリと座り込む生まれたばかりの少女の髪は長く、瞳は潤み――――


「うわぁぁぁぁん!!」


声を大にして泣いた。

テスタメントによる教育を行っていないため、彼女はまさに生まれたばかりの新生児なのだ。
そりゃあ泣く。



「問題ありません。私の知識の中には赤子の子守の知識まで――」

「うぇぇぇぇん!」

「・・・・・・認識を改めます。初の実戦では知識だけあってもどうしようもありません」


布きれを被せると、03は彼女を抱きかかえて走り出した。



「こちら03、容れ物を確保。直ちに合流地点に向かいます」

『02、了解。こちらも目標を確保。5分で合流地点に到達します』

「了解」


――流石に妹達も上に報告し始める頃だ。
報告し、研究員が動き出し、上位個体に到達し、命令を入力する。まだ少しだが時間はある。

そして、それだけあれば彼女たちの目標は達成できる。



「軍曹、申し訳ありませんが少々手荒くなります。ご容赦ください」


隣の区画に移動後、前もって用意しておいた弾丸を用いて壁を粉砕、道を作る。

専用の弾丸を使えば、欠陥電気とはいえ壁の一枚や二枚を粉砕する威力の電磁砲は放てるのだ。
それも、軍曹が教えてくれたこと。


「一気にぶち抜きます。少しだけ、辛抱してくださいね」


残された弾丸は2発。
十分だ。
超電磁砲はこの程度の壁を――――容易く撃ち破る。




「――ハッ、ハッ・・・・・・流石に、これほどまで急激に能力を使用したことはありませんから、些か堪えます」


額に汗が滲む。気を抜けば倒れそうにもなる。
だが、



――ギュッ



「――行きましょう、軍曹」


背中の少女が服を握る感触に気付くと、何故だかまだまだ動けそうな気がするのだ。



「――止まりなさい、19998号、とミサカはミサカを代表し停止を促します」


そう。
まだまだ頑張れる。


「ど――けぇッ!」


欠陥の烙印を押された電撃。
だが知識での戦争しか知らない妹達に隙を作るのには十分だった。
最後の弾丸が解き放たれる。


――――!




「――それではご機嫌よう、姉妹たち」


軽く手を振り、検体番号ちょうど10000の妹達を抱えた03は研究所の外に消えた。





◆◆





「――どうやら間に合ったようですね、と02はひとまず胸を撫で下ろします」

「・・・・・・君たちは何をしようとしているんだ? 何故私を?」

「説明した通り、反逆です、と02は頭の悪い痴女に嘆息します」


手錠をつけたまま木山春生が連れてこられたのは学園都市でも珍しくない廃ビルの一つ。


「――ミサカネットワークからの乖離。そしてそれに代わるネットワークの作成。あなたにしか出来ないことです」

「それは何故だ? 何故ネットワークからの独立を願う?」

「そうしなければ軍曹をお連れした意味がないからです、と03は答えます」

「・・・・・・軍曹?」


廃ビルに入って来たのはまたもや御坂美琴と同じ顔。


「一から説明してる暇はありませんので簡潔に説明します。一つ、新たなネットワークの作成には幻想御手を用いるため、その作成者であるあなたの協力が不可欠である。二つ、私たちはあなたの望みを叶える術を知っている」


その言葉にピクリと木山が反応した。


「三つ、これはお願いではありません。命令です、と最も重要なことを02は付け足します」

「・・・・・・やれやれ。どの道選ぶ道は一つか」


木山は銃口を向ける2人の少女の眼を知っていた。
これは、絶望に立ち向かう者の眼だ。


「幻想御手の改良には多少の時間と設備が必要だ」

「いずれそれは用意しますが今は無理です、と03はこの廃ビルにそんなものがあるように見えるか? と呆れ顔になります」

「な、ならどうするつもりだ? 君たちには時間がないんだろう?」


オリジナルと違って強かな妹達に若干調子を崩されている木山が尋ねる。


「軍曹が目覚めればどうとでもなります、と02は軍曹を愛おしげに見つめます」


後から来た少女が背負っていた長い髪の妹達を見つめる2人。


「とにかく、時間がないのでさっさと聴いてしまいましょう」


03は3人分の音楽プレーヤーを取り出し、イヤホンを耳につけさせる。


「初めて聴く音楽がどういうものなのか大変興味があります」





◆◆





「上位命令の発動急いで! さっさと停止させないと他の妹達にどんな影響が出るかわからない!」

「あー! 20000号に続いて19998号と19999号もなのぉ!?」

「やっぱり20000号が最期に接続した時のネットワークの乱れが影響してるの・・・・・・? いや、あの時、接続していなかった19999号のことを考えるとやっぱり20000号自身の影響か・・・・・・こりゃ後始末が大変だわ」


頭を抱える研究員たちだが、彼女たちはさほど事態を重く見てはいなかった。
たかが2人だ、ちょうどいい、安全装置のテストになる。その程度にしか考えていなかった。


――しかし


「――! ネットワークに乱れが発生! 2日前に発生したものと同じですがこれは・・・・・・」

「一体なに!?」

「あの時とは違い、乱れが妹達全体に広がっています! このままではどんな影響が出るか分かりません!」


モニターを見ると、ネットワーク、妹達の脳波に乱れが生じている。

整頓された脳、完全に一致している脳波、それが乱れ始めている。


――妹達以外の人間がミサカネットワークに接続した場合、整頓されていない脳では情報量に耐えきれず、脳が焼き切れるだろう。

だがもしも、何らかの方法で既に接続している妹達の脳波を変えたら?
常にネットワークで繋がっている妹達全体に、乱れは広がる。


「――ッ、マズい! 上位命令を変更! すぐに19999号と19998号、それに10000号!? ああもう、とにかくネットワークから切り離して!」


――それを止めるにはウイルスを破壊するか、それを流している個体との接続を切るしかない。





◆◆





「・・・・・・可聴域外でした」

「それはそうだ、五感に働きかける音なんだ。それでこれからどうするんだ?」

「もしかしたら痛いかもしれませんが我慢してください」

「――?」


意味が分からず首を傾げるが、すぐに理解した。
頭に走る激痛。
幻想猛獣を生み出された時と同じか、それ以上の痛み。

頭の中を何かが這い回るかのような感覚だ。


「私たちが逆に幻想御手のネットワークを用い、記憶を電気信号に変え、軍曹に発信しています。ネットワークの管理者であるあなたにとっては異物感しかないでしょうが」

「う、ぐッ・・・・・・」


断片的にだが木山には見えた。
彼女たちの言う軍曹の記憶と、絶対能力進化の実態が。


(・・・・・・なる、ほど。分かったよ、君たちが何故、反逆なんてものに思い至ったのか)


――私と同じだ。理不尽が許せなくて、大切なものを取り戻すために、ルールに背いた。


(だが違うのは、彼女たちは絶望などしていないこと。御坂美琴と同じ、強い意志・・・・・・)







「――――」


どれくらいだろう、漸く頭痛が止み、周囲を見渡すと長髪の妹達――軍曹が目を開いた。


「・・・・・・おはようございます、言葉は分かりますか? と03は動揺を隠しつつ尋ねます」

「はい」

「・・・・・・では、検体番号は? と02は震えを隠しつつ尋ねます」












「検体番号は20000――階級は軍曹、だ。ウジ虫ども」


長い髪に隠れた瞳に鋭い光が宿った。









#####
おおぅ、文章量がいつもの数倍に。
復活を引っ張った結果がこれだよ!
次回エピローグです。
復活した軍曹さんですが寿命の問題とか残ってるので、そこら辺を。
後、木山せんせーについてとか。


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