宮崎県の口蹄疫(こうていえき)問題で、家畜伝染病予防法(家伝法)に基づき、牛や豚とともにワクチン接種を受けて殺処分されるはずのイノシシ120頭が、処分されていなかったことが2日、分かった。県は飼育実態の把握が難しかったと説明し、4日にもイノシシの全頭処分を終えるとしているが、専門家は「処分の遅れは防疫上、大きな問題だ」と批判している。
■「防疫上問題」専門家は批判 4日にも殺・埋却完了
イノシシは牛や豚、ヤギと同じ偶蹄(ぐうてい)類で、口蹄疫ウイルスに感染する可能性がある。国と県は5月21日、家伝法に基づいて県東部の発生集中地域で、牛、豚、ヤギ、イノシシなどにワクチン接種をした上で、殺処分すると発表した。
5月下旬から対象地域の自治体を通じて家畜の飼育状況を調べた県は、イノシシは市場規模が限られていて食肉の出荷経路が明確でない上、庭先で食用に数頭を飼う民家もあることなどから、実態把握に手間取ったという。「人づてに聞きながら調査しているのが現状」(県畜産課)で、今週に入ってからも新たな報告があり、総数は6市町の28戸180頭(7月2日現在)に上った。
県は把握分のイノシシにワクチン接種を試みたが「注射の際、豚と違ってイノシシは突進してくる。牙もあり危険」(同課)と判断。農家の同意を得た上での殺処分に変更し、これまでに18戸の60頭を処分したという。
1日の「非常事態宣言」の一部解除は、接種家畜約7万7千頭の処分完了を理由にしていたが、イノシシは未接種、未処分のままだったことになる。県は「膨大な牛や豚の処分、埋却に追われ、イノシシは後回しになった」と釈明している。
鹿児島大の岡本嘉六教授(獣医衛生学)は「頭数把握が遅れたのはずさんというほかない。イノシシはウイルス排出量の多い豚と近縁であり、未接種ならなおさら優先して処分すべきだった」と話している。
=2010/07/03付 西日本新聞朝刊=