きっと、だいじょうぶ。

文字サイズ変更
はてなブックマークに登録
Yahoo!ブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

/7 「発見する相談」=西野博之

 「自分の責任で自由に遊ぶ」という標語を掲げ、「禁止」の看板をできるだけ使わずに、火や工具も使って、やってみたいことに挑戦できる「冒険遊び場」(プレーパーク)は、全国に250カ所以上ある。

 ここで子どもたちは、木の枝や廃材を拾い集め、ナタやナイフで木を細かくし、プレーリーダーと呼ばれるスタッフからマッチと新聞紙を受け取り、火をつけることに挑戦する。初めての子どもたちは、思うように火がつかずに苦労する。慣れると、梅雨の合間の湿った木でも、難なく火をつけられるようになる子どももいる。

 火にあたりながら水遊びで濡(ぬ)れた体を乾かしたり、時にはこの火を使って芋を焼いたり、竹の先にパン生地をまきつけ焼いて食べたりする。

 火は不思議な力をもっていて、その周りに集まってきた子どもたちは、ボーッと炎を見ながら、ふと口を開く。「夜になると、いつもおやじが酔っぱらって、殴りかかってくる。だから家には帰りたくない」「うちは帰ったって、誰もいないよ。いつも家の中は真っ暗なんだ」

 食べ物を作っていると、その場を離れず、むさぼるように食べたがる子がいる。閉所時間になっても、なかなか家に帰ろうとしない子がいる。気がつくと、いつも服が替わっていなかったり、髪の毛がにおったり。食事を取らず、何日も風呂に入ってなさそうな子の存在が見えてくる。

 そう、子どもは「助けて」と言葉にならなくても、全身でSOSを発信しているのだ。あとはそれに大人が気づくかどうかだけ。私たちはこれを「発見する相談」と呼んでいる。私たちが運営する公設民営の遊び場でも、児童相談所と連携して、一時保護したケースがいくつかある。

 いじめや虐待などの悲しい事件の報道が後を絶たない。子どもはどこで安心してSOSを発信できるのだろうか。そもそも相談機関という所を探し訪ねて、自ら面談を申し出ることができる子どもがどれくらいいるのだろうか。

 本当に深刻な叫びは「相談室」で待っているだけではキャッチしきれない。どんなにひどい虐待を受けていても、親をかばい、むしろ自分を責める子どもたち。「いい子」でいることから解放され、素のままの自分でいられるような遊び場が欲しい。遊びを通して子どもに寄り添い、子どもの思いを受け止めようとする大人がそこにいること。そんな環境づくりが、いま求められているのだと思う。(NPO法人フリースペースたまりば理事長)=次回は18日

毎日新聞 2010年7月4日 東京朝刊

きっと、だいじょうぶ。 アーカイブ一覧

PR情報

 
PR

おすすめ情報

注目ブランド