昨日に続きまして二回目です。
お楽しみいただければ幸いです。
2、
躰がふわふわする・・・
ここはどこ?
周りは暗い。
まるで水の中に浮かんでいるみたい。
上も下も感じない。
ここはどこなの?
「う・・・はあ・・・ん・・・ふあ・・・」
え?
今の声は?
「うふふふ・・・どう? 気持ちいいでしょ?」
「は・・・はい・・・気持ち・・・いいですぅ・・・」
理生ちゃん?
理生ちゃんの声なの?
「ふふふ・・・見てごらんなさい。あそこにいるのは誰?」
「ああ・・・美香ちゃんですぅ」
理生ちゃん?
どこにいるの?
私はきょろきょろとあたりを見回すけど、暗闇に包まれて何も見えない。
「うふふ・・・さあ、あなたの姿を見てもらいなさい」
「ひゃ、ひゃい・・・ゲルダさまぁ」
えっ?
ゲルダ様?
一体何が起こっているの?
私が困惑していると、闇の中の一画がぼうっと明るくなってくる。
すると、光に包まれた繭のようなものの中に、二人の姿が見えてくる。
でも・・・
アレは何?
理生ちゃんの躰が・・・
理生ちゃんの躰が真っ黒だよ・・・
「あはあ・・・美香ちゃん見てぇ。私・・・ゲルダ様にとろとろの液体をかけていただいちゃった・・・」
今まで見たことのない妖艶な笑みを浮かべた理生ちゃんが私の方を向く。
その躰はべたべたした黒い粘液で覆われている。
そして・・・その粘液に包まれながら、理生ちゃんは自分で胸をもてあそんでいた。
「理生ちゃん!」
私は駆け寄ろうとした。
でも、躰が上手く動かせない。
とらえどころがないのだ。
足を動かしても手を動かしても、ただ宙をもがくだけ。
ちっとも近づくことができないのだ。
「うふふ・・・無駄よ。そこは空間の牢獄。動いたところで消耗するだけ。おとなしく彼女の変態を見ていてあげなさい」
ゲルダの声が耳に届く。
くう・・・
理生ちゃんが変な目にあっているのに・・・
お姉ちゃん・・・助けて。
MEチームはどこにいるの?
誰でもいいから助けて。
「はあぁん・・・」
耳をふさぎたくなる理生ちゃんの艶のある声。
べたべたしていた黒い粘液は、じょじょに艶のあるものになってきている。
固まってきている?
一体理生ちゃんをどうするつもりなの?
もうやめて。
私は叫びだしたかった。
「うふふ・・・ほら理生、固まってきたのがわかるでしょ?」
「ふぁい・・・私の躰・・・固くなってます・・・」
「さあ、仕上げよ。たっぷりと受け取りなさい」
私の目の前で、理生ちゃんの顔にゲルダの口からどろっとした黒い粘液がかけられる。
思わず吐き気を催す私と違い、理生ちゃんはうっとりとしてその液体を受け止めた。
タールのような液体が理生ちゃんの顔を覆いつくしていく。
息ができないんじゃないかと思うけど、理生ちゃんは苦しみはしていない。
鼻の盛り上がりや目の周りのくぼみなど基本的な凹凸だけが見えている理生ちゃんの顔。
それはまるで真っ黒なマネキン人形のようだった。
「うふふふ・・・」
ゲルダの指が理生ちゃんの顔をなぞる。
「ヒッ?」
私は息を飲んだ。
ゲルダの指が理生ちゃんの頭にめり込んだのだ。
「いやぁぁぁぁぁ!」
私は叫んだ。
理生ちゃんが・・・
理生ちゃんが死んじゃう!
「あらあら、大丈夫よ。私、こう見えても手先は器用なんだから」
牙の覗く口元に笑みを浮かべて、ゲルダは私に向かって微笑みかける。
ぐちゃぐちゃと理生ちゃんの頭をこね回すゲルダ。
まるで粘土のように形を変えていく理生ちゃんの頭。
細長く伸ばされたり、また丸くまとめられたり・・・どうなっているの?
そして、ゲルダは理生ちゃんの頭を作り変えていく。
目のあたりには巨大な丸いレンズ状のもの。
口は上下ではなく左右に開く顎になる。
額からは短い角のようなものが作られる。
あれは触角?
するとあの目は複眼?
どんどん理生ちゃんが理生ちゃんでなくなっていく。
テレビや新聞で見慣れた形・・・
モンスターの手先、スレイブアントだ・・・
理生ちゃんがスレイブアントになっちゃった・・・
「うふふふふ・・・さあ、起きなさい。スレイブアント」
「キィッ!」
理生ちゃんは一声鳴いてゆっくりと起き上がる。
全身が黒い外骨格に覆われた蟻型の戦闘員。
スレイブアントがなぜ女性っぽい姿をしているのか、私はこの時わかった。
スレイブアントは人間の女性から作られるんだ・・・
理生ちゃん・・・
私は涙を流すしかできなかった。
「うふふ・・・気分はどうかしら? お前は何者か言ってごらん」
「キィッ! サイコウノキブンデス。ワタシハすれいぶあんと。ふゅーらートげるだサマにチュウセイヲチカウモノデス」
抑揚のない声で理生ちゃんが答える。
「うふふ・・・いい娘ねぇ。さあ、仲間のところへお行きなさい。命令があるまで待機するのよ」
「キィッ!」
映画で見たドイツ兵のように右手を上げて敬礼する理生ちゃん。
その姿がすうっと闇の中に消えていく。
あ・・・
私は思った。
これが理生ちゃんとの別れなんだ。
もう・・・理生ちゃんには会えないんだ・・・
悔しい・・・
悔しいよ・・・
どうして・・・
どうしてお姉ちゃんは来てくれなかったの?
「うふふ・・・お待たせ。次はあなたの番よ」
ゲルダの姿がすっと近づいてくる。
「悪魔・・・あなたは悪魔よ! 理生ちゃんを返して! 元に戻して返してよ!」
私は精いっぱいゲルダをにらみつける。
死んだって構わない。
絶対赦さないんだから。
「あら、そんなの無理に決まっているじゃない」
あっさりとゲルダが言う。
「割れたお皿は元には戻らないわ。あなただってわかっているんでしょ?」
悔しい・・・
悔しい・・・
わかっているよ。
理生ちゃんが元に戻ることはないんでしょ。
もう、理生ちゃんはいなくなってしまったのよ・・・
「それにね、彼女はもう何も悩んだり苦しんだりすることはないのよ。自我など無くなった彼女は無我の境地なの。命令に従うだけでとても幸せなのよ」
「そんなの幸せなんかじゃない!」
私は首を振った。
そんなの幸せなんかじゃないよ!
悔しいよぉ・・・
この女が憎いよぉ・・・
「んふふ・・・いいわねぇ、そのどす黒い感情。お姉さんそういう感情は大好きよ」
ゲルダが私の頬を伝う涙をペロッと舐める。
「やめて! 私はあなたを赦さないんだから! あなたなんかお姉ちゃんに倒されちゃえばいいのよ!」
私は思いっきりゲルダの顔をひっぱたこうとした。
でも、私の振った腕は簡単にゲルダの手に止められちゃう。
悔しい、悔しいよぉ・・・
こんな奴なんか、こんな奴なんかぁ・・・
「うふふ・・・さあて、それはどうかしらね? もしそんな目に遭いそうならきっとあなたが助けてくれると思うけど」
いたずらっぽく笑うゲルダ。
「ふざけないで! 誰があなたなん・・・ぷわっ」
ゲルダの唇がいきなり私の口をふさぐ。
な、何を?
私が離れようともがくと、いきなり私の口の中にどろっとしたものが流し込まれる。
!
私は理生ちゃんの顔にかけられたものを思い出して、必死に飲み込むのを止めようとする。
でも無理だった。
どろっとしたものは、まるで意思を持つかのように私ののどを滑り落ちていく。
「ぷはっ」
口を離され、私は息を吸い込む。
その様子をゲルダはニコニコと楽しそうに覗き込んでいた。
「な、何? 今のは何?」
私はぞっとした。
私も・・・私も理生ちゃんみたいになっちゃうの?
「今のはあなたの躰を変えるための前段階のお薬よ。すぐに躰が火照っていい気持ちになってくるわ」
「躰を変える?」
「そう。心配しなくてもいいわ。あなたの自我は奪わない。あなたにはスレイブアントではなくモンスターになってもらうわ」
「モンスターに?」
そんな・・・
私をモンスターにって?
モンスターも人間だったというの?
だから人間ぽい姿をしていたというの?
そんなのって・・・
- 2007/04/26(木) 19:32:18|
- 美香の災難
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| コメント:3
どうでも良い?人間は下っ端怪人、重要な人間は上級モンスター。なんとなく予測できた展開でしたね。
頭はアリに変化したのでしょうけど、体は人間のままですか?ということはアリ人間ですか。
最終回は本命が改造されて姉との対決でしょうね。どのように展開していくかが楽しみです。
- 2007/04/26(木) 22:07:45 |
- URL |
- metchy #-
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ゲルダ様は芸術家なんですねぇ。スレイブアントを手づくりで造るなんて。ひょっとして、元は陶芸家?。変な所で関心しました。
次はいよいよ美香ちゃんの自我を歪められ、モンスター化の番ですか。
- 2007/04/27(金) 10:41:19 |
- URL |
- mas #d58XZKa6
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>>metchy様
躰も外骨格に覆われ、蟻っぽくはなりますけど、基本は人間の躰を維持するので蟻人間というので間違いありません。
姉との対決は・・・すみませんです。
>>mas様
気が向いたときだけでしょうけどね。>手作り
大半はプラントのようなもので作られているんではないかと思います。
きっと粘土細工が好きなんでしょう。(笑)
- 2007/04/27(金) 20:19:59 |
- URL |
- 舞方雅人 #-
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