少女一人・鬼一匹

「ヴァジュラ!金剛角―――ッ!」
鬼の肘から突き出た光をまとった角が、醜悪な獣の身体を貫く。
やがてその光が内側からあふれ出すと、獣の身体は膨れ上がり閃光とともに四散した。
「ギャグワァァァ―――!!」
人里離れた神社の境内に、怪物の最後の絶叫が響き渡った。

「やったわ前鬼!」
閃光が消えその中から明らかに「人」とは異なる長身の影が現れる。
その外見はまさに「人」が「鬼」と呼ぶ、異形のそれであった。
普通の人間ならばその姿に恐怖を覚え逃亡、あるいは身が竦んで逃げ出すことすらかなわなかったかもしれない。
しかしその「鬼」に対し、駆け寄ってくる一人の少女の姿があった。
「ありがとう。今回も前鬼のお陰で憑依の実を仕留めることができたわ」
少女はまだ幼さの残るあどけない表情で、「鬼」に対して労いの言葉をかける。
「ふんっ、あの程度なら大したことねーよ」
少女の労いの言葉に対し、「鬼」は軽く憎まれ口を叩く。
「ふふ、前鬼ったら相変わらずね」



少女の名は、役小明(えんの・ちあき)。陰陽師・役小角の血を引くれっきとした祓師である。
鬼の名は、前鬼。かつては小角に使役されし「鬼」の一匹。
現在訳あって、本人は少々の不満を抱きながらも小明によって使役されている。
少女一人と鬼一匹、この2人は「憑依の実」と呼ばれるものを捜し求めている。
いや、それは正確な表現ではない。
「憑依の実」、それはかつて小角たち霊能力者によって封印されし禁断の実。
人間の暗き欲望に反応し、人間に憑りつきその欲望を満たすための強大な「力」を与える。
やがて欲望を食らい成長した「実」は、その人間を縁依として「憑依獣」として覚醒、
さらなる欲望のままに破壊と殺戮を繰り返す怪物と化すのである。
先ほど、前鬼によって倒された憑依獣もその怪物の1匹である。
小明と前鬼は全国各地に散らばる「憑依の実」を探し出し、再び封印を施すか、
あるいはすでに覚醒してしまった憑依獣を倒すために、こうしてコンビを組んでいるのである。
今回も「憑依の実」の仕業と思われる怪事件の情報を追跡していると、
案の定憑依獣に遭遇、いつものように見事な連携で退治したところであった。




「それよりも「実」はどこだ?」
前鬼があたりを見回しながらつぶやく。
憑依獣を倒した後、憑依の実は憑りついていた人間から分離する。
前鬼にとってその憑依の実は大好物なのである。
先ほど「再び封印を施す」と説明したが、ほとんどの場合憑依獣を退治した後は前鬼が「実」を食べてしまうため、封印を施す必要がないのである。
一方憑りつかれていた人間は欲望に任せて「力」を使いすぎた代償として廃人と化すことが多い。
「そういえば、憑依されてた人は……あっ、いた!」
小明は小明で、哀れな(といっても自業自得なのだが)憑依の実の犠牲者のことを気にかけてあたりを見回した。
すると、先ほど閃光があった近くに巫女装束の女性が倒れている。
どうやら今回の憑依の実が封印されていた、この神社の巫女らしい。
「お姉さん!」
巫女の姿を見つけると、小明は心配して彼女に駆け寄った。
一方前鬼はそんなものには興味はないといった風情で、引き続き憑依の実を捜している。
「おっ!あったあった……ん、かーっ!やっぱ戦いの後の「実」はサイコーだぜ」
ようやくのことで「実」を見つけ、拾い上げると即座に口の中に放り込んだ。
この瞬間こそが前鬼にとって至福のひと時なのである。



「オイ、小明―――――」
自分の目的を終え前鬼が小明の方を振り返ると、彼女は倒れている巫女に駆け寄り
その身体を抱き起こそうとしているところだった。
「お姉さん、大丈夫ですか、お姉さん!?」
小明は巫女の身体を抱き起こすと、呼びかけながら軽く身体をゆすった。
「う……う―――ん」
気を失っていた巫女は、小さく呻いて息を吹き返した。
そして軽く身体をよじった拍子に、元々乱れていた巫女装束の胸元がはだけた。
「?まさか!待て小明!そいつから離れろ!」
小明と巫女を見ていた前鬼が、微かな異変に反応し叫んだのは、巫女の胸元に憑りついていた「憑依の実」が覚醒し、
その「目玉」を見開いたのと同時だった。
「きゃあぁァァァ―――――――っ!」
小明が悲鳴をあげるより素早く、憑依の実がその触手を小明の胸元目掛けて伸ばしていた。

「小明ィ――――――!」
先ほどは憑依獣の断末魔が響き渡った鎮守の森に、今度は前鬼の叫びが木霊した。



「ムスメ……オヅヌノチヲヒキシムスメヨ……」
小明は自らを呼ぶ声に目を覚まし、ぼんやりとした意識で辺りを見回した。
そこは何も無い空間、完全なる闇の世界だった。
「あれ?確かアタシ、神社で憑依の実に襲われて、それから……」
「ヨケイナコトハカンガエナクテイイ……ワレニ、ナンジノココロトカラダヲササゲヨ……」
「あなたは誰なの?」
質問する小明の口調はまだ意識がぼんやりとしているせいか少し呂律が回っていない。
「ワレハ、ヒョウイノミ。オヅヌニフウインサレテヨリオヨソセンネン……
……イマ、ワレヨミガエリテ、フクシュウヲハタサン……」
「憑依の実ですって!あんたなんかに簡単にやられるもんですか!」
「憑依の実」という言葉に反応しすぐさま意識を取り戻す小明。
「フム、サスガハオヅヌノシソントイッタトコロカ……ショウショウテゴワイナ……
……デハ、オマエノノゾミカナエテヤロウ……」
「アタシの……望み……?」
その時暗闇から一本の触手が一直線に伸びてきて、小明の胸元へ突き刺さった。
痛みは無かったが、その先には「目玉」を見開いた憑依の実が、瞳を怪しく光らせている。
「あっ……!」その瞳を見つめてしまった小明の目から意志の光が消えいていく。
「サァ、ムスメヨ……イマヨリソノココロトカラダ、ワレニユダネルノダ……」
「……ハ……イ」小明は虚ろな眼をしたまま、抑揚のない口調で答えた。
小明の返答に満足したかのように憑依の実は、残りの触手を小明の方へと伸ばしていった……



前鬼が異変に気づき小明に向かって駆け出すより先に、巫女の胸元にあった憑依の実は小明の胸元へと移動し、
それと同時に悲鳴をあげた小明の周囲から、どす黒い妖気が噴出した。
その妖気の勢いに、小明に駆け寄ろうとした前鬼は思わずたじろいでしまい、その場に踏みとどまった。
そうしている間にも真っ黒な妖気は小明の身体をすっぽりと包み込み、その先端は軽く神社の屋根を越えるぐらいの高さにまで達していた。
「きゃあぁァァァ――――…………!」
やがて妖気が小明の身体を完全に隠してしまうとともに、その中から聞こえていた彼女の悲鳴さえもかき消されてしまった。
「小明ィ――――――!」
前鬼は再び彼の仕えるべき相手の名前を叫んだが、もちろん返事は無かった。

やがて黒い妖気の柱が勢いを収縮し始めると、突然黒い閃光が疾った。
「うっ!」思わず右腕で顔を覆う前鬼。
そしてその閃光さえも消えると、あとには妖気の残滓が黒煙のようにあたりに漂っていた。
その黒煙が晴れ、中から少女が姿を現す。



「小明……」
黒煙のような妖気の中から姿を現したのは、紛れも無く小明であった。
しかしその身体からは生気が抜け落ち、少女らしい溌剌さをたたえていた表情さえ今は虚ろだった。
「小明、大丈夫かっ!」
前鬼は煙の中から現れた小明に声をかけた。しかし彼女はうつむいたままで返事は無い。
「おい小明!どうした!?」
「ウフ……ウフフフフ……」
小明は口の端を醜く歪めると、不気味に笑いながら顔を上げた。その瞳は闇に満ちている。
「ねぇ前鬼ぃ……アタシ、憑依の実に憑りつかれちゃったのぉ……」
以前の小明とは大きく変わった、気だるげな口調で喋りながら、彼女は着ていた祓師の衣装の上着を脱ぎ始めた。
「お、おい!何言ってやがる!」
「ウフフフフ……」
小明が上着をはだけると、彼女の乳房の間には「目玉」を見開いた憑依の実が根をはっていた。



「クソッ!よりによって小明のヤロウに憑りついちまうとはな……ちっと痛ぇかもしれねぇが我慢しろよ……」
何か策があるわけではなかったが、それでも前鬼は何とかしようと小明に近寄ろうとした。
しかし、小明の両腕がそれより先に印を結び呪文を唱えていた。
「はぁっ!」
それに反応して前鬼の身体が硬直する。
「ワスレタノカ……コノムスメガ、オマエノ「使役者」ダトイウコトヲ……」
小明のものではない、しわがれた不気味な声がする。
それは小明の胸に憑依している「実」から発せられたものであることを、前鬼は即座に理解した。
「くっ!身体が……!やいテメェ、憑依の実はさっき金剛角で始末したハズ!
この俺様に限ってしとめ損ねることなんてありえねぇ!」
「カンタンナコトヨ……ココニハ「実」ガ2ツアッタノダ……モウ1ツハタダノオトリヨ。
1ツヲシマツスレバ、キサマハ「ショクジ」ノタメニスキガデキル……」
「俺様の習性をまんまと利用されたってわけかい……テメェ、この前鬼サマを舐めると、後で容赦しねぇぞ!」
「クックック……ムダナツヨガリヲ……ワスレルナ……オマエノ「使役者」デアル、コノムスメハ、ワガテノウチニアルコトヲ……」
「実」は余裕の口調で喋り続ける。
「で、小明を乗っ取って、テメェはどうするつもりなんだ?」
「フ……イマニワカル……チアキヨ……サァ、ヤレ……」
「……ハイ」
「実」の命令に抑揚のない声で小明が答えると、彼女は立ち尽くしている前鬼に近づいていった。
そして彼の前に立つと、そっとその股間に右手を伸ばした。



「な、何しやがる、小明っ!どこ触ってんだ!」
「ウフフフフ……」
股間に伸ばした手を、緩やかに弄りながら前鬼を見上げる小明。
その瞳は相変わらず闇に満ちているが、その奥からは淫靡な期待が湧き上がってきている。
「あのねぇ……「実」が教えてくれたのぉ……アタシの中に眠る小角様の力とぉ……「鬼」の「精」が混ざり合うと、
もっともぉっと強い「力」になるんだってぇ……でねぇ、その「力」を「実」に捧げるのぉ……」
右手の動きを止めることなく、小明は淫蕩な口調で続ける。
「それにね、「使役者」と「式神」がカラダを重ねるとぉ……その「契約」も強くなるらしいよぉ……」
その間も小明の右手は前鬼の股間を弄っており、段々とその動きは激しくなってきている。
「だからぁ、前鬼ぃ……アタシといっぱい気持ちイイことしよぉう……ねぇ前鬼ぃ、アタシ前鬼の「精」がほしいなぁ……」
「や、やめねぇか小明!」
「だぁめ!アタシ……もぉガマンできないの……前鬼だってそうでしょぉ……ほら、ここ。こんなに硬くして……」
股間をまさぐっていた手を止め、腰に結んである紐の結び目を解いていく。そして履いているズボンを一気に下げた。



「わぁ……すごぉぃ……」
前鬼の股間から、人のものとは比べ物にならない剛直がそそり立っている。それをみた小明は瞳を、より一層淫靡に輝かせる。
「クックック……「鬼の金棒」トハヨクイッタモノヨ……」
「実」が下卑た冗談を言う。
「けっ、笑えねぇな!」前鬼は顔を背けて皮肉を言う。
「ククク、デハヒトツ、ワラエルハナシヲシヨウジャナイカ……
……タトエバ……コノムスメガ、オマエニホレテイルトカナ……」
「!そんな出鱈目を言って俺の心を掻き乱そうとしても無駄だぜ!」
「デタラメナドデハナイ……イマヤコノムスメノココロモ、カラダモワレノモノ……
……コノムスメノスベテガ、テニトルヨウニワカル……」
前鬼は黙っていた。
「コノムスメ、ココロノオクニ、オマエヘノコイゴコロヲダイジニカクシテイタヨ……
……ダガナ、ショセンハ「人」ト「鬼」、「使役者」ト「式神」デアルガユエニ、
ソノオモイハカナウコトガナイ……ワレガソノココロカイホウシテヤッタノサ……
……ソレカラハ、カンタンダッタヨ……」
「実」の言葉を聞きながら、前鬼は沈黙を続けながらも表情を怒りに満たしていた。
怒りの力で無理やりにこの身体の戒めを破ろうという作戦だった。
「ククク、マァソウオコルナヨ……オマエダッテ、コノムスメヲスイテイルノダロウ……」
「!」



怒りに満ちていた前鬼の心にふと隙が生まれた。
「実」の言ったことはまんざら嘘ではなかった。封印を解かれてから今日まで、小明とともに憑依の実を退治しつづけてきた。
最初は小娘にいいように使役されることに不満を感じていた前鬼だったが、小明が祓師として成長を続けるうちに、いつしか2人の間には信頼が生まれていた。
だが、元々「鬼」である前鬼には「人」を愛する気持ちなど分かろうはずがなかったため、
その「信頼」という感情が徐々に「親愛」に変化しているということを自覚することが出来なかったのである。
しかし今、その感情を指摘されたこと、そして先程から小明により剛直を通じて与えられている刺激が加わり、
彼の心には隙が生まれ、前鬼の身体は完全に硬直してしまった。
小明が前鬼の前に膝をつくと、ちょうど顔の前に逸物が位置する形になる。
小明は、迷うことなくその「金棒」を、それがいとおしい物であるかのようにその小さな両手でつかみ、それに向かって舌を差し出した。
「うぉっ!」
陰茎の先端に電撃のように疾る快感に思わずのけぞる前鬼。だが動きを封印されているためにわずかに頭を後ろに揺らしただけであった。
やがて小明は先端だけでは飽き足らず、横から根元にかけて丹念に舌を這わせ始めた。
そして剛直がその涎に十分に塗れると、先端から一気にそれを咥えた。



「あむ……ん……んん……」
小明の唇に対し、前鬼の逸物はあまりにも大きすぎた。
だが、必死にそれを口の中に収めると、先ほど塗りたくった自らの涎に乗せて前後に動かし始めた。
唇と、涎と、逸物が奏でる厭らしい和音がしばらく続いた。
「うぅっ、だ、だめだ!出ちまうっ!」
前鬼はついに観念した声を上げると、小明の口の中に己の滾る精を放出した。
小明はそれを一滴たりとも逃すまいと夢中で貪るが、少女の口に余るその量は自ずとあふれ出してしまう。
やがて我慢できなくなり、小明は自分の口から剛直を放した。
そしてなおもあふれ出る白濁液は小明の顔に、胸元に降り注ぐ。
「オォォ……コレガ「鬼の精」カ……コレサエアレバ、ワガ「力」モ、カンゼンニヨミガエルトイウモノ……」
小明の胸元で前鬼の「精」を受け止めた「実」が、歓喜の声を挙げる。
小明は口の中の「精」を飲み干し、顔についた残りの「精」を指で掬って口に運んでいる。
「前鬼の「精」、あつくて……おいしいよぉ……」
「チアキヨ……コンドハ、オノレノカラダノナカヘ、「鬼の精」ヲウケルノダ……
……ソウスルコトデ……「力」ハヨリカンゼンナモノトナル……」
「ハイ……」



小明は前鬼の体を地面に横たえると、その上を跨ぐようにして立った。
「見て、前鬼……アタシのここ、こんなになってるの……ここに……前鬼の「精」を、いぃっぱい出してね……」
スカートを捲り上げ、その下のグショグショに濡れたショーツをもどかしそうに脱ぎ捨てた。
仄かに生えた黒い茂みの間にある秘唇はテラテラと光っており、そこから溢れる愛液が雫となって前鬼の体に垂れ落ちる。
先ほど「精」を放出してしまった前鬼は、一度に大量の「精」を出してしまったせいか、軽く白目をむいて失神しかかっている。
「ウフフフフ、前鬼ったら気持ちよかったのね。でも、本番はこれからだよぉ……」
小明は上半身を屈めて、前鬼にそっと口づけするが、前鬼は小さく呻いただけだった。
「いくよ、前鬼……」
そして腰をゆっくりと落とし、いまだ天を突くようにそそり立っている前鬼の剛直に自らの膣口を合わせていった。
だが先の口淫でもそうであったように、小明の秘唇に対し前鬼の逸物はあまりにも不釣合いな大きさであった。
逸物の先端が秘唇に触れ、その間に割り込むように逸物が進もうとするが、その度に小明に激痛が走る。
「うっ、あぁぁぁっ!」
それだけで小明にとっては体を真っ二つに裂かれるような痛みであるが、
何とかその痛みに耐えようとするあまり、小明の呼吸が荒いでくる。



「ムゥ……コノママデハムリカ……ナラバ、ワガチカラ、スコシカシテヤルトシヨウ……」
小明の胸の「実」が鈍く光った。
「チアキヨ……イマヨリシバラクハ、イタミガカイカントナル……サァ、モットオクマデツキイレルノダ……」
「ハ……ハイィ……」
苦痛の呻きを洩らしていた小明が息も絶え絶えに頷いた瞬間、今まで感じていた激痛が引き、
かわってかつて感じたことの無い快感の波が押し寄せてきた。
「あっ、あぁぁぁっ!」
それに伴い入り口で支えていた前鬼の逸物が、ゆっくりと小明の体に受け止められるように中へと入っていく。
「あっ、あっ、ああぁぁぁぁ!」
「ドウダ、チアキ……キモチイイカ……」
「ハァ、ハァ、はいぃ……いッ、いいっ……気持ち……いぃです……」
虚ろな瞳からいつの間にか溢れ出していた涙を気にもせず、小明は続々と押し寄せる快楽に完全に身を任せていた。
そして根元まで前鬼の逸物を咥え込むと、今度は前鬼に快感を送るために体を動かし始めた。
「あっ、あっ、あっ……ねぇ、前鬼も気持ちよかったら動いてもいいんだよぉ……ハッ、はぁっ!」
その声が届いたのか、それとも再び押し寄せた快感に目覚めたのか、下になっている前鬼も自然と腰を動かし始めた。
「ククク……オソルベキハ「鬼」ノホンショウヨ……アレダケ「精」ヲハナッテオキナガラ、マダコシヲフルチカラガアルトハ……」
少女一人と鬼一匹。その2人が一体となって淫靡な音を立てて蠢いている。
もはやそこにかつての「使役者」と「式神」の関係はなく、ただの雄と雌がいるだけだった。
2人の動きが激しさを増し、やがて鬼の快感が絶頂に達する。少女もそれを感知し、全てを受け止める覚悟を決める。
「くるのね……ハァ……いいよぉ、前鬼……いっぱい出してぇ……」
「うっ、うおぉぉぉぉぉ――――ッ!」
鬼が快楽の咆哮を挙げるのに合わせて、少女も絶頂に達する。2人の声が混ざり合って森に響き渡った。



しばらくして――――
「……チアキ……メザメヨ、チアキ……」
2人同時に絶頂を迎えた後、前鬼の身体の上に倒れこんだまま気を失っていた小明に「実」が呼びかける。
小明の心の奥底に響くその声に反応しゆっくりと瞼を開くと、前鬼の胸板に両腕を突いて身体を起こす。
「……「力」ハスデニワガモノトシタ……オマエノカラダヲツラヌイテイル、ソノニクボウヲヌイテモヨイゾ……」
「はい……」
どこか名残惜しそうな思いを含ませながらも、己を支配している「実」の命令に従わざるをえない。
「……んんっ……んっ!……ハァ……」
ヌチャリ、という粘っこい音を立てながら、徐々に自らの身体を前鬼から分離させていく。
その間も挿入の際に施された「実」の術が効いているのか、時折快感の吐息が漏れる。
そうして完全に前鬼の肉棒を自分の身体から抜き終わると、小明は再び地面に伸びている前鬼を跨ぐ形で立ち上がった。
コポリ、と音を立てて大きく広がってしまった膣口から、前鬼の精液が己の元いた場所に還るように糸を引いて垂れ落ちる。
小明は重力に引かれるままに垂れ落ちる精液を、お預けを食らった犬のように物欲しそうな目つきで眺めていた。
「……ワレ、カンゼンニメザメタリ……チアキヨ……コレモ、オマエノオカゲダ……」
「……はい……ありがとうございます……」「実」の労いの言葉に顔をあげ、小明は答えた。
「ダガシカシ……オマエニハマダ、ワレワレノタメニ、ハタライテモラワネバナラヌ……」
「……はい……」
今や小明の心と体を支配しているのは、胸に根付いた「憑依の実」である。
その命令に逆らうつもりなど毛頭ない。



「……イマヨリオマエハ「邪術師」トナリ、ゼンキトトモニ、ワガナカマ……「憑依の実」ノフウインヲカイホウシ、コノヨニワザワイヲモタラスノダ……」
「邪術師」とは「祓師」と相対する存在。「祓師」が呪の力を用いて現世の人々を救うために働くのに利他の存在であるのに対し、
「邪術師」は利己のためにその力を使い、この世に破壊と混乱を招こうとする霊能者たちである。
欲望の赴くままに活動する「邪術師」は、時として「憑依の実」を悪用することも厭わないが、多くの場合逆に「実」に憑りつかれて憑依獣と化してしまう。
過去に小明と前鬼が倒してきた憑依獣の中にも、そういった連中が少なからずいた。
そして今、小明自身が「祓師」から「邪術師」へと生まれ変わることを要求されている。
かつての小明であったならば、役小角の子孫として「祓師」を捨てて「邪術師」となることは、自らの命を賭けても断固拒否していたことだろう。
だが既に「憑依の実」の術中に堕ちてしまった今の小明にとっては、「邪術師」となり「実」のために奉仕することが最優先事項となってしまっている。
「サァ、チアキヨ……アラタメテ、ワレヘノチュウセイヲチカウノダ……」
「……はい……私は「邪術師」役小明……この世に災いをもたらすため……前鬼とともに「憑依の実」を集めることを……誓います……」
小明が淡々とした口調で「実」への忠誠の誓句を紡ぎ終えると、彼女の表情に変化が現れた。
「実」に支配された時の闇に満ちた瞳はそのままだが、目の下には小悪魔的というか妖艶な黒いアイシャドウのような文様が引かれた。
そしてすっかり生気の抜け落ちてしまっていた表情は、今自らに課せられた邪なる使命を果たさんと、邪悪な自信に満ち溢れている。
今ここに「邪術師」役小明が誕生した。
「クククク……ワレラガニクムベキ小角ノシソンガ「邪術師」トナリハテルトハナ……
……コレホドノワライバナシハナイ……サァ、チアキ……ソコニネテイル、マヌケナ「鬼」ヲツレテ、ワガヤボウヲハタスタメニユクガヨイ……」
「はい……さぁ前鬼。行くわよ……立ち上がりなさい……」
邪術師の「少女」は、足元に倒れている「鬼」に命ずると、ゆっくりと立ち上がった彼を従えその場を後にした……





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