長時間労働が記録された実際のタイムカードはなぜ破棄されたのか--。潮来市潮来の金属加工会社「フジ電化工業」の社員寮で08年、中国人技能実習生の蒋暁東さん(当時31歳)が死亡したことについて、鹿嶋労基署は他の記録や同僚研修生の話をもとにタイムカードの偽装を見破り、蒋さんの残業時間を特定した。同署は悪質な労災隠しの可能性があるとみている。
同署によると、蒋さんは05年12月に来日し、受け入れ団体の白帆協同組合(行方市)から同社に配属された。1年間の研修後、技能実習生として正式な雇用契約を結び、メッキ処理作業に従事していた。時給は最大約780円で、時間外労働は20時間を超えると同400円と最低賃金を下回った。しかし蒋さんは掃除やペンキ塗りなどもこなし、月最大98時間の時間外労働をしていた。
蒋さんの死亡後、同社は実際の労働時間を記録したタイムカードをシュレッダー処分した。しかし同署は夜食の購入記録や電話の通話記録に着目。蒋さんの残業を裏付けた。
一般的に外国人研修生の遺族は本国におり、労働実態を把握していないため労災申請にこぎつけることは少ない。しかし蒋さんは死亡前、中国の家族への電話で「休みが取れずつらい」と訴えていたため、昨年8月、違法な長時間労働による過労死と労災申請できた。遺族側代理人の指宿昭一弁護士によると、社長は遺族側に「たまたま体調が悪くなった」などと話し、遺族の認識と大きく食い違っていたという。
毎日新聞の取材に社長は「低賃金は同組合の所属企業の暗黙のルール。時間外労働は実習生からせがまれたもので、無理にやらせた訳ではない」と説明。「虚偽の記録は、国際研修協力機構の内規に抵触しないようにやったことで、悪意はなかった」と述べた。【岩本直紀、杣谷健太】
毎日新聞 2010年7月3日 地方版