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転落・大島帝国:SFCG資産隠し事件/下 弱みつけ込む「高金利」

 ◇自殺男性「経営もはや限界」

 「父のこの様な状況、許して下さい。子供達(たち)の事を思い、ここまで来ましたが、選択肢は無くなりました」

 07年6月、横浜市で自動車部品設計会社を経営する男性(当時52歳)が会社事務所で首つり自殺した。男性は商工ローン大手「SFCG」から事業資金として約800万円の融資を受けていた。

 妻(52)と社会人の長女、大学生の次女と三女の5人家族だった。家族にあてた遺書には、人件費が安い中国に仕事を奪われ「会社の経営がもはや限界」になったと記されていた。月30万円以上の借金の返済も重荷だったという。借金は男性の生命保険金の一部で返済した。後に妻らが弁護士に相談したところ、違法な過払い利息が64万円あったことが分かり、民事訴訟で取り戻した。

 妻は「夫は支払う必要のない借金の返済に苦しみ、自殺に追い込まれたのだと思う。資金繰りに苦しむ中小企業の弱みにつけ込んで商売をしながら、自分が窮地に陥ると資産隠しをするような会社は許せない」と憤る。

     ■

 SFCGは、信用力が低いため銀行や信用金庫から融資を受けられない中小・零細企業を対象に出資法の上限金利(29・2%)と利息制限法の上限金利(15~20%)の間の「グレーゾーン金利」で融資してきた。元幹部は「創業した中小企業のうち、5年間生き残る会社は5%あるかどうか。貸し倒れリスクが大きいのだから、高い利息を取るのは当然」と言い切る。「うちの金は塩水。飲めば飲むほどのどが渇く」。元社員は先輩からこう言い聞かされていた。

 「怒鳴って取り立てるのは時間の無駄。相手の弱みにつけ込め」。元社長の大島健伸容疑者(62)の指示のもと、債務者や保証人に約束手形を振り出させ、返済が滞ると給与などを差し押さえる手形訴訟を乱発した。東証1部に上場後、経営が好調だった02年当時には、東京地裁が受理した1881件の手形訴訟の約8割がSFCG関連で、東京地裁から「本来の趣旨と異なる」と提訴を自粛要請されるほどだった。

 だが、06年に成立した改正貸金業法でグレーゾーン金利が撤廃されると借り手から過払い利息の返還訴訟を起こされ、経営に行き詰まる。大島容疑者は周囲に「なぜ貸した金の半分を返さねばならないんだ。おかしい」と憤っていたという。

 大島容疑者が創業前に修業した商工ローン大手「日栄」(現ロプロ)も法的整理に追い込まれた。商工ローンはグレーゾーン金利に咲いたあだ花だったのか。経済ジャーナリストの須田慎一郎氏は「日本の金融市場は貸出金利が比較的低い銀行と30%近い商工ローンの間を埋めるミドルリスク・ミドルリターンの部分の整備が不十分だった。中小企業が資金調達できる仕組みを国が作る必要がある」と指摘する。

     ■

 「大島帝国」を転落に追い込んだ06年の貸金業法改正。くしくも改正法が完全施行された18日、大島容疑者らは民事再生法違反(詐欺再生)容疑などで送検された。(この連載は佐々木洋、内橋寿明、前谷宏、樋岡徹也、酒井祥宏、川崎桂吾が担当しました)

毎日新聞 2010年6月19日 東京朝刊

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