事件・事故・裁判

文字サイズ変更
はてなブックマークに登録
Yahoo!ブックマークに登録
Buzzurlブックマークに登録
livedoor Clipに登録
この記事を印刷

転落・大島帝国:SFCG資産隠し事件/上 元社長、夢見た大富豪

 東京都内有数の高級住宅地・渋谷区松濤。16日午前10時前、商工ローン大手「SFCG」元社長の大島健伸容疑者(62)は敷地約1500平方メートルの豪邸で警視庁の捜査員に任意同行を求められ、捜査車両に乗り込んだ。周辺に「2010年には社員3万人を擁する国際コンツェルンの総帥になる」と豪語していた大島容疑者。くしくもその年、資産隠しの疑いで逮捕された。一代でSFCGを商工ローン業界トップクラスに育て上げたカリスマの転落の軌跡を追う。

 ◇「ロスチャイルドになる」 複雑資金操作「絶対逮捕されぬ」

 大島容疑者は1948年に大阪府豊中市で生まれ、2歳の時にバラックの店舗が軒を連ねる東京・上野のアメ横に家族で移り住んだ。近所の住民によると、父はダンスホールやジャズ喫茶などの経営で財をなした。そんな父の背中を見て、幼いころから事業家としての成功を思い描いた。目指すは「ロスチャイルドのような国際的な大富豪」。欧州のユダヤ系大財閥のことだ。

 社内向け自叙伝によると、大島容疑者は慶応大商学部を首席で卒業後、三井物産に入社。7年で退社した後、商工ローンの先駆け「日栄」(現ロプロ)で約1年半、貸金のイロハを学び、78年に30歳でSFCGの前身「商工ファンド」を創業した。周囲には「イメージは悪いが需要は多い。業界にはガリバーがいないからナンバーワンになれる」と語っていた。

 「成功が得られるならたとえ胃袋を半分取ってもいい、手や足の指を一本失ってもいい」と死に物狂いで働いたという。ターゲットは銀行の貸し渋りで資金調達に困る中小企業。返済が滞ると連帯保証人から回収し、手形訴訟で資産を差し押さえる手法で成長を続け、5人でスタートした零細企業は99年、東証1部上場を果たす。

管財人への引き渡しが決定されたSFCGの大島健伸元社長宅=東京都渋谷区で2009年5月21日、本社ヘリから三浦博之撮影
管財人への引き渡しが決定されたSFCGの大島健伸元社長宅=東京都渋谷区で2009年5月21日、本社ヘリから三浦博之撮影

 豪邸に専属シェフを雇い、4000万円は下らない独製高級車「マイバッハ」を乗り回す大島容疑者。98年には米経済誌「フォーブス」の世界長者番付に資産総額2520億円で174位に入った。

 一方で99年、強引な取り立てと過剰融資が問題化し、国会で証人喚問された際は「法律を順守している。あくどいと言われるのは心外」などと強弁した。その後世界的金融危機の影響で経営は急激に悪化、大島容疑者は09年2月に社長を退き、SFCGの民事再生法適用を申請。これが逮捕への序章となった。

    ■

 「すごい頭脳。確たる容疑を捜すことは予想以上に困難だった」。捜査員は振り返る。

 破産管財人が指摘したSFCGから親族会社7社への資産流出額は約2670億円。警視庁はこの1年、経営破綻(はたん)直前に行われた複雑な資金の流れを分析したが、ほとんどが貸借で妥当な取引と言い逃れできるものだった。約300億円が流れた会社に捜査の照準を定めた途端、この会社が破産管財人に資金を返還し、捜査方針の変更を余儀なくされたこともあった。

 「悪いことをしたとは思っていない。反論できる状態じゃないから、今は静かにしている」「おれは絶対に逮捕されない」。大島容疑者は逮捕前、元側近に自信を示していた。

毎日新聞 2010年6月17日 東京朝刊

PR情報

事件・事故・裁判 アーカイブ一覧

 

おすすめ情報

注目ブランド