「君はシロアリ社員だ」「この窓から飛び降りろ」。東京・日本橋のSFCG本社会議室。部課長らが融資実績を報告する「朝会」で元社長の大島健伸容疑者(62)が融資や債権回収のノルマを達成できない店舗責任者に罵声(ばせい)を浴びせる。こうした光景は日常的だった。
大島容疑者は部下が徹夜で作成した報告資料を自宅にファクスさせ朝会までに読み込み、内容に不満があると容赦なくペットボトルやコーヒー皿を投げつけた。元幹部は証言する。「思い通りにならないと気が済まない。まさに独裁者。朝会でなじられたことを苦に自殺した社員もいた」
大島容疑者は社員に厳しいノルマを課す一方で、達成者は優遇した。新規顧客を毎月10件獲得した社員は店長に昇格させ、20万円弱の月給を一気に倍増させた。空手が趣味で、目標を達成した社員を「ブラックベルト(黒帯)」と呼び、報奨金とポストを与えた。30代で役員に昇進する社員も少なくなかった。
社員はノルマ達成のために過剰融資に走った。元社員は「融資残高を伸ばすために、300万円までしか返済能力がない人に800万円を融資した」と振り返る。元部長は「ひどい仕打ちを受けても、統率力や頭の回転の速さでかなわないと思わせるカリスマ性があった」と話す。
大島容疑者の強烈なリーダーシップでSFCGは経営を拡大。95年に全国100店舗を達成すると、3年後にはさらに倍増する。08年7月期決算で、グループ会社は約70社に膨らみ、社員約1620人、営業利益1364億円にまで成長した。
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順風満帆の経営に暗雲が垂れこめたのは08年。資金の主要調達先だった米大手証券会社「リーマン・ブラザーズ」から資金を回収され、同9月末の預金残高は約19億円にまで落ち込んだ。地方税などの支払いさえ困難になり、返済期日が来ていない債権を強引に回収しようと約4万人の借り手に一括返済を求める文書を送った。
このころの手書きの指示文書がある。「債務者を生かさず殺さずの状態で回収」「来週を目途に300億円を弾出しせよ」。担保物件を売却して現金化しろという指示だ。差出人は「社長」。だが業績は改善しなかった。
追いつめられた大島容疑者は民事再生法の適用を申請する1カ月前の09年1月中旬、幹部数人を社長室に招集した。幹部が「打開策は一つだけ。自社株を担保に金を借りるしかない」と進言すると、大島容疑者はすんなり了承した。幹部は「社長は会社を見限った」と確信したという。
大島容疑者の社員向け自叙伝には「私が遠大なコンツェルン構想を描くのは、後進の人たちに『美田』を残したいから」と記されている。最後まで資金繰りに奔走した元幹部はつぶやく。「結局、社長が信用していたのは親族だけだった。SFCGは大島社長の完全な独裁帝国だった」
毎日新聞 2010年6月18日 東京朝刊