2010年5月6日 23時55分 更新:5月7日 0時56分
ギリシャ危機が世界同時株安にまで至ったのは、市場が「ユーロ圏諸国が、他国を救済する政治的意思に欠けている」(欧州系金融大手エコノミスト)と見透かしたためだ。各国政府の対応が後手に回る中、ギリシャ危機は、まずポルトガル、スペインなど他の欧州諸国に飛び火。さらに世界各国の株式市場を急落させたことで、今後、世界的な景気回復にも影を落とす、との懸念が強まっている。【清水憲司、大久保渉、ロンドン会川晴之】
欧州連合(EU)のファンロンパウ大統領は「根拠のないうわさで市場が理性を失っている」と述べるなど、沈静化に躍起だが、6日の市場でもギリシャ国債などが売られ、信用不安の封じ込めは図れていない。
ギリシャは、14年までの5年間で財政赤字を国内総生産(GDP)比で11%削減する厳しい計画をまとめた。だが、5日にはデモによる騒乱で3人の死者が出るなど国民の反発は激しく、計画の実現が危ぶまれている。
市場は、債権者がギリシャ国債の一部を放棄する債務再編案などの追加策実施を求め、各国の金融機関が3~5割の債権カットに応じなければ、計画達成は難しいとの見方も出ている。米格付け会社スタンダード・アンド・プアーズ(S&P)は先週、ギリシャ国債を投機的水準である「BBプラス」に格下げしたが、これは債権回収率が3~5割にとどまる水準を意味する。債権放棄を迫られた場合、発行額の4分の1を保有するギリシャだけでなく、750億ドル(約7兆円)を保有するフランス、450億ドルを保有するドイツなど、欧州の金融機関は大きな打撃を受ける。各国は新たな金融救済策を迫られる可能性もあり、市場の混乱を増幅する一因となっている。
ユーロ圏諸国(16カ国)は2月11日の首脳会合で、ギリシャ支援で一致したが、支援決定に2カ月半の時間を要した。欧州中央銀行(ECB)のトリシェ総裁は6日の会見で、「ポルトガル、スペインは、ギリシャとは同じではない」と述べ、市場の動きをけん制した。しかし、実際の支援までにさらに時間がかかれば、ポルトガルやスペインの国債なども売り込まれ、欧州信用不安が一層高まりかねない。
ユーロ圏議長のユンケル・ルクセンブルク首相は、2日の会見で「私もしびれを切らしかけたが、文化や、手続きの違いがある」と、地方選を控えたドイツなどの国内手続きに配慮したとの考えを示す。
日経平均株価が6日、前週末比361円安と今年最大の下げ幅となり、世界同時株安の様相を見せ、アジア各国の市場からは「もはやギリシャ一国の問題ではなく、事態収拾のめどが立たない」(ニッセイ基礎研究所の矢嶋康次氏)との悲鳴が上がった。企業業績の回復を受け、楽観ムードが漂っていた株式市場では「調整局面に入った」(アナリスト)との見方が強まっている。
ギリシャより経済規模が大きいスペインなどに危機が波及すれば、「ユーロがさらに下落し、ユーロ危機の可能性が高まる」(三菱UFJ信託銀行の酒井聡彦氏)。
日米の企業にとっても、「新興国市場で不利に働く」(矢嶋氏)ことから、業績の押し下げ要因となる。このため、欧州の危機が、世界経済の後退につながる恐れも指摘されている。
金融市場の不安心理の高まりから、欧州域内では、ギリシャやポルトガルの国債が売られ、価格が下落(利回りは上昇)する一方で、ドイツ国債の価格が上昇するなど、安全資産を購入する「質への逃避」の動きが強まっている。
欧州域外でも株から国債に資金が流れた。6日の東京債券市場では長期金利の指標となる新発10年債の利回りが一時1.25%に低下。5日の米国市場でも一時3.5%を割り込み、それぞれ約4カ月半ぶりの水準に低下。6日の市場でも欧米の株式市場が下落する一方で、国債が買われる展開が目立っている。さらに金の価格も一時、上昇するなど、投資家がリスクを回避する動きは今後も続きそうだ。
市場では、「大幅株安の要因は従来の楽観ムードが修正されたため。日米の経済指標は改善し、新興国経済も好調」(みずほ証券の瀬川剛氏)との楽観的な見方もあるが、「財政赤字が大きい米英に危機が波及するのが最悪のシナリオ」(アナリスト)との強い警戒の声もぬぐえない。