2010年5月6日 21時22分 更新:5月7日 1時33分
財政危機からの脱却を図る政府の緊縮財政に抗議するゼネストで3人が死亡したギリシャ。ストから一夜明けた6日、ギリシャ発の信用不安は世界を駆けめぐり、ユーロが売り込まれて、日本などの株価が急落した。ギリシャ議会は財政再建関連法案を可決したが、混乱が長引けば、市場で動揺が拡大しかねない。
「こんな事が起きるなんて、もうここはギリシャじゃない」ーー。デモ隊の一部過激派による放火で行員3人が死亡したアテネ中心街の銀行では6日朝、焼け跡で鑑識作業が続いていた。ビルを取り囲んだアテネ市民は一様に暗い表情で怒りと困惑を口にしていた。当局は同日、市内で厳戒態勢を敷いた。
銀行正面の事務所で働く労働省職員イレーネ・パパスさん(32)は「私と同じせいぜい月800ユーロ(約9万6000円)ほどの薄給の人がなぜ殺されなくてはならないのか」と沈んだ表情だった。
死亡したのは妊婦を含む女性2人と男性1人でみな30代。デモに乗じて騒乱を広げる黒覆面の極左勢力への怒りもあるが、パパスさんは社会的・政治的な背景に矛先を向けた。
ギリシャは戦後政治のトップをパパンドレウ、カラマンリス両家が交互に握り、数十のファミリーが経済的特権を維持してきた。貧富の格差が大きいところに、国民は増税と歳出削減を強いられる。
財政危機は、昨年10月に就任したパパンドレウ首相がデータを精査して発覚。09年の財政赤字見通しが国内総生産(GDP)比で3.7%から12.7%に跳ね上がった。金融危機後の不況に苦しんできた大半の国民には「寝耳に水」。「国民の多くはなぜこんな事態になったのかわかっていない。物価高と給与削減で生活は悪化し、社会そのものを変えなければという声が強まってきた」とアテネの出版社勤務、アキレス・モルディティスさん(45)は不満をぶつける。
政府は昨年末から3回にわたって財政再建策を発表し、付加価値税(日本の消費税に相当)引き上げや酒・たばこ増税、公務員給与凍結など3年間で赤字300億ユーロ(約3兆6000億円)を削減する計画を打ち出した。財政再建は、ユーロ圏諸国(16カ国)と国際通貨基金(IMF)の大規模支援(3年間で総額1100億ユーロ)を受ける前提だからだ。
財政危機でギリシャ国債が急落し、市場からの資金調達が困難になって、国債の償還不能(デフォルト)の恐れが高まった。ギリシャ財政が破綻(はたん)すれば、景気低迷で巨額財政赤字を抱えるポルトガルやスペインにも信用不安が波及し、ギリシャが加盟するユーロの信用も失墜しかねない。
ユーロ圏とIMFはギリシャ危機が欧州全体に連鎖することを警戒。ただ、ギリシャは脱税などの「闇経済」規模がGDP比で推定25%に上るとされ、負担を迫られるドイツなどは「放漫財政が危機の原因」と主張し、財政再建を強く求めた。
支援の調整が手間取る中、4月下旬には、欧州連合(EU)統計局が「(実際の)ギリシャの09年の財政赤字はGDP比で13.6%に上り、さらに0.5%増える可能性がある」と発表。米スタンダード・アンド・プアーズはギリシャ国債を投機的水準に引き下げ、ポルトガル国債も格下げした。ギリシャの財政再建策を受け、ユーロ圏諸国とIMFは今月2日に支援を決めたが、市場では「ギリシャはデフォルトを回避できるのか」との疑念がくすぶり、「局面はギリシャ危機からユーロ危機に変わった」との見方が広がった。
ギリシャ議会は6日、財政再建の関連法案を採決する方針で、パパンドレウ首相は「(法案が通らなければ)国が破産するだけだ」と理解を求めた。支援を正式承認する7日のユーロ圏首脳会合までにギリシャは法案通過を目指しているが、信用不安がユーロ圏全体に広がる中、ギリシャ支援策だけでは市場の混乱に歯止めがかけられる保証はない。【アテネ藤原章生、ロンドン会川晴之】