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[18212] それいけ麻帆良報道部!(習作・ネギま・オリ主)
Name: ネルス◆b86a5590 ID:184a083d
Date: 2010/04/19 01:21
 どうも、はじめまして。

 ネット上に多々あるネギまSS。しかし、筆者の好きなキャラとのカップリングがあまりにも少ない。それで、無いなら自分で書いてしまおう、と思った次第です。

 以下、注意事項。

 ・筆者はマイナーキャラによるハーレムを目指しています。ですのでアスナやせっちゃん、エヴァ等といったキャラとのカップリングはないです。

 ・とりあえず今のところのヒロインは朝倉和美、早乙女ハルナの二人です。

 ・筆者は初心者ですので、文章表現等に様々なミスがあると思います。遠慮なくご意見をください。

 ・原作改変、オリ主、オリ設定等あります。

 では、よろしくお願いします。



[18212] プロローグ1
Name: ネルス◆b86a5590 ID:184a083d
Date: 2010/04/19 01:26

 明日から麻帆良学園都市にある麻帆良中学に転校する、13歳の健全な男子、神矢秀一。だが、学園都市での新生活に胸躍らせていたはずの彼の眼前には、ありえないはずの光景が広がっていた。


 キィンキィンキィンッ!


 目の前で繰り広げられている剣戟に、秀一は呆然としていた。


 「なに…?これ…」


 そうつぶやくしかないだろう現在の状況。なんせでかい刀を持った女の人と大勢の化け物達が戦っている。漫画やアニメでしか見られなかったような世界が目の前にある。これをすんなり受け入れられるほど、秀一の頭は狂っちゃいない。


 「…見なかったことにしよう」


 (そうだ、それがいい。たしかに俺はジャーナリスト志望だ。報道部に入ろうとも思ってる。こういうネタは無視すべきじゃないかもしれない。だが、このいかにもヤバそうな雰囲気の所にいるのはまずい気がする。主に俺の命的に。)


 「危ない!」


 そう結論づけて、背を向けて去ろうとする俺に呼び掛ける声。思わず振り向く。


 「…げ」


 化け物―よくみれば式神って奴に見える―が一匹秀一に向かってきている。その手には刀、視線はまっすぐ彼をとらえ、標的がその視線の先にあることは明らかだ。

 
 (ちょ、マジかよ!どどどどうすりゃいいんだ!?先生に習った格闘技で戦うか?)

 
 秀一がもう一度式神らしきものを見てみると、暗く濁った瞳がこちらを見据えている。その目を見た瞬間、戦うという選択肢は秀一の頭からすっかり抜け落ちてしまった。

 
 (無理だ…怖すぎるぜ…)

 
 式神は俺を殺す気だ。ためらいはない。冗談なんかでもない。それがわかった時点で秀一の体はすくんでしまい、攻撃などできなくなった。

 
 式神がどんどん迫っており、同時に刀を振り上げる。暗く濁っていると思っていた瞳の奥に残忍な光が宿っているのが見えた。

 
 (あぁ、俺死ぬのか… もう少し人生満喫したかったなぁ。この学校での生活楽しみたかったし、彼女も欲しかった。死にたく…ねぇなぁ…)

 
 「伏せなさい!」

 
 バッ!

 
 その声に導かれるかのように、秀一は体を伏せる。一瞬後にその頭上を剣閃がかすめていく。声がなければ、恐怖におびえすくんでいた彼の体は真っ二つになっていただろう。まさに間一髪だった。

 
 「そのまま伏せていなさい!神鳴流奥義、斬空閃!」

 
 当然のごとく秀一はその声に従う。一瞬女に守られることに男としてのプライドが頭をかすめたが、背に腹は代えられない。最近の女性は強いっていうし、俺なんて足手まとい以前の問題だろう。秀一の考えはこうであった。

 
 そうして伏せていることしばらくの後…

 
 「もう立ち上がっていいですよ。式神はすべて倒しましたから。」

 
 「あ、ありがとうございます。え、えーと…」

 
 「葛葉です。葛葉刀子。あなたは見たところ生徒のようですが、どうしてここに?」

 
 「俺…僕は転校してきて今日ここの寮に入居してきたんです。それで学園都市の中を散歩してたら迷っちゃって、いつのまにかここに… って、それよりさっきの奴らなんですか!?僕の見間違いとかじゃあないですよね?」

 
 女性…葛葉刀子は気が動転していた。西の刺客らしきものが召喚した式神と戦い始めたところまでは良かった。だが、どこから入りこんだのかその場を生徒に見られてしまった。これは本来はありえないことだ。普通学園では裏のことが一般人に知られないよう、こうした有事の際には簡易結界が張られ、戦いの場に一般人が入りこめないようになっている。つまり、目の前の生徒が本当に一般人であるなら、生まれつき魔法などによる結界への耐性が強いということになる。それに…

 
 (この推測が正しいかはともかくとしてひとまず学園長先生に報告しなければ…)

 
 「ちょっと待っていてくれるかしら。」

 
 「あ、はぁ…」

 
 携帯電話を取り出してどこかへ電話をかけ始めた刀子を見ながら、秀一は先ほどまでのことについて考えをめぐらせていた。

 
 正直、さっきまでのことは夢だと信じたい。あんな化物が現実にいたってことも、その化物たちと普通に戦える人がいるってことも昨日までは考えられなかったことばかりだ。

 
 (あんな漫画みたいなことがホントにあったなんて…)

 
 さっきまで恐怖で震えていたはずの彼の体は、今度は違った意味で震えていた。

 
 (あいつら…なんだったんだ…?外見は鬼みたいな奴らだったけど… ヤバイ、さっきまで死にかけてたってのにワクワクしてるぜ、俺…)

 
 秀一は普通の中学生と比較してもかなり好奇心が強い方だった。そのため、先程の死の恐怖よりも、見た光景への興味が増してきていた。あの鬼や式神みたいな化物はなんなのか。そいつらを簡単に倒せる目の前の女性は一体何者なのか。そして、さっきまでの光景が夢じゃないとすれば、今まで自分が過ごしてきた現実はなんだったのか。秀一の興味は尽きなかった。

 
 「神矢君、電話は終わったわ。ついてきて。」

 
 「…あ、はい!」

 
 この人についていけば、少しはこれらの答えがわかるのだろうか。そう思いながら秀一は葛葉刀子の後に従った。





[18212] プロローグ2
Name: ネルス◆b86a5590 ID:184a083d
Date: 2010/04/20 01:23
 
「フム…君が葛葉先生が電話で言っていた神矢君かの。…おや、明日から転入じゃったのか。」
 

「はい。明日から麻帆良中学二年B組に編入する予定の神矢秀一です。」


 麻帆良学園都市のトップである学園長室には、いま四人の人間が集まっていた。


 この部屋の主である近衛近右衛門。生徒資料をめくり、秀一のページを興味深げに眺めている。先程まで戦闘しており、学園の教師でもある葛葉刀子。その刀子に連れてこられた神矢秀一。そしてもう一人…


 「学園長先生、彼の記憶を消すべきでしょうか?ただ戦っているところを見ただけならそれほど苦もなく消せるでしょうし…」


 褐色の肌に眼鏡、落ち着いた物腰。彼もこの学園の教師の一人であり、名をガンドルフィーニといった。


 「あれ?あなた明日からのうちのクラスの先生ですよね?昼に会った…え、ていうか記憶消すって何なんですか!?俺そんなヤバイもん見たんですか!?」


 そう、秀一とガンドルフィーニは面識があった。昼に転入手続きをした際に、担任の教師として紹介されたのだ。

 
「フム…ガンドルフィー二君、そう急がなくてもよいのではないかね。記憶を消すにしても、どういう事情なのか彼に聞いてからにせねば。神矢君、どういう経緯でその場所にいたんじゃ?」


 口調はほのぼのとした風であったが、目は嘘を許さないかのように、眼光鋭く秀一の方を見ていた。
 それも当然。彼には、この学園にいる全ての者を守る義務と責任がある。秀一が生徒に徒なす存在であった場合を考えているのだろう。


 「あの…昼に転入手続きをした後、寮に荷物を置いて学園内を散歩してたんです。それで…あまりに広くて迷っちゃって…」


 「フム…」


 嘘をついている様子はない。長く生きてきただけあって、学園長は相手の話が嘘かどうか、なんとなくわかる。


 また、彼の話が嘘かどうかに関わらずその内容はなかなか信憑性はあった。学園都市は広い。在学生であっても、普段行く場所以外はあまり知らないのが現状だ。まして今日初めて来たなら迷うのも仕方がない。


「嘘ではないようじゃな… では葛葉先生の話をきこうかの。」


 当然、秀一の話だけで全てを判断するのは不可能であるため学園長はもう一人の当事者の話も聞こうとする。


 「…私は、西からの刺客が学園内に入りこんだと聞いて急遽あの場に駆け付けました。刺客が召喚したであろう式神と戦い始めてすぐに彼が現れました。結界はきちんと張られていたはずなのですが…」


 「それは間違いないの、結界に不備があればワシにもわかる。しかしそうなるとこの子自身の力としか思えぬな。神矢君、書類には両親のことが書かれておらんが?…あぁそんなに気を張らなくてもよいぞ。楽にしてくれてかまわん。君に危害を加えることはしないからの」


 転校前日に大変なことに巻き込まれ記憶を消すとまで言われ、秀一はパニックになっていた。そのため先程から緊張でいたたまれなくなっていたのだが、学園長の言葉で安心したのか相好を崩している。冷静に考えれば記憶を消すことができる時点で非現実的な話なのだが、秀一はそのことには気づかなかった。


 「あの俺両親いないんです。物心ついた頃にはもう保育所に預けられていて、今までそこの先生に育ててもらっていたんです。」


 「!…なるほど、それはすまんことを聞いたの、許してくれ」


 「学園長これはもしかして…」


 ガンドルフィーニがなにかに気付いたかのように学園長に言う。
 実は立派な魔法使い(マギステル・マギ)の子供が保育所育ちというのは珍しい話ではなかった。彼らはその性質上世界中を飛び回るので、両親ともに魔法使いだった場合子供を育てるのは非常に困難となる。縁者も仲間であったり、敵対しているものに狙われたりと安全な場所は少ない。そのため子供を保育所等自らとかかわりのない所に預けることがあった。
 ガンドルフィーニは、秀一もまたそういった子で両親は仕事中に亡くなったのでは、と考えたのだ。


 「たしかにそれならば辻褄はあいます。学園長先生、式神に襲われた時彼には金縛りがかかっていたはずなんです。まあ下級の式神でしたので効力自体は大したものではありませんでしたが、それでも術です。それを彼は無理矢理はじいた。私の言葉がきっかけだったとしても、魔法使いの子ならばうなづける話です。結界を通れたのもそのせいでしょう」


 さらに刀子もこの考えに同調する。秀一が式神を前にして動けなかったのは恐怖で震えていただけではなかったのだ。


 「その可能性が高いの。しかしこの場合どうするかの。記憶を消したところでまた同じことになりそうじゃが…」


 「いたしかたありませんが、彼には最低限身を守るくらいの力をつけさせた方がいいかもしれません。結界を破るくらいの力をすでに持っているのです。放置しておくには彼が危険すぎる。平穏に暮らしてほしいと願ったであろう彼の両親の思いには反するかもしれませんが…」


 ガンドルフィーニは苦しげな声で言う。彼にも子供がいるがその子に魔法のことは教えていない。昔の、戦争の時代とは違う。今を平和に生きてほしいという彼なりの親心であった。そのため、秀一の両親の気持ちはよくわかる。しかし、これほどの力を持つ者が無事に暮らしていけないのもまた事実。ガンドルフィーニにとって苦渋の決断であった。


 「それしかないかの」
 「えぇ、そうですね」


 ほかの二人も同調する。一方何も理解してないのは当の秀一だけだったので、当然疑問だらけである。


 「ちょ、ちょっと待ってください。どういうことですか!?魔法とか結界とか…俺の両親について知ってるんですか!?」


 「まあ神矢君落ち着きなさい。今から説明しよう。…まず大本の話からいくが、この世界には魔法というものがあるんだ」


 「…へ?」


 秀一はそれから二時間近くかけて説明を受けた。世界には魔法があるという事実、そしてそれは一般人には秘匿とされていること、麻帆良は関東魔法協会という組織の拠点であり学園長はそのトップであること、関西呪術協会という組織と敵対していて式神はその刺客が召喚したものだということ等様々な真実を知った。


 「マジか…この現実にそんな裏があったなんて…!」


 秀一は興奮のあまり声を震わせていた。元々頭はやわらかいし良い方だ。理解してしまえば、裏のことについて好奇心がどんどんあふれてきていた。しかし、そんな秀一の心境を見透かしたかのように学園長が秀一に話しかける。


 「知りたいことがあるならまた今度じゃな、今夜はもう遅すぎる。子供は寝る時間じゃ。君は明日から授業じゃしの。」


 「あ…はぁ…」


 「それと君には身を守れるようになってもらうために、ガンドルフィーニ君に戦いを教えてもらうことになった。君には迷惑な話かもしれんが申し訳ないの。」


 「いや、とんでもないですよ。迷惑かけたのはこっちなのにわざわざ強くしてもらえるなんて… よろしくお願いします、ガンドルフィーニ先生。」


 握手をする秀一とガンドルフィーニ。後者はいまだ迷っていたが秀一の態度にほだされたようだ。秀一を鍛える決心をした。


 一方秀一は強くしてもらえることになんの不満もなかった。やはり子供なのだから強さに憧れはあるし、自分の好奇心を満たすためにも護身術の心得は必要だ。握手をしながら、秀一は期待に胸を膨らませて自分の未来を思い描いていた。



 後書き
 前回は忘れてましたが、一応原作開始二年前です。ネギが来る前にある程度強くしておかないと…

 モリヤーマッ!さん感想ありがとうございます。
 パルって不人気とは知りませんでした。でもああいうキャラのかわいいところを見てみたいなーと思いまして笑



[18212] 第一話
Name: ネルス◆b86a5590 ID:184a083d
Date: 2010/04/24 00:25
 「先生、秀一のこと頼むよ」


 「あぁ、私にできる限りのことはしよう。ただ…いいのか本当に?やはり子供は生みの親が育てるものだと思うが…」


 「もう決めたんだ。あのバカの知り合いの一人として俺を憎んでる奴は多い。ここの方が安全だ。それに…一人になっちまったからな…」


 小さな部屋、二人の男がいて一人の男は2歳くらいの男の子を連れている。黒髪に優しげなまなざし、成長すれば隣に立つ男のようになるであろうことは想像に難くなかった。


 「…そうか。よし、あずかろう。だが、死ぬんじゃないぞ?あくまであずかるだけだ。この子を親のいない子にしたら、私がお前を殺しに行くぞ」


 「ハハッ、俺の敵より先生の方が何倍も怖い。心配しなくても身の分別くらいわきまえてるさ。ほどほどにやるよ。あとこれ、秀一がもしも知ってしまった時は渡してくれ」


 「これは…!あぁ、わかった」


 人懐っこそうな笑みを浮かべその男は去っていった。ある晴れた、夏の日のことだった。






 ジリリリリッ、ジリリリリッ


 目覚まし時計が鳴る。ベッドから身を起こしアラームをとめた秀一はさっきまで見てた夢を思い返していた。


 「さっきまでのアレは…現実にあったことなのか?だったらあれが俺の父親…?つか、先生も魔法とかの関係者かよ…」


 朝食を食べている間も考えはやまない。


 (今日からガンドルフィーニ先生が早速稽古をつけてくれるって言ってたな…学校も今日からだし、楽しみだぜ)


 もっぱらその内容はこれからの生活のことに向けられていたが。夢についてはまた後にして、今は目先のことに考えを向けることにしたらしい。





 「今日からここ二年B組に編入することになった神矢秀一君だ。神矢君、あいさつを。」


 「どうも、神矢秀一です。今日からよろしくお願いします」


 パチパチパチパチ。教室のあちこちから拍手が起きる。
 「よろしくー」
 「中武研に入ろう!」


 様々な声が聞こえてくる。歓迎されているようだ。そうわかっただけでも秀一にとっては喜びだった。転校するのに大きな期待とともに不安もあったのだ。しかしその不安はどんどん心の中から消えていった。一安心である。


 「よろし…く?」


 案内された席に着く際、隣の人に声をかけた秀一だったが、その人物を見て戸惑いの声を上げる。無理もない。その人物は今時珍しく学ランのボタンを上までとめ、胸には喧嘩殺法の文字、極めつけはリーゼントだ。外見的には関わりたくない部類の人間である。


 「おう!よろしく神矢。俺はケンカ10段豪徳寺薫だ。ガム食うか?」


 「あ、ありがと(悪い奴じゃなさそうだけどツッコミ所が多すぎる…なんだよケンカ10段って…)」


 「ん…お前デキるな。たたずまいでわかるぜ。俺の仲間と一緒に放課後練習しないか?麻帆良武術研究会って部活なんだが…」


 「たたずまいって… ごめん、放課後は報道部を見に行きたいし、そのあとガンドルフィーニ先生に用事があるんだ。また今度な」


 「あぁ、興味があったら是非来てくれ。一人やめて人数が足りなくなっているんだ」


放課後、秀一は報道部に向かう廊下を歩いていた。正直豪徳寺に誘われた武術研究会にも興味はあったが、元々入るつもりだった報道部を優先したのだ。
 兼部できるなら考えてみよう、そう思いながら報道部の部室をノックすると、中から
 「どうぞ」
 との声があったので入ってみると


 「ようこそ、神矢秀一くん。ここへは入部希望で来たのかな?」


 そこにいたのは眼鏡をかけた優しそうな外見をした青年。椅子に腰掛けこちらの様子をうかがっていた。


 「はい、そうですけど…どうして俺の名前を?」


 「君はここをどこだと思っているんだい?麻帆良中の情報が集まる報道部だよ。転校生の情報は昨日から入手済みさ。ちなみに僕は吉田、一応大学部でここの部長をやらせてもらっている」


 「はー、流石報道部って感じですね…」


 感心しながらも秀一は部室の中を見渡す。しかし部屋の中には二人を除いて人はいないようだ。


 「あの、他の部員は?」


 「部員がここに来ることは滅多にないんだ。報道部は大きくわけて突撃斑と編集斑の二つに分かれているんだけどね。突撃斑は取材でしょっちゅう外に行ってるし、編集斑も自前のパソコンに集めた情報を部室のパソコンに送る仕組みだからね。新聞をつくる時くらいだよ、皆が部室に集まるのは」


 報道部は中学部から大学部の人間が所属する、麻帆良の中でもかなり大きな団体だ。入部時に二つの班のどちらに入るか決め、以後の活動をする。同時に、二人以上の組を作り協力して情報を集めていく。それが基本スタイルだった。


 「とりあえず君には僕と組んでもらおう。今年の新入部員はもう皆チームを組んでしまっているからね。明後日までになんでもいいからネタを持ってきてくれ。どんなつまらないものでもいい」


 「任せてください。特大スクープを持ってきますよ」


 やる気に満ちた表情をした秀一を見送りながら吉田部長は口元に微笑みを浮かべていた。





 「さて…今日から君は私と修業してもらうことになるが、格闘技の経験はあるかい?」


 世界樹広場の前、秀一はガンドルフィー二と共にここに来ていた。報道部への顔見せが終わってからといってもまだ日暮れには時間があった。


 「一応保育所の先生が格闘技を教えてくれました。昨日は全く使い物にならなかったけど…」


 「フム。それなら体重移動など基本は教えなくても平気かな」
「た、たぶん…」


 「ではまず、気と魔力について説明しようか」
 

 ガンドルフィー二は、気は体内の生命力を活性化させたものであり、それに対し魔力は自然界のエネルギーを自らに取り込んだもので裏の戦闘ではあつかえることが必須技能だと説明した。


 「君は好奇心をおさえられる性格ではなさそうだ。また危険な目にあうかもしれないし、はやく強くなれるだろう気を先に鍛えることをオススメするよ。」


 たしかに、秀一は裏のことを知ったからには見て見ぬふりをする事はできなかったし、はやく強くなれる事に異議はなかった。


 「でも、なんで気の方が魔法よりはやく強くなれるんですか?」


 しかし当然疑問はあった。秀一はまだ中学生。正直ゲームでよくみる魔法を使ってみたい気持ちも当然ある。

 「神矢君、君が格闘技をやっているからだよ。すでに言ったことからわかると思うが気は体力、つまり体術と相性がいい。今から身につけるには気の方が楽だろう。それに、魔法は一種の学問体系をなしている。基礎からやらなければならないから時間がかかるんだ。まあどちらの力も精神集中を必要とする点では同じなんだけどね」


 そう聞いては秀一に反論する隙はなかった。


 (魔法をやるには、さっさと強くなんないといけないってことか… よし!)


 「大体の君の強さを知っておきたい。かかってきなさい。」


 気合いを入れ直した秀一に向かってガンドルフィー二が話しかける。すでに構えをとり目は真剣なものとなっている。


 「はい!」
 
 当然秀一も構える。短距離走のスタンディングスタートをさらに前傾にしたような構えだ。


 (見たことのない構えだな。これでは下に視線が集中しすぎて敵の攻撃に対処し辛い気がするが…)


 そんなことを考えている間に秀一は踏み込んで攻撃をしかけてくる。
下段からのアッパー気味の攻撃。


 (はやい!…だが、隙が大きい!)


 ガンドルフィー二は頭を横にずらし、最小限の動きで攻撃をかわす。同時に振り下ろしの右をくりだす。


 (よし、かかった!)
 
 秀一はよけられた右拳を開き、ガンドルフィー二の頭を掴み引き寄せようと、右腕を戻す。


 「甘い!」
 「なっ…」

 
 しかし、それすらも屈んでかわすガンドルフィー二。
 秀一が驚いている間に、ガンドルフィー二の手は目の前にあり、次の瞬間秀一の体は地面の上に横たえられていた。


 「大丈夫かい?」


 「イテテッ…ありがとうございます。やっぱり強いですね、ガンドルフィーニ先生は」


 「いや、君も中学生にしてはかなりの腕だ。ただ気になったのは、さっきの体術は本来武器を持ってやるものじゃないのかい?二撃目は相手の頭をつかむのではなくそのまま相手の首を攻撃する技だろう」


 「…そうなんですか?」


 「気づいてなかったのかい。おそらく本来はナイフを使うのだろう。私もナイフは愛用していてね。うまい使い方を教えられそうだよ」


 そう言って自らのナイフを手渡してくるガンドルフィーニ。自分と同じ武器を使うからだろうか、嬉しそうだ。それも当然、学園都市にいる魔法教師はほとんどが遠距離からの攻撃を得意とする魔法使いだ。高畑・T・タカミチのような者もいるが、彼は単純に自らの拳のみで戦う。そんななかガンドルフィーニのようにナイフと銃を使った戦闘術は傭兵のようでマイナーなのだ。やっと仲間を見つけた心境なのだろう。


 「よし、それじゃあ気を扱うのに必要な精神集中のやり方を教えて今日は終わりにしよう。もう遅いしね」


 「はい!」


 こうして秀一の麻帆良学園初日は終わりを告げた。



 後書き
 色々とオリ設定ありますがご了承ください。

 良さん
 感想ありがとうございます。自分でも無謀だと思いながらもやってみました。もう止まれません。やっぱり似てますよね、あの二人。
 
 daiさん
 感想ありがとうございます。僕も見てみたいです。
 だけど筆者の筆力で二人をかわいくできるか心配(笑)



[18212] 第二話
Name: ネルス◆b86a5590 ID:184a083d
Date: 2010/04/30 02:02
 「オラァァァッ!」
 「なんのまだまだぁ!」


 交わされる拳と拳、飛び散る汗、燃える闘魂。そう、俺はいま漢達の魂燃え立つ中学校舎裏庭に…


 「って裏庭!?お前らなんでこんなとこで練習してんの?」


 驚きとともに秀一は言葉を放つ。相手は目の前にいる、先程まで練習をしていた四人だ。いまは秀一の声で中断している。


 「おぉ神矢か、来てくれてありがとう。見ての通り俺達は四人しかいないからな。正式な団体登録リストから消されてしまっている。だから場所さえ満足に確保できないのが現状なんだ。皆、紹介するよ。俺のクラスの転校生、神矢秀一君だ」


その言葉でぼうけていた他の三人が、弾かれたように動き出す。

「そうか君が神矢君か、よろしく。俺は山下慶一。柔術を少しかじっている。」

「俺は大豪院ポチ。我流で拳法を学んでいる。」


「中村達也だ、よろしくな。」


一気に三人が自己紹介を始める。髪をたてているのが中村、イケメン風な男が山下、タラコ唇が大豪院と言うらしい。


「それで神矢、ここに来てくれたってことはうちに入ることに決めたのか?」


豪徳寺が嬉しそうに聞く。


「まあ…ね」


秀一が報道部の他に麻帆良武術研究会にも入ろうと思ったのには理由があった。


「君はたしかに型はよくできてるし、スピードもある。だが、動きが素直すぎる。だから、君の行動は読みやすいんだ」


昨日の修行の後ガンドルフィー二から言われた言葉だ。ガンドルフィー二によるとその素直さは実戦経験の少なさからきているらしい。実際秀一は保育所の先生以外と戦ったことはなかった。
そういうわけで秀一は経験をつむために武術研究会に入ったのだ。まあ格闘技が好きだからという理由もあるだろうが。
中武研のような大型団体に入らなかったのは、単純に武術研に誘われたからなのだろう。昨日少し話しただけだったが秀一は豪徳寺に親しみを感じていた。


「おぉ、ありがとう神矢!いや秀ちゃん!」


 「(秀ちゃん…?)いや、俺が入りたかっただけだし気にすんなよ。活動は毎日ここでやってんだよな?俺これから報道部のためのネタ探ししなきゃいけないから今度暇な時に来るよ。またな」


 「あぁ」


 見送る豪徳寺の声を背に秀一はそこを去った。彼に待っているのはネタを探しに学園都市内を歩き回ることだった。




 神矢秀一の麻帆良リポート①~高畑・T・タカミチとの邂逅~


 「剣道より柔道の方が強いだと!?てめぇもういっぺん言ってみやがれ!」


 「何度でも言ってやんよ!所詮剣さえなきゃ何も出来ない連中だろ?武器なんて必要ない柔道のが上に決まってんじゃねーか!」


 「てめぇ!」


 ネタ探しのため広場に来ていた秀一が見たものは、そこで口論している男子生徒の姿だった。どうやら柔道部と剣道部のようだ。全部で五人いる。発端はささいなことだったように思えるが、今は取っ組み合いのケンカにまで発展しようとしていた。


 「おいおい、止めないとマズイんじゃねーのか…」


 そう呟いて前に出ようとした秀一の肩をつかむ者がいた。振りかえるとそこには長身に背広姿、眼鏡をかけた男が一人立っていた。


 「ここは僕にまかせてくれ」


 そう言って謎の男は五人の方に近づいていき、声をかけた。


 「君たち、ここで騒いでたら他の人に迷惑だ。少し落ち着きなさい」


 「うるせぇ!部外者は黙ってやがれ!」
 「そうだ!これは柔道部と剣道部のケンカなんだよ!」


 まるで聞く耳を持たない。言葉で説得して止まるような奴らならこんな事態にはなっていないだろう。
謎の男もそう思ったのか、ため息をつくとさらに男達に話しかける。


「君達、僕を知らないってことは新入生かい?上級生で僕を知らない人は珍しいしね」

「何をわけわかんねぇことを…!」


業を煮やした一人が男につかみかかる。かと思ったら、ゴンッというすさまじい音と共に吹っ飛んだ。
そこから圧倒的だった。秀一が気付いた時には五人は瞬く間に男に叩き伏せられてしまっていた。

「何者だよ、あの人…」


「高畑先生を知らないって君新入生かい?学園の広域指導員の高畑・T・タカミチ、穏やかそうな物腰とは正反対に、学園でよく問題を起こす奴らには恐れられてる。デスメガネ・タカハタってあだ名があるくらいだ」


見物してたうちの一人が親切にも教えてくれる。その人によると、高畑先生は英語教師だがしょっちゅう出張に行っていて、今回も出張から帰ってきたばかりだそうだ。新入生は彼のことを知る機会に恵まれなかったというわけだ。


 「やあ君が神矢君かい?学園長から話は聞いているよ。僕は高畑・T・タカミチ、ここの教師をしている。よろしく頼むよ」


 親切な人が去っていった後秀一のもとに来たのは、他ならぬ高畑自身であった。どうやら昨夜のことは学園長に聞いているらしい。


 「どうも高畑先生」
 
「君がこちら側に関わることについて僕は反対だ」

 「なっ…!」

 「君を鍛えなきゃいけない理由は聞いた。理解はしている。けど、納得はできない。こちらの世界はそれほど単純じゃない。危険もたくさんある。僕としては生徒を大変な目に遭わせたくないんだ。そういったことをわかっていてなお、君はこちら側のことを知りたいのかい…?」


 たしかにそうだ。高畑は教師で秀一は生徒。魔法使いの子だからといって無理に魔法を教える必要はない。夜に出歩かなければいいだけだ。しかしそれでも秀一は裏の世界に関わる決心を固めていた。


 「高畑先生、俺いろんなことを知りたいんです。この世界のこと、両親のこと、魔法のこと…自分の目で見て、耳で聞いて、頭で知りたいんです。覚悟ならできてます。少なくとも自分の命を守れるくらいには強くなってみせます」


 「フッ…いい返事だ。暇な時は僕も修行をみてあげよう。じゃあ、またね」


 そう言って去っていく高畑の口元には、知らず知らずのうちに笑みが浮かんでいた。




 神矢秀一の麻帆良リポート②~図書館島~


 「おいおい、これが図書館?ウソだろ?」


 図書館島。麻帆良学園の湖に浮かぶその島は学園創設とともに建てられ、以後増築を繰り返してきた世界でも最大規模の図書館である…らしい。
 この情報は先程道を歩いていた人が教えてくれたものだ。その人はどうやら図書館探検部に属しており図書館島についてはかなり詳しいようだ。


 「で、ここにネタなんてあんのかな…」


 そう呟きつつあたりを見回してみると、さっきの探検部の人が歩き回っていたのを発見、その人に聞いてみることにした。


 「え?図書館島でネタになりそうなこと?うーんそれなら地下部分じゃないかな」


 「地上だけでも異様にでかいのに地下まであるんですかここ?」


 若干あきれながらも尋ねると、どうやら地下部こそが真の図書館島ともいうべきものであり、全容がわからない地下部を調べるために探検部があるとのことだ。一般の学生は原則的に地上部しか使用できないからあまり知られてないらしい。


 「君が行くなら僕も付き合うよ。探検部と一緒なら地下部も行けるし。何より一人で行かせるにはあそこは危なすぎる」


 「あ、ありがとうございます(危ない…?)」


 先輩(どうやら高等部の人らしい)の先導で地下部の中に行くと、危ないという言葉の意味がわかった。


 「なんでこんな罠だらけなんすか!?おかしいでしょ図書館に罠って!」


 図書館島地下三階で秀一が叫ぶ。それも当然、ここに至るまでに数々の罠を抜けてきたのだ。棚から飛び出る矢、落とし穴、スイッチを踏むと倒れてくる本棚など命の危険を感じる罠もかなりあった。さらにアクション要素も満載なためある程度の運動神経が求められるという、まさにダンジョンとでも言うべき道だった。


 「ふぅ~、こんな程度で音をあげてちゃ深部なんて夢のまた夢だぞ神矢くん」

 「どんだけキツイんですかここは…」


 深部に潜るためにはさらなる探検スキルが必要となると聞いて冷や汗を流す秀一。ひょっとして部員はみなスキルに満ち溢れた猛者ばかりなのだろうか、そうおもっていると…


 「じゃあ戻ろうか。中学生はここまでしか来れないからね」

 「え゛」


 図書館島地下部の取材は出来たものの、もうなるべくならここに来たくない、そう思った秀一であった。



 神矢秀一の麻帆良リポート③~葛葉刀子の一面~


 「神矢君ではないですか。ここで何を?」


図書館島で予想外に体力を使ってしまったため寮に帰ろうとしていた秀一が会ったのは、葛葉刀子であった。


 「あ、葛葉先生。報道部のネタ探しにちょっと図書館島に行ってきたんですけど…」

 「地下部に行って来たのですか?あそこは初めての人には少々危険かもしれませんね。疲れているように見えるのはそのせいですか」


 そう言ってクスッと笑う。その笑みに思わずドキッとして顔が赤くなってしまう。


 (この人こんな顔するんだな…)


 出会った時から冷静な態度を崩していなかった刀子の印象しか持っていなかった秀一にとって、それは驚きであった。恥ずかしさをごまかそうと取材を試みる。


 「そ、そういえば神鳴流は西との関わりが強いんですよね?なんで葛葉先生ってここにいるんですか?」

 ピシッ!
 秀一は純粋に疑問に思って聞いたのだろう。しかし、今の刀子にその質問はタブーだった。なぜなら…


 「ろ…六年前に西洋魔術師と結婚したんでこっちに移ってきたんですよ」


 できるだけ心に平静を保ちながら答える。しかしその努力も次の秀一の一言で全くの無駄となった。


 「あ、なるほど。あれ?でもそのわりには指輪してませんけど…」

 「り、離婚したんです…一月前に…」


 そう、刀子は離婚していた。秀一が来る一カ月ほど前のことだったがまだふっきれてはいないらしい。地雷を踏んだらしいことに気付いた秀一があわてて謝る。


 「すっ、すいません先生!ホントごめんなさい!」

 「いえ、いいんですよフフフ…どうせ私が悪いんですから…」


 どうやら完全に鬱状態になってしまったらしい。うつむいて黒いオーラをあたりにまき散らしながら独り言をつぶやき始めてしまった。「あの時ああしていれば…」だの「やはり西と東が相容れることなど不可能…」だの聞こえる。相当トラウマになっているようだ。


 「せ、先生大丈夫ですよ!先生みたいな綺麗な人をふる男なんて別れて正解ですよ。またいい人がきっと見つかりますって!」


 その言葉に反応したのかゆっくりと顔を上げると刀子は聞き返す。


 「ほ、本当にあるかしら、出会い…?」

 「大丈夫ですよ。俺が保障します」

 「フフッ、あなたに保障されても… でもおかげで少し元気が出たわ。慰めてくれてありがとう。じゃあまた学校でね」


 そう言って去っていく刀子先生を見送ったあと秀一も寮への帰路についた。


 (今度取材するときは地雷踏まないように気をつけよう)


 そう固く決意しながら。





 -翌日-

 「高畑先生は有名だし、他のも前に記事にしたな…でも報道部で図書館島地下三階まで行ったのは君が初めてだよ、おめでとう。うちにはそんなに運動能力ある奴がいるわけじゃないからね。図書館島で記事を作ろうか」

 「ありがとうございます、部長!」


 秀一は報道部で吉田にネタ見せをしていた。自分のネタが採用されたのがうれしかったのか顔を輝かせている。


 「じゃあ部長、今日はこれで帰ります、さよなら」

 「ああおつかれ。またね」



 去っていく秀一の姿を見ながら吉田は独りごちる。

 「トーコ先生のネタは提出しないのか…ふふっ面白い奴だな」

 そう、吉田は部員の一人に秀一の後をつけさせることで彼が集めたネタの中身はあらかじめ知っていた。これはネタそのものでなくその選び方がテストされていたのだ。スクープを持ってくると言いながら、相手の気持ちを無視しない秀一のネタ選びは吉田にかなり興味深くうつったのだろう。秀一の姿が見えなくなるまで吉田は笑みを浮かべたままだった。




 後書き
 ヒロインが全然出てくる気配がありませんねw余力があれば刀子先生をヒロイン追加にするかもしれません。
 
 daiさん、感想ありがとうございます。主人公の戦闘スタイルは一応考えてあります。あんまり派手にはならないと思いますが…



[18212] 第三話
Name: ネルス◆b86a5590 ID:184a083d
Date: 2010/05/08 01:52

「左脇のガードが甘い!」

「ぐっ!」


ここは麻帆良学園都市のとある広場、秀一とガンドルフィーニは毎朝ここでトレーニングを積んでいた。
当然認識阻害の魔法はかけてある。傍目にはただ組み手をしているだけにしか見えないが、念を入れてのことだ。


「秀一君、気の扱い方がかなり様になってきたね。覚えて一月とはとても思えないよ」


そう、神矢秀一が麻帆良学園に来てから、すでに一ヶ月が経っていた。その間毎朝の訓練でガンドルフィーニとの仲もよくなり、呼び名も秀一に変化していた。

シュッ、シュッ

秀一が腕を振る。同時に、手に握られた木製のナイフが空を切る。

「ナイフは振り回すものじゃない!もっとコンパクトに扱うんだ!」

「は、はい!」


時間の経過と同時にガンドルフィーニはナイフを使った近接戦闘術を教え始めていた。
秀一の格闘技は明らかにナイフに類する武器を持ってなされるものだとわかったからだ。
ナイフを持つとそちらに意識が向かってしまいがちになっていた秀一だったが、その癖も大分矯正されてきた。

(教え始めて一週間、気を全身に通わせて身体能力を強化するだけでなく、気によってナイフを強化することまで…)


秀一の気の操作や近接戦闘の上達速度は驚くべきものだった。純粋な格闘技術があったとはいえ、気を練ることでさえ通常なら一カ月はかかる技術であるのに一週間でそれをマスターし、今では道具の強化まで出来始めている。

(もう少しすれば下級の魔獣くらいなら相手に出来そうだな)

 弟子の才能と成長具合を改めて確認したガンドルフィーニは満足そうにうなずいていた。







 秀一の朝ははやい。ガンドルフィーニとの修行のあと朝食をとり、学校へ行く。放課後になれば、裏庭へ行き武術研究会の活動に出る。


 「それにしても秀ちゃん強くなったな。入ってきた当初とは動きのキレが違うよ、実戦的になった」

 「うんうん、単純に攻めてくるだけだったのが最近はフェイントまで使ってくるからな」


 ここは裏庭、ちょうど武術研が練習中だ。模擬試合のあとの休憩中ふいに豪徳寺薫がしゃべりだし、中村達也もその言葉に同意する。見ると大豪院ポチや山下慶一も頷いている。どうやら皆同じ気持ちのようだ。

 秀一は武術研の練習中には極力気を抑えていた。気は強力な分、まだ未熟な者が素人にむやみに使えば怪我の恐れがあるとガンドルフィーニに言われていたし、四人と戦う際には同じ条件でいなければならない気がしたのだ。それでも今の秀一は豪徳寺達と互角以上に戦えるレベルにまで成長していた。


 「これなら一緒にウルティマホラにも出れそうだな。去年は予選で負けちまったし今年はリベンジだ」

 「ウルティマホラ?」

 「秋の体育祭の時に開かれる大格闘大会だよ。一年の時俺たちも出たんだけど、薫以外は予選で負けちまってさ」

 「えぇ!お前らが!?」


 ウルティマホラが四人でも苦戦する大会だと知って驚く秀一。一か月一緒にいてわかったことだが、この四人はかなりの強さだ。山下や大豪院のように体系的に格闘技を修めた二人だけでなく、我流で強くなった豪徳寺や中村もである。現に秀一は入部当初は四人に全く歯がたたなかった。その理由は秀一の実戦経験不足がほとんどであったのだが、それでもウルティマホラのレベルの高さには驚愕の思いだった。


 「まあそれより今は一ヶ月後の麻帆良祭だ。旅行も終わったし、次のイベントはあれだろ。」


その話は秀一も知っていた。というより今日のHRでクラスの出し物が決められたばかりだ。


「うちのクラスはお化け屋敷やるんだっけ?俺らはどうすんだ?屋台でもやる?」

「いいな。焼きそばとかタコ焼きでもやるか。そういえば、秀ちゃんは麻帆良祭初めてだよな」


麻帆良学園で毎年開かれる文化祭、麻帆良祭。学園全体で開かれるこのイベントは、三日間に渡って開かれ全国から見物客が集まってくるほどのものらしい。

「期間中はあちこちで格闘大会も開かれる。参加するのもありかもな」

「一年目は好きに麻帆良祭を楽しんだ方がいいと俺は思うけどな。下手なテーマパークよりも豪華だから見るとこは決めといた方がいいぜ、神矢」


山下や大豪院の助言に礼を言ったあと、秀一は立ち上がる。

「じゃとりあえず練習再開しようぜ。どちらにしても鍛えておかないと」

「おぉ、やる気満々だな秀ちゃん。よし、じゃグラウンドでも走ってくるか!」

「「「「「おぉ!」」」」」






「うちの部は麻帆良祭は忙しいぞ、神矢君。君は今年が初めてだからあんまり仕事を回さないようにするけど…」


「マジですか…?」


報道部室で吉田に受けた説明によると、学祭期間中、報道部特に突撃班は麻帆良中で起きることに敏感でなければならない。たとえば、告白成功率120%の世界樹伝説や人気の出し物、最終日の合同イベントなどネタには全く困らないので、それらを手早く編集班に送らなければならない。編集班もネタをまとめたら一時間後にはネット上にアップすることが望まれる…らしい。


「まあ心配しなくても学祭初経験者は十分祭を楽しめるようなシフトにするから、大丈夫だよ」


「お、お願いします…」


「それはそうと、最近大きな事件がないね… 桜通りの吸血鬼の話も空振りだったし」

「うっ、すいません…」

「謝ることはないさ。毎年噂になるだけの話だから、あまり期待はしてなかったんだ」

「え?毎年?」

「そう、学園では毎年新学期前後に吸血鬼の噂話がまことしやかにささやかれる。見たという目撃証言も何個かある。それでも、詳しくはわからない。吸血鬼の正体も、目的も。何者かが意図的に隠しているかのように…ね」


部室から出た秀一は先程の会話について思い返していた。


(魔法なんてものがあるくらいだ。吸血鬼がいたってなんの不思議もない。でも、本当に吸血鬼ならなんで隠すんだろう…)

‘立派な魔法使い’なら吸血鬼なんてものを放っておくはずがない。ましてやここは魔法使いの巣窟、人手には事欠かないはずだ。

ドンッ

 考え事をしながら歩いていると向かってきた人とぶつかってしまう

「あっ、すみません。ってガンドルフィーニ先生?」

「秀一君か、前を向いて歩きなさい。君らしくもない。…何か悩んでいるようだけどどうしたんだい?」


ちょうどいい機会とばかりに秀一は吸血鬼について話をする。しかし、それに対するガンドルフィーニの返答は簡潔なものだった。


「ダメだ。君にはまだ早い」

「え…いやでも「ダメだ」」

「な、なんでですか!?別に俺は新聞に載せるつもりなんてありません。ただ純粋な興味があって「なおさらダメだ。危険すぎる」」

「き、危険…?」

「当然だよ。ふう…仕方ない。話だけならしてあげるよ」


そう言って歩き出すガンドルフィーニについていく秀一。


廊下の隅の方まで歩いていき、ガンドルフィーニは認識阻害の魔法をかける。


「結論から言おう。桜通りの吸血鬼、その正体はここの中等部の生徒だ。名をエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、真祖の吸血鬼だ」

「真祖?」

「真祖というのは、吸血鬼に噛まれたものではない、自らの意思で吸血鬼になったものを言うんだ。エヴァンジェリンは‘闇の福音’とも呼ばれ魔法界では並ぶ者がないほどの大悪党だ。10年以上前からこの学園にいるが、その理由はわからない。現在は力の大半を封印されているらしいが、それでも危険なことには変わりがない。学園長もなぜ野放しにしているのか…」


そのあとエヴァンジェリンに対しての注意を再度した後ガンドルフィーニはかえっていった。
 



 

すっかり遅くなった満月の夜、秀一は寮への帰り道の途中吸血鬼のことについて考えていた。出来るならエヴァンジェリンからの話も聞いてみたい、そう考えていたのだ。師匠のことを悪く言いたくはないが、どうもガンドルフィーニの意見は極端にすぎる。外見はともかく内面は生徒のことを第一に考えているであろう学園長が吸血鬼をそれほど重視していないと言う。一面的な見方だけで判断することは避けたい、秀一の心はそうであった。

が、しかし…

(学園長が安全を保障してるならいいかな… 力封印されてるらしいし)

そう、秀一は怖かった。なんせかつては600万ドルの賞金首だったらしい。今まで学園内で死亡者がでることはなかったらしいが、それでも秀一は迷っていた。




スッ

考え事をしてうつむいていた秀一はすぐに気付いた。月光で照らされていたはずのアスファルトに一筋の影がのびていたことに。


「フン、男か…まあいい。少し血をもらうぞ。心配しなくても命まではとらん」


冷たく見降ろす視線。漆黒のフードをかぶっているため顔はわからない。

本人が望まずとも事件がこちらにやってくる。主人公とはそういうものだ。

場所は桜通り。吸血鬼がそこにいた。






後書き
エヴァが毎年吸血やってる。学祭前もやってるってのはオリ設定です。ご了承ください。


のみぎりさん、通りすがりさん、感想ありがとうございます。
尽力します笑


daiさん、毎度感想どうも。
できればそういう展開にしたいと思ってますが…





てか、朝倉やパルより刀子先生のほうが反応いい気がw

では次回また。



[18212] 第四話
Name: ネルス◆b86a5590 ID:184a083d
Date: 2010/05/17 01:13


空に浮かぶ満月。地面のアスファルトには、少し前なら満開であっただろう桜の木が整然と並んでいる。そのうちの一本、ちょうど目の前の木の上にある人影。秀一はその人影を見て、一歩も動けずにいた。


 「少々血をもらうだけだ、安心しろ。痛みはほとんどないし、記憶も消す。明日貴様が目を覚ましたときには何も覚えていないはずだ」


 そう言って襲いかかってくる人影…いや、真祖の吸血鬼エヴァンジェリン。


ただ秀一とてそう簡単にやられるつもりはない。伊達や酔狂で一ヶ月も訓練を重ねてきたわけではないのだ。


サッ


 振るわれた手を避け、ボディブローを決めようとした秀一だが、そこで動きを止める。


「女の…子?」


そう、エヴァンジェリンが被っていた黒いフードは、攻撃の勢いで外れてしまったため、その下の顔が見えていたのだ。


金髪で碧眼、どこからどう見ても西洋美幼…少女。それが最初にもった感想だった。


 (え?誰、この子?吸血…鬼?イメージが全然…)


 秀一が混乱するのも当然。たしかにガンドルフィーニは、エヴァンジェリンの危険性や魔法界での逸話については話した。しかし肝心の外見や年齢は話しておらず、秀一は性別さえ知らなかったのだ。


 「隙あり、だ」


ドスッ

腹を殴られた感触。咄嗟に気を集中させる事ができたものの、痛みがあることには変わりない。


 (何をぼうっとしてんだ俺は!相手は吸血鬼だ、外見に惑わされんな!)


そう自らを叱咤して前を見るが、すでにそこにはエヴァンジェリンはいない。


バッ


 前じゃなきゃ後ろ、そうあたりをつけ咄嗟にしゃがむ。


この判断は正しかった。頭上を蹴りがかすめていく。


 (あぶねぇ…!)


 エヴァンジェリンの攻撃の隙に、秀一は距離をとり一息つく。


「ほう…気による身体強化か。なかなかやるじゃないか、その年で。もしかして貴様か?じじいの言っていた転校生というのは。」


 じじいというのは学園長のことだろう。とりあえず秀一は頷いておく。


 「フン、やはりそうか。それでは転校生君に自己紹介しておこうか。我が名はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェル、真祖の吸血鬼だよ」


 そう尊大な態度で言い放つエヴァンジェリン。外見とは裏腹に、その態度がとても似合ってみえた。


 「あ、どうも。麻帆良中学二年B組の神矢秀一。報道部と武術研所属。よろしく」


 そう言って握手しようと手を伸ばす秀一。


「あぁ、よろしく…ってちがぁぁうっ!なんで握手なんだ。普通ここはおびえてガタガタ震えるところだろ!」


 まくしたてるエヴァンジェリン。さっきまでの尊大さがまるで感じられないその姿に安心したのか、秀一は微笑を浮かべながら言う。


 「い、いや~挨拶されたから返さないといけないな、と思って…」


 その返事に気勢をそがれたのかエヴァンジェリンはため息をつく。


 「もういい。続きをやるぞ、構え…」


 「あ、血ならいいよ?」


 笑顔で言う秀一。時が止まる。顔をひきつらせながらエヴァンジェリンが問い返す。


 「フッフッフッ…貴様、ふざけているのか?吸血がいいならば、さっきまで私と戦っていたのはなんだ。…やはり怖気づいたか?」


 「さっきまでのはそっちから手を出してきたんだし、応戦しないと何されるかわかんなかったから。そうじゃなくて、交換条件。俺は血を吸わせる。そのかわりにあんたの話をしてくれ」


 「…私の話?どういうことだ?」


 「俺はあんたの話を一人の先生にしか聞いてない。真祖の吸血鬼、極悪非道、魔法界では名を知らぬ者なしの闇の福音ってね。でもさ、俺はたった一人の意見だけ聞いて物事を判断したくはない。色々な人の話を聞いて、自分の目で見て、耳で聞いて、自分で判断していきたい。」


 「フン…そのために私の話を聞きたいと?残念ながらその教師が言っていることが正しいよ。私は600年生きてきた大悪党だ。悪人だよ、神矢秀一」


 「だから、そういうことは俺が判断すんの。それにあんたがホントに極悪非道なら、今頃俺は死んでるはずだ。とりあえず話を聞かせてくれ」


 「クックックッ… 貴様、面白いな。吸血鬼の話が聞きたいとは… いいだろう、ただな…その条件を私がのむ必要がないことをわかっているか?」


 エヴァンジェリンは楽しそうに言うと、さらに言葉を続ける。


 「私には得がないからな。貴様の血なら無理矢理奪えばいいことだ。わざわざ話など面倒なことをせんでも…な」


 「条件を変えよう。貴様が私に一撃入れることができたら話をしてやろう。どうだ?破格の条件だろう。たった一発でいいんだ、血よりよっぽど楽だ」


 「なっ…」


 秀一の顔が驚きに染まる。自分の条件が受け入れられるはずないとは思っていたが、まさかこれほど有利な条件をくれるとは。


 「…なんでだ?その条件なら余計にそっちに得がないぜ」


 「フン、簡単なことだ。…ただ私が貴様を痛めつけてやりたいだけさ」


 「えっ…」


 聞き返そうとしたその瞬間、目の前に迫る拳。避ける。


 が、二撃目。腹に響く蹴りの感触。吹き飛ばされる。


 「甘いぞ、神矢秀一。実戦ならば今ので貴様は致命傷だ」


 痛みを我慢して立ち上がる。こちらに迫るエヴァンジェリン。今度は避けられる、そう思いながら体を動かそうとするも動かない。まるで何かに縛り付けられているようだ。目をこらして見ると、細かい線が体を取り巻いているのが見える。


 「糸!?」


 「御名答。だが、気付くのが少々遅かったな」


 ドンッ


 再び吹き飛ばされる秀一の体。体を縛り付けていた糸がブチブチちぎれる音が聞こえる。


 「今の糸も魔力が込めてあれば貴様の体は真っ二つだったな」


 「さっきから何を…」


 「フン、貴様はこちらの世界に何の覚悟もなしに入ってきたのか?命の危険くらい承知だったのだろう?」


 若干のいらだちをまじえながらしゃべるエヴァンジェリン。秀一にはまだその意図がわからない。


 「俺は先生達に強制されて…」


 「そんなものはなんの言い訳にもならん。すでに貴様には式神連中から逃げ回れるくらいの力はある。そのあいだにお優しい先生方が助けてくれるさ」


 「なっ…それは…」


 思い出すのは三日前。葛葉刀子に言われた言葉が頭をよぎる。







 「神矢君、そろそろガンドルフィーニ先生に稽古をつけてもらうのをやめた方がよいのではないですか?」


 「え…いやでもまだ俺は弱いし…」


 「こう言ってはなんですがあなたの成長スピードはすさまじいです。相手が弱く一体なら倒せるかもしれません」


 「ガンドルフィーニ先生は何もいいませんでしたし…」


 「先生はそのスタイルもあってか、今までマトモな弟子をとっていませんでした。そのため、あなたのことを非常に可愛がっているふしがあります。彼もわかっているとは思うのですが…」


 とりあえず考えておくように言われた後刀子先生とは別れた。今あの時の答えを求められているのだ、それもかなり強引な手を使って。







 「何を呆けている?死にたいのか」


 バッ


 思わず飛びずさる。


 (何を考えてんだ俺は…もう答えなんて出してたはずだ!)


 「フン、貴様はなぜ裏の世界にわざわざ関わろうとする?平穏に暮らせばいいじゃないか。わざわざ危険な道を選ぶことなどない。それともなんだ?真実を知りたいなどとふざけたことを言うつもりか?」


 「…あぁ、そうだ、知りたい!」


 「なっ…貴様…」


 殴られる。だが、痛みはもう気にしない。唇から流れる血も気にならない。


 「俺は知りたい。俺の両親がなぜ死んだか、俺はどこまで強くなれるのか、魔法で何ができるのか」


 「危険だと知りながら、なぜ進む!命をかけてまで知りたいものがあるとでも言うのか!?」


 何度も殴られ、蹴られる。だが秀一は倒れず、さらに言葉を続ける。


 「あんたのことだって知りたい!その気になれば、あんたは遠くから魔法をうてるはずだ。なのに、そうしない。さっきまでだってそうだ、まるで俺を危険から遠ざけようとしてるみたいだ。全部悪ってイメージとはほど遠いぜ!」


 エヴァンジェリンの動きが止まる。秀一はその隙を見逃さない。即座に間合いを
つめる。


 「クッ、はやっ…」


 「俺はもう知っちまったんだ!裏の世界から逃げて、何もなかったことになんてできない。覚悟がいるならいくらだってしてやる。強くなれってんならいくらでもなってやる。俺は俺の決めた道をいく!」


 気合いをこめた拳をふるう。


 パリンッ。何かが割れる音。


 「!私の障壁がっ…」


 「邪魔すんなぁぁっ!」








 「フ、フフフフ…知りたい、か。あの女と同じことを言う。気に行ったよ、神矢秀一。一発の約束だものな。私の家はおって知らせる。聞きたい話があるならばそこに来い…っておい?」


 秀一の拳はたしかにエヴァンジェリンをとらえ、その体を後ずらせることに成功した。しかし、殴られ続けた秀一の体ももはや限界が訪れていた。地面に倒れる。同時に秀一の視界は黒く染まり、意識も失っていった。


 「お、おい、神矢秀一!チッ、全く…じじいに知らせてやるか…」


 面倒そうに舌打ちをすると携帯電話を取り出す。


 「ええと…たしかこうやって…  あ、あぁ、じじいか。つながったな。え!?いやなんでもない。それよりも…桜通りに一人バカが倒れているぞ。早く運んでやれ」


 文明の利器をうまく使えたことに安堵しながら、エヴァンジェリンは帰途につく。その顔は戦闘中とはうってかわって楽しげに歪んでいた。




 後書き
 ネギまで好きなキャラがほぼマイナーな方のキャラなんですけど、どうすれば…
 正直くぎみーとか柿崎とか好きだし…


 感想返信
 daiさんへ。四人とも介入させる気満々です笑
 かなりチートな気がするけど、四人は麻帆良四天王と同レベル。秀一はそれより強いくらいにしたいなぁ、なんて思ってます。


 ではまた次回!



[18212] 第五話
Name: ネルス◆b86a5590 ID:184a083d
Date: 2010/06/16 01:48
チュン、チュンチュン、チュン…

小鳥のさえずりが耳を揺らす。うっすらと瞼を開けていくと、そこに見えたのは…

「知らない天井だ…」








起きた秀一はまず現状確認をしようとした。昨日エヴァンジェリンと戦った。一発当てた気もする。


 「ダメだ…俺はどうしたんだ…?」


 「あら神矢君、起きたのですね。おはよう」


 「なっ葛葉先生!?なんでここに?」

 「ここは教員寮の私の部屋よ。あなたが昨晩桜通りで倒れているのを発見して、ここに連れてきたの」


 部屋のドアを開けて入ってきたのは葛葉刀子だった。



 「ありがとうございます、先生。それで…」


 「どういたしまして。フフ、わかっています。エヴァンジェリン…ね?伝言があるわ。話をしたければ我が家に来い、だそうよ?」


 「い…家?寮じゃなくて?」


 「ええ。エヴァンジェリンは学園郊外の森の中にある家に住んでいるわ。流石に、学園長先生も寮で万が一の事が起こることを考えたのでしょう」


 「なるほど。そう言えば先生はエヴァンジェリンのことをあまり嫌ってないみたいですけど…」


 「私は学園長先生のそばで彼女の姿を何度も見ています。それに、魔法界でなくこちら側で育った者にはそれほどエヴァンジェリンの恐怖が浸透していませんから…」


 ガンドルフィーニがあれほど嫌っていたのだ。同僚である刀子も同じではないかと秀一は思ったが、どうやらそうではないらしい。


 そのまま刀子に誘われて、秀一は朝食を食べることになった。


 「神矢君、おいしいですか?」

 「はい、最高です!」

 「フフ、それはよかった」


 トーストにハムエッグ、普通の朝食だが秀一にとっては女性に作ってもらったのがはじめてだからだろう。次から次へと料理を口へ運ぶ。


 「これからは、暇な時私も修行に参加してもいいですか?」

 「え?でも俺が裏に関わるのは反対なんじゃ…」

 「眼を見ればわかります。もう決めているのでしょう?」

 「なっ!?わかるんですか?」

 「ええ、覚悟をきめた男の子の眼です。私が何を言っても無駄でしょう。ならば、なるべくあなたを強くした方がよさそうです」

 「先生…」

 「ただし、私は厳しくやりますから半端な気持ちではダメですよ?」


 そう言って微笑む刀子。その笑みに秀一は思わず身震いしてしまった。

 (まさか離婚のストレス解消とかじゃないよな…)

 まさかそんなことはない、先生を信じよう、そう思おうとしても秀一は一抹の不安を隠せなかった。





 「では、これにエヴァンジェリンの住所を書いておきました。今日は休日ですのでちょうどいいでしょう。ゆっくり話を聞いてきなさい」

 朝食を食べた後、秀一はエヴァンジェリンの家に行くことにした。メモを受け取り、別れを告げる。


 「ホント色々ありがとうございました、刀子先生…あ」

 「フフ、いいですよ刀子で。かわりに私も下の名前で呼ばせてもらいます、秀一君」

 「はい!じゃまた学校で」







「…で、隣の男はなんなんだ?」


 額に青筋を浮かべながら聞くエヴァンジェリン。


「それは私も聞きたいよ、秀一君。なぜ僕をここに連れてきたんだい?」


 そのエヴァンジェリンから眼をそらさず睨み続けるガンドルフィーニ。


 魔帆良学園郊外にある森林。さらにその奥に位置するログハウス。部屋の中はファンシーな人形がたくさん置かれ、見る者を和ませる。

 が、今その中は殺伐とした空気になっていた。


 「おい、神矢秀一。これはどういうことだ、いい加減説明しろ」


 「賭けには勝っただろ?一発当てたし。話してくれるって言ったじゃん」


 「それは貴様だけだ!隣の男に許した覚えはない。大体そっちの男の方が納得してないようじゃないか」


「先生が魔法界育ちでエヴァンジェリンが悪と教えられてきたのは刀子先生に聞いた。でも、先生は本人の話を全く聞いてない。そんなんで物事を判断しようなんて間違ってる、俺はそう思う。」

 しばらく沈黙するガンドルフィーニ。頭を垂れ何かを考えているように見える。

 「しかし、彼女が非道を行ってきたことは事実だ。女子供をやったことはないと記録にはあるがどこまで本当か…」

 「私の誇りに賭けて誓うが、それは本当だぞ。まあ信じないのならば構わんがな」

 なんとかごまかそうとするガンドルフィーニだったが、エヴァンジェリンに口を出され、それ以上言葉を続けられなかった。

 苦々しい顔をしながらガンドルフィーニは喋る。

 「…わかった。話だけなら聞こう。だが、判断するのはあくまで私だ」

 その言葉を聞いて鼻をならすエヴァンジェリンだったが、その顔は話すことをそれほど嫌っているわけでもなさそうだった。

 エヴァンジェリンは今までその噂があまりにも広がりすぎたため、賞金稼ぎや'正義の魔法使い'に狙われてばかりだった。当然まともに話を聞こうともせず戦いを仕掛けてくる者ばかり。自らの境遇を仕方なかったなどと言うつもりはないが、少なくとも自分で判断しようとする姿勢を見せる時点で好感が持てた。

 「貴様といい神矢秀一といい物好きなことだな。楽しい話でもないというのに」


 「貴様ら百年戦争を知ってるか?私が生まれたのはその頃だ。人間の時は裕福な家庭でな、なんの不自由もなく育ったよ。…10歳の誕生日まではな」


 「…君の外見は10歳ぐらいだね。ということは…」

 「フン、察しがいいな。その通り、気付いたら私はこの体、不死の体になっていたよ」

 「なっ、一体誰が…!」

 「気付いたら叔父を殺していた。叔父について覚えてるのは、笑みを浮かべながら私に薬を飲ませたことと私が殺したことだけだ。10歳の小娘がどうやったかは自分でもわからん。ククッ、皮肉なものだな。相手の命を絶つつもりでやった唯一の殺しを覚えていないとは…」


 二人とも何も言えなかった。自嘲気味に話すエヴァンジェリンだったが、それを笑えるほど二人は思慮が浅くはなかった。

 「生きるのに必死だったから最初の頃は何でもやった。だが、不死の体で時間もあるからな、50年たつ頃にはある程度の強さは身についていた。その内私が真祖であることが知れ渡ったのか賞金稼ぎや魔法使い共に狙われることが多くなった。わずらわしいからな、片っぱしから倒していたら気付けば悪の魔法使いだったというわけだ」

 「なぜ話をしようとしなかったんだよ?そうすればその人たちだって…」

 「私の姿を見たら問答無用で戦いを挑んでくるような奴らとどうやって話をする?命は助けてやるから代わりに話を聞けとでも言うのか。あいにく私はそれほど甘くない」


 秀一は言葉に詰まる。


 「最初は私も何とか話をしようとしていたさ。弱かったし、人肌が恋しかった。偽って人々の中に溶け込もうとしたこともある。だがな、皆私の正体を知ると途端に私を避け始めた。当時は魔女狩りなどザラだったからな。巻き込まれたくなかったのだろう」


 何も言えなかった。10歳の少女が生きるためにどれほど必死だったのか。どれほど孤独だったのか。想像すらできなかった。


 空気に耐えられなくなったのかガンドルフィーニが口を開く。
 
 「じゃ…なぜこんなとこにいるんだい?正式な記録では君はナギ・スプリングフィールドに殺されたはずだ。それがこの学園で15年も学生をやっているのは…」

 「15年前、私はナギの姑息な罠にハメられ、その結果登校地獄の呪いをかけられたんだよ」

 「登校…」

 「地獄?」

 二人ともに聞き返す。呪いにしては珍しい名前だからだろう。

 エヴァの話によると、その呪いは名前の通り学校に通うことを強制させるものであるらしい。

 しかも、ナギの呪いが無理矢理行われたものだったため、解呪するのもかなり難しい。

 「てか、なんで登校地獄なんだよ。もっとマシなものあったろ」

 「知らん。闇の中で生きてきた私に、光の中で生きてみろ、卒業するころに迎えに行くからだとさ」

 「へぇ。流石最強の魔法使い、言うことが格好良い」


 感心する秀一に対して渋い顔をするガンドルフィーニ。

 「しかし、君が麻帆良に来てからもう10年以上はたっているはずだ。その話が本当なら、なぜ…」

 「あ…」

 そう。本当に卒業時にナギが迎えに来たのならエヴァはすでにここにいないはずだ。ガンドルフィーニはこのことに気付いていた。

 「簡単なことだ。ヤツは私との約束をやぶった。卒業の時に迎えにはこなかった」

 「なっ…」

 「私も最初はヤツの言った通り光というものを楽しもうと思ったさ。こんな私でも話しかけてくる奴らはいたからな。気付いたらそいつらといつも共にいた。」

 「友達か…」

 「フン、悪くない気分だった。私ともあろうものが友を持ち、学生生活を楽しみ、光の中で生きてみた。このまま生きていくのも良いとも思っていた。だがな、そんなものただの茶番だったことが卒業の時にわかった」

 「まさか…!」

 ガンドルフィーニが何かに気付いたかのように声をあげる。

 「気付いたか。そうだ、本来なら卒業時に呪いは解除される。しかし、呪いが解除されないとその効力は永続する。登校地獄の場合はそれがリセットだった。卒業と同時に私を知る者の記憶は消され、私は再び一年生からだ。これが茶番でなくてなんだ!?」

 興奮のまま言葉を続けるエヴァンジェリン。

 「そして二年後、ナギが死んだと聞いて私は理解した。所詮私は光に生きるなどゆるされぬ存在、闇に生きる運命なのだとな…」

 「そんなこと…」

 「ないと言い切れるか?友情など魔法で簡単に変わるし、死ねばそれまでだ。信じた男も私を裏切り、すでに逝った。もう裏切られるのには疲れた…」

 「ない!」

 「なっ…」

 「エヴァはなんで自力で呪いを破る努力をしないんだよ。ナギが死んだとわかったんだったら、待つ意味なんてないだろ?それでもエヴァは待ってる、ナギが来るのを。光を見切りきれないんだ」

 「そ、そんなわけ…」

 「何度裏切られてもまだ信じてるんだよ、エヴァは。いつかナギが戻ってくるのを信じてるんだ。その心がある限りエヴァは光で生きられると思うよ」

 「き、貴様黙って聞いていれば言いたい放題…」

 「私も同じ意見だな」

 「なっ!」

 「私が話に聞いていたエヴァンジェリンなら、自分の欲しいものはなにがなんでも手に入れるはずだ。光の中で生きる努力すらしてない君にはあきらめる資格すらない。大体、記憶なら学園長に話せばどうにかなったはずだ。解呪でなく、改変ならば出来ないこともないだろう。現に、高畑君は君と同級生だったらしいが今でも君のことを覚えている。大方、怖かったのだろう、卒業してからも自分に変わらず接してくれるかどうか」

 「うるさいぞ…貴様…」


 エヴァの手に魔力が宿る。


 「光から逃げて、闇でしか生きられない振りをしている。そうすることで傷つくことから逃げている。真祖の吸血鬼もおちたものだな」

 「黙れー!!」

 エヴァがガンドルフィーニに飛びかかる。秀一が止めようとしたのもつかの間、両者が激突した次の瞬間エヴァはガンドルフィーニによって取り押さえられていた。


 「図星だったから焦っているのかい?今の君なら秀一君でも勝てそうだ」

 「貴様…」

 「友達になろう」

 「は?」


 突如横から聞こえてきた声に頭が真っ白になるエヴァンジェリン。秀一は

 「エヴァンジェ…エヴァの苦しみは俺にはわからない。でも、苦しんできた事ぐらいはわかる」

 「俺には話を聞くことくらいしかできない。でも今まで話を聞いてきて、少なくともエヴァが心の奥で助けを求めていることはわかった。だったら周りを、俺を頼ってくれ。苦しみを一緒に分かちあうのが友達だと俺は思うんだ」


 エヴァ、あたし達友達じゃん。友達ってのは苦しい時に一緒に苦しんであげるもんだよ。

 思い出すのは20年以上前。黒い髪に陽気な性格。初めての友と呼べる女。

 フン、親譲りの性格か…

 「私は悪の魔法使いだぞ。いいのか?この学園の連中にとやかく言われると思うが」

 「俺が決めた事だ。誰にも文句は言わせない」

 「クックックッ…ハーハッハッハッハッ」


 突如笑いだすエヴァに驚くふたり。先程までと違ってエヴァの顔は落ち着いたものだった。


 「たしかに私は腑抜けていたようだな。自分が光を求めていることにすら気づかんとは… いいだろう、貴様らの言うように頑張ってやる。このくだらん呪いを解いてナギの奴を見つけ出してやる!冷静に考えればヤツが死ぬなど有りえんからな。まあそれまでは、貴様を友としてやってもいいぞ、神矢秀一」


 いきなりハイテンションになったエヴァにいぶかしみつつも秀一は笑みを浮かべる。

 「あぁ、よろしくエヴァ!」








 「君はすごいな、秀一君」


 エヴァの家からの帰り道、ならんで歩いていたとこにガンドルフィーニが声をかけてくる。


 「何がですが?」

 「エヴァンジェリンのことだよ。我々は長年ここにいたにも関わらず彼女のことを知ろうともしなかった。それなのに、ついこの前ここに来たばかりの君はすぐにエヴァとの対話を望んだ。本当にすごいことだ」

 「な、何言ってるんですか恥ずかしいなもう… 俺はただ思う通りにしただけですよ。じゃ先に帰りますんで、さよなら」


 「あぁ、さよなら」


 去っていく秀一を見ながらガンドルフィーニはつぶやく。


 「それがどれほどすごい事なのか、君はまだわかっていない…」


 麻帆良に来て一カ月、秀一には新しい友達が増えた。





後書き
どうもすみません!更新が非常に遅れました。どうも自分の書いたやつ一回見直してみて、俺なにやってんだorzみたいな気分になって、やめることまで考えました。でも、やっぱり途中でやめるのは嫌だったし、作者自身が可愛い朝倉を見たかったこともあって再開することを決意しました。
待ってくれてた人ありがとうございます。更新速度は遅いままだと思いますが、なんとか完結させるんで気長に見守ってくれるとうれしいです。


あと、スクライドにはまってたのも遅れた原因です笑
ホント熱いアニメだった…


感想返信
daiさん、毎度感想ありがとうございます。四人のうち何人かは魔法も使わせる予定です。大豪院とかどんな技使うのかすら不明だしw


では、また次回に。



[18212] 第六話
Name: ネルス◆b86a5590 ID:184a083d
Date: 2010/07/03 02:14
 「ほらほら、どうした?足が止まってるぞ!」

 「どわっ」

 ここはいつもの広場ではなく、まるでどこかの豪邸のような場所。その中で一緒にいるのはエヴァと一体の人形であった。

 (くそ~あの人形があんな強いなんて聞いてないぜ…)

 「ケケケ、ドウシタ?余裕ナンジャナカッタノカ?」

 そう言われながら振るわれるナイフを必死の思いで避ける。と同時に秀一はこうなった経緯を思い出していた。







 「喜べ、神矢秀一。貴様に修行をつけてやる」

 「は?」

 エヴァの家に遊びに来ていた秀一だが、唐突にそう切り出され呆然となる。


 「麻帆良祭も終わって貴様暇だろう。正直今のままでは見てられんからな。私が面倒を見てやることにした」


 「いや、したって俺の意思は…」


 「ない」


 「ちょ… まあ強くしてくれるんだったら文句はないけどさ。それで、俺はどうすりゃいいんだ?」


 そう言った秀一には答えず、エヴァは奥の部屋から人形を一体持ちだしてくる。


 「修行の相手はこいつだ。名をチャチャゼロという。我がしもべの中でもかなりの古株でな。武器の扱いでこいつの右に出る奴はそうはおらん」


 「ケケケ、御主人ガ俺ヲ褒メルナンザ何世紀ブリノコトダ?」


 「うるさい!あのガンドルフィーニとかいう奴はナイフとピストルを使った戦闘が専門らしいからな。他の武器に慣れておいて損はないぞ?」


 そこまで言ったところでエヴァはいぶかしげに言葉を止める。見ると、秀一が安心したような顔でこっちを見ている。


 「こいつが相手と知って安心でもしているのか?言っておくが、殺されるかもしれんからな。甘くみない方がいいぞ」


 「いやいやいや、さすがに俺も人形に殺されるほどじゃないぜ。余裕余裕♪」






 「マジでごめん!余裕なんて言って悪かった!つか首!今カスったぞ。殺す気かー!?」

 そんなわけで、秀一の命は今風前の灯だった。


 「ケケケ、殺ス気デヤッテンダカラ当タリ前ダロ。反撃シタ方ガイインジャネーカ?」

 たしかにそうだ。というよりチャチャゼロは明らかに秀一より強かったし、それどころか…

 「エヴァよりキツイんだが…」

 「フン、当たり前だ。言っただろう?そいつは我が最強のしもべの一人だ。私の魔法詠唱をサポートするのにそれくらいの強さはあるさ」

 エヴァはそう説明するが、もはや秀一は落ち着いて話を聞ける状態ではなかった。なんとか反撃を試みようとしても、全て読まれる。二人の動きが止まる頃、秀一の体はボロボロになっていた。



「酷い目にあったぜ…」


「では次だ」


「まだやんの!?」


「何か文句でもあるのか?」


「いえいえ喜んで」


黒いオーラを纏ったエヴァがすごむ。


理不尽だ、とそう思っても言った瞬間に待つ運命を考えると、何もできなかった。


「で、今度は何の人形を連れてくるんだ?」


「喜べ、この私直々に魔法の指導をしてやろう」


「…あ、やべ。そろそろ報道部に行かないと」


「言わなかったか?ここは一回入ったら一日過ごすまで出られん。しかも時間の流れも遅くなるからな、貴様を鍛えるにはうってつけだ」


「…」


そう、チャチャゼロと戦うことに決まった後、秀一達はエヴァの'別荘'へと場所を移していた。どうやらここは魔法で作られた別荘らしく、中での一日は外での一時間に相当するらしい。また中には魔力が充満しているからエヴァもある程度力を出せる。エヴァの魔力を元に動くチャチャゼロも、別荘でなら力をふるえるというわけだ。



  「それとこれだ」

そう言ってエヴァが渡してきたのは先端に星飾りが着いた木の棒。

「…これで何すんの?ひょっとして遊びたいのか?それならそうと…」


「フン」

ボッ

 杖の先端から氷柱が何本も秀一に降り注ぐ。

「ちょ、死ぬ死ぬ。冗談だって、冗談!」

「心配するな。手加減して撃った」


 目がマジだったろ…と思う秀一だったが流石にここでツッコむような真似はしない。そのかわりに今の魔法について聞くことにした。


 「今の魔法なんだよ。ってか、魔法って詠唱しなきゃダメなんじゃないのか?」


 「無詠唱呪文だ。術者の技量次第で使える分威力は詠唱呪文に比べれば下がる。が、ノータイムで出せるから隙がなく使い勝手もいい。魔法使いの戦闘なら必須技術だな。今のは攻撃魔法として一番の基礎、『魔法の射手』だ。あれくらいは無詠唱で放てなければな」


 「へ~」


 「かといって『魔法の射手』が弱いわけではない。術者の魔力によっては相当な威力が出るし、追尾性も持たせられる。魔法学校で教えている唯一の攻撃呪文だけあってバランスの面ではトップクラスだろうな」


 「よっし、じゃまずそれからだな。早速詠唱を教えてくれよ」


 「バカ、それはまだはやい。まずはこっちだ」


 そう言ってエヴァは杖をかかげると、その先には火が灯っている。


 「おぉ~ …でもさ、それ意味なくね?ライター使えばいいじゃん」


 「まあ今の時代は火や灯りなどそこら中にあるからな。だが、昔はそれなりに重宝していた。まあそれでも初歩の初歩の魔法である事に変わりはないが」


 「いや、そんなのよりさっきの‘魔法の射手’を…」

ギンッ

 「すまん、なんでもない」

 正直微妙そうに思えた‘火よ灯れ’よりも、攻撃魔法の‘魔法の射手’をやってみたかった秀一だったが、エヴァの眼光に黙ってしまう。


 「いいか、貴様はまだ魔法については素人だ。魔力の扱いさえろくに出来てない。そんな奴に攻撃魔法などできん。魔力の暴走さえ起こりうる」

 魔力の暴走とは、体内で魔力をコントロールしきれなくなり精神がのまれかけてしまうことだ。下手をすると二度と魔法行使ができなくなる可能性もある。エヴァがそう説明すると、秀一は納得したのかおとなしく引き下がる。

 「本来なら‘物を操る魔法’や‘占いの魔法’など色々な基礎呪文があって、それらを使っていくうちに魔力のコントロールを覚えていくものだがまあいい。戦闘技術だけでいいなら、お前は属性呪文で学ぶんだな」

 「属性…呪文?」

 「魔法の属性には火、氷、水、雷、風…といったように様々なものがあってな。属性呪文とはそれらを言う。というより、攻撃呪文はほとんど属性呪文だ。ま、RPGと同じだよ」

さらに説明された結果、先程の‘火よ灯れ’は火の属性呪文の基本であり、同様に水や風にも同じような呪文があるらしいことがわかった。


 「自分の得意な属性も知れて一石二鳥だろう。杖をとれ、始めるぞ」

 「あ、あぁ」

 そこから始まった修行は、秀一にとって相当厳しかった。毎日学校の後の武道研や報道部、ガンドルフィーニ達との訓練、これらはそれほど苦ではなかった。部活は好きでやっていることだし、先生達は甘くはないものの手加減をしてくれていた。問題なのは、休日に入る別荘での修行だった。


 「ケケケ、随分動キガ良クナッテキタジャネーカ」

 まずは、チャチャゼロとの近接戦闘訓練。これだけで秀一の体力は相当けずられる。チャチャゼロは小さく、動きが素早いのでとらえにくいのだ。最初の頃はスピードについていくことさえできなかった。

 「よし、次は‘魔法の射手’火属性、四矢だ」

 「火の精霊4人、集い来りて敵を撃て。魔法の射手、火の四矢!」

 手に握った杖の先からエネルギー体となった矢が飛び出す。その矢は10メートル近く離れた場所にある的へ命中、的は燃える。


 「続けろ、次は氷だ、一矢」

 「ハァ、ハァ… ちょ、ちょっと休憩を」

 「早くしろ」

 「は、はい…」

 チャチャゼロとの訓練のあとはエヴァとの魔法訓練だ。別荘での修行のおかげで、秀一の得意属性は火、苦手属性は風だとわかった。基本魔法は一通り覚え、今は基本攻撃魔法、魔法の射手の訓練をしている。現在の秀一では、得意属性の矢は4本、苦手属性の矢は0本、それ以外は1、2本撃つことができる。最初の方は攻撃魔法の修行に入れて嬉しそうな秀一だったが、時間がたつごとにその顔は歪んでいった。

 「まあ、いいか。よし15分休め」

 「ふぅ…」

 たった15分かよ、とも思わないでもなかったがそれを言ったら休憩自体がなしになりそうだったので自重する。



 「友達…か」

休憩していた秀一は、二週間前、エヴァに魔法の修行をしてもらうことになった時の事を思い出した。






「エヴァはさ、なんで俺の面倒見てくれるんだ?」

「は?…どうでもいいだろ、そんなこと」

「いやいや、だってエヴァってナルシストでエゴイストで子供で…どわっ」

「余計なことは言うな」

「ケケケ、ホントノコトジャネーカ、御主人」

「貴様も黙れ!」

腕をぶんぶん振り回しながら怒るエヴァに、やっぱり子供だな~、と思いつつ秀一は言葉を続ける。

「まあ要するにさ、エヴァって何の見返りもなしに施しとかしてくれるような奴じゃないと思ってたんだけど…」

あぁ、そういうことか、と呟いた後、エヴァは一転楽しそうな顔をする。


「見返りなど期待しないで助けあえるのが友ではないのか?」

そう楽しそうな顔で話すエヴァから隠れるように、秀一はチャチャゼロと話していた。

「おいおい聞いたか?友だってよ、友」

「コレガ噂ノツンデレッテヤツジャネーカ?」

「貴様ら…聞こえているぞ」

慌てて後ろを振り向くと、そこには頬をヒクつかせたエヴァ。秀一は命の危険を感じた。


「い、いやーエヴァが友達でよかったよ、俺。さてそろそろ…あれ?ねぇ、なんで詠唱してんの?いや、ちょ、待っ…ギャー!」






「あれは痛かったな…」

 「ナンダ?コノ前ノコトデモ思イ出シテンノカ?」

 「あぁ。つか、お前途中で逃げたろ。おかげで俺一人が悪いみたいになってたじゃんか」

 「タリメーダロ。怒ッタ御主人相手ニシテタラ、命ガイクラアッテモ足りネーゼ」

 ここ最近の修行で秀一はエヴァだけでなく、チャチャゼロとも仲良くなっていた。チャチャゼロもナイフを使って戦う秀一に親近感を覚えたのだろう。

 「ソウイヤオマエ、アノガンドルフィーニトカ言ウ奴ノコトハイイノカ?」

 「先生なら平日に鍛えてもらってるぜ?まぁ最近休日は毎日ここだから長くはやってないけどな」

 「アーア、今頃泣イテンジャネーノカ、アイツ。オマエガ構ッテクレナイッテヨ」

 「先生に限ってそんなことはないだろ」

 笑みを浮かべながら秀一が答える。しかし、いつからいたのか二人の会話にエヴァが割り込む。

 「案外わからんぞ?少なくとも休日姿が見えない貴様を心配していることは間違いないだろう」

 そこで言葉を切るとエヴァはしばらく考えこみ…


 「まあ、そろそろ頃合だろう。秀一、ガンドルフィーニを呼び出せ。奴にも修行をみさせよう」


 「…へ?いや、いいけどさ、先生来るかわかんないよ?エヴァにまだわだかまりあるみたいだし」


 「フン、別にかまわん。それに目的はお前の訓練だ。嫌がりはせんだろう」


 そうして呼び出した先生を迎えに別荘の入り口に行ってみると、そこには…


 「やあ秀一君」

 「秀一君、休日に姿が見えないと思ったらこんなところに…」

 「いや~久しぶりだよ、ここは」


 刀子先生と高畑先生、なぜか二人もついてきていた。




後書き
どうも、麻帆良祭とばしました。原作のとその前年のはやる予定だが、はたして…

あとチャチャゼロの強さとかオリジナルです。明らかに強いとは思うんだけどね。エヴァの前衛としてずっと生き残ってるんだし。

そういえば、原作超展開ですね。まさかここでザジとはww



では感想返信です。
>レネスさん
感想どうも。最初はこんな感じじゃなかったのに、気付いたらこんな風に笑

>鏡雪さん
どうも。神多羅木さん出ますよ。ただ、主人公風苦手設定なんで主人公とのからみはあまりないかも。
エヴァ+魔法先生は完全にそのポジですね。秀一達恵まれすぎw
さっさと朝倉出したいのに三年にならないと出せないこのジレンマ…もう少しお待ちください笑

>大さん
ありがとうございます!自分のペースで頑張っていきたいと思うんで、これからもよろしくお願いします。

>daiさん
毎度どうも。四人組は細かい設定それほどないから自分で作りやすいです。一応魔法は二人使えるようにするつもりですが、どうなるか…


ではまた次回で。


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