NPT会議:米が核弾頭5113発保有公表 軍縮圧力狙う

2010年5月4日 21時55分 更新:5月4日 23時51分

 クリントン米国務長官は3日、ニューヨークの国連本部で同日開幕した核拡散防止条約(NPT)再検討会議で演説、米国の保有核弾頭数を公表すると述べた。米国防総省は同日、戦略・戦術核や備蓄分も含め昨年9月末現在で5113発を保有すると明らかにした。機密だった核弾頭数を全面的に公表するのは異例で冷戦後初めて。秘密のベールに覆われた「核の世界」に説明責任を持ち込むことは、他の核保有国に情報公開や核軍縮を迫る圧力にもなる。【ニューヨーク大治朋子、モスクワ大木俊治、テヘラン鵜塚健】

 今回発表された国防総省の資料によると、核弾頭数は冷戦期だった1967年の3万1255発をピークに漸減し、ベルリンの壁崩壊を機に激減。91年に2万発を切り、ソ連(ロシア)との第1次、第2次戦略兵器削減条約調印などを経て、04年に1万発を割り、07年から5000発台になっている。国防総省は94年から昨年までに解体した核弾頭は8748発とした。

 ただ、現有の5113発には既に退役し、廃棄待ちの核弾頭「数千発」は含まれておらず、AP通信などによると全体の数は8000~9000発程度になるという。

 核保有国が核弾頭数をあいまいにしてきたのは、核抑止力を実態以上に大きく見せたり、核軍縮の義務をあいまいにできる利点があったからだ。公表したことで、核軍縮のスタート地点が明確になる。国防総省は「世界の核保有の透明性を高めることが、核不拡散や今後の削減努力に重要になる」とした。

 同省高官は記者団に「米国は機密解除により(情報公開の)基準を示した。特に中国には透明性の確保を求めたい」と述べるなどその軍事力を「不透明」と非難する中国に姿勢転換を求める戦術だったことも示唆した。

 公表のもう一つの狙いは、非核国の核保有国に対する不公平感を解消し、核不拡散体制の強化に向けた協力を取り付けたいという思惑だ。

 3日、クリントン長官に先立ち非同盟諸国の代表として演説したインドネシア外相は「(米国など核保有国は)国際社会の期待を満たしていない」と指摘。「さらなる核軍縮の努力が必要だ」と訴え、不満を示した。

 オバマ政権は今年4月、ロシアとの新しい戦略核削減条約「新START」に調印し、配備済みの弾頭の上限数をそれぞれ1550に制限した。だが、弾頭数の数え方が複雑で、実際に削減する量は両国とも200発未満との指摘もある。対象は射程の長い戦略核のうち配備済みのものに限られ、配備外の戦略核に加え、戦術核は対象から外されている。こうしたあいまいさが非核国の不信を呼んでいる。

 そもそも人類を何度も滅亡させることが可能な数千もの核弾頭を保有する必要があるのか。公表で非核国から批判が起こる可能性もある。

 他の核保有国の受け止め方は冷静だ。米国と並ぶ核大国のロシアの専門家で、軍事誌「国防」のコロチェンコ編集長は「数字の公表に大きな意味はない。核保有の透明性を主張するパフォーマンスとしてロシアが同様の公表措置をとる可能性もある」とみる。

 米国が公表した核弾頭数は、第1次戦略兵器削減条約(START1)に基づき米露が相互に通告してきた数字と大差ない。4月に調印された新STARTでも相互通告は義務付けられた。ロシアの軍事研究所によると、昨年8月の相互通告では戦略核と戦術核を合わせて、米国が保有する核弾頭数は5573発、ロシアは3906発だった。このうち戦略核は運搬手段の数も相互通告している。

 ただ、実際の核軍縮交渉では見せかけの核弾頭数よりも備蓄弾頭の扱いや検証方法、ミサイルなどの運搬手段が大きな争点になってきた。戦術核の運搬手段については両国間の取り決めはなく、今回の公表ではこうした問題は解決されない。

 ◇米とイラン強気の応酬

 3日のNPT再検討会議ではイランのアフマディネジャド大統領も演説、クリントン長官と非難の応酬を繰り広げた。イランが大統領まで送り込んだのは、NPT順守の姿勢を強調、ウラン濃縮を巡る国連安保理の追加制裁を回避する狙いがある。米国側にはイランを参加国の中で孤立させて議事妨害を防ぐ意図がありそうだ。

 アフマディネジャド大統領は「核兵器を実際に使っただけでなく、核兵器でイランや他の国を脅迫している」と米国を非難。「核の平和利用を続ける」とウラン濃縮を続行する意思を明確にした。

 イランが強気の態度を取るのは恐怖の裏返しとの見方もある。オバマ政権は先月の「核態勢見直し(NPR)」の中で、イランや北朝鮮を核攻撃の対象から除外しなかった。「過剰なまでの反応は強い危機感の裏返しだ」とテヘランの外交筋は分析する。

 イランは制裁回避に躍起だ。イランのアホンザデ外務次官は再検討会議を前に毎日新聞と会見し、核兵器廃絶に向けた研究機関をテヘランに設置する方針を明らかにした。この機関が中心となり、今年4月にテヘランで開いた核軍縮国際会議を来年も開催する。国際社会の批判をそらす狙いがある。

 一方、クリントン長官は演説でウラン濃縮活動を続けるイランは「国際社会から孤立し、その圧力に直面している」と反撃。「イランはこの中で唯一、国際原子力機関(IAEA)の包括的保障措置協定に従わない国だ」と述べ、イランの「違反行為」を強調。違反を「自動的に罰する」制度を検討する必要があると提案した。

 アフマディネジャド大統領はイスラエルの核兵器保有もやり玉にあげ、95年の再検討会議での中東非核化決議の即時履行も求めた。今後、全会一致が原則の再検討会議を混乱させる可能性もある。クリントン長官は「会議を分断する(イランの)試みは成功しない」と表面的には強気だ。

 だが、05年の前回と同様に非核国が核保有国に反発、イランがそれを利用して最終文書に合意ができない事態もありうる。そうなれば「NPT体制の深刻な危機だ」と国連外交筋は懸念する。

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