おとぼく2を終わって、主人公の二面性を強調してみたらという趣旨で書いてみた投槍一発ネタ。
主人公キャラ崩壊注意。
*
早春の空は淡い瑠璃色で、遠く彼方まで透き通って拡がっている。
街は人で賑わい、青信号に変わった交差点のせいで人通りが激しくなりだす。
目の前ではさっきから見ず知らずの男が、そう長くもなさそうな舌で長広舌を振るっている。
「……うぜぇ……」
つい感情が口から出てしまう。
しかし、その口から出たのはほんの氷山の一角、本当はこの後に「屑で役立たずで粗末な物体をつけた下郎がこの僕に向かって何様のつもりだ。立ってこの僕を見下すなんてもってのほか、その恥知らずの脳にウジ虫が湧いているのではないか、そもそもサナダ虫以下の分際で口を開き息をしていることが重罪だ。土下座して人生をやり直して来るべきだ。口が臭い。顔が気色悪い。醜悪だ。家畜にも劣る。犬畜生がまともに見えるような下等生命体がよく表に出てこれたと罵倒してやる。得てしてホモ野郎の基地外は僕に近づくな。僕にファックして欲しいならありとあらゆる拷問を試した後、自ら死んで人生を出直してこいマゾ野郎」
そう続けようとしたそんな時だった……不意に横合いから高らかな声が響く。
「ちょっと」
自分の腕を掴もうとした男の腕を、更に掴む……細く、長い指。
黒く、長い髪の少女。背は男の僕より高く、茶褐色の瞳が男を見下していた。白いTシャツの下には申し訳程度の胸、女性らしさの欠片も感じられないジーパンに、キリッとした態度が印象的だった。
「やめたら? その子、嫌がってるじゃない」
言い合いを始めた軽薄そうな男と向かい合った少女、彼女は持ち前の気の強さに男は直ぐに匙を投げ逃げ出していく。
「はぁ……ったく」
少女がため息をつき。いつもなら、これからという所で得物を取られ罵倒したい気分だが、何故かそこまで彼女に悪い印象は受けなかった。
「……大丈夫? それとも、余計なお世話だったかな」
「ああ、余計なお世話だ。いつも、こんな事をしているのか?」
気まずそうな彼女の声に自然とそんな言葉が口を吐いて零れ出していた。
「え……えぇ!? まさか」
彼女は困ったように肩を竦め「ただ、貴方の顔から……SOSが出ていたみたいに見えたから」と続け顔を赤く染めそっぽを向いてしまう。
「SOS……?」
絶対に見間違いだ。
「どうしてそう思ったのか、それは解らないんだけどね……じゃ、じゃあ、あたしはこれで。待ち合わせに遅れるから」
それだけ言うと彼女は逃げ出すように立ち去ってしまう。そんな彼女をしばらく見送ってから、背を向けて反対方向へと歩き出す。
……短信を二回、長信を一回、短信を二回。一度離し、短信を三回、それを繰り返す。
「トラ・トラ・トラ、我奇襲二成功セリ……」
もし信号を出しているのならこっちだ。でも、それが誰にも届く筈なんてない。だから、彼女が見たのは間違い。
だって、僕はもう、攻撃を終えて沈んでしまっているのだから。
「SOSも出す必要がないんだ……」
心の中で続く言葉の空回りに飽きて口にしてみるが自分でも苦笑してしまい、自らの行動に呆れ返り空を見上げる。瑠璃色の空は僕の心とは裏腹に綺麗に輝いていた。
*
「…………はぁ」
陰鬱なため息が僕の部屋を支配する。無論、それが身から出た錆だというのは理解しているが、どうしても正す気にはなれない。
「千早さま……」
侍女、幼い頃から一緒にいる小柄な少女が心配そうにこちらを見てくる。
いつもは心を落ちつかせてくれる無表情が、今はどうしようもなく煩わしく感じた。
「史、少し席を外せ」
「……承知、いたしました」
僕は、不登校を続けていた。
切っ掛けは些細なことでもなかったと思う。僕のナニカが彼らの憤りに触れてしまったんだ。
気づいた時には何もかも手遅れで、僕は学校の中でたった一人孤立してまっていた。
ただ、ナニカと言うのは傍から見たら明白だ。言葉遣い、この女みたいな容姿、目立つ髪色、学校の成績、数えればキリがない。
だが、何故だ。僕が彼らのような下等な人種に見下され、嘲笑われなければいけない。学校の成績も運動神経も僕の方が上なのに。何故、いつも笑うのは下等で下劣な生き汚い奴等なのか。
関係の悪化は急速で、疎外感が無視に、そして嫌がらせに拍車がかかるまで大して時間が掛からなかった。
そんな学校はこちらから願い下げだと子供みたいなストライキを起こし、僕は学校に行くことをやめてしまっていた。
「……完全に自業自得ですね」
「まだいたのか史、いいから出て行け」
「申し訳ありません。ですが、奥様がお見えです。私の一存では……」
流石に入るなとは言えない。
「……入ってもらえ」
「わかりました」
史がドアを開けて母さんがやってくる。その表情に、こんな僕でもかすかな胸の痛みを覚えずには居られなかった。
「……千早ちゃん……いつまで、そうしているの?」
開口一番に泣きそうな表情でそんな事を言い出した。いつも活発でトラブルメーカーな母さんが衰退しきったような目でこちらを見ている。
静謐な問い。けれど、その答えを持っているのなら自分の部屋に閉じこもったりしていない。僕は逃げたくて、隠れたくてここにいるのだ。
「千早ちゃん……ずっとこのままでは、あなたは前に進むことも出来ないのよ?」
「……」
そんなことはわかっている。だけど、僕は沈黙で返すことしか出来ない。
何かを思い切ったように母さんが口を開く。
「それでね、……聖應に転入したらどうかしら」
「………………へっ?」
しばらく言われた意味を考えると、大前提で引っ掛かりを覚え、裏返り気味の声で思わず口をへの字に曲げていた。
「だからね、聖應に転入すればいいと思うの」
「母さん……ついにボケたの?」
聖應はうちの親族が経営している純度100%のお嬢様学校だ。大事なことなので二度言うが、「お嬢様学校」だ。
「失礼ね! ボケてません! 聖應はとても良い学校だし、私も、清花義姉さんやまりやちゃんもOGなのよ!」
いきなりヒートアップする母さん。
「あのね、母さん、落ち着いて聞いて。聖應は女学院ですよ。僕が入れるわけな……」
「大丈夫よ! 千早ちゃんは美人だもの。きっとみんなに大歓迎されるわ!」
「だから、そういう問題じゃ…………ん?」
ここで僕の中で何かがハジけた。思考がぐるぐると回っていく。
女学院→女の子がいっぱいいる→ハーレム→人生勝ち組→バラ色の学院生活→女学院→(以下略
「……これは!?」
つまりそういう事だ。
「千早ちゃんにはお父さんの跡を継いで、立派な外交官に……(うんたらかんたら)」
母さんが何かを言っているがそんなのどうでもいい。
「わかったよ母さん! 僕は女学院に入りハーレムを作る!」
「その意気よ流石ね千早ちゃん私の子よ! …………………って。あら? あらら?」
「史! 聞いていたな! 早速手配しろ!」
扉の奥にいた史に声をかける。扉を開けて無表情な史が現れる。
「……奥様、千早さまも正気ですか?」
「正気も正気だ。前の学校では失敗したが、今度は上手く聖應女学院とやらを裏から支配してやる! ハーハハハハ!!」
無表情ながら長年のつき合いで彼女がかなり困惑しているのがわかる。
「千早さま。すでにその高笑いと発言がアウトです」
「…………少し、いえ、かなり早まったかしら」
史と母さんのそんな声が後ろから聞こえてきた。
そんな人生の転機から一ヶ月。
「ふふ……ちょろい、ちょろいな。所詮は理事長代理だ、目の前で良い子を演じていればあっさりと入寮を許可するとは」
先程、面会した若い女性に対して笑みを浮かべずにはいられなかった。
「……流石、見事な猫かぶりでした。史から見てもとても女装を嫌がっている男の子のようでした」
「そうだろう。それより、史。これが寮か?」
「はい、今日から一年間、千早さまにお住まい頂く学生寮です」
目の前にはこぢんまりとはしているけれど、往時を偲ばせるには十分な偽洋風の外観持つ寮が佇んでいた。
これが、僕の本拠地となる場所。心なしか、近づくたびに緊張してしまい喉になにかが詰まったような不快さが残る。
「千早さま……」
「……も、問題ない。行くぞ」
「声が震えております。前もって言っておきますが、くれぐれも女性らしくお願いします」
玄関の呼び鈴へ指を伸ばす、自分の容姿には自信があるが、上手く演技し通せるか、これから起こるであろう出来事への不安が綯い交ぜる。
思わず閉じた目を、扉が開く音に慌てて見開いたその瞬間。
「え……」
口から声が漏れる。
「あれ……」
目の前にいる少女の口からもまた、小さな吐息共に声が零れ落ちる。
「あなたは……」
街で出会った黒髪の少女、まさかこんなトコで出会うとは。
だが、あの時は男の姿だったし口調も荒っぽかった。もしかしたらここからバレるかもしれない。他人のふり、他人のふりで誤魔化そう。
「……ひ、人違いです」
「…………まだ、何も言ってないんだけど」
墓穴掘った。前には訝しげにこちらを観察する少女。まだ、大丈夫。大丈夫なはず。あの時は男のナンパから助けようとした訳でこちらを女と認識していたはずだ。冷静に対処すれば大丈夫。
背中から冷や汗が溢れ出す。まさか入居前からこんな問題に引っかかるなんて間の悪い事だ。
「……あら、なに? 二人とも知り合い?」
別の女性の声が奥から聞こえる。その姿を一言で現すなら金髪巨乳美女。
「いや、知り合い……ってワケじゃないんだけど」
彼女の驚きように僕は我に返ると、本来の目的に立ち戻った。
一呼吸置いて、ゆっくりと笑顔を思い出し、猫をかぶる。
「初めてお会いすると思います。私、この辺りに来たのは今日が初めてですから」
「え、そ、そうなんですか? じゃあ、気のせい……なのかな?」
彼女は戸惑いながらおずおずと返事をする。
「薫子ちゃん、大丈夫?」
隣にいた栗色の髪を後ろで縛った優しげな表情をした少女が心配そうに尋ね、彼女は「大丈夫、大丈夫」となんとかごまかしていた。
「挨拶が遅れました。今日からこちらにお世話になります、妃宮 千早と申します」
見事に有耶無耶になった所で追撃。
「あ、はい。お話は伺っています……私は寮監を務めている、三年生の皆瀬 初音と言います。ええと、そちらのあなたは?」
対応してくれたのは栗色の微乳。初音さんが僕の横にいる史にも声を掛ける。
「千早さまの侍女で、度會 史と申します。よろしくお願いいたします」
「じ、じじょ」
声を上げたのは黒い髪の貧乳だった。
「はい、侍女です」
「じじょ……」
「侍女です」
「…………ジジョって、なに?」
「……えっと」
どうやら彼女は頭が弱いようだ。
*
「……こちらが、千早ちゃんのお部屋です。荷物はもう届いていますから」
簡単な自己紹介を食堂で済ませ、初音さんに僕の部屋を案内してもらう。
「っ………………ショッキングピンク」
そんな感想が小声で漏れ出した。白とピンクの女性趣味の家具、天蓋付きのベッド。見ていて目が痛い。
「……どうかなさいましたか?」
「はいっ? い、いえ……なんでもありません」
予想外のデザインに一瞬意識が遠いところに行ってしまっていた。
「ふふ、それにしても千早ちゃん大人っぽいのに、こんなかわいい趣味をしているんですね」
「ごめんなさい……その、やっぱり子供っぽかったかしら」冗談も大概にして欲しい。
「いいんじゃないかしら、可愛くて。私もこんな部屋にすればよかったかな会って」
センス悪。自室をラブホにでもする気だろうか。
「私は……もう少し普通でもよかったかしらって、今少しだけ思いました」
「ふふふ……夕食は七時ですから少し前に降りてきてください。なにか解らないことがあったら私の部屋までどうぞ」
人懐っこい笑顔を浮かべて初音は扉から出て行こうとする。
「はい」
「じゃあ、またあとで」
「……ありがとうございました」
初音が出て行った後、一秒。十秒。一分。固まっていた思考を解凍する。
「……めっさ、肩こるわぁ。顔の筋肉が変なふうに固まりそうだ」
取り敢えず、それなりのレベルではやれているみたいだ。まぁ、それぐらい猫を被る特訓を繰り返したのだから当然と言えば当然だ。
「千早さま、よろしいですか」
「ああ、史か……入れ」
「失礼致します」
「どうだ? 僕の演技は完璧だったろう?」
「はい、少なくとも史からは完全な女性に見えました。というか、正直驚いています……。でも、その演技をずっと続けていれば男子校ならモテモテ、共学の学校でも苛められたりはしなかった気がします」
「……それは、まさに目からウロコだ。しかし、それだと尻の貞操が危ういだろ。僕は入れられるより入れる方が好きだ。無論、相手は女性であるべきだと考える」
「千早さまはどちらも未体験でしょうに……。もうすっかりお化粧も板について、ある意味拍子抜けな感じもしますね」
「聞き捨てならん事を言われた気もするが。……まぁ、僕が努力したからな。当たり前だ」
思い出したくもない、化粧を通して母さんととったコミュニケーションが目に浮かぶ。
「それにしても、千早さまを知っている人間が寮の中に居るとは驚きました」
「ああ、……薫子のことか? 確かに最初会った時は驚いたが」
街で見かけた黒い髪の彼女。名前を七々原 薫子というらしい。
「大丈夫なのでしょうか。薫子さまとお逢いした時、千早さまは男の格好だったのではありませんか?」
「問題ない。僕の見立てでは……彼女は頭が弱い。もし、バレとしても多重人格で押し通す。どうだ、完璧だろう? 褒めてもいいぞ」
「流石です。千早さまの頭はきっともう手遅れなほどにどうにかなっているのではないかと史は思います。取り敢えず荷解きを始めませんか?」
「……そこはかとなく馬鹿にされた気もしなくはないが、まぁいい、荷解きをするか」
「了解しました」
その後、しばらくして夕食に呼ばれ、何とか夕食を終えて僕はぐったりして部屋に戻ってくる。
「見た目は素朴でしたが、味は素晴らしかったですね」
「…………ぁあ」
僕はそのままベッドに倒れこむと、史に答えるようにゆっくりと息を吐いた。
「千早さま……?」
「……雌の相手は思った以上に疲れるな。これでハーレムも作らなければならないとは人生は儘ならないものだ」
「いえ、別に作る必要ありませんから。そう言えば、千早さまはどうやってハーレムを作るつもりだったのですか?」
何故か史がそんなことを聞いてくる。
「……え? どうって、そりゃ、ニコポとナデポで……」
「その言葉の意味するところは良くわかりませんが、史が言いたいのはそうではありません。千早さまが目指すハーレムは男女の関係を多数の女性を持つ事が目的なのでしょう?」
「そうだが……それが何だというんだ」
「ですから、男女の関係を持つと言う事は千早さまが相手に男として認識されなければいけませんよね」
「当たり前だろう」
「通報されませんか?」
「…………………………………あ」
それは盲点だった。
「……もしかして、本気で気づいておられなかったんですか?」
「ま、まさか、こんなところから僕の完璧な計画が破綻することになるとは……史、僕はどうするべきだ?」
「取り敢えず、広げた荷物を纏めて退寮しましょう」
「それはできんだろ、常識的に考えて」
「良識的に考えてください千早さま。そもそも、女子学院の寮で男女が一緒に寝泊りすることがどうかと思います」
「……それはそうだが」
「千早ちゃん」
その時、ドアを叩く音と一緒に初音の声がした。
史に目配せすると、「私が」と歩みでてゆっくりと部屋のドアを開ける。僕はその間に自分の体裁を整えておく。
「あ、史ちゃんも居たんですね。丁度良かったです」
「なんでしょう?」
笑顔で対応。アルカイックスマイル。
「新入生が来るまでまだ日があるから、お風呂の順番とかはきめていないんです。良かったら、二人とも先にお使いになってください」
「いえ、ですがそういうわけにも……」とまずは断るのが礼儀。謙虚さをアピールして好感度をアップさせておく。
「あはは、千早ちゃんが気にするのも解りますけれど、うちの寮は割と宵っ張りの人が多いので……先に入って貰えると助かっちゃうんですよ」
苦笑いをするように初音さんが微笑む。ようは自分が起きていられないだけだろう。
「わかりました、そういうことでしたら先に頂きます。初音さんが眠くなる前にね」
「え? あれ……私、なにか自分のことを言いましたか?」
「いいえ、ですが今の表情で少なくとも、薫子さんや香織理さんほどには初音さんが宵っ張りではないということだけは判りました。でしたら、先に初音さんがお風呂をお使いになって頂いても……」
顔に出やすいタイプだ、彼女は扱い易い。女性が入った後の湯に入るというのも乙なものだが、一度そう言った事を自分から覆したりはしないだろう。
「あ、いえ……それは大丈夫ですから! お二人ともお使いになったら、私に一声掛けてくださいね」
「ふふ、はい。わかりました」
「あ、それから……史ちゃんなんだけれど」
そう言って初音は史に向き直る。
「私が何か」
「今日から千早ちゃんも聖應の生徒ですから、史ちゃんも千早ちゃんをお姉さまって呼ばなくちゃね」
「…………そうですね」
傍目からわかりにくいが、どうにも煮え切らない態度を示す史。
「うん、じゃあ、私はこれで」
「ありがとうございます」
扉を閉めた後、「ううん、顔にでるのかなぁ……?」と困惑した声でつぶやくと初音は自分の部屋へと戻っていった。
「そのようなわけで、今夜から史も、不本意ながら千早さまのことを『千早お姉さま』と呼ばせて頂きます」
「不本意なのか。しかし、お姉さまか……ご主人様でもいいぞ」
「はい、キミガワルイです千早お姉さま。この学院では後輩は先輩のことを名前の後ろに『お姉さま』と付けてお呼びするのが原則なのです」
「…………もし、自分の名前が卑猥な名前でもお姉さまと呼んでくれるのか?」
「史には千早さまが何を言いたいのか理解できかねます。それより折角ですし、先にお風呂を頂いてしまいましょう」
「そうだな……って史。まさか一緒に入る気じゃないか?」
「そのつもりですが」
「……え? そ、そうなの? なんで!?」
冗談のつもりで言った一言に史が真顔で答えたので思わず声が裏返ってしまう。
「よろしいですか、千早さまはこれから女子の中で生活する身……当然、体育の時間に於ける更衣なども女子の一員として平然と行えなければなりません。で、あるならば早くから千早さまには女子とのスキンシップに慣れて頂かなくては。早道は普段から女子の裸体を見慣れることですから」
「いや、でも。史は僕がここで生活することに反対ではないのか?」
「反対です。ですが、それはそれ、これはこれ。主の望む事に100%の対応を見せ、死力を尽くす事こそが侍女としてあるべき姿です」
密室で裸の男女が二人。相手が史とはいえ。
「…………いや、その。なんだ。恥ずかしいじゃないか……」
「口では大きい事を言っていても大事な所でチキンなんですね千早さまは……。ほら行きましょう」
「……うぅ。そ、そう言うのはもう少し大人になってからにだな」
「…………それはどこの乙女ですか」
史は無表情で呆れていた。
初春、まだ、寮に来て一日目のことだ。初心なのは仕方がない。
ちなみに二日で女装がバレて、三日で本性がバレて、通報されました。
どこで間違えたのか、そもそもQロードしようにも選択肢が無いのでどうしようもないじゃないかという結論に至った。
人生は儘ならないものだ。
完