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ポイントは、次の7点だ。
1. 財政破綻は、不況期には起こらず、不況を脱したあとで起こる。
2. 財政破綻の限度額を超えても、まだ借金を続けていられる。
3. 財政破綻の限度額に近づいても、金利はまだ低いままである。
4. 財政破綻は、突発的に起こる。
5. 財政破綻を避けるために、増税すれば、かえって破綻に近づく。
6. 財政破綻を避ける策は、成長率を高めることである。
7. 成長率を高めるためには、財政を一時的に悪化させてもよい。
これらは世間常識には反するものが多い。そこで、順に解説しよう。
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1. 財政破綻は、不況期には起こらず、不況を脱したあとで起こる。
財政破綻が起こるのは、ドーマー条件を満たさなくなったとき(名目成長率が名目金利を下回ったとき)だ。それは、名目金利が低いときには起こらず、名目金利が上昇したときに起こる。つまり、不況期には、金利がゼロ近辺だから、財政破綻は起こらない。潤沢な資金が国債購入に回されるから、財政赤字は国債で埋められる。そのまま、破綻は起こらずに、状態は維持される。
ただし、不況を脱したあとで、巨大な財政赤字(国債の償還だけでも大変だ)を埋めるために、国債の金利を非常に高くしなくてはならない。そのとき、ドーマー条件を満たさなくなり、財政破綻が起こる。
→ ドーマーの定理の否定
2. 財政破綻の限度額を超えても、まだ借金を続けていられる。
上記(1.)のことを逆に言えば、こうだ。不況期に国債がどんどん売れても、それは財政破綻を起こさないことを意味しない。財政破綻は、不況のあとで起こるからだ。
「現時点で国債がどんどん売れていることは、人々が国債を信頼していることを意味し、それは財政破綻が起こらないことを意味する」
と主張する人がいるが、間違いだ。
現時点で国債がどんどん売れていることは、「今は財政破綻が起こらないこと」を意味するのであって、「将来も財政破綻が起こらないこと」を意味しない。(不況期には。)
3. 財政破綻の限度額に近づいても、金利はまだ低いままである。
政府の累積債務は、現時点で 1000兆円弱だ。財政破綻の限度額は、はっきりとしないが、1200兆円だとしよう。この額に近づけば、金利は上昇するか?「限度額に近づけば、金利は上昇するはずだ。逆に言えば、現状では金利が上昇していないから、限度額に近づいていないのだ」
と主張する人がいるが、間違いだ。
現時点で金利が低いこと(国債がどんどん売れていること)は、「今は財政破綻が起こらないこと」を意味するのであって、「将来も財政破綻が起こらないこと」を意味しない。
実際には、1200兆円を越えても、まだまだ債務を増すことが可能だ。つまり、財政破綻の限度額を超えても、まだまだ国債を発行できる! インフレのときには、そういうことはないのだが、不況のときには、そういうことが可能だ。(金利が低いので、ドーマー条件から。)
現実には、1500兆円ぐらいまでふくらませても、まだまだ借金ができるかもしれない。ただし、将来、不況を脱したときには、そのときの惨状はいっそう増す。
4. 財政破綻は、突発的に起こる。
以上のことからわかるように、財政破綻は突発的に起こる。不況のときには、財政破綻が起こるそぶりはまったく見られないが、将来、不況を脱したときに、金利が上昇し、そのとき、借金の返済の利払いだけで巨額になる現実に直面する。その時点で( or それが予想された時点で)、財政破綻が起こる。「財政破綻は少しずつなだらかに起こるはずだ。財政破綻が起こりかけたら、財政赤字を縮小すればいい。それまでは財政赤字を増やしてもいい」
と主張している人がいるが、間違いだ。財政破綻は、突発的に起こるからだ。それは、連続的な現象ではなく、不連続的な現象である。下記を参照。
→ 財政破綻は必然
5. 財政破綻を避けるために、増税すれば、かえって破綻に近づく。
サミットでは「財政赤字を 2013年までに半減」という方針で合意した。(ニュース参照。)しかし、このように増税をすれば、成長率が低くなり、かえって財政赤字が増えるし、財政破綻に近づいてしまう。この点、何度も述べたとおり。
→ 日本の財政破綻 【 重要 】
6. 財政破綻を避ける策は、成長率を高めることである。
お気楽な人は「成長と財政との両立」と述べているが、この両立は(短期的には)ありえない。財政健全化は、必ず、成長率を引き下げる。こんなことは経済学のイロハであり、それさえも理解できないようでは、どうしようもない。阿呆が夢を見ているだけだ。( サミットとは、愚者の頂上会議か。)
7. 成長率を高めるためには、財政を一時的に悪化させてもよい。
一時的に財政を悪化させて、大規模減税をして、不況を脱する。そうすれば、税収が大幅に増えて、財政は大幅に健全化する。その時点で、自然増収もあるし、増税もできる。だから、財政健全化のためには、一時的に財政を悪化させればいいのだ。「急がば回れ」である。→ 増税の条件
→ 新・中和政策
比喩的に言おう。病気で赤字が拡大しているときには、病人が薬を飲むのをやめて借金を返済すればいいのではなく、病人が薬を飲んで病気を治せばいい。その薬を買うためには、一時的に借金が増えてもいい。そして、病気が治ってから、借金を返済すればいいのだ。(前にも述べた比喩。)
財政破綻してしまうでしょうか?
管理人様の予測は、もう間近と察知されておられるのですか?
最近は財政破綻コラムが続くので不安になっております。
財政破綻シリーズは、菅直人などが「財政破綻の回避のために増税」(※)と言い出したので、「財政破綻とは何か」をきちんと示しているところです。
当面の主張は「増税は駄目」ということ。こっちが結論。財政破綻の話は、※ の否定が狙い。
不安になってもならなくても仕方ないので、今のところはせっせと貯蓄するのが一番賢明でしょう。破綻があっても日本が破滅するわけじゃない。物価が急上昇するか、大規模増税するだけです。貯蓄はその備え。
ということは、大規模減税による税収増よりも、借金の利子返済が多くなる借金の限度額があるということでしょうか?
となると、例えば1300兆円の借金が出来てしまったときには何をやっても破綻は避けられないのでしょうか?(1%でも13兆円!?)
そうすると、その時の首相が大規模減税をしたとして、破綻したのだとしたら、その首相は誹謗されてしまわないでしょうか?
破綻するのは、不況を脱したあと(数年後)で、金利が上昇したときです。
減税と破綻は、時期が違います。同時発生はありえません。きちんと読んでください。
また、何をやっても破綻は避けられないということはなく、猛烈な物価上昇か、大幅な増税があれば、形式的には破綻は避けられます。しかしそれは、破綻したのと同じ状況です。「破綻したから、猛烈な物価上昇か、大幅な増税がある」という形になります。形式的に破綻したかどうかではなく、「猛烈な物価上昇か、大幅な増税がある」ということが意味を持ちます。それは不可避です。(ただし、ある程度の先延ばしは可能。しかし、先延ばしをすればするほど、あとでまたひどい状況が待ちかまえる。……それは現状と同様。)
経常黒字国の日本で財政破綻論を展開するから、そいういう矛盾が出るんですよ。
5.6.7は正しいですね。
そう思うのは、論理のミスです。
破綻が起こるとすれば、不況を脱したあとですが、不況を脱したからといって、破綻が起こるとは限りません。
破綻が起こるかどうかは、それまでに限度額を突破したか否かに依存します。
たとえば、今現在なら、まだ限度額を突破していないので、減税により、不況を脱して、かつ、破綻を回避できます。
しかし、あと 500兆円か 1000兆円ぐらい財政赤字が拡大すれば、必ず破綻するでしょう。ただし、その破綻が起こる時期は、不況のさなかではなく、不況を脱したあとです。
その突発的な発生形態は、「バーナンキの背理法」で述べたような形態です。「薪に火がつく」形で、突発的な炎上。
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経常黒字の件は、下記項目のコメント欄に記述しました。
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