このコーナーではIHM総合研究所にて撮影している最近の結晶写真を中心に興味深いものをご紹介します。
お気に入りの音楽に「浸る」、大好きな曲を「流す」。ゆったりとお風呂に「浸かり」、1 日の疲れを「流す」。音楽って水の持つ特徴と似ていますね。
通勤や通学の途中にヘッドフォンで曲を聴くのも良いですが、やっぱり音楽はゆったりとした姿勢でじっくり味わいたいものです。また、リズムに合わせて踊ったりするのも楽しいでしょう。そして、なによりも生で聴く演奏は素晴らしいものです。すぐれた演奏は、体中にそのバイブレーションが伝わり、演奏者と聴衆が一体となる瞬間があります。音楽の醍醐味は、そんなところにあるのかもしれません。
音楽のバイブレーションは、水を湛えた私たちに伝わり染み込んでいます。なかでも名曲と呼ばれる曲は、人に感動を与え心地よい振動として多くの人々の記憶に刻まれています。今回の「水の顔」は、そんな音楽の記憶を結晶に表現してもらいました。
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まずはヴェネチアの作曲家ビヴァルディの「四季」を、それぞれ聴かせた水の結晶たちです。この曲はバイオリン協奏曲集「和声と創意への試み」という曲集の中の第1曲から第4曲にあたります。春夏秋冬という四季の情景を曲の中に表しており、特にその中でも「春」は読者の皆さんも耳にしたことがあるかと思います。
では、まずバイオリンの調べが爽やかな風を感じさせ、小鳥たちの喜びの歌声が聴こえてくるような「春」の曲を聴かせた結晶から紹介しましょう。
均整の取れた結晶は六方向に平均して伸びてゆくものが多いのですが、なぜかおもしろいことに一方向だけ成長が小さい結晶が幾つかありました。それはまるで若々しい新芽のようにも見えてきますし、蕾から花開く様子を表現しているようでもあります。春の訪れは、土地の風情や環境によっても異なります。でも共通していえるのは、寒さで硬く縮こまっていた身体に注ぐ暖かな日差しや、寒さの和らいだ風を感じる時ではないでしょうか。そんな暖かな陽気に誘われて、気持ちが開いていく様子を表現した結晶たちです。
続いては「夏」です。
この曲はゆったりしたところと速い曲調が交互に表されています。まるで夏のけだるさと雷鳴とどろく夕立を連想させますが、結晶はそんな激しい気候によって成長を促され、大きく育った木々の葉のような力強さを感じさせます。
また、太陽を表現したような円形に近い放射状に伸びた結晶の枝葉は、夏の日差しを思わせます。
そういえば、小さい頃に描く太陽もこのような形でした。夏と氷とは、今まで「かき氷」ぐらいの繋がりしかなかったと思うのですが、「夏」の曲と結晶写真の組み合わせによって新たな世界を感じることができます。まさに今は夏真っ盛りです。結晶から今の季節をイメージしていただけたらと思います。
ビヴァルディが暮らしたヴェネチアでも、秋は豊作を祝い各地で祭りが催されたことでしょう。曲はそんな楽しげなメロディがバイオリンから奏でられたかと思うと、第2楽章では祭りの後の静けさが展開されています。
結晶を見てみると、やはり堂々と成長したものが見られます。
なかでも目を惹くのが、大きな結晶にのった小亀のような結晶です。結晶の中に実った結晶。豊作の秋にはぴったりのイメージですね。それにこの結晶は非常に珍しい点があります。それは、親亀と小亀の結晶の焦点が二つとも合っているということです。上下に配置された結晶は、今までに何度か観察されたのですが、大抵どちらか一方はぼやけてしまうものです。
それがどちらもクリアに見えるということは、ほとんど張り付くようにして小亀の結晶があるわけです。まるで、結晶から結晶が生まれ出る瞬間のようでもあります。秋の豊かさが結晶の表情にまでも現れた珍しい1
枚です。
そして、冷たい北風と厳しい寒さをバイオリンの音色で表現される「冬」の第1楽章。その後の第2楽章ではそんな寒い外から温かい暖炉の前でくつろぎながらまどろむ平穏なイメージを伝えています。最後の第3楽章は、緩やかな調子と激しいバイオリンの音色が組み合わされ、厳しい寒さの中で春を待つ微妙なニュアンスを表現しているようです。
描写的音楽が織り成す表情の豊かさに驚かされてしまいますが、結晶の表情もやはり豊かです。
冬と結晶のイメージはあまりに近く結晶がそのまま冬を表していますので、そのままと言えばそのままです。でも、そこは結晶の世界の奥深さと読者の皆さんの想像力を頼りにイメージしてみましょう。鋭角な飾りを持つ結晶がありました。凍てつく寒空にチラチラと舞う粉雪はこんな結晶なのかもしれません。また繊細で細かな飾り部分が特徴の結晶も観察されました。これは貴婦人が纏まとう柔らかで温かな毛皮のコートのようでもあります。第2楽章で表現された柔らかで優しいイメージが、結晶を着飾らせたのではないでしょうか。
北海道や東北の四季と九州、沖縄の四季が違うようにビヴァルディの暮らしたヴェネチアの四季は、日本の四季とはだいぶ違うものでしょう。でも四季とは、自然の中の情緒を観るということでもあります。そんな自然と人間の交流から育まれた美意識によって創られたのが「四季」の曲なのではないでしょうか。「四季」もそれを聴かせた水の結晶も、多くの人が共鳴できる美意識に訴えかけるメッセージがあると思います。
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名曲を目で楽しめる結晶の姿、次はチャイコフスキーの「白鳥の湖」を聴かせた結晶です。これは数ある結晶の中から特徴のあるものを連続写真で選んでみました。白鳥の華麗なイメージと、細かく伸びた首のラインまでもが表現されています。結晶が成長する過程は、まるで雛鳥が凛々しい白鳥へと成長し、湖面から羽ばたくようにも見えます。そして、今にも溶けてしまいそうな結晶の飾りは優しい羽毛を思い出させます。
次も、おそらく皆さんご存知の曲、メンデルスゾーンの「結婚行進曲」です。華やかな結婚式をそのままイメージしたような見事な結晶です。きっちりと開かれた結晶は、まことにおめでたい結婚式にふさわしいのではないでしょうか。
そして、さらに意味深な結晶も紹介しましょう。六角形の一方が二つに分かれた結晶です。結婚なのに別れているとは不謹慎ですね。でもご安心を。別れた結晶は寄り添う新郎新婦をイメージしてください。そしてその他の角から伸びる結晶は、祝福する仲間たちです。見方を変えるとガラリとイメージが変わってしまう、これは結晶マジックとも言えるかもしれませんね。マジックはさらに続きます。新郎新婦の結晶部分の奥にぼんやりと見える結晶。これは神父さん、もしくは神主さんとしましょうか。
いや、やはり外国の曲なので神父さんですね。二人の誓いがなされている教会での場面が一つの結晶に表現されてしまいました。連続写真で見ると、新郎新婦が少しずつ近づき合っていくようです。めでたく美しい結晶ですね、本当に。
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さて、様々な曲に沿ってたくさんの結晶を紹介してきましたが、結晶から曲の風情を感じていただけましたでしょうか。曲を聴かせた水を50枚のシャーレにのせて結晶を観察していますので、そこから得られる結晶の形状は様々でもあり、また良く似ているものもあります。形がいろいろあるのは、曲中のメロディの移り変わりを表現しているからなのでしょう。結晶が似ているのは曲の波動が結晶に顕著に現れた証でもあります。
読者の皆さんが今回紹介した曲のCDなどをお持ちでしたら、是非ゆっくり聴きながらその曲の結晶写真を愛でてみてください。名曲を楽しみながら、その波動が創り上げた美しい結晶を楽しむという新しい音楽鑑賞の時間が持てることでしょう。
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