ピーヒョロロロロ……。トビがのんびり上空で円を描いて飛んでいる。のどかな風景だ。しかし、油断ならない▲昨年の梅雨の合間、京都市の鴨川の河原のベンチに座って昼食のパンを食べていた。右手にウインナーがはさまったパン。ひじを曲げて肩の高さにあった。突然、耳元に風を感じた。何事! と驚いた時には、トビが数メートル先を川面に向かって滑空していた。パンは消えていた。ひじを曲げたままでしばらく固まっていたから、間抜けな姿だったと思う。上空でパンを見つけ、背後に急降下、右肩をかすめ、足でパンをつかんだのだろう。浜田市では妻が港に近い公園でやられた。持って行かれたのはサンドイッチ。敵は上昇前に半分、地上に落としていった。次の来襲があってその半分もつめでひっかけて飛び去ったとか▲2人ともけがはなかったのはたまたまだろう。「トビに油揚げをさらわれる」という成句ができるはずだと感心してばかりいられない。「ピーヒョロロロロ」には相当用心するようになった。【大西康裕】
毎日新聞 2010年7月3日 地方版