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景気回復の足取りは加速してきたが、欧州発の信用不安などで行く手に暗雲が漂う。自律的成長への足場を固めるために政策はいま何をすべきか、を考えたいところだ。日銀短観の6月調[記事全文]
「会社で育休取得第一号になる」「半年間の育休を思い切りエンジョイします」「週3日以上、息子と一緒に風呂に入るぞ」イクメンたちの宣言が、厚生労働省が6月に開設したイクメン[記事全文]
景気回復の足取りは加速してきたが、欧州発の信用不安などで行く手に暗雲が漂う。自律的成長への足場を固めるために政策はいま何をすべきか、を考えたいところだ。
日銀短観の6月調査で、大企業製造業の景況感が2年ぶりにプラスに転じた。1994年以来、16年ぶりに全業種で景況感が上向いた。大企業の非製造業や、中小企業も改善した。中国などへの輸出の好調が着実に波及していることが示された。
今春以降、世界経済は欧州の混迷に揺さぶられてきた。ギリシャ危機に右往左往する欧州連合(EU)への不信がユーロ安や世界的な株安を呼んだ。しかし、短観によれば日本企業への影響は今のうちは限定的だ。
ただ、大方の企業が短観の調査に答えた先月10日以降、欧州では銀行の財務悪化を心配する当局が特別検査に乗り出した。米国では住宅減税が終わった途端に販売が急減し、株安が自動車販売に影を落とす。中国は製造業の景況感に鈍化の兆しが見える。
先のG20サミットで日本を除く各国が13年までに財政赤字を半減させることで合意し、将来も財政出動は見込み薄となった。それが世界市場で株安を加速させる要因にもなった。
国内では自動車の買い替え補助が9月末で終わるなど、政策効果はもうじき息切れする。企業も過去の順調な回復が今後も続くとは思っていない。このため、設備や雇用の過剰感は和らいでいるのに、思い切った投資や採用の拡大に至らない。
大企業の今年度の設備投資計画は3年ぶりにプラスに転じたが、その勢いはなお弱い。働きたい人が増えているのに就職口が増えないので、失業率が上がっている。来年度の採用計画も全体で今年度より5.5%少ないというありさまだ。企業の腰はまだまだ引けている。
設備投資の拡大を本格化させ、雇用や個人消費も含めた内需全体の盛り上がりにつなげるには、企業の挑戦を促す追加的な政策が急がれる。
ここは企業を奮い起こすような刺激策がほしい。むろん補助金のバラマキはできないから、知恵を出す「賢い政府」としての役割に期待したい。政府は先に成長戦略をまとめたが、企業が前向きに打って出るようにするには「ストーリー性」や「シナリオ力」を補強する必要があろう。
健康、環境・エネルギー、科学技術、アジアとの融合といった戦略分野ごとに、規制改革や新制度の導入で新市場をつくり、新しい産業と社会の創出に結びつけてほしい。
何よりも、今後のビジネスチャンスのありかがわかるようにすることが民間の投資と消費を引き出し、雇用を増やす大きな力となるだろう。
「会社で育休取得第一号になる」「半年間の育休を思い切りエンジョイします」「週3日以上、息子と一緒に風呂に入るぞ」
イクメンたちの宣言が、厚生労働省が6月に開設したイクメンプロジェクトのサイトに並ぶ。これまでに登録した人は250人を超えたという。
「イクメン」とは子育てに積極的にかかわろうとする父親のことだ。そんな人たちがいま、増えている。子どもや家族、そして社会にとって歓迎すべき流れだ。
こうした男性の育児参加を広げる支えとして、6月30日に施行されたのが、改正育児・介護休業法だ。
「パパ・ママ育休プラス」として、企業が認めなければならない育休期間を、夫婦ともに取る場合は、子が1歳になるまでだったのを、さらに2カ月延長した。たとえば、妻が1年取った後に夫が2カ月取ることもできる。
妻の出産直後などに夫が育休を取ると、その後、再び取ることはできなかったが2度目も取れるように変えた。3歳までの子どもがいる従業員向けの短時間勤務の制度化も義務づけた。
2009年の日本の出生率は1.37。まだまだ少子化に歯止めはかかりそうにない。ただ、厚労省の08年の調査では、子どもがいる夫婦の場合、休日に夫の家事・育児時間が長いほど第2子以降の出生割合は高かった。妻の育児負担を和らげれば、子どもを作りたいと考える人も増えるだろう。
とはいえ、取る権利があり、使い勝手のいいものにしても、実際に取らなければ、絵に描いた餅だ。
子育てのために会社を休む人の割合(育休取得率)は、女性が約90%なのに対し、男性はまだ1.23%(いずれも08年度)。希望者なら約3割もいるのに、だ。
休むと同僚らに迷惑がかかってしまう、言い出せる雰囲気ではない……。取得率の低さからは、そんな意識が透けて見える。
一番大事なのは職場の管理職たちの意識改革だろう。ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和)に取り組み、従業員の満足度が高い職場にすることが結果的に、業績向上につながる。そう考えて、短期的な損得ばかりを重視しない姿勢が求められる。
その点、育休を取った東京都文京区長や長野県佐久市長は、率先垂範の好例だ。
現実には、育休を理由に解雇される「育休切り」などの不当な扱いを受けたという相談さえ、まだ後を絶たない。非正規雇用の労働者が実際に取れるのかといった問題もある。
それでも、「イクメン」という言葉の流行が象徴するように、社会の意識は変わりつつある。今回の法改正をきっかけにそれをさらに加速させたい。