きょうの社説 2010年7月3日

◎前田家墓所の整備 城と同様、復元増やす視点で
 国史跡となった前田家墓所はこれからの整備次第で、金沢を代表する「歴史公園」に変 貌する可能性を秘めている。市の検討委員会は約80基の墓のうち、1、2カ所をモデル墳墓とし、築造当初の姿に戻す方針を示したが、墓所の最大の見所は古墳群を思わせる土盛りの墳墓にあり、その価値を最大限に引き出すなら、歴代藩主を中心に、できる限り復元させる発想があっていい。

 金沢城が加賀藩の統治のシンボルなら、墓所は藩の最も神聖な場として位置づけられて きた。藩主や正室、側室、子女らの墓が並ぶ空間は前田家の系譜そのままであり、加賀藩史の縮図ともいえる。藩政期の歴史をしのぶという点では、金沢城や兼六園に劣らず貴重であり、その魅力的な空間を生かさない手はない。

 金沢城で城郭建築物の復元が進んでいるが、墓所整備においても城と同様、復元は極め て重要な視点である。藩主の人物像や功績を記した案内看板も充実させ、歴史に深く思いを至らせるような仕掛けを増やしてほしい。

 前田家墓所は史跡指定を受け、今年度中に整備基本計画が策定される。検討委の初会合 では墳墓の現状維持を基本に、モデル墳墓の復元、参道や側溝の整備などが示された。古色蒼然とした霊域の空気を損なわず、どこまで手を入れるか議論になろうが、墓所は急斜面を行き来するため、歩きやすく、回遊性を高めるような散策ルートが必要である。墓所周辺から金沢城を見えやすくする工夫もほしい。

 墓所では藩祖利家夫妻や2代利長、3代利常、5代綱紀らの大きさが際立つ。墳墓の形 状や位置関係から加賀藩の「お家の事情」がうかがえ、ふるさと教育にも適した場所である。観光客も金沢城、兼六園の後に墓所に足を延ばせば「加賀百万石」の陰影をより深く感じ取ることができるだろう。

 新盆で野田山全体が線香の煙に包まれる今日の風景も、山頂付近に前田家墓所ができた のが始まりである。地域のシンボルとして存在感はもっと高まっていい。金沢の礎を築き、多彩な文化を育てた前田家の墓を整えることは、都市の風格を高めることにもなる。

◎中台自由貿易 日台の企業連携に弾みも
 台湾と中国が自由貿易協定(FTA)に相当する「経済協力枠組み協定」に調印したの を受けて、馬英九台湾総統が主要貿易相手国とのFTAの実現に意欲をみせた。これにより日本や欧米、東南アジア諸国などとのFTA交渉が今後の通商・外交課題として浮上してくることになろうが、中台の貿易自由化は一方で、台湾企業と連携して中国市場の開拓をめざす日本企業の追い風にもなるとみられる。

 馬政権が掲げる台湾の経済戦略目標の一つは、中国に進出する各国企業の拠点として成 長することである。中国市場の「玄関口」としての地理的な優位性を生かして経済発展を図る狙いである。

 日本国内でも、中国への直接投資は相当のリスクを伴うため、中国に人脈や生産・販売 網を持つ親日的な台湾企業と連携して中国市場に進出する方法がかねて説かれてきた。実際、電気機器や自動車部品などの生産、販売で日台の企業提携が積極的に行われており、日台合弁の中国現地法人の「生存率」は高いといわれる。

 もっとも最近は、日本企業が対中ビジネスの経験を積み重ねてきたことや、中国市場で の日台企業の競合が目立ってきたことなどから、日台の企業連携による対中投資の動きは以前ほどではないようだ。中台の関税撤廃が進めば、台湾企業とライバル関係にある日本企業の立場は厳しくなる。

 日台企業の競争が激しい液晶パネルは今回の協定で関税撤廃優先リストから外されたが 、今後の中台交渉で撤廃対象になる可能性もあり、要注意である。

 それでも中台の経済一体化は、対中投資のパートナーとしての台湾企業の優位性をさら に高める一面もあり、日台企業共同の中国市場開拓戦略に弾みをつける契機にもなろう。中国政府は融和方針に基づいて、台湾企業にさまざまな優遇措置もとっている。

 中国経済、中国企業の成長は著しいが、日本企業にとって「中国リスク」が減ったわけ ではなく、信頼性のある台湾企業をいわば水先案内人として対中進出を図る手法は、なお有効であろう。