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50億キロの旅路 「はやぶさ」帰還へ(上):

小惑星へ2度の“着陸”

はやぶさが挑んだ、小惑星「イトカワ」への着陸と岩石試料採取。最初のチャレンジは失敗。2回目も成功しなかった可能性がある。正否は回収するまで分からない。
2010年06月02日 21時43分 更新

消えない「降下中」

 「降下を開始します」

 平成17年11月19日夜、相模原市の宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究本部(当時)。管制室に、小惑星探査機「はやぶさ」のチームを率いるプロジェクトマネージャ、川口淳一郎の声が響いた。

 地球から3億キロ離れた小惑星「イトカワ」への着陸と岩石試料採取への挑戦が始まる。地球との交信に往復で30分もかかるため、はやぶさは搭載した機器で自律的に状況を見極め、毎秒数センチの速度でイトカワとの距離を縮めた。管制室の状況はインターネットで全世界に中継された。

 しかし、日付をまたいで着陸が想定される時間を大幅に過ぎても、「降下中」の画面表示が消えない。原因は不明。管制室は静まりかえった。

 「だめだなこれは。何が起きているのかわからない。デルタV(離陸)だ」

 川口が沈黙を破った。この時点で、着陸失敗、岩石採取は未遂と覚悟した。

 データ解析の結果、はやぶさはイトカワの地表で2、3回バウンドした後、約30分間も倒れ込んでいたことが判明。少なくとも着陸には成功したのだ。

 「呼吸はつかめたぞ」

 再挑戦に向けて、チームの意気は上がった。

「月の石」以来

 地球以外の天体から、岩石試料の回収に成功したのは、米国のアポロ計画と旧ソ連のルナ計画による「月の石」だけだ。太陽風の粒子や、彗星(すいせい)の塵を持ち帰った例はあるが、はやぶさが着陸・採取・回収に成功すれば、ルナ24号以来34年ぶりの快挙となる。

 はやぶさ計画の始まりは約20年前、宇宙科学研究所(15年にJAXAに統合)で構想が練られた。当時を知るJAXA名誉教授の的川泰宣は「かなりチャレンジングだったが、当時の宇宙研では“行ける所まで行こう”との雰囲気だった」と振り返る。

 イトカワは地球からの距離が月の約800倍、重力は地球の10万分の1以下。往復の航行と着陸には、高度で繊細な技術が要求される。岩石試料の採取は、長さ1メートルの筒を降ろし、金属弾を衝突させて舞い上がった岩石の粉を取り込むというユニークな方法になった。

成否は帰還後

 2回目の着陸を試みたのは11月26日。降下は順調、管制室の画面に作業完了を示す「WCT」の文字が緑色に点灯した。

 「やったー」。成功を確信し、笑顔と歓声が管制室に広がった。その喜びもつかの間、金属弾が発射されなかった可能性が高いことが、データ解析で判明した。

 地球へ帰還させるには、3度目に挑む時間の余裕がない。「計画通り」ではなかったが、2度の着陸で収集容器に砂ぼこりが舞い込んだ可能性は残っている。

 「成否は地球で回収するまでわからない」(川口)。帰路についたはやぶさを待ち受けていたのは、さらに厳しい試練だった。(敬称略)


 地球まで約700万キロ(5月28日現在)。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機「はやぶさ」が地球に向かっている。打ち上げから7年、航行距離は50億キロにも及ぶ長い旅路のゴールが近づいた。6月13日の帰還を前に、数々のトラブルを乗り越えてきた関係者の苦闘と希望の道のりを振り返る。(小野晋史)

[産経新聞]

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