今日も勃起してる、最高だ
ボクはあなたのことを知らない。あなたの今日がどんなで、あなたが誰にメロメロで、あなたが何に苦しんでいるのか、そんなことを何も知らない。そして相談に乗ることもできないし、手を差し伸べることもできない。もっと正直に言ってしまえば、ボクはボクのやりたいことに夢中で、それだけで日が暮れる。あなたのことを考えていないことが多くて、とても自分勝手だ。
だけど、ときどき考える。「この前のライブに来てくれたあの夫婦は仲良くしてるかなあ」とか、「いつも来てくれるアイツは童貞を捨てられたかなあ」とか、「あの子の受験は上手くいったかなあ」とか。
しかしそれだって、もう一度ボクのところに来てくれて報告してくれないかぎりは、やっぱり知ることができない。それにライブ会場で会える人というのはほんの一部で、このブログだけで繋がっている人のことは本当に何も知らない。だけど、あなたについて知っていることが一つだけある。
あなたが変態だということ。
ブログを見るのならアイドルさんのブログを見るべきだ。タレントさんのブログを見るべきだ。あなたを喜ばせようと、胸の谷間を強調したサービスショットを載せてくれる人もいる。TVでは観ることのできない芸能人のプライベートの交友録を写真で伝えてくれる人もいる。よっぽどエンターテイメントだ。
そんな中、夜な夜なこんなブログを覗くあなたはやっぱりヘンだ。どうかしている。中には日課にしていた人もいるかもしれない。いよいよ気持ち悪い。
きっとそんなあなたは、職場や学校や友人関係で疎外感を覚えながら日々生きているんだと思う。周りの皆のように上手く立ち回れないのだと思う。それで、同じような匂いを嗅ぎつけて、ここに転がり込んで来たんでしょ? うん、わかる。わかってる。だからここに約束する。
ボクはこれからも、あなたと同じような角度からブイブイ言わせちゃう。
すごいでしょ? 芸能界なんて30年先輩の大御所とあたりまえのように共演したりすることがあるのに、それでも尻尾を振らないんだから。この文章が大御所に見られてやしないかとビクビクしながらも、「関係ないね」とタンカを切って、こうやって格好をつけている。まあ、いつだってビクビクしているよ。
ボクがあなたに約束するのは、怯えながらもその姿勢を崩さないということ。ボクは頑張る。だから、あなたも頑張れ。いつまでも外野から見てるんじゃないよ。だいたい、飛び込む以外にどんな選択肢があるのよ? 小難しい計算をたてて、それを綺麗にこなせる程、ボクもあなたも器用じゃないでしょ。泥んこで結構。
ボクにはやりたいことがたくさんある。
夏の『KING KONG LIVE』は毎年やりたいと思っている。ドキドキするようなTVをやりたいと思っている。独演会は爺になるまで続けたいと思っている。絵本にしろ、小説にしろ、誰も見たことのないモノをたくさん産みだしたいと思っている。これからも、仲間の芸人たちと何の為にもならないトークライブをしたいと思っている。これからも仕事仲間と酒を呑み、明日を語らいたいと思っている。そしてなにより、父ちゃんと母ちゃんより長生きしたいと思っている。
そういうことを一つずつブログで報告していければいいんだけれど、芸歴を重ねると意見が通りやすくなってしまう。ボクはやりたいことをやる為に偉くなりたいけれど、外に対しては偉くなんかなりたくない。たとえば小学生に、いつまでも好き勝手に意見される存在でありたい。ボクは芸人、河原乞食。だからブログは今日でやめる。
それでも繋がることができる。
あなたのことは知らないけれど、あなたと笑うことができるからだ。まるで魔法のようだけど、それがお笑いの可能性。ボクは、小学2年の頃からずっとずっとずっと信じている。お笑いに裏切られたことなんて一度もないから、きっと今度も大丈夫。お笑いにまかせてりゃ、きっと大丈夫。繋いでくれる。
涙をボロボロとこぼしたり、落ち込んで真っ暗になったり、もう全てを終わらせようと思ったり、いつまでも前進しない状況に苛立ったり、殺したいぐらいに人を恨んだりすることが、この先のあなたに降りかかるかもしれない。いや、もうすでにその状況にあるかもしれない。生きてりゃ当然のことだ。
そんな時はボクが次のカードを切るまで待っていてください。ボクはそのカードで、あなたを笑わせて、ドキドキさせて、キュンキュンさせて、なんだかバカらしくさせようと思う。たったそんなことで救われることもある。
あなたのこれからは楽しいことがたくさん待っている。ボクがヒーヒー言いながら、そんなモノをたくさん作るから。だけど、それを手に取ろうとするのはあなたのお仕事。笑おうとするのはあなたのお仕事。作品を手に取ったり、TVをつけたり、ライブに足を運んだり。それがなきゃ始まらない。それがなきゃ繋がらない。そんな時、いつも思う。
あなたがお笑いを好きでいてくれて、ボクはとても幸せだ。
いつもありがとう。あなた頑張れ。
2010年7月3日 西野亮廣