以前投稿していた物を見つけたので再投稿してみます。
更新等ありません。申し訳ありません。
目が覚めたら知らない天井だった。
なにこのやたら豪華な天井。
起きて部屋を見回す。
「ここは…」
声を出して自分の物ではない事に驚く。
「蝕が!蝕が!」
周りでうるさく声が聞こえる。
手。浅黒い。
「主上!大丈夫でしたでしょうか」
ばたりと戸があいて中華風の男が現れる。
「大丈夫じゃない。悪いが俺の名前を言ってくれないか」
明らかに俺は俺じゃない。それに、この雰囲気。デザイン。
どことなく見覚えがあった。
「乍驍宗様ですが…どうしたのですか!?」
十二国記の驍宗か!!かなり酷い死亡フラグを持っている奴じゃねーか!
十二国記というのは、十二の国を人から選ばれ神になった王が治めるという話で、王様が失敗をすると失道といって国に天変地異がおき、妖魔にあふれ、王を選んだ麒麟が死に、選ばれた王も死ぬという死亡フラグ満載のきつい世界だ。
驍宗は早くに王になり、失策でもなんでもなく、ライバルを取られたくない複雑な思いっぽいもので反乱を起こされる王だ。
反乱が起きた時に行方不明、でも生きているという状態で10年近くの状態になる。
この国の王で、ワンマン主義者の天才。
天才過ぎて周囲の理解が中々得られず、いつも一人で突っ走りすぎて周囲を不安にさせていた王。
このままじゃ信じる信じないで騒いでる間に殺されるか監禁コースだ。
戴だって、滅ぶ寸前まで行く。続きが書いてないから知らないが、あのままじゃ滅ぶだろ。
夢でも何でもいいからひとまず対処しなくては。
「泰麒を呼んできてくれ。すぐに」
俺はまず泰麒を呼ぶことにした。泰麒は驍宗を選んだ麒麟で、いつも自分の力不足に悩んでいる子供だ。
従えた妖魔を指令というのだが、泰麒は二つしか指令を持っていない代わりに、饕餮という強力な妖魔を従えている。
また、本人は気づいていないがかなりタフで頼りになる麒麟だと俺は思ってる。
「泰麒は…」
従僕?だろうか?男が言いよどんだ。
「使節として出ていて、後半月は戻っては来ないではないですか」
思い切ったように男が言う。いぶかしげな顔をされた。
そこまで話が進んでるのか。泰麒が外へ出されていると言う事は、
今、官の粛清の真っ最中。その間、優しい泰麒に隠す為に一月出掛けさせていたはずだ。
確か反乱ってこの後じゃね?
もう阿選…反乱を起こす驍宗の元ライバルなんだが…準備を終えてるんじゃね?
ここから死亡フラグ回避は不可能だろう。
俺はこの場をなんとか出来そうな人間を大急ぎで考える。
玉葉だ!王を選ぶ麒麟を育てる蓬山の長!彼女なら何とかしてくれる!何せ神!
俺も神だけど!
「俺は今から蓬山に重要な相談に行く! 体調が悪いので李斎に連れて行って欲しい」
李斎とは驍宗と仲のいい女性で、女の将軍だ。
恋愛関係にはないと思う。というか驍宗に恋人はいないと思う。
そんな暇があったら忙しく働いているような人だ。
李斎を選んだのは、一緒に蓬山に行った事があるからだった。
「どうなされたのですか、主上!体調が悪いとは、確かにご様子が…」
従僕が、俺の様子に焦ったように声を出した。
「大切な用だ。玉葉様に会ってから全て話す。驍宗の危機だといって泰麒を急いで蓬山に連れて来る様に。それと延期が憑依物って言葉を知っていたら一緒に来るように言ってくれ」
人生で一番頭を使った。
ナイス俺。
俺は心配する李斎に抱えられて、蓬山へと向かった。
本当は高い空が少し怖かったのだが、李斎には体調が悪いで済ませられた。
良かった良かった。
しかし、憑依したのが神仙と言う事が嬉しくて悔しい。
俺は大学で通訳になる為の勉強をしていて、この間念願の10ヶ国語を達成した所だった。
ただの10ヶ国語話せる奴なんか腐るほどいるが、俺の場合は違う。
日常会話どころか、各種専門用語も勉強し、人生をこれにかけていたと言っても過言ではない。でも神仙は、人の言語は全て理解できる。
それも、自分の母国語として聞こえてしまうから勉強の余地がない。
書き言葉なんかも、発音が覚える際の重要な要素になってくる以上、難しいだろう。
しかし、神仙でなかったら数ヶ月は言葉で困ったはずだ。
いかん、そう考えたら本当にぐったりしてきた。
俺は慌てる李斎に寄りかかり、蓬山につくまでの間ずっと沈んでいるのだった。
蓬山についた。俺は家に帰れるかもしれないと元気を取り戻す。
李斎は柔軟な方ではなかった様に感じた。
余計な事を聞かれても困る。
とりあえず李斎を置いてきて、おれは単身玉葉の所へ向かった。
「戴王どの、このような所にいかがした。妙な蝕が戴のほうで起こったと聞いているが…」
玉葉が出迎える。さすが、反応が早い。俺が来る事を早期に察知していたのだろう。
「ああ、玉葉様。賓満をご存知ですか」
賓満。死体を操る妖魔だ。多分、それを例に出すのが一番わかりやすい。
「王が私に様などとつけるとは。もちろん知っておるが…」
戸惑ったように玉葉が答える。
「あれと同じように、驍宗様に取り付いてしまいました。本人の意識がどこいったんだか見つかりません。なんで普通の人間の俺が驍宗様に取り付いたのかもわかりません。とりあえず元の体に返してください」
玉葉が止まった。俺の額に触れる。
「正気かの?」
玉葉は何事かを調べているようだった。
「泰麒に聞いてみてください。多分王気無いと思うから。何より、驍宗様にお会いになった事があるでしょう? お会いになった事があれば、わかるはずです」
起きてから出発まで実に20分程だったが、従僕達周囲のものも皆強い違和感を示していた。
そこへ、黒麒がやってきた。
転変して、俺に縋りつく。麒麟は、人の姿と麒麟の姿の両方になれるのだ。
「驍宗様!一大事って…あれ…?王気が…なんでしょう、これは…中身が無い…?」
王気がないならともかく、中身がないという言葉に俺は驚く。
王気とは、体の才能も込みなのだろうか。
「やっぱり無いのか中身。どうにかして探せないか」
俺が泰麒に聞くが、泰麒が泣きそうな顔になった。
「中身とはどういう事でしょう。王気が途中で途切れているのは感じます」
「ど、どういう事じゃ、詳しく説明してたもれ!」
玉葉が叫ぶ。
慌しい説明が終わると、玉葉は苦々しい顔で言った。
「あの蝕が蓬莱とは違う異界へと繋がる蝕だったかも知れない以上、戴王殿を探すのは至難の業…しかし、偽王を王に据えるわけには…。前例がない……」
玉葉はしばらく悩んだ後、蓬山の奥に消えた。
その後、俺を階段の元に案内する。
「この階段を上れば全てが解決するはずじゃ」
蓬莱とは現代社会のことだ。もちろん俺の世界じゃないが。
蓬莱に麒麟の子が流される時があり、その時でさえ探すのは大変そうだった。
不安だった俺は、全てが解決すると聞いてほっとする。
「驍宗様」と名を呼びながら泣きじゃくる泰麒を置いて、示された階段を、俺は登った。
「良かった良かった、これで帰れる」