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[19793] とある魔術の禁書目録 短編集
Name: みさき◆16fe1895 ID:29145f31
Date: 2010/06/29 22:53
長編は書いてて眠くなるので、色んなシチュで短編ばっかり書いてきたいなと思ってます。

追記
基本的にギャグか設定改変ものの掲載です。あと1とか2とかは、第一章(短編)の第一節(区切り)みたいなもんだと思ってください、いや普通に中編なのか?……まあ、そこはスルーしていただければ幸いです。


追記2:簡単な内容概説

・とある体調不良のインデックス

ある日インデックスが食欲がないとか変な事を言い出した、直ぐに治ると思っていた上条当麻だったが一向に治る様子がない。
これには何かが有る、そんな嫌な予感がした時ステイル・マグヌスからの電話が……。



[19793] とある体調不良のインデックス 1
Name: みさき◆16fe1895 ID:29145f31
Date: 2010/06/24 02:32
「食欲が…ないんだよ」

「……はい?」

開口一番。
まるで世界が終焉を迎えるかの如く重々しい雰囲気のインデックスから放たれたその言葉に、清々しい朝の空気を胸一杯に吸い込んでいた当麻は間抜けな声を出した。

それはもしかしてギャグで言っているのか。
小粋なジョークのつもりなのだろうか、もしかしたら外国語で『すげーお腹空いた早くなんか食わせろよジャップ!』という意味があるのかもしれない───と失礼千万な事を考えるが、見た限りでは本当に食欲がない風に見えた。

日頃の様子からは考え辛いがインデックスも人間だ、そんな事もあるのだろう、深く考えずそう納得した当麻だったが……何らかの返答を期待しているインデックスの視線に気付く。

「…………」

「…………」

上目遣い+涙目+膨らんだ頬の破壊力に顔を赤く染めるも、それを気取られないように咳払いをして必死に考える。

「……で?」

たっぷり1分ほど間を置いて、率直にだからどーしたのと含みを持たせた返答を送る。

すると、信じられないものを見た的な視線をインデックスは返す。

「…とうま、あれ、聞こえてなかったのかな? あのね、インデックスはね? 食欲がないんだよって言ったんだよ?」

その言葉は、まるで出来の悪い生徒を慈しむような、哀れむような、または諭すかのような優しさを以て紡がれた。
ここまで丁寧に言ったんだから流石に分かるよね? 幾らバカな事に定評のあるとうまでも理解したよね? ね? ね?

と、そんな感じの思いを込めた視線で再度当麻に“正しい反応”を促すインデックスに対し───

「いや食欲ないのは分かったから。だから、それがどうかしたのギャアァァァァア!」

そう答えた瞬間、鋭い歯が体に突き刺さった。





とある体調不良のインデックス 1





「死ぬな! インデックス死ぬな、死ぬんじゃないっ!!」

青い顔をして寝込んでいるインデックスの手を掴み、大声で呼び掛ける。
握り返す力の弱さが彼女の現状を酷な程に的確に示していた。

「…ふふ、ありがととうま……でももうダメなんだよ」

インデックスの意識はもはや風前の灯火。
目を瞑ってしまったら、もはや目を覚ます事はないだろう。

「バカやろう! 何を弱気になっていやがる、お前は世界の料理を食い尽くすんだろ!? あらゆる珍味を味わって、あらゆるデザートを食いまくるんじゃなかったのかよ!!」

彼女が幸せそうに語っていた夢を叫んだ。
けれど、あんなにも食べる事に幸せを感じていた彼女の…元気なインデックスの姿を見る事は出来なかった。

「うん…まだまだ食べたかったなぁ…とうまと……一緒……に…………」

細まっていた瞼は、やがてぴったりと閉じてしまった。弱々しくも握り返していた手にも、既にほんの少しの力も感じない。

「イン…デックス…?」

その呼び掛けた声に応える筈のインデックスの口は閉じられたまま。
それはまるで王子様のキスで目覚を待つ白雪姫のように美しくも、それとは違う、確かな“別れ”を感じさせた。

「そんな……インデックス、インデックス! インデックスっ!! インデックスぅぅっ!!!!!」

「おいおい、もう少し静かにしてくれんかね?」

「あ、すんません」

ゲコ太君を擬人化したような顔の医師からお叱りを受け、椅子から立ち上がり軽く頭を下げスヤスヤと心地良さそうに眠っているインデックスの頭を撫でる。

呑気な奴めと苦笑い、やはり『だからどーしたの』が正解じゃねーかと呟く。返事はないが、微妙に眉間にシワが寄った気がした。

「うん、まあ今日1日ぐらい寝てれば治るからね、夏バテ」

「はい、どうもありがとうございました」

食欲がないと大騒ぎしたインデックスは夏バテと診断された。
ちなみにさっきの寸劇は全身16ヶ所にも及ぶ有り難ーい歯形を貰いながらインデックスに強制…もとい丁寧に教えて貰った“正しい反応”の答えだったりする。

噛んでくる元気があって夏バテかよ、なんて事は言ってはいけない。

(命が惜しいのならシスターとビリビリに逆らってはいけないのだ、と上条さんは懇切丁寧に説明しました……ってか)

「んじゃ俺、買い物しなきゃいけないんで失礼します」

「はいはい」

ゲコ太医師に後の事を任せ、当麻はインデックスの病室を後にした。


「───ってわけで夏バテに効く料理って何だろーなビリビリ」

「ビリビリ言うな。そりゃウナギでしょ夏だし」

「ウナギか」

「ウナギね、それがイヤなら栄養剤でも飲んでなさいってのよ」

食べれない反動=超食欲だと半ば未来予知っていうか確信した当麻は、なるべく安ーく、でも旨ーく、しかし少ーしの贅沢ぐらいはさせてやろうと買い物に赴いた。
その途中バッタリ逢ったもんでこれ幸い色々と端折った説明にビリビリ、もとい御坂美琴は簡潔に答えてくれた。
ウナギと。

「つーか今日も逢うとは思わんかったな、お前案外暇なのな?」

「るっさい…別にそんなんじゃないわよ」

御坂妹の件があったから思うのかも知れない、外を歩くと美琴に出逢う頻度が異常に高い。つまりそれは頻繁に電撃を喰らうという不幸な事実と一致する。
今日は喰らいませんよーにと願う当麻であったが、残念ながら未だビリビリ被災確率は9割を超えている。

(しかしウナギねぇ、そういや電気ウナギって存在したよな。電気を使う者どうし惹かれ合うのかもな)

そんな事を考えたからか知らないが、やはり今日も思い切り電撃を喰らう。不幸だ、いつもの口癖を呟く。

「……ったく、いちいち心臓に悪い」

「あんたが悪いんでしょ! 思いっきり口に出してたわよっ!」

「おおう! 待て待て待て、悪気はない。ほんとーに悪気はないんだっ!」

「悪気がないのが一番悪いわっ!」

「そりゃごもっともで、うわっ!」

だからと言って電撃をお見舞いしても良い理屈にはならないのだが怒れるビリビリ中学生には適用されないらしい。
一方通行しかり、美琴しかり、レベル5に常識を期待する方が間違いなのだと当麻は納得した。

(いや待て、常識の欠如が能力開発の弊害だと考えればどうだろうか?
レベル0なのが誇らしくなってくるじゃねーか。
ふふっ、いいぜ、テメーらが常識知らずの存在だって(以下略))

そんなバカな事を考えながら電撃を打ち消していると、ようやく美琴も冷静さを取り戻した。
バツが悪そうな顔で当麻を見上げ、ハッとした顔になり何かを決意したかのようにグッと手を握る。

「しょ、しょうがないわね…あ、あたしも買い物に付き合ってあげてもいいわよ?」

赤い顔で美琴らしくない殊勝な提案をした──のだが、何時の間にか背後でニマニマと笑顔を浮かべていた黒子に気付いた美琴は瞳を大きく見開き、振り向きざま黒子の顔をむんずと掴む。
その速さは白井のテレポートを許さない超絶な速さだった。

「ごめーん、先に黒子と約束があったんだった~♪ ま・た・ね?」

「お、お姉様あああ頭ぐぶほぁっ?!」

「そ、そうか。なら仕方ない、うん仕方ない。んじゃ気を付けてな」

目にも留まらぬ速度で鳩尾に膝蹴り、ピクピクと痙攣しだした黒子を引きずり白々しい嘘を付きつつ路地裏に消えて行く。
俺は何も見なかった、とわざわざ声に出して当麻はその場を後にする。

買い物帰り、街の至る所で放電音や倒壊音に聞き覚えのある女の叫び声が聞こえたが当麻は無視した。触らぬ神に、いや触らぬ御坂にビリビリなしである。

「強く生きろよ白井……」



──────────



「まだ食欲が湧かないんだよぅ…」

「はいはい、んじゃ帰ろーな」

とうまがつれないんだよ! とぶーたれるインデックスを連れて帰路に。体調に関しては問題なし、明日になれば食欲も出る筈だよとゲコ太医師にお墨付きを頂いた。
点滴で栄養に関しては問題ないのだが、食べていない不満感と、食べたくないという未知の感覚に苛まれているインデックスの機嫌は最悪だった。

「はあ、私は今日という日を生涯忘れないんだよ…」

インデックスにとって食欲が湧かないというのは神の教えが全部ウソでしたーと告げられる事と同義の大問題である。
それなのに当麻の反応はよろしくなかった、心配して欲しかったインデックスの希望という名の幻想はボロボロに打ち砕かれたのだ。

「ま、あんま気にしてもしょーがねーだろ。明日になったら旨いもん食わせてやるから」

「ホント!?」

「上条さんは嘘吐きませーん」

「うわーいやったー! じゃあじゃあ、私前から食べたかった「外食は無しな」うぇー? そういう事ばっか言うからとうまはかいしょーなしってバカにされるんだよ」

「誰にだよ!?」

「みんな言ってるもん!」

わいのわいのと、独り身の男性から殺意を送られる程に和気藹々と帰路に就く2人。帰ってから直ぐにインデックスはシャワーを浴びベッドに倒れ込む、当麻は1人寂しく税込み68円のカップヌードルに舌鼓。

塩味にしておけば良かったかなと愚痴りつつ、慣れ親しんだバスルームで横になる。
明日になればインデックスも体調が戻る、食欲が無いなんて珍事は直ぐにでも楽しかった思い出に変わるだろう。明日は久し振りに豪勢な食事だぜヒャッハー!とまるでインデックスみたいだなとにやけながら、ゆっくりと眠りについた。

そう、今日は何でもない1日の一つだったと当麻は信じていた────

「とうま……」

「…あ、もう朝か。悪い、朝食なら「とうま!」……なんだ、どうした?」

そう、まさかこんな些細な事が大事件に繋がるなどとは────

「食欲が…ないんだよ」

「……はい?」

この時はまだ、思いも寄らなかった。



[19793] とある体調不良のインデックス 2
Name: みさき◆16fe1895 ID:29145f31
Date: 2010/06/29 22:55
「私は今日という日も生涯忘れないんだよ…」

「ははは、まあ安心しろよ。食欲が出たら旨いもんちゃんと食わせてやっから」

「うなぎが消えちゃうんだよ……」

朝っぱらから病院に赴き、点滴を終えて帰ってきたインデックスの瞳に精気は無かった。
スフィンクスを抱き締め鬱ですオーラを放ち、夏の暑さすら避けるかのように部屋の温度が下がっていくかのような錯覚を覚える。慰めの言葉は虚しくスルーされた。

溜め息をつきながら、当麻はインデックスの為に買ったウナギの蒲焼きをご飯に乗せて遅めの朝食を開始───したのだが、インデックスからの無言の圧迫感に味も素っ気も感じない。
睨んでも食えねーもんは食えねーよと言ってやりたかったが、ギラリと覗く鋭い歯を見て断念。

「…不幸だ」

出歩く元気すら失せたインデックスを残し、1人当麻は外に出た。
同じ空気を吸っていると自分まで気が滅入りそうだったから。

しかし暑い、暑くて堪らない。
出歩く人々も心なしか元気が感じられない疲れたような顔が多かった。そして、今日もまた“見計らった”かの様に出逢った美琴の顔も心なしか疲れが見えた。

「おっす、お前も夏バテ?」

「違うわよ。ただちょっと食欲が湧かなくってさー、何時もより少な目にしか食べてないのよね」

「あー暑いもんな」

「ねー」

そのままダラダラと2人で公園の木陰を目指して歩く、道中でアイスを買うのだが店員にデートかい? と冷やかされたり、例の如く当麻の不幸が発揮されアイスが彼方に吹っ飛んだり、自分のアイスの残りを何故か顔を赤らめながら当麻に渡そうとしたりしながら無事に公園に辿り着く。
流石に子ども達は元気一杯に遊んでいて、若さって素晴らしいなと爺臭い事を呟く当麻に大ウケした美琴にからかわれたりして平和な午前中を過ごした。

昼から黒子の買い物に付き合う美琴と別れ、コンビニでサンドイッチとジュースを購入し適当なベンチに腰掛けようとした当麻の携帯が鳴る。

「はい、上条ですけど」

『僕だよ』

誰だよ。
いざ食べようとした瞬間に邪魔された当麻の機嫌は少し悪かった。暑さも原因だろうが。

「僕僕詐欺は間に合ってまーす」

『おい、ちょ…』

電話口で何かを告げようとした相手を無視して通話を切る、ついでに電源も切ってしまう。
これでうるさくねーなと満足し、ベンチでさっさと昼食を済ませる。

夜にはインデックスの食欲も戻るかもしれない、そう思い昨日と同じ店に向かう。道中、道路のあちこちが爆破されたかのようにぶっ壊れていた。
聞き込みをしている警備員に、心当たりありますよーと一瞬言おうかと思ったものの、今日はやけに補修工事が多いなーと事実から目を背けて帰宅した。

触らぬ御坂に以下略。





とある体調不良のインデックス 2





「ふふ、スフィンクスは食べれていいね……私? 私はね、まだ食べられないんだよ……ふふ……クスクス…………うなぎ……」

「…………」

予想に反し、インデックスの食欲は戻らなかった。冷凍物のウナギにして良かったと内心でボソリ、1人で特売226円の刺身盛り合わせを食べる。
しかし舐め回すような、呪い殺すような目で見つめられながらの食事はやはり無味乾燥だった。というか怖かった。

「はいはいよい子はもう寝なさい、気分悪いときは寝るに限るってな」

「やる事ないから一日中寝まくりで、少しも眠くなんかないんだよ?」

「それでも寝なさい、じゃねーと飯食わさ「インデックスはよい子だから寝るんだよっ!」おう、おやすみー」

いそいそと服を着替えだしたインデックスに背を向け風呂場に向かう。
明日だ、明日になったらどうせ腹ぺこシスターは再誕する───そう信じて疑わなかった。
次の日。
インデックスの食欲は戻ってはいなかった。

おかしい、幾らなんでもおかしい。
思えばインデックスに食欲がない、という事態を軽く見過ぎていたのでは無かっただろうか? そう当麻は考え始めていた。

疑問に思えば思うほどにおかしく感じる、何かが起こっている……そんな漠然とした不安に包まれる。何よりインデックスは昨日・一昨日よりも明らかに元気を無くしていた。
何も起こってない筈は、なかった。

「今日も……生涯………だよ」

「いいから寝てろ。
今日は付き添ってやっからさ」

「……ん…」

ゲコ太医師にもとんと理由は分からないらしい、が、インデックスのように体調不良を訴える人間が増えているそうだ。
中でもインデックスの症状はとりわけ重い、他の人間はせいぜい食欲不振に陥る程度だ。

食事を拒絶したりは、していない。

「これって……まさかな」

昨日の電話の声を思い起こす、あの声に覚えが有った筈だ、どこかで聞いたような声───
  『僕だよ』
───知り合いに僕、と名乗る奴は少ない。居るのかも知れないが記憶にないのだから仕方がない。
しかし、あの何処か見下すような棘のある声とくれば思い当たるヤツは1人しかいない。

「アイツしかいねーじゃねーか!」

部屋を飛び出し屋上に走りながら切ったままの電源を入れる、それを待っていたかのように直ぐに鳴動する携帯。
屋上に出た瞬間、辺りに人が居ない事を確かめ着信ボタンを押した。

「もしもし、お前ステ…」

『おーっすカミやん、今からプールに行こうぜいっ!』

「…って土御門かよ!? 悪い、切るぞ!」

『へ? カミや(ブツ』

悪い事をしたなと思いつつ、着信履歴から見知らぬ番号に掛ける。
プルル、と一鳴りしたかしないかのタイミングで直ぐに繋がった。

「もしもし、ステイルか? 俺だ」

『僕に俺なんて知り合いは───まあいい非常事態だ、昨日の件は見逃してやる。
いいかさっさと答えろ上条当麻、インデックスに“食欲”はあるのか?』

「ッーーー!!」

予感が的中した、今は学園都市に居る筈のないステイルがインデックスの食欲がない事を───インデックス萌えのストーカー(と書いてステイルと読む)なら知っていても何もおかしくはないが───知る筈がない。

十中八九魔術師が居る。
学園都市のセキュリティーはざるかよと嘆きたくなるが、今はそんな事をしている場合ではない。

『どうやら当たりみたいだね』

「魔術師なんだな」

『そう、それもとびきりの最低っぷりさ。時間がない、僕の説明を聞き逃さず迅速に行動しろよ』

「グダグダ言ってねーでさっさと情報寄越せ!」

魔術師だと理解した瞬間、当麻は病室へ向かい走り出した。病院内での携帯電話使用禁止というマナーを守って屋上に来たのが裏目に出た、もしかしたらこの瞬間にもインデックスを狙う魔術師が攻めてきているかもしれない。

『いいか、詳しい理由は何も分かっていないがある魔術師がそこに向かった事が確認された』

階段を出来るだけ飛ばし飛ばしに降りる、出逢う看護士に口々に携帯電話の禁止や廊下を走らないよう注意されたが全て無視する。
1秒でも時間が惜しい。

『恐ろしい魔術師だ、インデックスを手に入れるのにコイツ程の適任は居ないかもしれない』

「っ! どんなヤツなんだ、どんな魔術を使う!?」

漸くインデックスの病室がある階に着いた、迷わず病室に向かい走り続ける。膝が少し痛むが、無視する。

『名前は知らない、女だ。だが魔法名は割と有名』

乱れてきた息を整える、最悪出会い頭に闘う事に───いや既に浚われてしまったかもしれない。
せめて相手の能力を理解しておこうとステイルの声に神経を傾けながら、病室の扉に手を掛け───

『魔法名は【hara-pekoreena999(腹ぺこりーなぐーぐーぐー・お腹が鳴る的な意味で】だ』

───ようとしたものの急停止出来ず、廊下へ全速力で転がっていった。



──────────



「だいじょぶ…とうま……凄い音がしたんだよ…?」

「……おう、何でもねえ」

 【hara-pekoreena999】
起源は諸説紛々で解らず。そもそも重要ではない。その性質は呪い・妬みに近い。
相手を問わず、満ち足りた食生活を送る全ての人間への敵意。主に飢饉が蔓延した時期に、その土地の領主や貴族と言った支配階級への憎しみが創り上げた奇跡(呪い)

これによる被害の内の幾つかは謎の伝染病として処理された事もある“過去の”大魔術。

『砕けて解釈すればだ。“俺達が食えねーんだから、テメーらも餓えて死ね!”という飢餓を加速させる魔術さ』

「……アホくさ」

シリアスしてた俺がバカじゃねーかと愚痴る当麻、インデックスは不思議そうな顔で当麻を見つめていた。
ビビらせんなよ、とステイルに文句を言おうとしたが焦りを覚えている声でステイルは叱り飛ばす。

『まったくこれだから素人はイヤなんだ。いいか上条当麻、この魔術は本当に恐ろしいんだ』

「はあ?」

『栄養吸収…つまり食事が出来なくなるんだ!』

「…それが?」

何を言ってるんだコイツ、と言いたげに顰めっ面になる当麻。
しかし、その表情は直ぐに焦燥を以て彩られる事となる。

『いいかい、生命が活動するには何が必要だ? エネルギーだろ、それを人間はどうやって作る? 火力発電か? 水力発電か? 風力発電か? それとも光合成か?
違うだろ!? 答えは食事だ!』

「…!!」

『この魔術はその“食事”を封じるんだ。エネルギーが足りなくなればどうなる? 体が怠くなったり“頭が回らなく”なってしまう……自動書記は君が壊した、今インデックスの自衛能力は最低に近い。発動中は点滴などの外部栄養接種も無効化される』

「そ、それって」

『勿論キミには何の影響も無いだろうがね、だがキミ以外の人間には確実に影響が出る。
そうすれば実質インデックスを守れる人間はキミ1人だけになってしまう、つまり時間を掛ければ掛けるほど事態は厄介になるばかりなんだ! 分かったか上条当麻、分かったなら返事をしろ!!』

「は、ハイッ!」

あまりの剣幕に素直に頷いてしまう。
漸く事態を正確に認識した当麻は、インデックスに少し外に出ると告げた。涙目で引き留められた時はグラッときたが、ステイルが呪言を唱えだしたので慌てて出る。

『いいかい、この魔術の規模は幸いな事に狭い。精々半径3~4kmだ』

「いや、充分広ぇーよ」

『そして術者は必ず効果範囲内に居なければならない、勿論術者に影響は無いんだが自分も一定値以上に空腹でなければならない……つまり自爆魔術なんだ』

「つ、使えねー」

『発動から徐々に効果が跳ね上がる、加えてこれは体の内部に影響を及ぼす。君の便利な幻想殺しも他者にはお手上げってワケさ』

「…っとに最低なのな」

『ああ、そしてキミの情報から逆算して効果が最大になるのはあと約3時間。僕が着くのも頑張ってあと約3時間掛かる』

話しながら大急ぎでコンビニに入る。ウィ○ーインゼリーを購入し直ぐに繁華街へ方向修正。

『そうだな……2時間以内に術者を見つけて何でも良いから食べさせろ。それで魔術は止まるしその時間なら頭の活動に問題はない、それからはインデックスの傍で待機していろ。効果範囲外に仲間が居るかも知れないからね』

「りょーかい」

『後はそうだな、服装に特徴がある…らしい。とにかく見つけろ、見れば分かる筈だ!』

通話が切れた。
ポケットに仕舞い直して今度こそ全速力で走り出す。インデックスを救うため、ひいては学園都市の全員を救うため!
今、史上最大の捜索戦が始まる。

hara-pekoreena999
最大発動まで、あと、2時間57分48秒。



[19793] とある体調不良のインデックス 3
Name: みさき◆16fe1895 ID:3b4d0101
Date: 2010/06/28 18:15
「うおぉおおおお!」

グイッとウィ○ーを10秒で飲み干す、これで上条当麻は通常の限界を超え2時間だけベスト(に近い)パフォーマンスを発揮する事が出来る(かもしれない)のだ! 凄いぞウィ○ー! 流石だウィ○ー!!

目標は何処にいるかも分からない魔術師、残された時間は多いとは言えない。
故に上条当麻は止まるわけには行かない、それはさながら友の為・妹の為に走り続けたメロスの如き果てなき疾走。

「おおりゃああああああ!」

朝から盛っているバカップルの間をぶち抜き、かつあげをしている頭の悪い連中に喧嘩を売り、そのまま追ってきた連中を振り向かずに逃げ切り、10階立てのビルの階段を一気に駆け上がり、下りのエレベーターの中で流石に一休憩し、再び全力で別のビルや学生寮へ駆けずり回る。

見つからない。
見つからない見つからない見つからない見つからない。
走り続けて酸素の欠乏した頭は、疲労を訴える脚が、止まれ止まれと上条当麻を責め立てる。

(ああ、なんて甘美な誘惑なんだ…)

上条当麻は柄にもなく考えてしまった、捜す事を諦めかけてしまった…だが直ぐにその考えを振り切り止まりかけた体を鼓舞。
しかし一度でも考えてしまった弱い考えは、堪え難い甘い誘惑となって脳内にくすぶり続けた。

やがて体が僅かにぐらつく、単純な水分不足による熱中症のなりかけ…直ぐ近場の自販機でジュースを買う。
ガタン、プシュー…ゴクゴクゴク。
喉を通るスポーツ飲料の味に感激を覚える、こんなにも爽やかでまろやかな味をしていたのかと目を見開く。

「くぅ~! 美味ェ!」

反則的だった、その味はまさに反則的だった……! だからこそ、上条当麻は無意識に立ち止まってしまった。
このまま木立の日陰で昼寝をしたらどれだけ心地良いだろうか、抗い難いその誘惑に上条当麻は従ってしまった。

暑い日差しは遮られ、心地良い風が火照った頬を優しく撫で、冷たい地面が熱を奪っていく感覚を感じる。疲れが抜けていく。

(そうだ、少し休むだけ、少し休んだら魔術師を捜せばいい…)

激しい主張を繰り返していた心臓の鼓動がゆったりと鎮まっていく。瞼に力が入らない、強烈な力で…けれど優しく誰かに閉じられていくような心地よさ。

(ああ、ダメだ…寝ちまいそうだ。けど!)

「そんな幻想(誘惑)をぶち殺す!」

長々と続いた走れメロスちっくなふざけた脳内妄想を振り切り、ステイルから伝えられた情報を頼りに魔術師の捜索を再開。

  “はらぺこ”

 “特徴的らしい服装”

   “女”

これだけの情報を頼りに魔術師を見つけなくてはならない、これは掛け値無しに難題。
と言うか正直はらぺこ以外神裂やミーシャなどの女魔術師の特徴と何の変わりもねーじゃねーかとステイルに文句を言いたかった。

それから1時間ほど捜してみたものの、それらしい姿が見えない。しかし周囲の様相は変わってきていた…平然と立っていた者が、急に足の力が抜けたように倒れ込んだり、ふらつく体を手摺りに捕まって立たせていたりしている。

最大発動前でこれだ、このままでは…。

「チクショウ、何処に居るんだよ!」

最悪の想像をしてしまい思わず愚痴をこぼさずにはいられない、だが焦っても事態は解決しない。仕切り直しとばかりにインデックスを残してきた病院付近に戻ってきた当麻は、転けた。

「…って、な、なんだ?」

ぐにゃりとした柔らかいものの感触が足元からした、起き上がりながら何事だと後ろを確認し───絶句。
とても大きかった。
とても太かった。
とても柔らかかった。
とてもヌメっとしていた。

「…………はい?」

妙にリアリティを追求したウナギの蒲焼きの着ぐるみ(?)を纏う可愛らしい女の子が目を回して、其処に倒れている。
確信を以て言える、コイツに違いない。これ以上の際立った特徴がある奴が学園都市に存在するなら誰か連れて来やがれ!

「よ、よし…」

そっとポケットに忍ばせていたウィ○ーを取り出し、震える手で優しく挿れようとして……思い切り口の中にぶち込んでしまっ た。
自覚は無かったが、当麻は大変に動揺していたらしい。





とある体調不良のインデックス 3





「とうま、とうま、食べていいのかな? これもインデックスが食べてもいいのかなぁ!!」

「そ、そそそれだけは勘弁してくだしゃい~ぃ!」

見事なウナギの蒲焼き風着ぐるみに向かってキラキラと輝いた視線を送るインデックス、その手には当麻が急いで買ってきたコンビニ弁当が、横には同じ弁当の空箱三つがあった。

魔術は既にその効力を完全に消失。
おかげで3日ぶりの食事をウマウマと頬張れるインデックスの様子に安堵し、ロープで縛り付けているウナギ娘に向き直った。

「で、お前はインデックスを狙う魔術師で良いんだよな?」

「ねね、ねねらねっ!」

「はい?」

「ね、狙われてるのはあたしですよ、あたしの方ですよね?!」

ポワポワとした顔で、涎を垂らしながら自分を見つめるシスターの視線にウナギ娘は叫んだ。命懸けで泣き叫ぶその姿に当麻のシリアスモードが吹き飛ぶ。
溜め息を尽きつつなんとかインデックスに説明を試みた。

これは食べ物じゃなくて人間です

私は構わないんだよ

俺が構います

まだお腹が空いてるんだよ?

よし黙ってろ、あとで好きな物奢ってやる

わーい、とうま大好きー!

説明するだけ無駄だと悟り餌をちらつかせ問題を先送りにする。まだまだインデックスさんの脳は正常稼働に至っていないらしい。
右手にナイフを、左手にフォークを、口にはストローの三食流の構えを見せワクワクしているインデックスから極力目を離し当麻は再び問い掛けた。

「ち、ちち違いましゅよ。あたしはただ学園都市に物凄く美味しいウナギが有るって聞いたから……」

「…どういう事?」

「あ、あたしウナギが大好きなんです。むしゃぶりに来ました」

「敵じゃ…ないのか?」

「おいしいですよね、味付けですか? 塩が最近のマイブームです」

「…うん、いいや、なんかいいや」

ああ、きっとこの娘は話が通じないタイプなんだなと悟る。
話を理解しないインデックスと話が通じないウナギ娘に囲まれ、体力と精神力の限界を迎え当麻の心は折れてしまった。

ウナギ娘を文字通り放置、インデックスを食堂に連れて行きみるみる内に減っていく財布の中身を何処か他人事のように感じながらステイルをじっと待った。
今はただ、誰でも良いから真面目に語らいたかった。



──────────



「よく来た、よく来たステイル! ほら長旅疲れたろ、冷えた飲み物買っといたぞ。ほらほら座れってば、肩凝ってないか? なーに任せとけ、上条さんはマッサージの達人です事よ!!」

「何これキモい」

かつてない歓迎ぶりを見せる当麻から視線を外し、インデックスの無事を確かめ表情には出さずにホッとするスト…テイル。病室の隅で縛られ放置されているウナギ娘に近付き、徐にカードを取り出しそれを見せた。

「…………!」

「さて質問だ、何が目的だい?」

「…「そいつウナギが食べたかったんだってさ」…」

「…仲間は?」

「…「ウナギ食いに来たんだってさ。はは、最近ウナギが人気なのかねェ」…」

「……所属は」

「…「あ、そうだステイルお前もウナギ食いに行かねーか?」…」

「キミさ、黙ってろよ鬱陶しい」

話がさっばり進まない。
以下、いじけた当麻を無視してステイルが時間を掛けて聞き出した要点を纏める。

学園都市及びインデックスに対する敵対意志は無い。観光目的(不法侵入)。
ウナギが好物。
魔術の発動は偶然、金が尽きたから出ようと思ったが広くて迷ってしまい、空腹で歩けなくなった。方向音痴。
タレより塩派。
魔術の発動には“術者の好物”が描かれているものが必須。本来は小さなアクセサリーで充分。
炭火焼きが至高、それ以外は二流品。
何故着ぐるみなのか、それは趣味だからです。流石のステイルもこれには苦笑い。

「はぁ……僕の気の回し過ぎだったみたいだね」

何の事はない、ちょっと間抜けな魔術師が起こした小さな事件だった。
そう説明してガックリとうなだれる当麻、10万3000冊の中にも存在しない稀少(珍品)魔術に関心するインデックス、ようやく学園都市から出られるとホッとするウナギ娘(本名不詳:外見10歳)、んなワケねーだろテメーの身柄は暫くイギリス聖教が拘束するぜ! とステイル。

「じゃあな上条当麻(それとインデックス)、僕はもう此処に用はない。暫く来る事もね(但しインデックスと食事に行けるんなら何時でも来るから誘えよ)」

「そうか、んじゃな」

「む~…バイバイなんだよ」

締まらない挨拶を交わし、ステイルがウナギ娘を連れて帰る姿を見送る当麻とインデックス。
何がなんだか分からないまま終わってしまったが、それは悪い事では無いのだろう。

「あんまり人に迷惑かけんなよ~! 今度ウナギ一緒に食おうなァ~!」

沈み始めた夕陽を眺めながら、今日の晩飯は何が食いたい? そうインデックスに語り掛けた。



──────────



「…この辺で良いだろう、演技ご苦労。悪かったね、出来るならインデックスにはあまり見せたくなかったからさ」

予め人払いのルーンを仕掛けていた場所に着いたステイルは、タバコに火を付けながらウナギ娘に振り返った。
ウナギ娘は何も語らない、ただその瞳は全てを諦めたかのような色を称えてステイルを見つめ返した。

「にしても相手が悪かったね、まあ気にしない事さ。外の“仲間”もキミを責めたりはしない」

「……!」

キッと睨み付けるウナギ娘。それをぼんやりと眺めながら、タバコを根元まで一気に燃やし尽くし炎の塊を生み出す。
それでも尚、ステイルを睨み付けていたウナギ娘が、ふっと口を開いた。

「…アレは…何なの…?」

「アレかい? そうだね、アレが禁書目録の管理者……と言えば納得するかい」

「…発動中の私に直接触れれば、それだけで死ぬ筈。なのにアレは死ななかった」

轟々と存在感を増しながら燃え盛る炎に包まれつつ、ステイルは新たにタバコを喰わえウナギ娘の問に答える。

「【幻想殺し】さ、キミの魔術だろうが何だろうが、アレには通用しない。ああ落ち込む必要はないよ、アレが居なければ“キミ達”は立派にインデックスの拉致を完遂できた筈だからね」

「…………」

「さ……言い遺す事はもう無いね? 安心しろよ、キミの仲間は生かしてやるさ───もっとも死んだ方がマシだろうけどね」

手を振りかざす、それだけでウナギ娘は一瞬で灰へと変わった。
肉の焦げた匂いを嗅ぎ、ステイルの眉間にシワが寄る。嗅ぎ慣れた匂いではなかった、これはそう……。

「…ウナギってのは、そんなに美味しいのかい?」

その質問に答える声は無かった。


 【hara-pekoreena999】

飢餓状態に陥らせた術者の肉体を周囲の気体に結合させ拡散、吸い込んだ人間の血液中に運ばれ栄養素を奪い去る。同時に満腹中枢を支配し、何も食べ物を受け付けなくする。
術者に直接触れた者は一瞬で飢餓に陥り、程なく絶命。

最適な対処法は術者の“焼却”である、これは死亡時に自動発動し大気に拡散しようとウイルス状になる肉体を消滅させる為。
無事に術者の肉体を焼却すれば、大気中に術者が生前好んで食した食材の匂いが香る。

尚、発動前段階の人間は異常に術者の好物を欲しがるようになる。

上条当麻によって魔術を無効化された事により企みは瓦解、猫を被りその場を脱しようと考えるもののステイルが見せたカードを見て退路を失った事を悟る。
そこには“上手く話を合わせろ、そうしなければ仲間の命はない”と書かれていた。



[19793] 怒りの超電磁砲
Name: みさき◆16fe1895 ID:a3c72697
Date: 2010/07/01 14:45
学園都市限定モデルのゲコ太抱き枕・先着予約特典ゲコ太ストラップ&名前入りゲコタグ付きが発売されると知ったのは何時の日だったか。
あまりの嬉しさに店頭でかなりの大声で予約をし偶然一緒に買い物をしていた御坂妹に「うわ、ともはやミサカはお姉様にかける言葉を見い出せません」などとバカにされた日を振り返る。そんな日もあったわね、と苦笑いしながら朝食を終え財布の中の予約票を眺めて破顔した。

(ウフフ、今日まで長かったわ)

登校中はソワソワ、授業中は上の空、下校時にはニヤニヤとしながら御坂美琴は意気揚々と愛しのゲコ太を迎えに走っていた。受け取りまでまだ2時間もあるのだが関係ない、一番にゲコ太抱き枕を手にするのは自分だと決めていた。

そんな時に、着信を知らせる振動を感じ相手の名前を見ず直ぐに受話ボタンを押す。

「は~い、美琴でーす♪ 誰かなぁ?」

『ず、随分とご機嫌よろしいのですねお姉様』

その相手は同室の後輩、ガチレズの白井黒子。

「おー黒子じゃない、どしたの? 悪いけど今日は先に帰っててね」

『あ、いえそうではなくてですね? その、』

「ん~?」

ドッゴォオオオオン!
黒子が何か言い掛けた瞬間、遠くで何かが爆発したか、衝突したか、よく分からないがメチャクチャな音がした。
驚きながら音のした方へと振り向きつつ、美琴はけして聴きたくなかった嫌な情報を伝えられた。

『やっぱりですの! 今日はお姉様の待ちに待っていた抱き枕の受け取り日ですわよね?』

「あ、バレてた? ふふ、そうなのよ今から受け取りにね~♪『…その抱き枕等を運んでいたトラックが銀行強盗に奪われてしまいましたの』今何つった」

ヒイィ! と息を呑みながら美琴の神経を刺激しないよう丁寧に事情を説明した黒子だったが、残念な事に美琴は初っから激昂状態だった。

『で、ですのでお姉様は手を出さらないようにですね?』

「うん、分かった」

故にホッ…としてしまった黒子に落ち度は何もない、が、もし万が一トラックが大破し荷物が失われてしまった場合の美琴の嘆きを想像してつい電話してしまった事は明らか過ぎるミスだった。

「ブッ殺すわ」

『へ、いやおおおお姉(ブツ』

ぷつりと切れてしまった携帯を見つめ、やはり話すべきでは無かったですわ、と今更ながら自分のミスを認識した黒子。
今日は死ぬには良い日ですわよ、と名も知らぬ犯人達に心中で哀悼を捧げた。





怒りの超電磁砲





「殺す」

爆走するトラックに警備員達が必死に食らいつく光景を、高層ビルの壁面に立ちながら美琴は眺めていた。
2分ほど前から逃走車の経路をじっと見つめていた彼女の思考は激昂のあまり却って冷静な程に冴えていた。

「殺す殺す殺す」

しかし冷静なのはあくまで思考、感情という炉には怒りと言う名の上質な燃料が秒単位で補充され続けていた。
眼下では激しいカーチェイスが繰り広げられている。警備員が慌ててバリケードを作るものの、急拵えのそれがトラックを止める事は叶わない。

「殺す殺す殺す殺ス殺ス殺ス殺ス殺スコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスッ!」

キィン、とコインを上方へ跳ね上げる。自らの渾名ともなっている【超電磁砲】の射出準備を終えトラック…の逃げる遙か前方へと撃ち出した。
着弾地点は見るも無残に破壊され、その少し先で新たなバリケードを作っていた警備員達は突然の爆裂に唖然とした視線を送るしか出来ない。

慌ててハンドルを切り返し、別の道へと進路を変えて…いや“変えられ”た犯人達は未だに逃走を続ける。
ほくそ笑む美琴、思い通りの展開に口元が釣り上がるのを止められない。

「そうよ、来なさい…アンタ達は私がブチ殺してあげるんだから」

そのままある程度の進路を限定しトラックを人気のない行き止まりへと追い込む、最後の超電磁砲を放ち命中を見届ける事なく空に身を投げた。
普通なら悲鳴の一つでも上げる高さなのだろうがプッツンしている美琴にとってそんな些末事は関係なかった。

周囲のビル内部の鉄筋へ磁力を流し自らの肉体の磁力で引き合わせつつ絶妙に重力加速度を相殺しながら中距離移動を完了、行き止まりへと追い込んだトラックの傍らに降り立つ。

「なんだこのガキ、急に現れやがった!?」

「空から飛んできたように見えたぞ?」

「冗談じゃねえ、んな事あってたまるか!」

そんな冗談のような事が普通に出来る能力者は少ない。その中でもとびきりの冗談クラスのレベル5第三位超電磁砲その方である事には気付かず、とにかく邪魔をする気なら殺して逃げなくてはと美琴に向かいアクセルを踏み込む。
しかし発進するはずだった車体は美琴が左手を向けた瞬間、異常警告音を発して停止してしまった。

「な、なんだいきなり?」

「クソッ、エンジンが掛からねえ!」

「チッ、お前ら降りろ。あのガキ能力者だ!」

3人の人物が急いでトラックから降りる、そしてそのまま逃げ去れば億が一の確率で無事に逃げられた筈なのに───よりによって彼らは悠長にも荷物を持って逃げようとロックを外しに掛かる。

そして更に何を勘違いしているのか知らないが1人が美琴に向かって近付いていく、どうやら自らも能力者であるらしいこの男が主犯格であり美琴が能力者だと気付いた者だった。
気付いただけだったが。

「へ、どんな能力か知らねえがこの俺に勝てると思うなよ? 何せ俺はレベ「うるさい」グフォ?!!」

正に身を以て自身の能力を披露する暇もなく物言わぬ炭と化した男、両手に積み荷の箱を抱え逃げようとしていた男達の動きが止まった。
彼らの本能が極力余所見をしようとし決して見なかった美琴の顔を見てしまったのだ。

其処には、怒りだけで人が死ぬんじゃねーの、と思わせる表情で佇む鬼が居た。

「今すぐ積み荷を置いて私に殺されるか、逃げて殺されるか、好きな方を選びなさいってのよキャハハハハハハハハハハハ」

もはや何の選択肢にもなっていない提案を促す美琴の声は、死刑宣告をする執行者のようでありキチガ○のようでもあった。



「お、お姉様…どこにいらっしゃるん…ですの…?」

お姉様センサーと空間移動で一足先に今日一番の被災現場に辿り着いた黒子。犯人達は皆半死半生で倒れている、ほぼ無傷で鎮座するトラックとは対称的。
道路は所々陥没し周囲の電子機器は軒並みその機能を停止していた。
意図せずこの惨状を造り上げてしまった加害者の1人である彼女は、同じく加害者で実行犯な美琴の姿をコソコソと捜した。

今なら美琴が犯人である事を誤魔化せる。
風紀委員と美琴、どちらを優先するかと言われれば迷わず美琴の方を取る不良風紀委員は遂にその姿を見つけ心底ホッとした。

「良かったですわ、さあ逃げましょうお姉様。今なら誰も見ていませんから」

「……黒子ぉ~~~!」

振り返った美琴は泣くのを必死に堪えている顔で、思わずキュンとしながら最悪の展開を予想しつつも疑問を問い掛ける。

「ど、どうされましたの?」

「わ、わた、私のゲコ太ぁ~~!!」

「……破れていましたの?」

ぶるんぶるんと首を振る姿に劣情を催しながら、黒子は泣く子を慰めるかのような微笑みで再度問い掛ける。

「…………いの」

「はい?」

「ゲコ太、が、無い……どこにも無いのぉ~!」

ボロボロと遂に決壊して涙の滝を流し始めた美琴にゾクゾクと背筋に走るナニかを感じつつ、取り敢えず逃がさなくては…とサイレンが聞こえたので共に空間移動する。
近場のホテルに一室を取りベッドに寝かせた、泣きじゃくる美琴に後ろ髪を引かれながらも再度被災現場へと空間移動。

ガヤガヤと人気を増した現場を仕切っている警備員に、邪魔をしないので入れて欲しいと許可を取りそれとなく積み荷を確かめる。
すると、美琴の言う様にリストの中には確かに存在する筈のゲコ太抱き枕(略)だけが存在しなかった。

「おかしいですわね、何故アレだけが無いんですの?」

強盗がトラックを奪う際に積み荷を棄てた事実は存在しない、誰かが運搬中に盗むとは…なくはないが非常に考え辛い。
そうして黒子は、まったく予見していなかった、超最悪な可能性に気付いてしまう。

ダラダラと流れ出した汗を気にしながら、積み荷にロスが無いか確認している最中のドライバーに風紀委員だと挨拶。

「如何ですの?」

「ええ、全部無事みたいです。車はオシャカになりましたが、応援の奴らが来るので配達に問題はないですね」

「ですが、わたくしのリストではこの商品の洩れが…」

「ああ、コレなら丁度この近くに大量に商品を運ぶ奴が居たんでそいつの荷に混ぜて貰ったんですよ。いやーすみません、お手数を掛けてしま───」

後半は何を言っているのか聞き取れない程に動揺した黒子は、それを何とか気付かれないように幾人かに挨拶を済ませその場から逃げた。
やった、やってしまった。

単なる強盗事件で済む筈だった事件を結果的に見れば無意味に被害を拡大させてしまった。
ヤベーですわヤベーですわ。レベル5はある種の治外法権対象であるものの、まったく罰則が無い訳ではない。

「……と、取り敢えず泣いてるお姉様を慰め──じゃなくて抱き枕の無事を知らせないといけませんわね」

この事は内緒にしよう、そうしよう。苦々しい表情のまま真実の揉み消しを決意し美琴が待つ部屋へ空間移動した。



「ッ~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」

店頭で受け取った特製ゲコ太BOXを頭上に掲げ、感涙し声にならない喜びを上げる。
よかった、無事でよかった、ほんとによかった、生きてるって素晴らしい。

周囲の目も気にせず人生賛歌を始めた美琴は悪目立ちしていたが、どの人間も一様に優しい目で彼女を見つめていた。
しかし素面な黒子はテンションに付いていけず引き摺るように店を出た。

キャッキャとハシャぐ美琴を横目で見ながら、アナタ達の犠牲は無駄でしたけれど結果オーライですわねと微笑む。

 [所詮は犯罪者]

 [一足先に罰を受けたようなもの]

 [怪我人もいないんだからオッケー]

時間を掛けて自分を誤魔化す論理武装を終えて状況終了。
となれば可愛らしい美琴を見て興奮…ではなく癒されよう。

ニマニマとハシャぎ続ける美琴の様子を見続ける、冷静さを取り戻した時に紅くなってビリビリされるかもしれないが止める事は出来ない。
そもそも黒子にとってはそれすらもご褒美の一つに過ぎないのだから。

「ふふふ、今日からずっと離さないわ。ああ寝るのが待ち遠しい…」

翌日、一連の銀行強盗の事件の顛末を聞かされた美琴は「そんな事件あったんだー、アンタも大変ね」と完全に他人ごとだった。


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