「いずみの会」の「驚異の依存率」を調べる

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               「超自然現象」や疑似科学を調べる 第79号
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ご無沙汰です。

事情があってしばらくお休みしていました。

本当はもう少しお休みしたかったのですが、「まぐまぐ」の方から、また休刊の
予告が来てしまいました。これからまた、少しずつ発行して行きます。今年もよ
ろしくお願いします。

それにしても、世の中は厳しい。4ヶ月休んでいる間に、購読数が2000部も減っ
てしまいました。これから巻き返すのは大変ですが、せっかく掲げた目標(1万
部)もありますからそれに向かって頑張りたいと思います。

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★「いずみの会」の「驚異の依存率」を調べる
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◆論より証拠のガン克服術
中山武 (著)
草思社
ISBN:4794213379

今回はこの書籍について述べてみたい。

「450名を超えるガン患者会員がこうして元気に生きている!」
会員の「生存率」が97%である(序章)とするガン患者の会「いずみの会」
(NPO法人)は、メディアでもしばしば取り上げられる。その会長が、会の紹介
とともに、自らのガン患者観を述べたの書籍がタイトルの書である。

絶対的といえる方法がないガン治療を前にして、その進行具合にかかわらずガン
患者のすべては不安や絶望感を抱いている。いや、かりに現在ガンでなくとも、
3人に1人がガンで亡くなるとされる現代、全国民的にとって「ガン」は不可避な
課題である。

すべてのガンのすべてのステージを通して、60%弱といわれる5年生存率(ガン
は5年で一区切りとされる)と比して、同会の97%という「生存率」はたしかに
高い。数字だけを見ればメディアが取り上げたくなるのはよくわかる。

著者の中山武氏自身、かつては予後の悪いスキルス胃ガンにかかった。それでも、
3万人に1人の確率といわれる生存者に入れたという(第1章)。会は、この中山
氏の奇跡にあやかりたいガン患者が多数入会している。

その中山氏が強調するのは、「心の改善」「食事の改善」「運動」の3つである
(第2章?第5章)。これ自体は、1997年に世界ガン研究基金・全米ガン研究財団
が発表した「ガン予防14ヶ条」と基本的には重なるものである。

同書では、砂糖や動物性たんぱく質など、徹底して排除することを推奨している。
そこに科学的根拠は示されていないが、摂りすぎないことは現在の栄養学や医学
などでも否定すべきことではないのでとりあえずおこう。

ただ、問題なのは「西洋医学でガンは治らない」(第6章)「ガンは自分で治す」
(第7章)など、民間療法を推奨する人々が必ず述べる論調だ。

自分の気の持ち方は大切であるし、現在の西洋医学も絶対ではない。だからといっ
て、通常治療を後景に退けるような表現は、読む者に治療の意欲を失わせ、その
機会を逃すことにならないとも限らない。

たとえば、中山氏は「素人でもガンは治せる」と断言する。しかし、こういうや
り方ならこれだけの人が治ったという具体的なデータを示しているわけではない。
結果としてスキルス胃ガンだった自分が生きている、という体験談だけで、客観
的な治療成績(エビデンス)に基づいた話は何一つないのだ。もっともそれが示
せたら、おそらく中山氏は、今回受賞した日本人科学者4名よりもはやくノーベル
賞を取れただろう。

にもかかわらず、中山氏は他の民間療法推奨者のように抗ガン剤を否定してしま
う。確かに、認可を受けている抗ガン剤は無害ではない。はっきりいえば、抗ガ
ン剤は薬というよりも毒である。当然、何らかの副作用もあるし、必ず効果があ
るとも断言できない。薬剤耐性のような限界もある。

しかし、医学は客観性・再現性ある試験の中から、患者にとって最良の選択をし
て抗ガン剤を使っている。それをきちんと見ることもなく、リスクだけを一面的
に強調し、成果の不確かな方法を自信満々に断言するのは、患者にとって正しい
選択の機会を与えたものとはならない。

何より、同会が売りとしている冒頭の「驚異の生存率」も、そのまま鵜呑みには
できない。

誤解してはならないのは、いずみの会に入れば、ガン患者の97%が生存できると
いう意味ではない。そう思っている人は、次の「数字のからくり」を知って欲しい。

同書に書かれている時点で、いずみの会は会員数471名、その中で亡くなった人
が13名。だから、「生存率」は97.2%と同書は宣伝する。しかし、いずみの会で
は、入会後半年以内に亡くなった会員は、会員としてカウントしていない。その
ような「幻の会員」が24名いたと告白している。要するに、本当の末期は初めか
ら入れない会なのである。そこをまず見ておく必要がある。

それでも、その「24名」を加えると92.5%。それを凄い数字だと思われるかもし
れないが、同書がいう「生存率」というのは、通常使われる「ガン患者が×年後
に生存しているかどうか」という意味ではなく、たんにその年に生きている人、
という意味でしかない。同書は、次のようにデータを公開している。「犠牲者」
というのは、亡くなった人である。

1997年度、実質患者166名、犠牲者 5名、生存率97.0%
1998年度、実質患者174名、犠牲者 7名、生存率95.9%
1999年度、実質患者187名、犠牲者 7名、生存率96.3%
2000年度、実質患者266名、犠牲者14名、生存率94.7%
2001年度、実質患者258名、犠牲者25名、生存率90.3%
2002年度、実質患者272名、犠牲者17名、生存率93.8%

ガンは「5年生存率」で見る。ということは、本来ならたとえば1997年に入会し
た「166名」が、ガンを発症して5年後に何パーセントが生存しているのか、とい
うことを見なければならない。1997年に発症したとして、その後の同会の5年間
の「犠牲者」は75名。それがすべて97年入会組だとすると、本来の意味での(5
年)生存率は54.8%でしかない。末期を排除してこの数字では、決していい数字
ではないだろう。もし、「75名」が97年組以外も含まれるとすれば、その人々は
もっと悲惨だ。つまり、いずみの会に入会しても5年持たなかった人がいるとい
うことなのだから。

ガンは即死の病気ではない。発病後、4年目に亡くなった会員がいたとして、そ
の人は3年間は同会でいう「生存率」の上昇に貢献する。その間、新しい(つま
り余命のある)ガン患者も入会して会員数自体が増えているから、単年で見れば、
会の高い「生存率」の維持は、中山氏がいうほどの「快挙」とは思えない。

そもそも、ガン患者の生存率はガンのステージを見なければ意味はない。どのガ
ンのどのステージで何%という数字でなければならない。ガンの部位とステージ
によって、予後は全く違う。

同書の巻末には、会員の病歴リストが出ているが、103人中、半分近い50人がス
テージ1、末期のステージ4はたった5人、再発転移も7人しかいない。つまり、も
ともと通常治療である程度の割合で生存できる人たちが会員なのである。そう見
ると、「生存率」が高くても、それがそのままいずみの会の功績とはいえないの
ではないだろうか。少なくとも、同会の会員が、一般のガン患者に比べて有意に
生存率が高いかどうかは、同書が示すデータでは証明はできない。

筆者は、個人的にガン患者にとってこうした会は必要だと思っている。ガン患者
が励まし合える機会を得られる会ならそれだけで存在意義はある。それだけに、
突っ込みどころを残した数字で会を宣伝しても、それは長い目で見れば会のため
にも会員のためにもならないと筆者は残念に思うのだ。

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