2009年07月30日

少量飲酒の長寿への効用、教育・資産や身体機能の違いを考慮しないと過大評価。

米国の50歳以上の男女12,519人を4年間追跡したところ、非飲酒者より少量飲酒者(一日1杯、アルコールで一日7.0−20.9g)は大卒と資産家が多く、身体機能の制限も少なかったため、これらの要因を考慮すると、少量飲酒者の死亡率の低さは50%から28%へと小さくなった。論文はJournal of the American Geriatric Society 2009年6月号に掲載された。

年齢、性別、人種の違いだけを考慮したときには、少量飲酒者の死亡リスクは非飲酒者より50%低かった。また、これまでの研究で含められることの多い要因(喫煙、肥満度、運動等)を考慮しても、少量飲酒者のリスクは43%低く、あまり変化がなかった。

ところが、今回初めて社会経済状態(学歴、収入、資産)と身体機能(日常生活動作、歩行能力等)を同時に考慮に入れたところ、少量飲酒者の死亡リスクの低さは非飲酒者の28%に留まった。

つまり、非飲酒者より少量飲酒者の方が社会経済状態や身体機能等が良いのに、これまでの研究ではこれらの要因を同時に考慮しなかったために、少量飲酒の長寿への効用を過大評価していることを示唆する結果だった。

「非飲酒者」には、健康だが飲酒しないグループと、過去に病気をして飲酒を止めた高リスク群がいる。この研究では、過去4年以内に飲酒を止めたグループを「非飲酒者」から除外しているが、それ以前に病気をして飲酒を止めたグループを除外していない。4年より前に病気をして飲酒を止めたグループを仮に除いたら、少量飲酒の効用はさらに小さくなるか、消失した可能性もある。

筆者はかつてこの問題を取り上げ、もともと飲まないグループと病気等で止めたグループを区別せずに「非飲酒者」として一括すると、少量飲酒による死亡リスクの低下を認める一方、病気等で止めたグループを除外して、もともと飲まないグループだけを「非飲酒者」として比較すると、少量飲酒者の死亡リスクの低下はないことを示したことがある(JAMA 2001;286:1177-8.)。

日本人の場合、飲酒でリスクが上がるがんが死因の1位で、少量飲酒でリスクが下がる心臓病はがんよりずっと少ないために、こうした結果になったものと思われる。

6月27日のロシアにおける飲酒と死亡率変動の記事や、7月9日のアルコールとグローバル・ヘルスに関する記事に見られるように、少量飲酒の恩恵を受けるのは先進国の中産階級や富裕層に限定されており、世界的に見ればアルコールの害の方がずっと重大な問題に思える。

今回の論文も、少量飲酒の効用を考える際には社会経済的な要因を無視すべきではないことを示したデータとして、筆者は読んだ。

論文要旨

ytsubono at 06:00論文解説  この記事をクリップ!
記事検索
QRコード
QRコード
  • livedoor Readerに登録
  • RSS
  • ライブドアブログ