2009年09月25日

英国の貧困と死亡率の地域格差、100年間大きな変化なし。

英国イングランドとウェールズの634地区の貧困度と死亡率の関係を1900年代と2001年で比べてみたところ、両者の関係の強さにはほとんど変化がなかった。論文はBritish Medical Journal2009年9月19日号に掲載された。

著者は、1901−1910年の人口統計の資料を使って、当時の634地区の相対死亡率(全国平均を100とする)を計算した。また、2001年には行政区分が変化しているが、1900年代とできるだけ区分を合わせる形で、634地区の相対死亡率を計算した。

2001年の各地区の貧困指数(deprivation index)は、世帯の密集度(一部屋当りの居住人数)、社会階層の低さ、男性の失業、車なしの世帯という四つの要因に基づいて算出した。一方、1900年代の各地域の貧困指数は、車なしの世帯を除く三つの要因に類似の統計資料に基づいて算出した。

その結果、1900年代に相対死亡率が下位10%の地区(70.4)と上位10%の地区(144.2)との間には、2.05倍の格差があった。ところが2001年は1.79倍(75.6と135.5)と、格差が少し狭まった。

一方、1900年代に貧困指数が下位10%の地区の相対死亡率(89.4)に対する上位10%の地区の相対死亡率(124.0)の間には、1.39倍の格差があった。2001年は1.36倍(89.0と121.2)と、格差の程度はほとんど変わらなかった。また、地区の貧困指数と相対死亡率の相関の強さは、1990年代も2001年も同程度で変化がなかった。

著者によると、英国人の平均寿命では、1990年代(男性46歳、女性50歳)から2001年(男性77歳、女性81歳)にかけて、31年も延びた。また20世紀の100年には、福祉国家の確立、NHS(国民保健サービス)の創設、生活水準の向上、医学の進歩等が見られた。こうした改善にもかかわらず、貧困と死亡率の関係のパターンは、堅固に固まった状態で持続していると指摘している。

⇒日本の社会階層の不平等を研究する代表的な社会学者と先日話をする機会があったが、不平等の存在を指摘する研究は世界的に多数あるが、不平等を改善する政策の成功事例の報告はほとんど見つからないと話していた。

日本の疫学の分野でも、健康格差を取り扱う社会疫学が流行している。しかし、健康格差の存在を指摘することと、健康格差を政策的に改善することの間には、大きなギャップがあることを銘記し、あまりナイーブに両者を結びつけて議論することには慎重になるべきだろう。今回の研究が発する警告を、きちんと受け止める必要があると思う。

同誌サイトから全文を無料で閲覧できる。

ytsubono at 04:45論文解説  この記事をクリップ!
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