2009年12月08日

北欧4国の脳腫瘍発生率の動向、携帯電話の普及後も変化なし。

デンマーク、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンで1974−2003年に生じた脳腫瘍59,984例(20−79歳の合計人口1600万人から発生)のデータを使って発生率の動向を調べたところ、90年代半ばに携帯電話が急速に普及した後の1998−2003年に、動向の変化はなかった。論文はJournal of the National Cancer Institute 電子版に2009年12月3日掲載された。

脳腫瘍のうち、最も頻度の高い神経膠腫(年間平均発生数1,078例)と髄膜腫(635例)の二種類の発生率の推移を調べた。

1974−2003年の間に、男性の神経膠腫の発生率は年平均0.5%上昇、女性の神経膠腫は0.2%上昇、男性の髄膜腫は0.8%上昇したが、1998−2003年にこの動向が変化することはなかった。女性の髄膜腫は、1974−1987年は年平均2.9%上昇、1987−1990年は2.1%減少し、1990−2003年は3.8%上昇した。しかし1990-2003年の上昇は、携帯電話が急速に普及する1990年代半ばより以前から生じていた。

携帯電話の発する高周波電磁界と脳腫瘍リスクとの関連が議論されている。しかし著者らによると、両者を結びつける生物学的メカニズムは特定されていない。また、2006年デンマークで行なわれた42万人の大規模な追跡調査では、携帯電話による脳腫瘍リスクの上昇を認めず、今回の結果と一致していた。

2007−2008年に報告された北欧と英国の後向き研究では、全体としては神経膠腫と髄膜腫のリスク上昇を認めなかったが、携帯電話のヘビーユーザーでの神経膠腫の小さなリスク上昇(10年超で携帯使用側の腫瘍が1.39倍)の可能性の余地を残した。2006年のスウェーデンの後向き研究では、携帯電話の短期間の使用で神経膠腫の大きなリスク上昇(グレードIII-IV の星細胞腫が1.7倍)を示し、今回の結果と不一致だった。

著者らは今回の結果の解釈として、次の四つに言及している。1携帯電話は脳腫瘍のリスクを上げない。2携帯電話の使用から脳腫瘍の発生までには、今回調べた5−10年のタイムラグではなく、より長い時間が必要。3携帯電話によるリスク上昇は小さすぎて今回のデータでは観察できない。4携帯電話によるリスク上昇は一部の腫瘍や一部の集団に限られる。その上で、さらに長期間の動向を調べることが必要と述べている。

⇒今回の研究は、携帯電話には、北欧4カ国という集団レベルでの成人の神経膠腫と髄膜腫の推移に影響するほど大きな影響はないことを示している。しかし、携帯電話の使用を個人レベルで調査しているわけではない点には留意が必要だ。一方、リスク上昇を示唆する後向き研究では、脳腫瘍患者に過去の携帯電話の使用歴について質問するため、使用歴を実際以上に過大評価する可能性が高い。

今回の結果とデンマークの大規模な追跡調査の結果から考えると、携帯電話による脳腫瘍リスクの大きな上昇の可能性は否定的に思えるが、それでも一部の集団での小さなリスク上昇の可能性まで否定できるわけではないことは、著者らも認める通りだ。より長期間の追跡調査と脳腫瘍の動向の観察が必要だろう。

論文要旨


ytsubono at 06:00論文解説 | がん予防 この記事をクリップ!
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