2010年01月12日

プラセボと比べた抗うつ薬の効果、「非常に重度」の症状以外では不明確。

抗うつ薬とプラセボを比べたランダム化比較試験6件の患者718人の個人データをまとめて分析したところ、うつの重症度が高いほどプラセボに対する抗うつ薬の優越性が大きくなったが、優越性が明確なのは症状が「非常に重度」の場合だけで、「重度」「中等度」「軽度」の場合は、優越性がないか無視できるほどに小さかった。論文はJournal of the American Medical Association 2010年1月6日号に掲載された。

研究者らは、1980−2009年に英語で出版された、成人患者に6週間以上抗うつ剤とプラセボを投与し比較したランダム化比較試験で、抗うつ薬の臨床試験で最も多く使われる17項目のハミルトンうつ病評価尺度を使った論文を17件特定した。このうち、患者の個別データの提供に協力した6件のデータをまとめて分析した。

患者数の合計は718人、抗うつ剤群が434人、プラセボ群が284人だった。大うつ病性障害に対する試験が5件、小うつ病性障害に対する試験が1件だった。抗うつ剤は、三環系のイミプラミンを使用した試験が3件、SSRIのパロキセチンを使用した試験が3件だった。

その結果、ハミルトンうつ病評価尺度で調べた試験開始時点の症状が重くなるほど、抗うつ剤による症状の改善も、プラセボによる症状の改善も、大きくなった。ところが、プラセボに対する抗うつ薬の優越性は、症状が「軽度」か「中等度」(ハミルトンうつ病評価尺度で18点以下、180人)と「重度」(19−22点、255人)のグループでは、なしか、無視できるほどに小さかった。

一方、症状が「非常に重度」(23点以上、283人)の場合には、プラセボに対する抗うつ薬の優越性がほぼ中等度に認められた。プラセボと抗うつ薬で臨床的に意味のある差が見られたのは、「非常に重度」の中でも25点以上の場合だった。

著者らによると、同様の先行研究は2件あり、研究開始時点の症状が重いほど、プラセボに対する抗うつ薬の優越性が大きくなる点で一致していた。しかしこれら2件の研究は、患者の大半が重症に限られており、抗うつ剤群とプラセボ群のデータも集団としてのデータ(平均値など)しかなかった。今回の研究では、重症以外の患者も多く対象に含め、患者個人のデータを入手して分析したことが進歩だと述べている。

著者らは、プラセボと比べて抗うつ薬が臨床的に意味のある優越性を示すには、患者の症状が非常に重度であることが必要な点が、今回の結果の驚くべき点だと述べている。その上で、より軽症のうつ病にも抗うつ剤が多用され、抗うつ剤のマーケティングでも、臨床試験の大半は重症の患者のみを対象にしていることが、明確なメッセージとして反映されていないことを批判している。

結論として著者らは、2件の先行研究を含む3件の研究が否定されない限り、抗うつ剤はより重症のうつには顕著な効果があるが、より軽症のうつの多くにはプラセボを超える特異的な薬効を示唆する知見がほとんどないことを、臨床医と患者に対して明らかにする努力をすべきだと述べている。

⇒非常に重度のうつを除けば、抗うつ剤にはプラセボと同程度の効果しかないという結果は衝撃的だ。ただし、解析の条件に合致した17件のランダム化試験のうち、個人データの提供という協力が得られた6件のみの解析に基づく結果であることには留意が必要だろう。全ての臨床試験の個人データを使って、今回の結果を再確認することが必要ではないだろうか。

論文要旨

ytsubono at 06:00論文解説  この記事をクリップ!
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