2010年7月2日0時22分
日本の若者はこんなにも愛国心にあふれているのか。サッカーW杯南アフリカ大会で決勝トーナメントに進んだ日本代表の活躍は、日本中を熱気に包んだ。スポーツバーやパブリックビューイングに集まる若者は、日本代表のユニホームに身を包み、スクリーンの選手と一緒に君が代を熱唱する。そして、声がかれるまで「ニッポン」と叫び続ける。
そこには、世界のお祭りに取り残されたくない、外国人と同じスタイルで応援したい、という若者の思いがある。一方で近年、日の丸のもとに一体感を味わい、燃焼する若者の背景には、日本人のマインドを取り巻く特有の状況がある。
高度成長時代を中心に、日本は、大衆と呼ばれた人たちに支えられた。豊かになりたいという共通の思いが、日本の経済を引っ張った。しかし、横並びの豊かさを獲得すると、次に日本人は本当の豊かさに向かう。その結果、日本人の嗜好(しこう)は多様化し、大衆に代表される「塊」からお互いに影響されない個人「点」へと変わる。人間関係も絆(きずな)の強い従来の帰属関係から、緩い関係「系」を望むようになる。
やがて、インターネットによる情報量の増大などにより、日本人は、一人が多様な嗜好をもとに複数の緩い属性を持つ一人十色になっていく。そのような時代のなかで、W杯というトリガーが日本人の中の普段は意識していない緩い「日本人という系」を呼び覚まし、特に若者を共鳴させ、一体感を生んだと考えられる。それは、「日本のためなら犠牲になっても」という強い帰属意識から生まれる愛国行動とは異なる。「日本人という系」へのアプローチは、今後も有望なマーケティング戦略の一つである。(深呼吸)
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「経済気象台」は、第一線で活躍している経済人、学者など社外筆者の執筆によるものです。