NBonline
「「買わない」私が、気になる売り場」のトップへ

「買わない」私が、気になる売り場

西友=ウォルマート流「常識破りの商品陳列」にびっくり!

EDLP(毎日安売り)でAKY(圧倒的に価格安い)の秘密


人物紹介

菊地 眞弓:レースクイーンやミスコン荒らしなど「バブルでGO」を満喫した20代を経て、今や贅沢に飽きてほとんどモノを買わなくなったアラフォー女子

WITH三波 毒夫:流通の現場に出向き、同業者や取引先と情報交換するのが3度のメシよりも好きという謎の中年男。「WITH」は、「お客様とともに」を意味する

たまたま出会った2人が「世の中に、気づき・幸せ・役立ちを与える」で意気投合。今日も流通の最前線を歩きます。

 「AKYな42日間」。こんなキャッチコピーを掲げ、6月24日から8月4日まで7100品目を低価格で販売するキャンペーンを開始したスーパーマーケットの西友。AKYとは、アットーテキ(圧倒的)・カカク(価格)・ヤスク(安く)の頭文字だ。

 1956年に西武百貨店が設立した西友は、2002年に世界最大のスーパーマーケットチェーンである米ウォルマートと業務提携。2008年にはウォルマートの完全子会社となり、2009年に「合同会社 西友」となった。

“西友の皮を被ったウォルマート”

 ウォルマートのコンセプトである「EDLP(EveryDay Low Price=毎日安売り)を核に、続々と旧店舗のリニューアルを実施している。当初は米国流の手法に業界関係者からは懐疑的な見方も少なくなかったが、ここに来て「業績が好調になってきたようだ」と注目を集めている。躍進する“西友の皮を被ったウォルマート”の秘密はどこにあるのか。6月中旬〜下旬にかけて、複数の店舗をチェックしてみた。

<店舗フォーマットの異コトなる売ウり場バ視察シサツ>

店舗
西友 東陽町店
フードマガジン 六本木ヒルズ店
西友 上浅田店
リヴィン よこすか店
西友 鶴見店
タイプ スーパーマーケット スーパーマーケット スーパーマーケット 百貨店 総合スーパー
所在地 東京都江東区 東京都港区 静岡県浜松市 神奈川県横須賀市 横浜市
特長 約6キロメートル圏内にダイエー、ジャスコ、イトーヨーカドーなどのスーパーストア10件がひしめく「安売り」激戦区。それぞれ最寄駅から4〜5分の立地。遠くても10分。大型駐車場を兼ね備えた店舗もある。 六本木ヒルズで24時間営業している都心型スーパー。隣接する音楽・映像ソフトや書籍などを扱う複合ショップ「TSUTAYA(ツタヤ)」との連絡通路がビル2階部分にある。店内は木やシルバー、大理石を使用した内装で、高級感がある。 車立地でドラッグストアやクリーニングショップ、大型コインランドリーを併設するスーパー型店舗。メーカー工場の多い土地柄か、5%ぐらいがブラジル人顧客。コインランドリーを利用しながらの買い物客もいる。 日本での実験展開(ディズニーコーナーなど)を積極的に行っている大型ショッピング施設。京急の横須賀中央駅や県立大学駅から徒歩約15分以上かかる。自動車での来客がメーン。 1980年代に一世を風靡した、専門店街ありの日本型多層階商業ビル。7階建て「Fuga1」ビルの地下1階〜5階を占める。隣接する「fuga2」は専門店街のみ。駅直結。
 
売り場構成
地下
1階
        生鮮食料品と惣菜のフロア
1階 生鮮食料品と惣菜のフロア 食料品と惣菜のフロア 食料品と日用品のフロア 食料品のフロア(※)、暮らしのフロア 食料品と専門店のフロア
2階 食料品とくすり・化粧日用品のフロア 生鮮食料品のフロア   ファッションと趣味・専門店のフロア くすり・化粧日用品と専門店のフロア
3階 ファッションと暮らしのフロア     駐車場(※) 婦人ファッションのフロア
4階       駐車場 紳士、子供ファッションのフロア
5階         暮らしのフロア
        屋上にも駐車場 6〜7階は横浜市鶴見公会堂や会議室など
 
営業時間 24時間 24時間 24時間 (※)は24時間、それ以外は 9:00〜23:00 9:00〜23:00
店舗ちらし あり(生鮮食品+日用品) なし あり(生鮮食品のみ) あり(生鮮食品+日用品) あり(生鮮食品+日用品)

*  *  *

WITH三波 毒夫(以下、三波) 西友の「EDLP」が実現しているのは、「店頭オペレーション」「発注システム」「物流システム」すべてにおいて“徹底的コストダウン”を追及しているからだ。コストダウンにこだわるあまり、小売業に携わった者やメーカーから見ると、日本的小売業として“許されざる店頭状況”に思える風景もあるが、実は一般のお客様は気にしていなかったりもする。

菊地 眞弓(以下、菊地) “一般のお客様代表”(笑)として店舗を回ってみましたが、三波さんが言う“許されざる店頭状況”とは「商品陳列」のことですね。

 どの店舗も什器や価格表示、陳列方法がほぼ同じ。さらに不思議に感じたのが、棚の空きスペースが目立ち、通路には商品が詰まった段ボールや発泡スチロール、空のパレットが無造作に置かれていたこと。何も考えなければ「あ、AKYで売れ筋商品がなくなっているんだゎ〜」くらいにしか感じないけど、改めて指摘されると「商品を補充する人はどこへ?」と気になってきますね。

異なる外観も、オペレーションは同じ

三波 そう。本当に参る(汗)。売り場の至る所にオリコン(問屋などから納品される時に商品が入っている箱)が山積み・・・。店舗オペレーションとしては「オリコンはなるべくお客様の目につかないように迅速に作業し、片付ける」のが鉄則の業界だからね。商品補充中にその場を離れる時には、通路を塞がないように気を配ることも必須。

 そんな日本的小売業の「掟」をよそに、ほかの店舗に比べて高級感ある内装で富裕層の取り込みを意識しているであろう六本木ヒルズ店でさえ、そうだからね(笑)。

フードマガジン 六本木店の立地と入口風景。視察時には、入口すぐ左手には「安売りグレープフルーツ」が入ったパレットが、右手にはカットフルーツが入った発泡スチロールが高く積まれていた。

三波 外観はすべて異なる5店舗だけれど、店内表示や商品陳列はウォルマートの理念に基づいている。関係者に聞いた話では、従業員の業務は時間ごとに区切られていて、あるカテゴリーの品出し途中でも、決められた時間になったり、レジ対応などの要請があったりすれば、すぐにほかの業務に移らなくてはならない。

 そのため、通路に商品が置き去りになったままや棚に商品が補充されないままになっているという現象が店舗のあちらこちらで見られる。従業員は、カテゴリー別の担当はなくオールラウンドで決められた業務を遂行する。まさに“徹底的なコストダウン”主義だね。

西友 東陽町店の倉庫荷入れ風景。車から物を下ろす人と、それを倉庫内に運びこむ人。夕方の繁忙時間と重なったためか、たった2人で作業をしていた。

菊地 空の棚は欠品もあるでしょうが、EDLPのため、「商品はお客様が探してでも買ってくれる」という意識が店舗側にもあったりするのかしら?

三波 ないとは言えないだろうね。ところで菊地さんは店舗運営に関する「3S」を知っているかな。

菊地 え〜と、Synergistic(相乗的な)とSlant(傾向)で、それとSort out(分類する)とか(笑)。

三波 ははは。もっと分かりやすく「接客・清掃・整理整頓」。この3Sで育った日本の小売業界人の僕だからね、5店舗視察中、何度も卒倒しそうになったよ(汗)。

 各店舗でお客様にヒアリングしたところ、「生鮮売場の商品鮮度が良く、安い!」と感動している声も多かったね。棚の陳列が充足していなかったり、キャベツの棚に土埃が落ちていたりするのも、全く気にならない様子。そこで、そのことを指摘すると「商品を見ているんだから、そんなの気にならない。『キャベツの棚に土』は、産地直送なら当たり前でしょ」と。

 通常の小売りではゴンドラの前陳(商品が売れた後に、奥の商品を手前に引っ張り出す作業)が当然なんだけれども、それが行われていなくても全く気にならない様子で、むしろ「売れている商品かと思った」とのこと。それは、ある意味、当たっているのだけれども・・・。

 お客様の中には「KY2(2乗=カカクヤスク・クラシヤスク)キャンペーンでテレビコマーシャルしているから来てみたけど、やっぱり活気があるねえ〜」と話している主婦らしいグループもいたね。

菊地 私のように陳列の空間が気になる人もいると思いますが、逆に気にしていない人も多数いらっしゃいますね。 私もアンケートがあれば「清掃や陳列を良くしてほしい」と書くかもしれないけれど、店員さんを呼び止めてまで注意しようとは思わないですね。特に鮮度の良い商品が購入できれば、そんなことは取るに足らないことかも。

 日本の小売業の常識は、EDLPを実践するウォルマートには非常識なこととして捉えられており、その部分の改善が「さらにお安く」なるポイントなのかもしれませんね。

合理的に買い物できるシステム

三波 まさに、“事実は小説より奇なり!”だよ。生鮮品の場合、「鮮度が良くて低価格を求めるお客様」にとっての「必要ないこと」や「気にならないこと」は、積極的に排除。 売り上げが昨年から好調なのも、そういった意味では仕組みでのEDLPは成功の法則かもしれないね。

 もう1つ、売り場の品揃えのほかに気になったのが入口ボードサインや価格表示。

西友 東陽町店の入り口。

菊地 六本木ヒルズ店では気づきませんでしたが、東陽町店入り口には写真入りで、とても見やすい定番野菜の安売り表示がありましたね。

三波 リヴィンよこすか店など日用品のフロアがある店舗では、エスカレーター付近など、お客様の導線から目にしやすい場所に日用品の安売り表示がある。各フロアの雰囲気や店舗ごとに変えることなく、同形態のボードの使いまわしでコストダウンしているようだね。

菊地 売り場としては商品入れ替えの際に、商品写真や価格を入れ替えれば流用できる、素早い対応が可能ですね。陳列にかかるコストは、人件費含めて徹底的に削減していますね。

三波 食品は別だけれども、文具などの日用品分野で安い商品を目的買いするのには向いている表示方法だと思う。一方で、POP(店頭販促)による「わくわく演出」がない分、衝動買いを誘引することはあまりできないのではないだろうか。基本的には割引表示ではなく価格表示のため、その商品が一般的にいくらで売られているのかを知らないと手が伸びづらいようにも感じる。

菊地 売り場の棚や価格表示が統一されているのはオペレーション的には便利なのでしょうが、「ショッピングの楽しさ」はあまり感じませんね。棚もダーク系の配色で低い天井の多い西友の旧型店舗では重苦しい雰囲気なのが気になります。米国の店舗のように広ければ、スタイリッシュな感じなのかもしれませんが。でも、“赤と黄を使った色づかいで大きな文字”の価格表示はいいですね。ほかのスーパーでは見られない特徴では。

三波 70歳と37歳の専業主婦にヒアリングしたところ、2人とも「プライスボードは鮮明で分かりやすく、文字も大きくてグッド!」と高評価だったね。シニアや、何かと忙しい主婦には、目指す商品の価格がくっきりと大きく見えて秀逸なプライスボードなのかもしれないね・・・。

*  *  *

三波 ウォルマートのEDLP、日本での成功要因をまとめてみたよ。

(1)店舗運営の割り切り

(2)テレビコマーシャルによるチェーンイメージの構築

(3)新商品依存の売り場からの転換期に合致

 今の時代になってやっとEDLPが華開いて成功しつつある理由の1つとして、日本の小売りは“問屋制”や“店舗運営の割り切り”ができなかったことにある。店舗運営の割り切り は理屈的には簡単なことだが、日本の小売業で育った人間がそれを実現するには“かなりの勇気”がいる。合議制で物事を進める大手小売業ではまず実現できないし、トップダウンなら実現可能であるが、その思想を持てるトップが少なかったこともある。

 イトーヨーカドーやイオンは、小売りに精通しているので、なかなか割り切りはできない。ダイエーは小売り以外の人間がトップに立つというチャンスに恵まれたが、資金が不十分だったことと、トップに就いた人の小売りに対する知識不足と周りの実務担当者のサポート不足だったことで実現できなかった。業界関係者の間では、こんな見方で一致しているようだ。

 当然、物流や店舗什器、メーカーとのSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)は、世界的企業であるウォルマートが業務提携後8年間にわたって、粘り強く赤字の西友に投資してきたという側面が大きい。子会社化によってさらなる踏み込みに舵を切ったタイミングと、今の時代感が程よくフィツトしたのではないだろうか。

新商品不足の“負のスパイラル”を断ち切る

三波 「テレビコマーシャルによるチェーンイメージの構築」については、媒体費が下がり始めた昨今、テレビコマーシャルが以前より低いコストで投入できるようになったことが、費用対効果を重視するウォルマート流の効率に見合ったのではないかと考えているよ。

菊地 小売業界が不景気になるとテレビコマーシャルの露出も少なくなり、直接的な店舗誘導につながりやすいのかもしれませんね。来店していたお客さんの言葉にもありましたし。

三波 「浴衣3980円で売っています」とか「明日からポイントがつきます」とか、直接的に消費者に響く内容が来店を促していることは確かだね。そんな中、「安い」という企業イメージ的なテレビコマーシャルが流れれば、消費者に刷り込みしやすい環境を作り上げることができる。総合小売りのテレビコマーシャルが激減し、コンビニエンスストアのコマーシャルなどもあまり見なくなったという好タイミングでもあるしね。

菊地 「KY2」は、そんな要因が重なり、一般消費者に浸透したのかもしれません。

三波 とにかく、現状のAKYは素晴らしいと思うよ。アイドルグループ「AKB48」がブームの時に、「AKY42」だからね!

菊地 英語頭文字3文字が流行る現在の言語感覚に便乗した感じですか(笑)。

三波 そして最後に「新商品依存の売り場からの転換期に合致」したこと。小売業の売り上げ獲得手法として、従来のチラシ特売のほかは「新商品販売」に依存していた状況だった。ところが、日用品メーカーなどは不景気のあおりを受け、「売れないから新商品を発売しない、新商品を発売しないから売れない」という“負のスパイラル”にはまり、10年前と比較して新商品の発売数が半分以下という大手メーカーも出てきたほどだ。

菊地 当然のように、メーカーの開発コストや販促コストは削られているのでしょうね。 そう言えば、西友の棚の両端もAKY商品で占められていましたね。

三波 新商品依存を抱えていた西友は、新商品の発売数が減ったことで、依存から脱皮したと考えられる。

菊地 日用品の品揃えについて言及すれば「値段より鮮度感重視」の人には、売り場的にはつまらないかも。

三波 「合理的に安く買物を希望するお客様のための店」というのを意識した店舗作りで、今の時代にマッチしているのだろうね。

三波 余談だけど・・・。「リヴィン よこすか店」で気なったことがあるんだ。

菊地 ディズニーコーナーなど実験的な店舗展開ですか?

“非日常消費”の専門店と共存できるか?

三波 そうだね。「ディズニーコーナー」のほかに、良品計画の総合雑貨店「無印(MUJI)」などかな。

菊地 専門店街のセレクションがウォルマート流に合っていない気がする?

三波 10分1000円のヘアカット専門店「QB HOUSE(キュービーハウス)」は、専門店街でもコンセプトが合っているようで、15人も並んでいたからいいとして。

 ウォルマート流とは対極にある“非日常での購買促進をする”ディズニーコーナーは、凄く違和感があったね。ディズニーがあまり日常に入ってくると本業に影響を与えるのではないかと余計な心配をしてしまったよ(笑)。

このコラムについて

「買わない」私が、気になる売り場

消費者の心理や動向の変化を、店舗がどう解釈して購買意欲を沸き立たせようとしているのか。アラフォー女子と現役バイヤーが、話題の店舗で売り場をチェック。普通に買い物するだけでは見逃しがちな点を深堀りして、ビジネスの考え方やトレンドの作り方などを読み解いていく。

⇒ 記事一覧

著者プロフィール

菊地 眞弓(きくち・まゆみ)

菊地 眞弓フリーライター。東京生まれ。自動車メーカー勤務後、出版社などを経て、1998年に独立。現在、執筆のほか、ウェブなどのメディア制作会社も経営している
写真:©Precious(プレシャス)©永田忠彦

WITH三波 毒夫(うぃず・みなみ・どくお)

流通業界で15年以上の経験を持つ。現在も現役バイヤーとして某小売に勤務しているため、ここはペンネームでご容赦ください