【ワシントン】オバマ米大統領は27日、沖合掘削事業に関する安全規則を強化し検査を厳格化する方針を示す見通しだ。メキシコ湾での原油流出をめぐる政界からの批判を抑える狙いとみられる。
こうした措置は、同大統領にとってターニングポイントになる可能性がある。米有数の豊かな漁場、観光客に人気のビーチ、沖合油田掘削業界の数千の職が脅かされるなか、オバマ政権の対応は遅すぎる上に不十分だとする批判が高まる一方だ。
オバマ大統領は28日に今月2度目のルイジアナ州訪問を予定している。大惨事に精力的に取り組んでいる姿勢を示すためだ。ただ、政治的ダメージを防ごうとするホワイトハウスの試みは、制御不能な要素に大きく左右される。その筆頭が、流出食い止めに向けたBPの「トップキル」作業(油井に大量の泥やセメントを注入)の成否だ。
BPは、26日にこの作業に着手する計画を明らかにしている。政権当局者によると、BPは当初インターネットで流出現場を生中継することに反対していたが、大統領や政権の対応チームの要請をのんだという。BP幹部によると、これほどの深海でこうした試みをするのは初めて。流出している油井は海面下1マイル(1.6キロ)に位置する。
トップキルが失敗した場合、BPはドーム状の物体を沈めて油井にふたをする方針。ただし、前回の同様の試みは失敗している。政府高官とBPの幹部は、流出を食い止めるための油井が完成する8月まで流出が続きかねないと懸念している。
オバマ大統領は27日、流出の原因となった先月20日の石油掘削リグ爆発事故の要因に関する内務省の報告書を受け取り、演説を行う。沖合での掘削許可に関する変更の詳細を明らかにするとみられる。
政権当局者によると、こうした変更の一環として、掘削リグの安全を確保するための新たな許可手続きが加わる見通し。また、リグに対する新たな検査が義務づけられそうだ。これには、許可手続き中に安全機能や環境面の事前対策が受け入れられたことを確認する意味もある。こうした規制面での変更については、オバマ大統領が命じた30日間の見直しの過程で詳細を詰めている。サラザール内務長官は26日の議会証言で、この見直しによる勧告の多くを明らかにするもよう。
27日の時点で流出が続いていれば、大統領は追加で打てる措置にも言及するとみられる。
オバマ大統領が対応を強化する背景には、政治的批判の高まりがある。政府が解決をBPに頼りすぎているとの批判もあれば、対応が鈍く足並みが乱れているとの声も聞かれる。
共和党全国委員会(RNC)と全国共和党上院委員会(NRSC)は、流出が続くなかオバマ大統領が25日にバーバラ・ボクサー上院議員(民主、カリフォルニア州)の資金集めのためサンフランシスコに赴いたことを非難した。油田掘削反対の急先鋒(せんぽう)ビル・ネルソン上院議員(民主、フロリダ州)は、浄化のために軍を派遣するよう大統領に訴えている。
米シンクタンク、センター・フォー・アメリカン・プログレスのエネルギー専門家ダン・ワイス氏は、BPにエスクロー(第三者寄託)勘定の設置を求める案についてホワイトハウス当局者と協議したと語った。同社に環境・経済面の損害に対して適時に支払いをさせるためという。同氏は50億ドル(約4500億円)を提案した。これは、同社の第1四半期利益にほぼ匹敵する。
ワシントンでは今週まで、政権の対応に対する批判は抑え気味だった。石油業界との結び付きが強い共和党としては、BPの責任だと訴える民主党に同調したくなかったためだ。さらに、沖合掘削を拡大したいという意向もある。一方の民主党は大統領批判を避けている。
政府対応に対して最も辛らつな批判は、ボビー・ジンダル知事(共和)をはじめとするルイジアナ州当局者によるものだ。同州は流出による被害が最も深刻である(関連記事)。