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自治再考 参院選・公約の行方7:過疎地、待ったなし 医師不足

診察を待つ患者が絶えない待合室=北海道陸別町の町国民健康保険関寛斎診療所で1日、田中裕之撮影
診察を待つ患者が絶えない待合室=北海道陸別町の町国民健康保険関寛斎診療所で1日、田中裕之撮影

 「生まれ育った陸別に最期まで住んでいたい」。30度を超えた6月中旬、北海道陸別町の町営住宅に独りで暮らす上村スエさん(86)はつぶやいた。昨年10月に肺気腫を患い、町内で唯一の医療機関「町国民健康保険関寛斎(せきかんさい)診療所」に月1回通院する。診療所までタクシーで5分。「かかりつけのお医者さんがいるから安心して暮らせる」。鼻に付けた酸素チューブで呼吸をしながら笑顔を見せた。

 過疎地域などで深刻さを増す医師不足。病床数12の同診療所も例外ではない。今年4月、2人の常勤医のうち1人が任期切れで退職。今月1日に男性外科医(52)が着任するまで男性内科医(54)が一手に診療を引き受けた。診療科は内科、小児科、外科。1日平均40人の外来患者を診察し、午後5時~翌午前8時半までの当直時間は診療所前の自宅で待機した。

 当直時間にも2日に1人は患者が訪れる。2~3人の入院患者に気も配らなければならない。週末は札幌や帯広の応援医師を確保できたものの、内科医の激務に、上村さんを介護している社会福祉士の山崎政行さん(53)が「容体が急変した時の対応を知りたくても、疲れ切った内科医に相談できる状況じゃなかった」と振り返った。

   ■■

 道によると、昨年4月現在で道内476病院のうち、「緊急に医師が必要」とする病院は2割強の104病院。北渡島檜山80%(4病院)▽留萌57・1%(4病院)▽根室50%(3病院)の各地方は半数以上だった。

 こうした過疎地での医師不足解消に向け、民主党は昨夏の衆院選マニフェスト(政権公約)で「医師養成数を1・5倍にする」と明記。鈴木寛副文部科学相は6月24日の記者会見で「関係省庁と本格的な議論に入る」と述べ、80年以降認められなかった医学部新設の認可に動き始めている。

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 関寛斎診療所に着任した外科医は、同じ十勝地方の士幌町国民健康保険病院に勤務していた。病床数60、6診療科を持つ同病院の医師は内科医3人だけとなり、担当者は「外科医を引き留めたが、(外科医と病院側の)考え方が合わなかった」と落胆する。過疎地の医療機関が医師を取り合う構図に、関寛斎診療所の有田勝彦事務長(47)は「いつ医師がいなくなってもおかしくない」と吐露する。

 1人前の医師を養成するには10年の歳月が必要とされる。同診療所で診察を終えた上村さんは「10年先だなんて生きていられるかも分からない。政治には、今を何とかしてほしいんです」。

【田中裕之、写真も】

=おわり

     ◇

 医師不足 全国の医師総数は増加傾向にあるものの、産科や外科など勤務条件の厳しい一部診療科の医師は減少。さらに、大学を卒業した医師が研修先を自由に選べる「臨床研修制度」が04年度から始まり、地方の医師不足に拍車をかけたとも言われる。道内では、羅臼▽豊浦▽浜頓別▽神恵内▽積丹▽赤井川の6町村で常勤医が1人しかおらず、綱渡りの診療が続いている。

毎日新聞 2010年7月2日 1時39分

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