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[19490] だいじなだいじなわたしのぱんつ(H×H 転生 一応TS)
Name: 褐色さん◆799f532f ID:640fa46e
Date: 2010/07/01 00:50
いやー困りました。ホント困りました。

もちろん大事なことなので二回言いますよ?


「…ハァハァ。なぁ,もういいだろ?もう俺さ,もう我慢できねぇよ。もうマジで…ひひ,ひひひ」

「ちっ,したねぇな,見えるとこには痕のこすなよ?大事な大事な人質様だ」

「んーー!んっーーー!」


ただいまぜっさん誘拐され中です。

手足はしばられていて痛いですし,手拭いかまされて息苦しいです。

そのうえたったいまから貞操の危機という状況まで追加されそうです。

この世界の治安が悪いことは知っていたはずなのですがやっぱり知識と経験は別物ということですね。

さすがハンター×ハンター。転生してきたわたしにも容赦ありません。

さて,ここはやっぱりあれですね。みんな大好き現実逃避,これしかないでしょう。

思い起こすはわたしの今世。尺はながめに生まれたころから。

天井のしみを数えてれば終わるってよくいいますし,ぼーっとしてれば,そこまでのダメージは受けないはず。

…うけないと,いいなぁ…。

もと男なもので,貞操の危機っていまいち実感わかないのですよね。

まぁなにはともあれ,回想はいりますね。





わたしがここハンター×ハンターの世界にきてしまってからはや16年,憑依とかじゃなくてちゃんと赤ん坊から始めたので
いまでは現実でいうところの高校のようなところに通っています。

2歳くらいまでは前世の記憶に赤ん坊の脳みそが釣りあわなかったのか,その頃のことは今ではいろいろとうろ覚えですけど,
ちゃんと前世の記憶を意識できるようになってからは前との違いにとまどったものです。

背の丈が低いので見える景色がなにかと新鮮でしたし,前世と違って今回は女の子だったことなどなど,例をあげればきりもありません。

いやなつかしい。



幸いなことに生まれたおうちはそれなりに,いやかなり裕福だったようで,生活に不自由を感じたことはありませんでした。

まわりにはメイドさんはもちろん,わたし専属の執事さんまでいる始末。

まぁ,お仕事で忙しい両親とはめったに会うことはできませんでしたが,使用人のみんながいたので特にさびしく思うこともありませんでしたし。



そのかわりに,といってはなんですがしつけはずいぶんと厳しくつけられました。

そりゃ人からみたらちょっといいとこのお嬢様ですからね。

ふと”おれ”とか言っちゃったときのメイド長のあの目と声は今でも忘れられません…。

ふだんはちょっときつめの口調でもこちらを想ってくれてるいことがわかる,わたしの大好きなおばあちゃんでしたのに,
一瞬でわたしが世界で一番悪いことしているような気持ちにさせてくれるあの眼はいつ思い出してもあばばばbbb…



…っと,いけませんね。とりみだしました。

おかげさまでいまでは頭の中でも一人称が“わたし”で固定されるくらいまで女の子女の子させてもらっています。

もと男としてはせめて僕っ子で…くらいの矜持があったはずなのですが,すっかり叩き潰されちゃいました。

よかったのやらわるかったのやら。



ちなみにこの世界がハンター×ハンターのものであるとわかったのは5歳のころです。

なにゆえって,いやね?

はやったのですよ。

ハンターごっこが。

幼稚園の子たちの間で。

幼稚園とはいえ,すでにおしとやかさをかねそろえ始めたお嬢様がたとはちがって,男の子たちはたとえお坊ちゃんだろうと男の子なのですよね。

最初はハンター?猟師?くらいにおもっていたのですが,元気にあそんでいるのをなんとなしに眺めていたら,
やれ俺はブラックリストハンターになって賞金首がどうのとか,やれ僕はグルメハンターになっておいしいものをみんなにとか
ハンターの定義がどうにもデジャブを感じるようなものばかりでした。

ネテロ会長という名前が出て来たときにとっさに,ちょっとまってください!と言って
いろいろと問い詰めてしまっても仕方ないと思うのです。

あまりに迫りすぎて,気の弱い子が泣き出してしまったときはさすがにあわてましたけど。

…あのときはごめんなさい。あの子,元気かなぁ,



そんなこんなで家に帰ってからもいろいろと調べた結果,あぁやっぱりここはあの世界なんだなぁと。

地名なんかを調べてみるとうろ覚えの知識と一致するものばかり。

ヨークシンとかはさすがにそのころでも聞いたこともありましたけど,
まさか転生先が漫画のなかとは思ってなかったので普通にスルーしていました。



さて,この世界の治安が世紀末的とはいわずともかなり悪いのは皆さんご存じのはず。

なにせ,おおっぴらに暗殺で生計が立てられる人々がいるのですからいわずもがな,ですよね。

そこで,わたしがお嬢様のお稽古のひとつとして,なにか武術を教えてほしいと頼み込んだところ,
なんとお家の敷地の中に道場が建ちました。

お金持ってすごいですね。



道場ではなんだか有名らしい武術家さんに,なんだかテコンドーともカポエラともつかない足技主体な武術を教わっています。

どうせならほんとうは心源流がよかったのですが,お父様のご友人なのだとか。

こればかりはどうにもしようがありません。



ときおり訪ねてくるほかの門下生との組み手からすると,わたしの強さはおおむね中の下から中の中といったところですか。

どうやらわたしに武術の才能はあまりないようです。



しかしそこで忘れてはいけないもう一つ。

習得してしまえば,へたな武術の達人にだって余裕で無双できるであろう,それこそがこの世界を特殊たらしめる“念”の存在です。

そんな“念”の修行ですが,やはり初めは“オーラ”を感じることができないとどうしようもないということで,あいた時間をひたすら黙想にあてることにしました。

怪しまれるといけないので,座禅などはせず,イスにこしかけひたすら集中,しゅうちゅう,シュウチュウ…。

見えないなにかを感じるために意識を静めつづけました。



そんな小さなことから始めた修行ですが,それから10年ほどたったいまでは基本の錬や絶にくわえ応用の周とか円とかその他もろもろ全部完璧で
発の“とある少年の黒歴史(エターナルフォースブリザード)”で相手は死ぬから私はこの世で最強になった。

スイーツ(笑)。

…いやここはオリ主(笑)のほうがいいかな?



本当に最強(笑)ならよかったのですが現実はそう甘くはありませんでした。

師匠なし,修行方法もあいまいでうまくいくはずもなく,最近になってようやっとなんか体のまわりに薄いもやがみえるような,
みえないような…くらいにまでなりました。

某ビフォーアフターとは正反対な意味で劇的な変化量ですね。



逆に10年もの間あきらめなかったわたしにびっくりです。

よくがんばりましたわたし。

すごいぞつよいぞかっこいい!

…自画自賛ってむなしくなりますね。



まぁこんなかんじで“念”のほうの才能は武術以上に乏しいようです。

せっかくこの世界に来たというのに…残念で仕方ありません。

ですがこのまま根気よく修行をつづければきっともう10年で錬,
さらに10年で発くらいはできるようになるでしょう。

いまからどんな念能力をつくろうか楽しみです。

ある程度身を守れてかつ日常生活がたのしくなるような,そんな能力がいいですね。

ビスケさんのように美容や健康に全力で挑むのもおもしろいかもしれませんし,
シズクちゃんのような便利な道具をつくるのも想像力がかきたてられます。



そもそもわたしの系統ってなんなのでしょう?

おもしろい能力をつくるならやっぱり具現化系とか操作系ですよね。

あ,放出系の瞬間移動なんてのもすてがたいです。

でも強化系はいただけません。

能力つかってもせいぜい殴る蹴るくらいでしょうしどうせ。

ちょっとたかのぞみですが,もし,本当にもし特質系とかだったらどうしましょう?

ほぼなんだってできるともいわんばかりのチート系統。

あぁ,まずいです。ゆめが無限にひろが―――――






―――――ゾクッ。

―――――え?


「…ハァハァ,…へへへ,なぁ嬢ちゃん,やわらけぇなぁ。ひひ,やわらけぇよぉ,嬢ちゃんのおっぱい。」


―――――なに,これ。うそ。なんで?まだハジマッテなかったの?
あんなにいっぱいカンガエテタノニ?


「…どうだ?なぁ嬢ちゃんどうだ?…気持ちいいか?…気持ちいいんだろう?」

「ひぅっ。ひゅ。」


―――――やめて,やめてやめてやめてやめて!さわらないで!さわっちゃやだ!
うそでしょ!?なんで,なんでこんなにキモチワルイノ!?イキガウマクデキナイ!


「あぁ,いいぜ。ホントいい。ほら,おなかもすべすべだ。」

「―――――っ!」


―――――ゾワッ


やだよきいてない。きいてないよ。

直接,ただ直接,肌に触れられただけなのに,服の上からよりも何倍も,何十倍も何百倍もキモチワルイ。

いやそれだけじゃない。

いまさらになってわたしのなかのわずかな“男”に押さえつけられていた“女の本能”が警告をあげる。

シャツをたぐられるだけで意識が騒ぐ。

からだを視姦されるだけで心が叫ぶ。

ただひたすらに,コワイ。


「…おい,さっさと終わらせろ。やっこさんがいつ金もってくっかわかんねぇんだ。」

「ちっ,わかったよ。…って,おいおい,おもらししてんじゃねえか。ひひっ,そうかぁそうかぁ,そんなにこわいのかぁ。
なぁ嬢ちゃん?安心していいぜ?おれぁ仲間内じゃテクニシャンでとおってんだ。へへ,だいじょうぶ。すぐに気持ち良くなれるからなぁ。」

「…ひゅぐ,ひう,うぅぅ。」

とうとう目から涙があふれてきた。

鼻水もたれているのがわかる。

もう顔はいろんな液でぐしゃぐしゃだろう。

男にいわれて初めて気がついたがいつの間にか失禁までしているらしく,腰のあたりがつめたい。

からだがふるえる。

鳥肌が立つ。

自分のからだ,目の前の男,今の状況,世界のすべてがわたしのことを虐める。


「ハァハァ。それじゃあ,そろそろ…,いいよなぁ…?」


男がわたしのスカートをまくりあげて,とうとう下着に指をかけた。

息が詰まる。

男が唾をのんだ音がはっきりと聞こえる。

“外側”。服の上からさわられただけで,寒気をおぼえた。

“表面”。はだに直接ふれられただけで,恐怖にふるえた

あと残っているのは“内側”だけ。

“外”と“表面”であれだけのことがあった。

ならばもし,“内”まで犯されたのなら,はたしてわたしはどうなるのだろうか?

そう思った。考えてしまった。想像して,しまった。

いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ
いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ
いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだキモチワルイキモチワルイ
キモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイ
キモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイキモチワルイコワイ
コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ
コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ
コワイコワイコワイコワイコワイコワイコワイ

―――――そんなこと,ぜったいに,許可しない(ユルサナイ)。



―――――“■■■■■■■■■■■■■(ガールズサンクチュアリ)”



「…あぁ?なんだぁ?」


ふとわたしの頭にことばが響いた。


「く,そ,なんだこれ。さげらんねぇ。…おい!なんか切るもん貸してくれ!」

「あ?なんでだよ。」

「いいからなんかあんだろ?はさみとかカッターとかよ!」

「ったく,それが人にもの頼むたいどかよ…ほらよ果物ナイフだ。これでいいだろ?」

「ああサンキュ」


わたしの下着に男がナイフの刃をたてる。


―――――ペキッ


「あぁ?」

「は?」


ナイフが折れた。


「おいなんだこれ?」

「しらねぇよ!なんか,なんかねぇのか他にぃ!」


男たちが刃物をさがしてばたばたしている。

どうしてかはわからないのだけれど,わたしの下着はやたらに堅いらしい,…です。

ならばわたしの内側はだいじょうぶでしょうか。

そしてこれ以上にこわいことはもうおこらないでしょうか。

なんだか眠くなってきました。

瞳がおもい。

意識がとおく―――――





…ふと目覚めると,わたしは車の座席で横になっていました。

体をおこすと,肩にかかっていた黒くてわたしには一回りばかりおおきな服がおちそうになります。

そのしたには下着以外になにもきていません。

あれ?なにがあったのでしたっけ。


「お目覚めですか?お嬢様。」

「ひゃっ!」


びっくりしました。この泰然とした雰囲気のおじいさんは確か…


「お父様つきの執事さん?」

「さようでございます。お久し振りでございます,お嬢様。御無事で何よりでございます。」

「………。」


…おもいだしました。わたし,襲われかけたのでしたっけ。いまさらになってまたからだが震えてきました。

がたがたがた。

あのあとどうなったのでしょうか。

わたしは,わたしは…


「…あっ」

「だいじょうぶでございます。お嬢さまはなにもされてはおりません。」


執事さんがわたしのことを抱きしめてくれました。

あたまをなでてくれました。

わたしは執事さんのむねを借りて,ずっとずっと泣き続けました。





事の顛末は,後日,執事さんから聞くことができました。

なんでも,執事さんが身代金を渡すふりをして犯人たちを単身にて強襲,執事さんを老人とあなどっていた男たちは一瞬で御用になったのだとか。

そのとき部屋に横たわるわたしはほとんど裸だったのですが,…なんというかその,“いたした”形跡はなく,
まわりには折れたナイフやはたまた,弾の切れたライフルなどが転がっていたそうです。

それはいったいどういうことでしょうか?


「…お嬢様は“念”というものをご存じでしょうか」

「びくっ!」


え?え?どうしてそこでそんな話がでてくるのですか?


「“念”とは一部の人間が修行の末に使えるようになる一種の超能力でございます。さまざまな超常的に現象を引き起こすことができ,
私がお見受けする限りお嬢様はあのとき“念”を使って身を守っていたように思えます。」

「へ,へぇー。そうなのですか。執事さんもその,ね,ねん?っていうの,使えるのですか。」

「はい。屋敷にはあと数名ほど念能力者が仕えております。
そのうちの一人が,お嬢様つきの執事と交代であたらしく就くことになりました。
お嬢様の執事としての仕事にくわえ,今後おなじようなことがおこらないようにボディガードとして,
そして“念”の指導者としてお嬢様にお仕えすることになります。」

「はぁ,そうなのですか。」

「いくら自らの危機により感情がたかぶったとはいえ,なんの知識もなしに“念”を使って見せたのです。きっとすばらしい念能力者になれることでしょう。」

「………。」


いえません!10年まえからこっそり修行していたとかいえませんから!

うう,執事さんの期待をはらんだまなざしがまぶしいです。

というか,いたのですね。お屋敷に念能力者。

うっかり錬でも成功させようものならいろいろとややこしことになるところでした。

よかったのやら悪かったのやら。

それにしても“念”で身を守った,ですか。

となるとあの時,頭に響いた言葉はもしかして念能力?

無意識につくってしまったのでしょうか。

むむむ…ちょっと集中してみれば…あったあったこれでしょうねたぶん。

ええっと能力の内容はっと―――



“わたしのぱんつは鉄壁ぱんつ(ガールズサンクチュアリ)”強化系

・この能力は使用者がどのような状態でも常時発動する。

・この能力が発動した場合,能力者のぱんつは能力者本人と能力者が心から許した相手以外おろすことはできない。

・ぱんつおよびその周辺部は危害が加えられそうになったとき,必要に応じて硬をおこない,ありとあらえるものからいっさい影響を受けない。



――え,なんですかこれ。

つまりあれですか,ぱんつをはいている限り腰回りだけは最強の防御をほこると,そういうことですか。

ちょっとまって,え?

こんなんじゃ戦闘はおろか日常生活でも使えませんよ?

守れるのはわたしの貞操だけってそんな…

いや確かにだいじではあるのですが,貞操以前に心臓でもさされたらあっけなく死んじゃいますよね…これ

そしてなにより能力名がひどすぎます…。

うぅ,うらみますよ,無意識のわたし…。

新執事さんとかにどうやって説明すればいいんですか…

わたしはやですよ?“念”の初授業でその,…ぱんつぱんつって,連呼するの


「…どうしてこうなったorz」


久し振りに敬語いがいの言葉をしゃべった気がします。

厳しくしつけられたとはいえこればかりは仕方がないのです。

仕方がないのですってば!

だからそんな目を向けないでくださいメイド長!

ここはお庭で,わたしはつぶやいただけですよ!?

なんでお屋敷のなかからその目を向けるのですか!?

地獄耳とかそんなレベルじゃ…はぁ。


「すいません,以後気をつけます。」


遠くの窓にみえるメイド長に頭を下げると,彼女は“よろしい”とでもいうように微笑んで去って行きましたとさ。

…はぁ





あとがき
絶体絶命の危機に眠れる力がめざめて窮地を脱する。そんな話。
これだけ聞くとありきたりですね。(笑)

ちなみに私はただ女の子に変な能力を手に入れさせたかっただけの紳士ですよ。
とまどう女の子ってかわいいよね。



[19490] 第2話 新たなる道への目覚め
Name: 褐色さん◆799f532f ID:640fa46e
Date: 2010/06/19 01:02
みなさんきいてください。新しい能力ができました!

新しい能力ができました!

やっぱり大事なことなので二回言いますよ。

どのようなものをつくろうか悩み続けてはや三日ほど。

この三日間ほとんど眠れていませんでした。

…ふふふ,あーでもないこうでもないと試行錯誤しましたが閃いてしまえばあとは一瞬です。

もうわたしすごい!

天才ですわたし!

寝不足でテンションがひどいことになっていますがそんなの知ったこっちゃありません!

いやっふーいえぃいえぃ♪



あの事件から苦節三年。

新執事さん,もとい執事くんのもとで毎日きびしい修行に耐えきった成果がついに実った
のです!

本当に厳しかったです…もうね,あなた本当にわたしの使用人かと,わたしのいえに忠誠とか誓っているのではないのかと,
なんど問い詰めたくなったことか…



いや,半分は自業自得というかなんというかわたしにも責任があるのですけれど…

本能で念に目覚めたと思われている手前,たいていのことは
同じく理論よりも本能で理解するだろうとか思われているのですよね。

理論型と本能型で習得の仕方が全く違う。

なんでも念とはそういうものなのだとか。

ちょいと見本をみせられて,体の内からグワッと引きだす感じで,とかいわれてもわかるわけないでしょう!

組み手していればかってに目覚めるだろうとか買いかぶりもはなはだしいです!



それでも修行の筋は通っているので,すでに風化しかけている前世の記憶で
理論的な部分を補完しつつがんばったところ,まぁそれなりに成長しました。

いまでは一部を除いてとりあえず一通りのことはできるようになりました。

オーラを感じるのに10年もかかったのが信じられないですが,
やっぱり教えてくれる人がいるかいないかでは大分違うようですね。



と,いうわけで,新能力発表前にちょっとだけいまわたしのできることと,
修行の過程でわかったことをおさらいしてみますか。

それにこの能力の発動にはちょっとだけ下準備が必要ですし。

その下準備というのが…


「さぁ,執事くん。わたしを・・ってください。」

「へ?」

「あれ?聞こえませんでした?この・・でわたしのことを・・・・てくださいっていったのですよ!
やり方はお任せしますから,ほらはやくはやく。ハリーハリー。」

「は,はぁ…」


こちらは執事くんにお任せして,わたしの意識は内へ内へ…

ものごとの節目節目に過去を思い起こして反省することは大切ですからね。

さて,おさらい開始ですよ。





念の修行で一番はじめに行ったのは“錬”の体得でした。

能力のできた時点で自然と“纏”はできるようになっていたので,一段飛ばしての開始です。

これはなんだかんだで結構簡単にできました。

なにせ執事さんの見本と「もやもやを,こう,ぎゅっとして,ばっと!」ってアドバイスはともかく,
腰回りにほかのなによりもまさる最高のお手本があるのですから,からだ全体がぱんつと同じ条件になるように
と考えればこれがなかなかいい感じでした。



え?からだ全体がぱんつと同じっていやじゃないか?ですって?

いやまぁ,たしかに最初は“I am the bone of my panty.(体はぱんつでできている。)”みたいでいやでした。

ショーツ,パンティ,ドロワーズ,スパッツ,かぼちゃにくまさんetcetc…
ありとあらゆるぱんつが存在する無限の荒野をつくりだすのですね。

わかりたくありません。とか考えて鬱になったりもしました。



ですけど,しだいにどうでもよくなったというか,自分のぱんつでもできていることがわたしにできないのが悔しいというか…

そう,気がつけばわたしのぱんつはわたしの貞操の守護者であると同時に,
わたしの念の修行における最大の好敵手(ライバル)になっていたのです!

…いまふりかえるとだいぶアホの子ですね,わたし。

…え~,おほんっ。

これはあれです。

きびしい修行であたまがちょっとだけゆるくなっていたってことでひとつ…だめですか?

だめですよね…

えと,いいのです。そのおかげですんなり修行が進んだのですから。

結果よければっていいますしだから終わったことだからはやく本気だったあのころの記憶は消えろわたしがんばれわたし。



と,つぎに“絶”のほうですが,最初に言いましょう,わたしには永遠に不可能だとわかりました。

なぜって,ここでも出張ってくるのがわたしの念能力もといわたしのぱんつ。

わたしの念能力はわたしが“どのような状態”であろうと“常時”発動するものなので,
いくら絶をしようとぱんつだけはオーラをまとうのをやめてはくれません。

けっか出来上がるのが“異様に目立つぱんつ”です。

存在感が限りなく薄くなるのに,腰回りだけそのままなので,相対的にぱんつがめだつ,ということです。

ためしに絶状態で何人かの使用人に話しかけてみたところ,みなそろって
わたしの目や顔でなく腰回りを凝視しながら会話に応じてくれました。

…これなんて罰ゲーム?



あと “凝”とその他応用技の数々はいろいろと試した結果,これらは可もなく不可もないといったところですか。

“凝”はそれなりに叩き込まれましたが、その他は触り程度にしか行っていません。

執事くんいわく、まずは基本がしっかりしてからとのことです。



最後は“発”および水見式の結果とわたしの念能力に対する執事くんの見解考察です。

“発”じたいは“錬”とおなじですんなり成功しましたね。

まぁすでに能力もちな手前、当然といえば当然ですけど。



そしてみなさんおまちかねの水見式ですけれど,始める前はわたしもまだ期待していたのですよ。

突発的に作ってしまった能力は強化系でしたけど,わたしの系統は放出や変化のどちらかなのではないかってですね。

隣り合った系統ならば間違いが起こってしまっても仕方がありません,
というよりまだ,変幻自在のバンジーガムとかみたいな能力にあこがれていたのです。

強化系で殴り合いとか本気で勘弁してください,みたいな感じですか。

ですがそんな期待や祈りもむなしくコップからはお水があふれ出しました。

何度もやりました。

いつまでもやりました。

しかしお水の色は変わらず,味も変わらず…

わたしの目からもお水があふれてきましたよっと…

あれ?おかしいな。こっちのお水はしょっぱいや。

…はぁ



べ,べつに悔しくなんてありません。

あれです,無人島とかで一番やくにたつのは強化系ですもん。

わたしが一滴のお水でみんなを救うのですから。

変化も放出も操作も役に立たない中,わたしは無人島のヒーローですから。

濾過したお水に不純物うかべる具現化なんて不届き者はわたしの命令でリンチにしてやるのですよ。



…そんなわけでわたしの系統は強化系で本決まりです。

―――ちょっと執事くんやっぱりってなんですかやっぱりってわかっていたのなら教えてくださいよ。

え?教えたけどわたしが信じなかったんだ,ですか?

…ふっ,これが若さゆえの…いえ,なんでもありません。なんでもありませんったら!―――

なんてこともありましたが,おおむね何事もなくおわりましたね。



そのあと,執事くんが教えてくれたのですが,わたしのように本能で能力を作ってしまった人は,
その作った能力自体や,作った時の状況に縛られて,一から新しい能力を作るのが難しくなってしまうそうです。

まったく違うものもできなくはないのですが,うまく使いこなすのに
相当の労力をそいで修行しなければいけなくなるとか。

執事くんもこのタイプでむかし結構苦労したのだと,話してくれました。



それをふまえた上で,話は冒頭に戻り,わたしの苦悩の日々が始まります。

まずまっさきに考えたのは,能力の効果をぱんつだけでなくブラやほかの衣服にも転用できるようにするものでした。

これなら実用的にも見栄え的にも申し分なかったのですが,
あの事件のわたしが念に目覚めたあの瞬間,わたしはすでにブラも衣服もはぎとられた後だったのです。

そんなわけでこの案はボツ。

というよりも作ろうとしても作れませんでした。

制約なしに衣服まで絶対防御とかやろうとしたらふつうにチートすぎてメモリが足りません。



またいくつか考えてうまくいきそうだったのが,能力の効果をぱんつを“はく”以外の方法でも
発揮させるようにするものです。

ぱんつを“にぎって”相手にパンチで威力はふだんの何倍か。

ぱんつを膝に“かぶせれば”とび膝蹴りの攻撃力もアップ。

あげくぱんつを“かぶれば”どんなヘルメットにもまけない最高の兜とかす…

…って,わたしはどこの変態さんですかっ!

見栄えとか世間体とか以前にふつうに御用になりかねませんっ!

なまじ今の能力との関連付けという点ではなんだかうまく作れてしまいそうなのが,またたちが悪かったりします。

むしろこれも徹夜で寝ぼけて朦朧とした意識で危うく作ってしまうところでした。

一度設定するとリセットはできませんからね。いやはやくわばらくわばら…



ほかにも,ぱんつからカウンターで念弾→攻撃するためにスカートめくらなきゃ。不採用。

全身タイツ型ぱんつを具現化&着用→いやそれもうぱんつじゃないよね。不採用。

心ゆるしてなきゃパンチラしてもぱんつみえない→スカートでも戦えます。採用。

おもらししても地下深くに転送,ぱんつよごれない→そーえばあの時失禁しましたっけ。採用。

人間砲弾ただし弾頭はぱんつ→わたしはえびになりたい…不採用。

…などなど様々な案がうかんでは消えうかんでは消え,なかなか決めることができませんでした。

むしろ時間がたつにつれて考えが突飛になってきて,最初のころには全否定した物でも
“なんかこれでもいっかな…”とか思っちゃってかなりきけんな状態です。



…まぁ,こまかくて変な能力はノリでちょこちょこ作っているのですが…

メモリちいちゃいから気にしない気にしない。



さておき,そこでふと,わたしの頭に言葉が響きました。

―――思い出しなさいと。

―――恐怖にふるえていたあの時を。

―――初めて念を使ったあの時を。

―――わたしの念の原点にしてすべてにかかわるあの瞬間を。



―――そう。あの時,わたしは,“手足を縛りあげられていた”…!



もうね,ひらめいた瞬間ね,ビビっときましたよビビっと!

興奮でハイになった頭が,これがわたしの新能力だって,ひっきりなしに叫んでいるのです。

そしてそのまま思いついたままに,ひらめいたままに,本能のままに作り上げたのがこの…





「…拘束された箇所およびその周辺を硬で守ってくれるまさに絶対防御,
“束縛された安全地帯(レディースシェルター)”なんです!わかりましたか?執事くん!」

「…お嬢さま,なんだかテンション高いですね」

「ふふふ,悩みぬいた末に最高の一手を思いついたのですから当然です!あぁもう!いまわたしはすごーく気分がいいです。
これがうわさに聞く徹夜明け,もとい三徹明けのテンションというやつですね!?いやっふーいえぃいえぃ♪」

「…お嬢さまがこわれた」


そんなことしていたら準備がおわったみたいですね。

いい感じに全身が拘束されています。

技術はないですがしっかりと動けないようにぐるぐる巻きにされていますね。


「…お嬢さま,言われたとおりに縛りあげましたが,どうですか?どこかきつかったりしませんか?」

「…むしろ締め付けられているほうが,守ってもらっているようで,いい…ほふぅ…」

「………。」


っと,なんだかうっとりしている場合じゃありませんね。いまは能力の性能テストの真っ最中なのですから。


「よし。それじゃあ執事くん,用意もできたことですし,わたしのこと思い切りなぐってくれませんか?」

「………。」

「あ,忘れていました。さるぐつわも付けてください。頭部の条件がそれなので。
…あ,はひはとうほあいあふ(ありがとうございます)。」

「………………。」


うん?なんだか執事くん,両手握ってぷるぷる震えてますけどどうしたのでしょう?


「…お嬢さま。」

「はひ?」

「…これはもしかしてぼくのせいですか?ぼくの修行があまりにつらかったからお嬢さまは,お嬢さまは…っ」

「…?」


執事くんの様子がなんだか…って,うわなんか執事くんの右手にすごい量のオーラがががggg…


「ほ,まっ(ちょ,まっ)。」

「…いまのいままで気付けなかったぼくを許してください。あやまる資格がないのはわかっていますが,それでも言わせてください。
本当にごめんなさい。…でもだいじょうぶです。いまからぼくがこの拳で…」

「…(パクパク)」


ちょ,ちょっと待ってまだあがるのですか!?

これ明らかにただの硬とかじゃなくてゴンくんのジャンケン,グーみたいな念能力ですよね!?

たしか執事くんの能力は悲しみに応じてオーラの量が増減する能力だったはず。

というかいくらなんでも強すぎです!

何がそんなに悲しいのですか執事くん!


「お嬢さまを,正気にもどしてさしあげます!おおぉぉおりゃああぁぁ!!」

「―――――っ。」


―――ドガンッ!!


なぐられた瞬間から世界が勢いよく回転しています。

そのうえ執事くんがあっという間にとおくに離れていきました。

そしてそのままバウンドを一回,二回,三回してからごろごろ~…目,目が回ります。


「…っは。だ,だいじょうぶですかお嬢さま~!」


我に返った執事くんがこちらに走り寄ってきますが,だいじょうぶではありません。

たしかに意外なことにあれだけのオーラで殴られたのにどこにも痛みは感じませんし,
すごい勢いで飛んだはずなのに特にGもかかりませんでした。

…思ったよりずっと性能高いですね,これ。

ですが,視覚的に目が回って,回って,あぁ意識が,遠く―――





「…う,うぅ。」

「あ,お嬢さま!よかった目が覚めたんですね!」

「…あ~,えと,ここは?」

「ここはって,お嬢さまのお部屋じゃないですか。お嬢さま,あれから丸一日ねむっていたんですよ?
…はい,紅茶です。やけどしないように」

「あぁ,はい。ありがとうございます。」


…ふぅ。紅茶が美味しい。

なんて,一息ついたらさっぱりと目が覚めました。

………いろいろな意味で


「…あぁ~,やってしまいました。」

「お,お嬢さま,大丈夫ですか?」


だからだいじょうぶじゃありませんよ,もう…

いまなら,執事くんがあの時,どうしてああなってしまったのか理解できます。

…“わたしをしばって”,“わたしをなぐって”。

あぁもうほんとに我ながらなんてことを言ってしまったのでしょうか。

ふつうに変態さんじゃないですか,あきらかにMな人ですって。



しかも,あたらしい能力もへんなテンションでつくっちゃってくれちゃって…

縛られなきゃ発動できないっていうのにどうやって自発的に使えというのですか…

自分で自分を縛る?

どんな高等プレイですかそれ…

でも作っちゃった以上,習得しないといけませんよねぇ。

自己捕縛術。

あと縄抜けの術も。


「…はぁ。」

「お,お嬢さま?」

「すいません。しばらく一人にさせてくれませんか?」

「あ,はい。わかりました。」


執事くんがいそいそと退出していきます。

これでお部屋にはわたし一人きり。

…ふつうにへこみますね…。

まだ執事くんと話していたほうがよかったですかね。



それにしても,自己捕縛術ですか。

なんだか響きがシュールなことばです。

よし,ちょっとやってみましょう。

もうやけくそですよやけくそ。


「―――とりあえず,ぐるぐるーっと巻きつけて,腰にとおして,ここにはあとで腕を入れるから―――。」


そうして,こうして。おぉ,だんだん動けなくなってきました。

進めば進むほど動けなくなりつつ,先を予想しながら巻いていく。

なかなかどうしてパズルみたいで楽しいです。


―――――コンコン


ノックですか?

まぁちょっと早いですけど十中八九執事くんでしょうね。

あの子,あれで心配症なところがありますし。

執事くん相手ならいまのままでいいでしょう。

どうせちょっと前にさんざん醜態をさらしたのです。

もうなにをしたっていまさらですよね。


「どうぞ」

「失礼いたします。」


―――メイド長,だと…っ!?

どうして,どうしてよりにもよってこのタイミングっ!

ちょっと楽しいとか思って,すこしだけ笑みをうかべてしまった,いまっ!

あぁそんなことよりも,ま,まずいです。あの目が,あの目がぁぁ!


「お嬢様。」

「びくっ!」

「お召し物の替えをお持ちいたしました。こちらに置いておきますので。」

「へ?」

「それでは失礼いたしました。」


…あの目がなかった?

いや,むしろこれは――――スルー,された。


「まって!まってくださいメイド長!っとと,うわっ」


―――ずべしっ


ベッドから落ちてしまいました。

そういえばわたし,縛られていて今はうまく動けないのでしたっけ…


「…うぅ,メイド長のおに,きちく~。」


地べたをはいつつ呪詛をはきます。

スルーって,スルーって!

ふつうに叱られたほうが何十倍も楽なのに!?



…すべては,すべてはこの能力のせいです。

この能力をつくった過去のわたしのせいです。

そう!いまのわたしは何一つ悪くはありません!

だから思い切り罵りましょう。過去の自分の…

「―――ばっかやろー!」

…ふぅ,ちょっとすっきり。





あとがき
お嬢さま,Mにめざめる。そんな話。
あくまで主題はぱんつですから,みなさんそこは忘れちゃいけませんよ?

構成が前回と全く一緒なのは次回からなおせればいいなとか思ったり。
ではではまた次回があれば



[19490] 第3話 ある青年の魂の叫び
Name: 褐色さん◆799f532f ID:640fa46e
Date: 2010/06/25 02:49
「いま,お嬢さまがなにより手に入れなければいけないのは“目”です。」

「はい?」


“束縛された安全(ガールズシェルター)”を習得してから半年ほどたったある日の修行前,
執事くんがいきなりそんなことを言い出しました。


「“め”って,“目”ですか?顔についてる二つある?」

「はい。その“目”です。」

「…?」


意味がわからないです。

この子はいったいなにを言っているのでしょう?


「そんな目で見ないでください。ちゃんと説明しますから。
“目”というのはつまり相手を見極めるための“目”のことです。」

「…見極める,ですか。」

「失礼ですが,お嬢さまの強さというのはひどく中途半端です。
幼少のころより続けている武術も,念をつかって戦う技術も,どちらもせいぜい人並み程度。
能力も守るばかりで攻めるには向かず,そのうえ守るにしても能力の使用にはどうしてもタイムラグがしょうじます。」

「まぁ,たしかにそうですね。」

「もし,お嬢さまがなんらかの危機に陥り,敵と相まみえたとき,お嬢さまは判断を下さなくてはなりません。
その敵に自分は勝つことができるのか。勝てないならば逃げることはできるのか。
はたまた逃げることすら難しく,能力を使って助けを待つしかできないのか。
それが一瞬でできなければ,さいあく能力発動前に殺されてしまいます。
そしてその判断を下すために必要不可欠なのが,相手の力量を見極める“目”というわけです。」

「…おぉ,なるほどです。」





わたしもこの半年間なにもしていなかったわけではありません。

能力を使う上での課題だった,自らを拘束する技術もだいぶんあがりました。

というか,この件に関してはどうやらあふれんばかりの才能をひめていたみたいなのですよね。わたし。

お父様の書斎で,人を縛るすべについて書かれた本を見つけてからはあっという間でした。

そ,その,ちょっとえっちな感じの本だったので,最初は抵抗もありましたけど,
やってみるとなんかすらすら上達するので実は楽しんでもいたり…

本をみながら執事くんでも縛ってみれば,たいがい一度で成功して縛り方も頭に入りましたし,
自分を縛るためのアレンジも結構すらすら思いつきました。

暇をみつけては練習したりいろいろな縛り方を試したりしていたので,いまでは3秒もあれば他人を,
5秒もあれば自身だって縛り上げて見せまし,もちろん縄抜けも完璧です。

むしろこの手のちゃんとした縛り方だと,ふつうの人じゃほどけないので自分で抜けられないと悲惨なことになります。

能力のおかげで縄を切ることもできませんしね。



こんなかんじで日々上達してきた捕縄術ですが,それでも戦闘中に5秒間も時間をかせいで片手間でできるほど簡単でもありません。

いままで気付きませんでしたけど,執事くんの言うとおり“目”の強化はわたしにとっての必修科目のようですね。





「とはいえ,どうすれば“目”の修行ができるのでしょうか?」

「そのことについては,僕に考えがあります。“目”を鍛えるならば実際に色々な人をみてみるのが一番です。
そして,こんなことにおあつらえ向きなのがまさに,あそこですよ。わかりませんか?お嬢さま。」

「…わかりません。どこですか?」

「ふふふ,わかりませんか。ならばおしえて差し上げます!
何千,何万もの人々があつまる,天下に名高き武道家たちのメッカ!それこそ天空闘技場です!」

「………。」


…好きなのですね。天空闘技場。

その後しばらく,血沸き肉踊る男のロマンと格闘技についての演説がお屋敷に響き渡るのでした。まる。





「…40階でしょうか?」

「いえ,たしかに強く見えますが動きに無駄が目立ちます。20階程度です。」

「あ,勝負ついた。へぇ,ほんとに20階です。」


むむむ,どこのだれかは知りませんけど,ふがいないですよ。

にしても,執事くんの評価がはずれません。さすがです。


「じゃあお嬢さま。あっちの筋肉ムキムキの黒人選手はどうです?」

「うゎすごい筋肉です。…でもなんか鈍そうなので10階くらいとか。」

「当たりです。ちょっと簡単でしたか。
…なら今度は右端でやってる,銀髪でネコみたいな顔したあの男の子は?」


右端の男の子…と,あれですかね?


「って,男の子ってほんとに男の子じゃないですか。5,6歳くらいですか?
そもそも勝てないように思いますけど。」

「いえ,あれで彼,なかなか強いですよ。30階はかたい。」

「そんなうそです!…って勝ちましたね。一瞬で。おぉ40階ですか。すごい…。」


そんなわけで今わたしたちは天空闘技場の一階で絶賛観戦中もとい修行中です。

修行方法はいたって簡単。

執事くんが適当に指示した人物が,勝つか負けるか,また何階に振り分けられるか予想する,というものです。

いやこれがなかなか難しいのです。

そろそろ一時間経ちますが的中率は2割5分といったところですか。



それにしてもいきなり天空闘技場なんて言われた時にはびっくりしましたが,出場するわけじゃなかったのですね。

よかったよかった。

わたしは別にMとかじゃあないので痛いのは普通にきらいですし,こわいです。

このことを執事くんに伝えた時は,は?みたいな顔されましたけど,まったく失礼しちゃいます。

執事くんはわたしをなんだと思っているのでしょうか?



でも,執事くんって修行をつけてくれる分にはすごく優秀なのですよね。

この修行だって,言ってしまえば簡単ですけど,なかなか思いつくものでもない気がします。

とはいえ,さすがに飽きが入ってきました。

選手のみなさんも一階だけあって強さがばらばらなもので見ごたえのある試合なんてほとんどありません。

しかも制限時間が3分なので面白くなりそうな試合もすぐに打ち切られてしまいます。

これには一階の観客席がまばらなのにも納得できるというものです。


「…ふぁ」


とと,あくびが出てしまいました。気をつけないと。


「おや,さすがに疲れてしまいましたか?ならすこし早いですけど移動しましょうか。」

「はい?こんどはどこにいくのです?」

「200階です。せっかく来たんですから,念能力者どうしのしあいも見ていかないと。」


あれ?200階の試合も観戦できるのですか?


「えと,試合当日でチケットとかだいじょぶなのですか?」

「大丈夫もなにも僕の出場する試合ですから,いくらでも優遇できますって。お嬢さまは一番迫力のあるS席でみられますよ。」


…え?ぼくってぼくって,執事くんですか?ボクさんとかじゃなくて?


「ちょ,ちょっと待ってください!執事くんって200階クラスの闘士だったのですか?いつのまに?」

「あれ,いってませんでしたっけ。僕が執事になってお嬢さまにつく前は天空闘技場のファイトマネーで生計立てていまして。
この旦那さまに仕えるきっかけもここでの試合がたまたま目についてスカウトされたんです。
200階の登録が消えちゃうのももったいないので,許可を得て休みの日なんかたまに出場しにきてたんですよ?」

「…そ,そうだったのですか。」


ま,まったく知りませんでした。

そもそも執事くんがわたしつきになったのって3,4年まえですよね。

ってことは相当な古株じゃないですか。実は執事くんってすごい人なのでしょうか。

まぁ,それも試合とか観客の様子を見ればわかりますか。

わたしの予想だとたぶん中堅あたりの実力者くらいじゃないですかね。きっと。





―――おおおぉぉぉぉ!

「………。」

…って,放心している場合じゃありません!

いま執事くんの試合直前なのですが,もりあがりが半端ないです!

ふつうに人気闘士じゃないですか!

だれですか中堅所とかいっていたの!

いや,わたしですね。すいません予想外すぎてテンパってますわたし。


――それでは,両コーナーより選手の入場です!

――おおおぉぉぉぉぉ!


執事くんが出てきました。

服装もいつもの執事服じゃなくってゆったりした長ズボンにタンクトップですか。

細身にみえて実は筋肉質なのでタンクトップがにあっています。

なかなかカッコいいですね。



それに対して相手の方は…なんていうか,長いです。

背の丈はゆうに2mごえですね。

下手したら250cmいっているのではないでしょうか。

日本人の平均くらいの身長の執事くんと比べると,さらに大きさがきわだちます。

それに腕も妙に長いですね。力を抜けば膝まで届きそうです。

体格的にはずいぶん差がありますけど,だいじょうぶでしょうか。

よし,ここは一つ―――


「執事くーん!がんばってくださーい!」


あ,執事くんちょっとびっくりしましたね。

そのまま苦笑しながら手をあげてこたえてくれました。様になっています。

へへ,頑張って大声出したかいがありました。

相手選手がすごい勢いで執事くんのことにらんでいますけど,気にしない気にしない。


――両選手,準備はよろしいでしょうか。
ルールは制限時間無制限,相手選手をノックダウンまたは10ポイント先取した方が勝利となります。


お,始まりますね。


――それでは,両者かまえて………ファイッ!


いきなり相手選手が突っ込んできました。

そしてその両腕がオーラで包まれたと思ったら…

…気持ち悪っ!腕がぐにゃんぐにゃんと鞭みたいにしなってまがって…

四方八方から攻めていますが,執事くんはなんとかしのいでいますね。

…私なら無理です。体術的にも,なにより生理的にあれは受け付けません。

それにしても,あれも念能力でしょうか。強化か変化あたりですかね。


「なんじゃあ,ありゃ!」

「む,あれはまさか…」

「なっ!お前さん,しってるのか!?」

「あぁ,聞いたことがある…」


お,これは運がいいですね。

どうやら近くにテ○ーマンがいるみたいです。

…雷○のほうが今は通じるのでしょうか?

わたし雷○って誰のことか知らないので何とも言えないのですが。

っと,今へんな電波がきましたけど,聞き逃すわけにはいけません。


「なんでも,あれがあの男の能力らしい。
もともと長いリーチで相手を翻弄する戦い方をするのだが,念でその腕撃の威力とトリッキーさをさらに高めたのだろう。
200階にあがってきたのは比較的最近だが,ここでの戦いにも慣れてきた実力者だ。」

「ってこたぁ,こりゃこのままあのひょろなげぇ野郎の勝ちってわけか。
へへ,5万Jも賭けたんだ。そうじゃなきゃ困るぜ。」

「いや,それはちがうな。」


ん?執事くんが負けるみたいな話に一瞬むっときましたけど。どういうことでしょう?


「あれは,あせっている。」

「あぁ?」

「やつは知っているのだろう。自分の闘っている相手がどんな人物なのかを。
その実力はフロアマスターにも匹敵するといわれている古参の闘士。
その能力から“叫びの呪言師”とも呼ばれる対戦相手のことを。」


…二つ名キター!!

え?え!?執事くんってそんなに有名人さんなのですか?

それにしても厨二くさいですね。

どこから出てきたのですかその名前…。

執事くんの能力って悲しみの感情がオーラの量に影響するものだけのはずでしたが。


「“叫びの呪言師”は特定の言葉を叫ぶことでその力を何倍にも高めることができるんだ。
だからやつは能力を使われる前に勝負を決めようとしている。」

「な,そんな野郎だったのかよ。…おいっ!距離が開いたぞ!」

「く,くるぞ,呪言師の“叫び”が!」


いままで一方的に攻められていた執事くんがいきなり攻撃をいなして,相手の体勢を崩します。

その隙におおきくバックステップをしたと思ったら,その場で足を肩幅に開いた構えをとりました。

つ,ついにわたしの知らない執事くんの能力が見られるのですね。

そして執事くんは大きく息を吸って――――




《―――クリリンのことかーーー!!!》




ゴゥっと目にみえない圧力のようなものが会場中に広がりました。

…え?えーーー!?

なにがえー!?っていうかえーーー!?

な,なんで?なんでその言葉が今でてくるのです!?


「なっ,“クリリンノコトカ”,だと!?最大出力の呪言じゃないか!」

「そ,そんなにすげぇのか?」

「あぁ,彼の呪言では“ハカッタナシャア”と同レベルのものだ。
ふだん格下相手に使う“スコシアタマヒヤソウカ”や“ソノゲンソウヲブッコワス”とは比べ物にならない。」

「…おいおいマジかよ。」


………マジかよはわたしのセリフだとおもうのですが…





それからの試合は一方的,というより一瞬でした。

あまりの迫力に腰の引けた相手に,執事くんが一撃。それでノックダウン。試合終了です。

そして今,わたしは勝者インタビューのおわった執事くんの控室に向かっています。

まさかという疑念と,そんなわけないという理性がまじりあって頭が破裂しそうです。

“もしかして執事くんはわたしと同じ境遇なのでしょうか?”

さりげなく,あくまでさりげなく確かめなければ。


「―――執事くん!」

「あ,お嬢さま。どうでしたか?ぼくの試合は」

「え,あ,その…か,カッコよかったです。」

「はは,ありがとうございます。」


ま,まずいです。何も考えないで突貫してしまいました。

ど,どう聞きましょう?おちつけ,おちつくのですわたし。


「そ,そうです!執事くんいつの間に新しい能力なんて作っていたのですか?いきなり叫ぶからびっくりしました。」

「あぁ,あれですか。」


よ,よし!この質問なら自然と“叫び”の内容につなげられる。

と,内心わたしが喜んでいると,


「いいですか?お嬢さま。ぼくはなにも新しい能力なんて作っていません。使ったのはお嬢さまの知っている僕の能力,“悲拳被顕(ヒケンヒケン)”ですよ。」

「え?でもそれならどうして…」

「あの言葉は,幼少のころぼくを育ててくれたうえに,念の指導をしてくれた師匠が話してくれた物語の中のセリフなんです。
…あれを口に出すと死んでしまった師匠を思い出して,すこし悲しい気持ちになるんですよ。」

「あ,そうだったのですか…。」


師匠さん,ですか…。

そっかそれならその師匠さんが私と同じ,“転生者”だったのでしょうか?

死んでしまっているならもう確かめることもできません…。

一度あってみたかったですね…。

なんて思っていると,唐突に執事くんがニヤリとわらいました。

え?なんで?


「でも,それだけじゃありません。あれはカモフラージュです。」

「かもふらーじゅ?」

「ぼくは本来,能力を使う上であんな予備動作を必要としません。
でも相手にそう思わせておけば,いざという時,いきなり能力をつかって相手の虚をつけるでしょう。」

「…言われてみれば,そのとおりです。」

「いいですか?ここの闘士たちにはわかっていないものも多いのですが,念での戦いは基本的に“騙し合い”です。
自らの底をぜったいに見せてはいけません。能力の詳細を知られているだけで勝てる見込みがぐんと下がりますからね。
確実に勝てるタイミングを計って奥の手を使う。相手が隠す奥の手に警戒する。それが大切なんです。わかりましたか?」

「へぇ,勉強になります。」


執事くん,そんなことまで考えて,わたしを天空闘技場に連れてきてくれたのですね。

ほんとうに念の指導者としては優秀です。


「はは,まぁこれ全部,師匠の受け売りなんですけどね。」

「いい師匠さんじゃないですか。ちなみにその師匠さん,ほかにはどんなお話を?」

「実になる話はこれくらいですよ。ほかはだいたい奇想天外な物語ばかりです。
強化系と放出系に特化した人たちが願いをかなえてくれるボールを探す話ですとか,
すべての念を消し去る右手を持つ特質系の青年の話,
ある少年が父親を捜すためにハンターを目指す話もありました。」


なんかこの世界風にアレンジしてありますけど,ドラ○ンボールに禁書○録にハンター×ハンターでしょうか。

どれもこれもなつかしいですね。もう20年近く前の話ですし,ほとんど覚えていません。

今度くわしく話してもらうのもいいかも…

…ってハンター×ハンターですか!?


「し,執事くん!そのハンターをめざす少年の話,もっと詳しくお願いします!」

「え?あ,はい。主人公はたしか,ゴンくんだったかな?ハンター試験でゾルディック家の子と仲良くなったり,
ヨークシンでマフィアのいざこざに巻き込まれたりします。
ほかに比べて現実みたいだったのでよく覚えているんです。」

「そ,そうなのですか…」

知っています!

執事くん原作のこと知っています!

でもまさか,これからおこる本当のことだとは思いませんよねぇ。

まぁ,原作にかかわるつもりは毛頭ないので関係ないといえばそれまでですけど,さすがに驚きますって。

だんだん師匠さんのイメージがよくわからなくなってきました。


「…な,なんか今日は疲れてしまいました。もう帰りませんか?」

「そうですね。もういい時間ですし。お疲れ様ですお嬢さま。」

「はい,お疲れ様です。」


はぁ,今日は新事実がおおくてさすがに疲れてしまいました。

帰ったらベッドに直行ですね。

ゆっくり休んでまた明日考えましょう。


「あ。そうだ一つ思い出しました。」

「ん?なにをですか?」

「師匠の言葉です。」


うぅ,まだ何かあるのですか。


「なんでも自身を転生者だとかトリッパーだとか名乗ったり,原作がどう,ハンター×ハンターがどうとかいってるやつにはかかわるな。
絶対に厄介事にまきこまれる。とのことです。一生に一度会うか会わないかくらいらしいですけど,お嬢さまも気を付けてくださいね?」

「…は,はい。…ありがとうございます。」


…いえない。

…わたしがまさにその人だなんて口が裂けても言えない,です。





あとがき

いろいろ判明する,執事くんの設定。そんな話。
ちなみに他の転生者を作中に出す予定はありません。
そんなことしたら私の力量じゃ話をまとめられなくなりますので。

さてこれで設定回はおわりました。
次回から本格的に物語が始まる予定なのでおたのしみに。



[19490] 第4話 彼にしか扱えない武器
Name: 褐色さん◆799f532f ID:640fa46e
Date: 2010/07/01 00:49
最近お屋敷の警備がなんだかものものしいのはなんでなのでしょうか。

昼間の間はそれほどでもないのですが,夜になると,ちょっと探せばいつでも警備員の姿が目に入るようになっています。

そのうえ,使用人のみなさんの様子が,なんというかピリピリしているというか。

常に何かに警戒しているようなのですよね。

私には心配させないようにとでも言われているのか,体裁だけは今までどおりなのですが,正直言ってばればれです。


「と,いうわけで,どうしてでしょうか?執事くん?」

「は,は。なんのことですかね。」


またしらを切るつもりですか。


「お屋敷の警備員さん,最近妙に忙しそうですが。」

「…さて,ぼくにはわかりかねますが。」

「…むぅ。」


このことを聞くのももう何回目でしょうか。

いつまでたってもだれに聞いても知らぬ存ぜぬで通されてしまいます。

正直あきらめる以外にどうしろと。



そしてこの話をごまかすためか,執事くんの修行がいつもよりずっとずっとつらい内容になっています。

今までは厳しくも,わたしに無理な負担がかからないような絶妙なあんばいで行われていたのだとここ最近痛感しています。

執事というか使用人の一人として,またこんな形とはいえ弟子をとっている人間としては
大問題なことにも感じますが,それだけ事態がせっぱつまっているのかもしれません。

わたしとしてはいつもどおりに戻るのをいまかいまかと待っているしかできないみたいです。

いやになります。



それと,修行がつらいと感じるようになったからか,このところある疑問がうかんできました。

すなわち,“わたしはどうして念の修行をさせられているのでしょうか”。

まがりなりにもわたしはお嬢さまであり,べつだん強くなる必要などかけらもありません。

鍛えるとしても護身術程度がせいぜいで,幼いころから続けている武術で及第点。

念に関しては,纏もできれば一般人に比べてずっと頑丈になるので十分すぎるほどのはずです。

だというのに執事くんは,実践を意識してわたしを天空闘技場にまでつれていったりと明らかに度が過ぎています。

いや,実は本人が行きたかっただけということも否定しきれませんが…。

さておき,念で新しいことができるようになるのがうれしくて全く考えたことがなかったのですが,一度考え始めるとその疑問が頭から離れません。



そして浮かぶ疑問はなにも念や修行にかかわることだけではありません。

本来,今のわたしが修行以外にすべきこと,していたであろうことを考えても大きな疑問が浮かんできます。



先ほども言いましたが,まがりなりにもわたしはお嬢さまなのです。

お金持ちのお嬢さまが,自らの家に絶対に求められるはずの“政略結婚のこま”という役割について,わたしはついぞ聞いていません。

気がつけば,わたしも18歳も半ばになりました。

本来ならば,婚約者でも紹介されてもいい時期でしょう。

好きでもない相手と結婚するということも,いささか抵抗はありますが,
この年まで養ってもらった家のためだとおもえば納得もしますし,ちゃんと受け入れようとも思っています。

思い起こせばちょっと昔,といっても2年くらい前までは,お見合いとまではいかずとも
他の良家の御子息と顔を合わせるような催しもそこそこの頻度で行われていました。

興味がなかったので意識していませんでしたが,それもいつの間にかぱったりとやみ,いまでは修行に明け暮れる日々です。

いくらなんでも,さまざま環境とわたしのしていることがかみ合っていません。



と,いってもこれらのことすべてがわたしの考えすぎているだけという可能性も高いのですけどね。

修行に関しては,楽しんでやっているわたしに執事くんが合わせていてくれているだけ。

結婚については18,19ならまだ遅すぎるというわけでありません。

いまはお相手を選考中。

そう考えれば,一応どちらもつじつまは合います。

もしその通りなら,深刻ぶって執事くんやメイド長なんかに聞いても恥をかくだけなので,これらのことは特に誰にも話していません。

やはりつらくなった修行のせいでイライラが募っているのでしょう。

どうにも最近,突拍子のないことを考えがちです。

ひとまず疑問は置いといて,お屋敷の雰囲気がおちついても気になるようでしたら…


「――誰かに相談でもしてみますか。」

「ほらお嬢さま,しゃべっている暇があったら円習得のために集中しましょうね。50cmも広がらないんじゃ,ただのちょっとおっきな錬ですよ。」

「…はぁい。」

…はぁ,どうにかしてストレス発散しないと気がめいってしまいますよ。





苦手な円の修行もとうにおわり今は夜,草木の眠る丑三つ時。

月明かりと,ランプの明かりを頼りにお父様の書斎を物色中です。

ストレスを発散する効率的な方法は人それぞれかと思います。

暴れる。食べる。遊ぶ。寝る。わたしの場合は…


「…縛る,といったところですか。」


正確には趣味にはしる,ですかね。



前回お借りした人を縛るすべについて書かれた本はほぼすべてマスターしましたし,
自分縛りのタイムアタックにも飽きてきたので,新しい資料を探しています。

事後承諾でお父様に本を借りるむねを伝えた時,お父様はわたしの手のなかにある本を見て,あからさまに安堵のため息をはきました。

きっとわたしには見られたくのない,その手の本がまだあったのでしょう。

あの時の本は一通り見てすぐに見つかるような表に置いてあったので,今回は人目を盗んで隠し棚とかがないかを探します。

気分はまるで宝探しです。いえ,わたしにとっては宝でもあながち間違っていませんか。


「ふんふ~ん。ここらへんとかちょっと怪しいですよね~。」


部屋の隅に裸婦の胸像が置いてあったのでいじってみます。

こういうのってよくドラマやゲームでは目がボタンになっていたり首が回ったりしますよね。

試してみますが…


「…なにも起こりません。まぁそう簡単にはいかないですよね。」


ほかにボタンになりそうなところはっと―――


「…乳首。…まぁ違うとはおもいますが念のため。そーれポチっとな。」


カチャン。そんな音がまっくらな部屋に響きます。


「………うそやん。」


…おもわず,へんな関西弁臭い言葉が出てしまいました。うそやん。

それはないですよお父様…

でもなんて言うか,えー,正直ドン引きです。

心の中でなんとかフォローしようかと思いましたが無理でした。

これを作らされた人もかわいそうに…

でもギミック的に今のわたしにとっては当たりな気がします。

いまので開いたらしい胸像の台座部分を物色します。

えっちな本は,どこですかってね。


「……なんか普通に機密っぽい報告書がでてきました。暗殺がどうとか書いてあります。」


え?こういうのってもっと厳重に暗号つきの金庫とか,幾重にもつらなる仕掛けをといてはじめて開く隠し部屋とかにあるものではないのでしょうか。

それが乳首ボタンひとつって…もしかして真面目な侵入者なら見向きもしませんか?乳首。



それにしても,うちも暗殺依頼とかしていたのですね…あまり気分はよくないですが。

とはいえ所詮は他人事なので,ふーんくらいの感慨しかありません。

どこか遠くでは今も戦争でたくさんの人が死んでいるんだよとでも言われた程度の気分です。

こんなものを見ていてもしょうがない,と元あった通りにしまっておこうとしたとき,ふとある文字に目がつきました。


「……幻影,旅団?」


その文字を見た瞬間,ずいぶん遠い記憶がうっすらとよみがえってきます。

幻影旅団。

ハンター×ハンターに登場するキャラクターたち。

ヨークシンのドリームオークションを襲撃してその出品を強奪するも,
クラピカくんをはじめとした人々に組織として手痛い出血を強いられる。…だったはず。



すでに細かい内容はうろ覚えです。

大まかな結果しか思い出せません。

それでも,どれだけ危険な方々かは簡単に予想できます。



「…うわぁ。お父様も何を考えているのでしょうか…。」


懐かしい単語につられて,すらすらと報告書を読み進めていきます。

どうやら暗殺者を雇い始めたのがすでに3年も昔の話のようです。

きっかけは…なにか盗まれたみたいですね。

何が盗られたのか書いてないのはあまりよろしくない代物だったからでしょうか。

暗殺がうまくいかないのに痺れを切らしたのか,大きく動きすぎて2年程まえには幻影旅団をつけ狙ってとしているのが周囲にばれたりもしています。

それからはおそらく意地とプライドですかね。

なんどか尻尾をつかんで襲撃しているようですがことごとく失敗しているようです。

…この暗殺者さんたち,もしかして無能ですか?



というか,わたしに縁談が来ない理由もこれだったりしません?

2年前といえば,お見合いもどきがなくなり始めた時期とも重なります。

そりゃ,凶悪なことで有名な組織にちょっかい出してる所の娘と,縁を持ちたいとはおもいませんよねぇ。

今のところ放っておかれているのは単に面倒だからといったところでしょうか。

あの人たちからすればこちらの無能さんたちなんてそこらのハエと大差なさそうですし。


「…おろ,これが最新の報告書ですか。えっと“偵察任務失敗。逃走時,ターゲットから本邸への襲撃を示唆される”」


………あれ?本邸ってここじゃありませんか?

もしかしてもしかしなくても,わたしたち幻影旅団に狙われていません?

…うそやん!?これこそほんとにうそやん!?




――――ドンっ!




うわなんか今すごい音がしましたね。

場所はお屋敷の外,正門のあたりでしょうか。

…まさか,ね。


「…野性児っぽい大男。」


窓から外をのぞいてみると,門が粉々に崩されていて,脳みそまで筋肉でできているんじゃないかと思うような巨漢がいました。

たしか旅団にいましたね。あんな人。

クラピカくんに殺されちゃう人でしたっけ。

名前はもう忘れました。


「うぅ,生涯原作のげの字にも関わらない予定だったのに…。
だれですか,勝手にわたしの死亡フラグ立てたの。」


時間がもったいないのでさっさと窓の近くから離れて,ぐちぐちいいながらも自分のことをしばりしばり。

執事くんと合流したいですが,お屋敷のなかで旅団の人と遭遇したくもありません。

わざわざ自分の部屋を抜け出している時に襲撃を食らいますか。

今頃わたしのことを探しているのでしょうね,執事くん。

いまのうちに丁寧に丁寧に“束縛された安全地帯(レディースシェルター)”の準備をしていきます。



おおきな音がお屋敷の中からも聞こえてくるようになりました。

わかっていましたけどいくらなんでも早くありません?

そら急げわたしがんばれわたし。


「……ほれでよひ(これでよし)」


さて,準備はできました。

あとはだれかが来るのを待つばかり。

使用人の誰かが運び出してくれればいいのですが,誰かが暴れる音がもうかなり部屋の近くまで来ているので望み薄ですかね…。


「―――そらよっと!」


バギンと音をたてて部屋の扉がひしゃげられました。

その先にいるのは,返り血なのかところどころ赤く染まった大男…




―――――返り血?


「お,なんかありそうな部屋だな。」


―――――血?血って…だれの,血?


大男はまだこちらに気づいていません。

けれど,いまはそれどころじゃありません。

よく考えてください。

この人たちどうしてここにきたのでしょう?

何をしにここにきたのでしょう?

ここにきたのはうっとおしい暗殺者の依頼人にいいかげん腹をすえかねて,です。

だからここで彼らがするのは…


「―――――ひなほろひ(皆殺し)。」

「あ?」


思わずつぶやいてしまったせいで,気づかれてしまいました。

けれどわたしはそれとは別のことでひどい後悔にさいなまれます。

わたしはいいです。能力があります。

わたしの発にはそれこそオーラを切るとか,そういったことに特化した能力相手でなければ無敵です。

しかし,この屋敷でも念を使えるのはほんの一握り,旅団に抵抗できる人などほとんどいません。


「…なんだぁこりゃ?オーラ?」


ここに来るまでに,こいつは何人の使用人を殺したのでしょう?

いったい誰が殺されたのでしょう?

ここの使用人は両親にかまってもらえなかったわたしにとってみな家族。

物心ついたころから世話してもらっている老婆もいます。

最近なかよくなった若い子もいます。

それをこいつは,みんなみんなみんな…


「なんかしばられてっけど,まぁいいか。」


大男はわたしの頭に手をかけます。

そしてそのまま,握りつぶそうとしてきました。


「…あぁ?」


この大男の手も赤く汚れています。

ここまでの使用人たちもこうやって殺してきたのでしょうか。

非力な使用人たちはこいつから逃げる以外に生きるすべはなかったはずです。

しかし,彼らはわたしをおいて逃げることができません。

わたしを探している最中にこいつとはち合わせてしまった子がどれだけいたでしょうか。


「…かてぇ。念か?」


わたしはこんなところでうだうだしている場合ではなかったのです。

能力のおかげでわたしが殺されることはありません。

しかし能力のせいでどうにも親しい人たちが犠牲になったようです。

なんという皮肉でしょうか。


「ったく,なんで俺がこんなめんどくせぇこと…」


大男は何をおもったかわたしの足をつかみ…


「…やんなきゃなんねぇんだよ!」


思い切り壁にむかって叩きつけました。

壁には大穴があいたけれど,その程度でどうにかなるほどわたしはやわではありません。


「へぇ,これでも無傷かよ。すげぇなおい。」


やわではありませんが動けない以上どうしようもないのです。

わたしは悔しさにはがみしながら,あきらめて放っておかれるようになるまで待つしかないでしょうか。


「―――お嬢さま!!」

「…ん!」


いまの音を聞きつけたのでしょう。執事くんが来てくれました。

能力もすでに発動済みなのか,かなりのオーラをまとっています。

これなら…


「貴様!何をしている!」

「お,強そうなやつが来たじゃねぇか。こちとらこんな退屈な仕事押し付けられてイライラしてたんだ。
おら全力でかかってこいよ。…さもなきゃこの女,殺しちまうぜ?」

「―っ!お嬢さまから手をはなせぇー!」


執事くんがオーラをさらにおおきくして右手に集中し,渾身の一撃を見舞おうといっきに距離を詰めてきます。


「そんなにこいつが大事なら,くれてやる!」


すでに執事くんは拳をあてることのできる距離までちかづいています。

しかしそれにたいして大男はおもむろに,持っていたままだったわたしのことを振りかぶり,迫りくる執事くんの拳にむかって振りぬきました。



―――――ドガン



「がっ!」

「ひふじふん!(執事くん!)」


わたしの体と執事くんの拳がぶつかるのを感じた直後,
ぶれる視界のなかで執事くんが向かいの壁に叩きつけられて,ずるずると崩れ落ちていきます。


「―――ほんな…(そんな…)」


そのまま,執事くんはぴくりとも動きません。


「おいおい,一発かよ。だらしねぇ。
まぁつっても,あいつが弱かったって言うよりも,こいつがすげぇってこったろうな。」


そう言って大男はわたしのことを肩にかつぎます。


「そういや,団長が念のこめられたなんちゃらナイフってのを愛用してたっけか。
さながらこいつぁ,“念を発する棍棒”ってところか?
はっ,ただのめんどくせぇ野暮用かとおもいきや,とんだ土産ができたもんだぜ。」

「へ?」


呆然としているわたしに向かってそんなことをのたまいました。

土産って,もしかしてまた誘拐されるのですか?

しかも今度はそもそも人として扱われていない感じがします。

とうぜん素直に連れて行かれるわけにはいきません。


「ほ,ほっと,はなひ…(ちょ,ちょっと,はなし…)」

「うるせぇよ。だまってろ。」

「ひっ」


抵抗しようとすると,思い切り殺気を向けられました。

恐怖で体がこわばります。

危害を加えられることがないとわかっていても,ただただ怖くて何もできません。

そのまま,大男はお屋敷の外に向かって歩き出しました。

幸か不幸か,途中で人と出くわさず,あらたに被害が出ることはありませんでしたが,
止められることもなくわたしはお屋敷から離れていきます。

わたしはただ震えて,遠ざかるお屋敷を見ていることしかできませんでした。

小さくなっていくお屋敷は,とても静かでした。





あとがき
超展開乙,そういわれても反論できない。そんな話。
原作にかかわるための必須イベントでした。
ちょっと無理があったかもだけど,申し訳ない。

ちなみにアンケが反映されるのは次回からです。



[19490] 能力設定集
Name: 褐色さん◆799f532f ID:640fa46e
Date: 2010/06/25 02:06
能力設定集。

主人公と執事くんの能力の詳細です。
あくまで補足ですので,読まなくても大丈夫ですけど。





主人公の強化系能力①

“わたしのぱんつは鉄壁ぱんつ(ガールズサンクチュアリ)”

・この能力は使用者がどのような状態でも常時発動する。
・この能力が発動した場合,能力者のぱんつは能力者本人と能力者が心から許した相手以外おろすことはできない。
・ぱんつおよびその周辺部は危害が加えられそうになったとき,必要に応じて硬をおこない,ありとあらえるものからいっさい影響を受けない。
以上1話より
・ぱんつは能力者本人と能力者が心から許した相手以外,パンチラしても見えることはない。
↑2話にてさりげなく追加

補足
ぱんつというあまりに限定的な発動条件が制約となるので,かなり強力な硬を纏感覚で維持できる。
ぱんつとは能力者本人がぱんつと認識した物を指す。



主人公の強化系能力②

“束縛された安全地帯(レディースシェルター)”

・能力者が拘束された場合,拘束された箇所およびその周辺を硬でおおう。
・体の半分以上が拘束された状態でさるぐつわをはめると,頭部にも能力が発動する。
以上2話より


補足
本人が拘束され動けなくなることが制約となるので,非常に強力な硬,および堅を纏感覚で維持できる。



主人公の放出系能力

“わたしのぱんつは純白ぱんつ(ガールズシークレット)”

・ガールズサンクチュアリ発動中,排泄物を地中に転送する。
・レディースシェルター発動中,垢や汗などを地中に転送する。
以上2話にてさりげなく作成

補足
発動対象の限定的すぎることが制約になるうえに,念に目覚めた時,失禁していたことが関連付けされている。
そのためほとんどメモリを食わない。





執事くんの強化系能力

“悲拳被顕(ヒケンヒケン)”

・悲しみの感情におうじてオーラ量が増減する。
・悲しいと感じていると増えるし,嬉しいと感じていると減る。
上がり幅がおおきいが,反面,下がるときも一気に下がる。
以上3話より

補足
叫びは一種の自己暗示。
師匠の殺されたとき本能的に作成したという設定があるが,たぶん本編では触れられることはない。



やっぱり念能力はシンプルでなんぼだと思うんだ。
ほんとは主人公も執事くん位にしたかったけど,いつの間にやらごてごてと。
…どうしてこうなったorz


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